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川柳的逍遥 人の世の一家言
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斜めから見てもトックリヤシである  井上恵津子






       「開化の化ハ、ばけると読むなり」

「廓ばかむら費字盡の誕生]
喜多川歌麿朋誠堂喜三二に励まされた春町は、「耕書堂」にやってきて、
「恋」「川」「春」「町」の4つの漢字を偏(へん)にして、「失」という
漢字を旁にした見たことのない漢字について解説します。
「恋」「失」『未練』「川」「失」『枯れる』「春」「失」
『はずす』「町」「失」『不人気』
つまり、この4つの造字は、「恋川春町」という作家の根暗な本性そのもの
を表しているというのです。
ただこれらの造字は『小野篁歌字尽(おののたかむらむだじづくし)』とい
う往来物をヒントにして書いたと「皮肉屋」恋川春町は言います。
そこですかさず蔦重は、吉原を題材とした「春町文字」を作ることを提案。
そうして出来上がったのが、漢字遊びの青本「廓愚費字盡(さとのばかむら
むだじづくし)」です。



いちびりの成れのはてです蒟蒻は  新川弘子


蔦屋重三郎ー『小野篁歌字尽』ー②





                                            「化 が 真 ん 中 に」





「開化の化ハ、ばけると読むなり。人に化るにはよくよく心得べし、片ハ人と
云字。つくりはヒ(さじ)と云字也。此人ヒ(このひとさじ)にて、世の中へ
すへひ出さるれバ仕合よし、すへられねば、たちまち片仮名のヒの字イの字に
なる也。貧乏を、一生かたに荷(にな)ひ、ピイピイ風車も売れぬ身となる、
御用心御用心」  小野ばかむらの歌に
 ” 能化(よくばけ)よ化そこのふて狐にも おとる尻尾を出さぬ用心 ”




今日生きる私なりの時刻む  佐藤 瞳





          絵の漢字を読む=〔大いちざ 大いざ〕
お揃いの中で吐くのが おういちざ(大一座)。客をおつ取巻くが(大いざ)


【大一座】の座敷の景。
【解説】=大一座とは団体客のこと。騒々しく燥ぐのが常で、葬礼帰りが多い。
よって次のような句もある。「大一座 黒豆のある へどをはき」
画面は、そのまま漢字の解になる。漢字のなかで「敵」とあるのはすなわち
「敵娼」(あいかた)で相手の遊女のこと。
「笑止どうしやうのふ」と困惑した様子。仲間の客は【あんまりふざけるから 
こんなこつたろうと思った】
と介抱し、うしろから吉原名物の酔い醒ましの薬
「袖の梅」を授けている。
【大いざ】のいざとは、揉め事のこと。とかく吉原では、遊女の応対に端を発
して客が癇癪を起こすことが多い。その時は、漢字のごとく大勢で取巻いて騒
ぎを鎮めるのである。禿が遠くから様子をうかがっているごとくなのが可笑しい。

これからが本音の会議酒の席  前中知栄





            絵の漢字を読む=〔みたてふるきまりきぬきぬ〕
隔たるがみたて(見立)。振られるうしろむき(後ろ向き)
横がきまりに。送るきぬぎぬ(後朝)。 画面は妓楼の二階の朝の景。
もてたやつ。振られたやつ。漢字は「男」「女」の二字の組み合わせ。


【解説】【見立て】とは、張り店をしている遊女たちの中から、相手を選び
出すこと。よって男女間の距離が【隔たっている】【きまり】は、字の形で
意味を察したい。で、【後朝】は、画中中央の図そのままの構図である。
女が男を送っている。【くだんの魂胆で、今朝は早く帰らねばならぬ】と言う
客に対して【まだ早ふありんすのに、そんなら三日にはならずへ】と、遊女は
別れがたい様子である。右端には迎えに来た茶屋の男が【アノ子、お頭巾が落
ちている。よこしてくださへ】
と言っているが「アノ子」とは禿を呼ぶ時の語。
客は自分の持物に気を配る余裕もなく、今朝の別れの情に上の空である。
画面左は見事振られたやつ。【よしここで振られても二丁目じやもてる、今度
は茶碗で引ッかけよ】
などと言って手酌であおっている。「二丁目」とは、江
戸町二丁目で、別の妓楼のことを引き合いに出している、というわけ。
相手の遊女は【好かんのふ ばからしい】とそっぽを向いて甚だ冷淡。
【振る】の漢字はこの景を象る。




糸口に漬物石が乗っている  松下放天





          絵の漢字を読む=〔にわかどうろうくさいちひけすぎ〕
夕方の人がにわか(俄)に、夜とうろ(灯篭)。朝がくさ(草)市。
絶へるひけすぎ。吉原年中行事の一つ、俄かの景。案出の漢字はすべて人偏で、
吉原仲の町における人の集散をテーマとしている。


【解説】【俄】は、九郎介稲荷の祭礼で秋八月の行事。仲の町の通りで吉原
の芸者等によって歌舞や寸劇が演じられ、【夕方】から見物人が群衆する。
画面は、派手な万燈をもって練り歩く若い衆と、右下には見物の人波。
右端の金棒を持っている番太郎(吉原の警備人)は、【とんだ、こゝへ登って
たまるものか。ばかばかしい】
と、「埒」(らち)の上によじ登って見物しよ
うとしている子供を叱っている。引手茶屋から悠々と見物する遊客は、【今年
はよつほど案じが
だの。ドレドレ】と満足気である。
茶屋の女将は、【向うへ、たしかげんこさんがお見えなんす】と、通りの向こ
うに目をやっているが「げんこさん」は男の連れの表徳であろう。
【灯篭】は、往年の名妓・玉菊の追善として、お盆の時期に行われる行事。
趣向を凝らして贅沢な灯篭が、仲の町の茶屋の軒先に吊るされ【夜】、火の打っ
たものを見物に人が出盛る。
【草市】は、陰暦七月十二日、お盆の精霊棚へ供する青物を売る市で、早【朝】
より仲の町に立つ。吉原の営業は、今の午前零時頃である。
この閉店時間を「ひけ」という。
【引け過ぎ】には、賑やかだった仲の町も【人】【絶】えるのである。



時刻む音聞きながら無為の時  清水英旺





                        絵の漢字を読む=〔うらみまぶいけんぐち〕
胸倉取るがうらみ(恨)に。徳がまぶ(間夫)。油がいけん(意見)
おみくじがぐち(愚痴)。宵の口舌の景。案じの漢字は「取」字を取合わせる。


【解説】=部屋(寝室)から廊下に飛び出しての修羅場。遊女が男の【胸倉】
を取って【恨み】のたけをぶつける。【知るめへと 思っていなんしやうが、
モゝゝゝ、よふく知っていゝす。ばからしい】
と、男が他に馴染みを作った
と非難している。男は【そんな悪気はとんと、さつはりよしにしな川。川崎、
保土ヶ谷まで行ったから、2,3日こなんだのサ】
と、無沙汰の言い訳しきり
である。「よしにしな」「品川」を掛けている。
【コレコレ、案じの小紋が皺になる】と、女の掴む手を気にしている。
小紋は当時の流行、自分でデザインして、染めさせた特注品だというのである。
遊女の膝元には【おみくじ】が散らがっている。これは、相手に寄せる思いの
あまり気弱くなっている証拠で【愚痴】の始まりとなる。
この二人、かなり深い仲となっているようで、このように、遊女の心をものに
した男は【間夫】と呼ばれる。金銭を度外視して遊女の方から逢いたがるわけで、
まさに【徳を取る】身の上。このように深みにはまり込むと、しまいには【意見】
され【油を取】られることになる。



ハシビロコウも感情を持つ恋をする  加藤ゆみ子





                   絵の漢字を読む=〔いりとりもんびまへかきたてる水どうじり〕
火に鍋がいりとり(煎り鳥)。降るがもんびまへ(終日前)
掻き立てるかんざし(笄)。見るすいどじり(水道尻)。
遊女と二人きりの座敷を楽しむ客。工面の苦しい紋日前の遊女。
漢字はすべて火偏。


【解説】【煎り鳥】は鴨肉を使う。画面右、遊女と客が仲良く調理をしている。
【火】鉢の上に小【鍋】を乗せて、二人だけで味わう「家庭的」な雰囲気は、
最高のご馳走である。遊女は【雪が入ったから、いつそ油がはねんす】と言っ
ている。その遊女の左手にご注目、【笄】で行灯の灯心を【掻き立て】ている。
かんざしは、箸代りに仕えるほか、このような便利な用途がある。
客は【このあとはまた煮花といこう】と言いながら火鉢の炭を起こしている。
「煮花」とは、茶の煎り立て。
画面左、廊下に出ている遊女は【紋日前】と見える。
【紋日】「物日」ともいい、五節句と吉原独自の行事とを取り合わせた特別
の日。この日は、揚げ代が普段より高く、遊女はこの日には、必ず客を確保し
なくてはならない。それが出来ない遊女は、「見上がり」といって、揚げ代を
自分で出さなくてはならない。まさに、その前は【火の降る】ような状況で、
それを乗り越えるために血のにじむような思いをする。
【せめてこの分はおやりなさりやせ。そうないと、この物前は駆落ちでもせね
ばなりません】
と出入りの商人が取り立てに来ている。
遊女は【どうも今日は工面がァ、なんだから、アノ、そうしてみてくんなんし】
と苦しげである。
最後の漢字【水道尻】とは、吉原仲の町のどん詰まり、ここに【火の見】が建っ
ていた。


背後からいつも時計の音がする  前田一石






 『諸国名所百景』ゟ「信州浅間山真景」 (国立国会図書館蔵)



「べらぼう25話 ちょいかみ」

「恋の行方」
柏原屋から丸屋を買い取った蔦重(横浜)は、須原屋(里見浩太朗)の持つ、
「抜荷の絵図」と交換条件で、意知(宮沢氷魚)から日本橋出店への協力を取
り付ける。そんな折り、浅間山が大噴火をした。明和3年7月である。
轟音と激しい揺れが襲い、薄暗く江戸を灰が包んだ。
重三郎は「こりゃあ恵みの灰だろ…」と、大荷物を担いで日本橋の丸屋のてい
のもとへ向かった。重三郎は、店の売り渡し証文を見せ、丸屋の整理をしてい
てい「ここは俺の店なんで、一緒に店を守りませんか」と話しかけた。
が、ていは重三郎を無視して、「灰が入らないように」と使用人のみの吉に戸
を閉めるように申し付けるのだった。






     灰煙の中、桶を運ぶ蔦屋重三郎



点線で囲むとりあえずの気持ち  みつ木もも花



閉め出された重三郎は、丸屋の屋根に登ると、瓦の隙間に灰が入りこまないよ
う女郎たちの着古した着物で屋根を覆い尽くし、さらに、樋が詰まらないよう
古い帯で巻きはじめた。
その様子を見ていた鶴屋と村田屋は、自分たちの店も蔦重と同じように屋根に
布をかけ始め、日本橋通油町の店々もそれに倣った。
「桶に灰を溜めときゃ掃除すんの楽ですよ」
と、言いながら重三郎は、灰を溜める桶を丸屋の店先で売り始めた。
夕方、閉まっていた丸屋の戸板が開いていた。
中には土間に水を張った洗い桶とおむすびが用意されていた。
重三郎は、大喜びでおむすびを食べ、楽しそうにみの吉(中川翼)と話が弾んで
いた。その様子をてい(橋本愛)は、奥の部屋から聞いていた。


我が道を行くと言っては又迷い  青木敏子






 噴火騒動も一段落した江戸町に出た二人の思いは





翌日、鶴屋(風間俊介)は、早急に灰を川や空き地に捨てよ、との奉行所の指示
を店々に伝えて来た。重三郎「バケツリレー方式で川に捨てていけば効率的だ、
通りの右と左でチームを組み、競争しよう」、と提案。
さらに勝ったチームには、10両の賞金を出すという重三郎の提案に鶴屋も、
15両と張り合い、灰捨て競争は、大いに盛り上がる。
ラスト1桶、鶴屋が一歩リード。残り2桶残っている蔦重は、負けじと2つの桶
を持ち川に飛び込むが、泳げない重三郎は溺れてしまう。
助けられた重三郎は「30も越えたんで、そろそろ泳げるようになってるか、と
思ったんだけど…」この言葉には、思わず鶴屋も笑った。
勝負は引き分けになり、鶴屋の会所で宴会が開かれることになった。



立入禁止とぼけ上手な左足  森田律子




宴会を抜けて重三郎が丸屋に行くと、ていが一人で店の床を拭いていた。
それを手伝い始めた重三郎に、ていは、「蔦重さんは『陶朱公』という人物は
ご存知ですか?越の武将だった范蠡(はんれい)です…」
「戦から退いた後、いくつかの国に移り住んで、土地を富み栄えさせた人物で
范蠡(陶朱公)です。蔦重さんにも同じような才覚がある」と、例え話を聞か
せます。そして「私が店を譲るならそういう方にと思っておりました」
「自分は、明日店を出ていき出家するつもりだけれども、みの吉たち奉公人を
働かせてほしい」と頭を下げる。
(浅間山の大噴火で江戸に灰が降り。蔦重は、通油町の灰の除去のために懸命
に働いた。その姿に、門前払いしていたていの心が揺れ動くのだった)



雑巾が乾いてからの顛末記  福光二郎

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