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川柳的逍遥 人の世の一家言
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沸点を持たぬ女の無表情  上田 仁


 薫 大君の部屋へ訪う

あげまきに 長き契りを 結びこめ 同じところに 縒りも合はなん

紐のあげまき結びに私たちの契りも、どうかこめてください。
そうして何度も巡り合いたいと思っています。

「巻の47 【総角】(あげまき)」

亡き八の宮の一周忌も終わったある日、大君に思いのたけを訴える。

「姫たちの将来を任せる」と宮が希望されたことも、どこへやら、

父の遺言
である「親の面目を潰すような結婚はしてはいけない」

の言葉を頑なに守る
大君はそれを拒む。

大君は生涯独身を貫く覚悟をし、むしろ妹の中の君を薫に嫁がせようと、

考えているのである。

愛されて私このまま気化します  雨森茂喜

その夜薫は大姫とのどかに話がしたいと思い、山荘に泊まることにした。

大君は何かにつけて怨みがましくものを言う、近ごろの薫の様子に、

煩わしく、親しく語り合うのも息苦しいばかりだったが、その他の点では

世にもまれな誠意を、この一家のために見せている人だから、

冷たくも扱えず、その夜も話の相手をする承諾をしたのだった。

冬は冬の立場で吹かすヒューヒュールル 居谷真理子

お付きの女房の弁は、薫と大君の結婚には賛成で、現に薫と大君、

中君は匂君と結婚するのがいいと勧めている。

薫は良人として飽き足らぬところはなく、

父宮も先方にその希望があればと、
時々、洩らすこともあった。

が、自分はやはり独身で通そう、自分よりも若く、盛りの美貌を持ち、

この境遇に似合わしくない。

自分の目に痛ましくうつる中君を人並みな結婚をさせることが、


大君の託された責任としてうれしいのである。

不定期に菩薩になっているわたし  田口和代


大君に恋心を訴える薫

薫を応援する弁に導かれ、薫は大君の部屋に忍び込む。

姫は驚いて隣りの室へ逃げようとするところを、薫に引きとめられる。

「何をなさるんです。奇怪ではないですか」

この声は?薫が忍び込んだ先にいたのは、中君だった。

気配を感じ、大君は逃げていたのである。

またまた薫は、大君の冷たい仕打ちにあった。

薫は人違いでも構わないとは思わない。

震える中君を襲うことなく、薫はここでも会話だけで夜を明かした。

京に戻った薫は、思案する。

中君が匂宮と結婚してしまえば、大君はきっと自分に・・・。

曲線を入れたら私らしくなる  浅井ゆず

匂宮は中君と結ばれたのち慣例に従い、中の君へ何とか三日間は通ったが

高貴な身分が邪魔をして、その後は、軽々と外出できる立場ではない。

会う機会を失った二人のために、薫は匂宮の紅葉見の宇治行きを計画する。

当初、宮に近い人達だけを連れての紅葉見の遊びのつもりだったが、

位の高い宮のこと、みすぼらしい人数での遊行というわけにもいかず、

予定の人数のほかに随行の役人の数も増えることなり、

大層な催しになってしまう。

山荘の方では御簾を掛け変え、座敷の掃除、紅葉の朽ち葉を掃くなどをして、

薫と姫たちは、匂宮を迎える用意を整えた。

君と僕話合うほど逸れていく  奥野健一郎

こんな機会でもなければ、愛しい人にも会えない宮には気の毒だが、

多くの人を連れては、山荘へ入ることは不可能になってしまった。

山荘では、匂宮の一行が、宇治を立ち去る馬の足音で知り、残念がった。

歓待の仕度をしていた人たちも皆、はなはだしく失望をした。

大君はましてこの日の状況を深く記憶に残すのだった。

「やはり噂されるように、多情でわがままな恋の生活を事とされる宮らしい、

   男とは、女に向かって嘘を上手に言うものであるらしい、

   愛していない人を愛しているふうに巧みな言葉を使うものなのだ」と・・・

世間並みの姫君らしい宮殿にかしずいていたなら、

邸がこんな貧弱なものでなければ、宮は素通りをなされなかったはずである。

この結果に中君が哀れで、改めてなんとか幸福な女にしたいと願うのだった。

ひとしきり泣いたあほらしくなった  三村一子

匂宮の宇治通いを知った明石中宮は強引に夕霧六の宮との縁談を急ぐ。

そして間もなく結婚をする。

その噂を聞いた大君は絶望して、父宮の遺言に背いた自分を責めた。

大君は心労のあまり持病が悪化して寝込んでしまう。

こんな状況を危惧して父は遺言を遺したのだと、妹の不遇を思い悩んだ。

薫が山荘にかけつけ、息よりも低い声で病に臥す大君に言う。

「あなたはなんという罪な性格を持っておいでになって、

   人を悲しませるのでしょう。その最後にこんな病気におなりになった」

耳に口を押し当てていろいろと薫が言うと、大君はうるさいと思う思いと、

恥ずかしい思いとで袖で顔をふさぐ。

普段より、なよなよと横たわっている大君の姿をを見ながら、

「この人を死なせたら、どんな気持ちがするのだろう」

と薫は胸が締め付けられるのだった。

薬指のっぺらぼうのまま枯れる  北原照子

一方、大君の心中は「このまま死ねば、この愛も変わらず残しておける」

と思っていた。


「薫にこうしてつききりで介抱をされるのでは、

   治ったあとの自分は、
その妻になるよりほかの道はない。


   かといって、今見る熱愛とのちの日の愛情とが変わり、

   自分も恨むことになり、
煩悶が絶えなくなるのも厭わしいこと・・・

   もし、この病で死ぬことができなかった
場合には、いっそ尼になろう、

   そうしてこそ互いの愛は、
永久に保たれることになるのであるから」


是非そうしなければならないと大君は、深く思うようになっていた。

このように大君は、次第に薫の優しさに心を開き、愛しさを覚えはじめる。

山茶花の咲いて零れて女やさかい  森田律子  


 薫 大君を偲ぶ

やがて大君は死去する。

薫は大君が死んだのを見て、これは事実でない、夢ではないかと思って、

飾台の灯を寄せ、ひたすら眺めるが、その顔はただ眠っているようで、

変わったと思われるところもなく、美しく横たわっている姫をこのままに、

永久に自分から離さずに置く方法があればと、思うのだった。

葬儀を終えても薫は、しばらく京に帰らなかった。

薫を心配し京からは沢山の弔問が寄せられる。

哀しいこと見過ぎて水になった雲  安土理恵

恋人を失った薫があれほどの悲しみを見せていることを思うと、

よほど出来た姫であったのだろう・・・

その妹ならばと明石中宮は、匂宮の中君を慕う心持ちに妥協し、

「中君を二条院の西の対へ迎えて時々、通うように」と逢瀬を許す。

薫は三条宮が落成して、大姫をそこに迎えようとしていた自分である、

だから、その人の形見に、中君はせめてわが家の人にしておきたい希みと、

彼女の保護者は、自分のほかにないと、兄めいた義務感を持つのだった。

許そうか月にくちびる受けている  太田のりこ

【辞典】 紅葉狩り作戦の失敗

薫が考えた紅葉狩り、宇治の川下りなどを楽しもうというツアーは表向き。
宇治に着いたらお供の目を盗んで八の宮邸へ行こうという計画だった。
でも結局は抜け出すことは出来ず失敗。その第一の理由は、匂宮の立場。
東宮候補がそんなイベントに出れば、騒ぎになるのは当たり前のこと。
こっそり準備したはずの薫も、ふたを開けてみれば、大人数の仰々しい催し
になっていたので、びっくりする。でも、そんな周囲の目を何とかごまかして、
抜け出せるかもしれないという機会はあった。
失敗に終わった第二の理由は。この騒ぎを聞きつけた匂宮の母・明石中宮。
明石中宮は急な催しとはいえ、位の高い臣下をそれほど連れずに行くのは
世間体が悪いと、夕霧の長男・衛門督(えもんのかみ)に命じて、イベントに
参加させたのだ。命を受けた衛門督は、仰々しく供をつけることを考えた。
中宮はそれでも足らないと考え、第二段の参加団を派遣する。
そうなっては、もう抜け出すのは不可能。
明石中宮は「紅葉狩りは建前で、宇治の姫に会うのが目的なのだ」とも、
衛門督の告げ口で知っていたのである。

目測を誤り愛が届かない  佐藤美はる

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