湿っているうちは発芽の可能性 青砥たかこ
昔ばなし一覧図会
「猿蟹合戦」「文福茶釜」「花咲爺」「桃太郎」「かちかち山」
有名な六つの昔話のストーリーが、一枚の絵に描かれています。
じっくりみて下さい。
「日本の教養」 昔話・桃太郎
桃太郎の起源を辿れば、古代インドや中国の古い話が日本の風土と擦り
あわされ、室町時代に生れたという説。古事記の中にも、桃太郎がおり、
それらの説を按ずるに、昔昔とは、いつのことなのかと首を捻ってしま
います。桃太郎は、やがて手習いの教材として、江戸時代中期に完成。
そして慶応3年の『守貞謾稿』(喜多川守貞著)には「今世モ三都ト
モ小児をスカスニ、話之コト廃セス」と当時、江戸・京都・大坂の三都
において、子どもの機嫌をとるのに、昔話が使われ「童話」と呼ばれる
ようになったといいます。
部屋出ると一瞬おいてわく笑い 中岡千代美
大きな桃と日本一の黍団子。
「昔々、ジサントバサントアッタトイナ。ジサンハ、山イ柴刈ニ井タト
イナ。バサンハ川イ洗濯ニイタトイナ。云々ト云う」(教材)
昔むかしある所に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。子どもの
いない気楽な暮しで、お爺さんは毎日山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗
濯に出かけておりました。
「然ルニ河上ヨリ、桃一ツ流レ来タル老婆得之帰ルト…」(教材)
ある日、お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が流れて
きましたので、お婆さんはこれを拾って、家に持ち帰りました。
※ 「柴刈りと芝刈り」とは、違いますので間違えないように。
蓮根の穴も納得する奇跡 森乃 鈴
② お婆さん「お爺さん、これは、きょう谷川で拾い上げた桃ですが、
あんまり立派な桃なので、持ち帰ってきました。さっそく、半分ずつい
ただくことにしましょうか」そう言いながら、ふたりがこれを食べたと
ころ、何という不思議でしょう。お爺さんは三十五、六の男盛りに、お
婆さんは二十八、九の若女房になったではありませんか。ふたりは驚く
やら、喜ぶやら。手を取り合って、しみじみとお互いの顔を眺め合った
のでした。
※ 桃は邪気を払い、不老不死の果実として「若返り」の効果があると
されています。若返りたい方どしどし食べましょう。
セサミンを飲んで骨太老人に くんじろう
③
桃を食べてすっかり若返ったお婆さんの若女房は、それから暫くすると、
お腹が大きくなってきました。ところが産み月になっても、子供はなか
なか生まれません。それから何と三年も経ってから、ようやく無事に男
の子が生まれました。さてこの子供ですが、お腹の中に三年もいたせい
でしょうか、生まれた途端にあたりを駆け回ったり、盥の湯を高々と差
し上げて、頭からザブンとかぶったりするのです。両親が驚いたのは、
言うまでもありません。
※ 子供はどうして桃から生まれたことにしたのか。コウノトリと同じ
子供はどこから生まれるの質問に困らないようにしたのです。
それとなくも一度蹴ってたしかめる 山本昌乃
④
桃を食べたら生まれたので、両親はこの男の子に「桃太郎」という名前
をつけました。桃太郎はどんどん大きくなって、寺子屋へも行くようにな
りましたが、読み書きでも、誰にも負けない成績をおさめました。また相
撲をとっても、ケンカをしても、これまた誰にも負けない強さです。さて、
桃太郎が16歳を迎えたとき、両親に向かってこう言いました。
「実はこのたび、思い立ったことがあります。鬼が島に渡って鬼どもを退
治して、宝物を持ち帰りたいと思います。どうかお許しください」驚いた
両親は、いろいろとなだめましたが、桃太郎の決意は変わりません。仕方
がないので、黍団子をこしらえて、送り出すことにしました。桃太郎はさ
らにお婆さんにお願いをします。
「なるべく大きいお団子をお願いします。小さいのはケチくさく見えてい
けませんから」 「はいはい。今年は豊作だったから、うんと大きいのを
こしらえてやりましょう」
※ どうして黍団子なのか。黍団子は腹持ちがよく、それを串にさして団
結を促し、中国伝説によると、霊力が与えられる食べ物と云われています。
魔がさして生まれた日から主人公 桑原すゞ代
⑤
鬼が島で鬼退治をすることを打ち明けた桃太郎は、両親にたくさんの黍団
子をつくってもらい、吉日をえらんで出発しました。途中で犬と猿とキジ
が、お供になろうと待ちかまえていました。
犬 「ワンワン。お供いたしましょう」
猿 「キャッキャッ。お供いたしましょう」
キジ「ケンケン。お供いたしましょう」
桃太郎「よしよし、では黍団子をやろう。いっしょについて来い」
頼もしい供がそろったので、桃太郎も大喜びです。
※ 犬・猿・雉が何故従者になったのか。犬は三日飼われたら3年恩を忘
れない「忠義」を持ち、猿は「智恵」があり、。キジは蛇に卵が狙われる
と、自分の身体を巻かせて、十分に巻かせたところでこれを弾いてしまう
「勇気」を持つ動物とされています。
また天武天皇が説く「動物報恩譚」もあるようです。
相棒は下心シーラカンスは二心 山口ろっぱ
⑥
いよいよ桃太郎一行は鬼退治に向かいます。鬼が島に着くと鬼たちは、酒
盛りの真っ最中で城門は閉ざされたままです。桃太郎は、大声で叫びます。
「この門を開けろ!。開けなければ、打ち破るぞのみぞ!」その檄に三匹
の従者・犬、猿、雉も戦闘態勢です。城門を破り攻め入った桃太郎らは、
鬼たちをことごとく打ち負かしてしまいます。桃太郎たちの勢いに総崩れ
になった鬼たちは、金銀・珊瑚・宝珠などの宝物を蔵から出して、「命ば
かりは…お助けを」と白旗を掲げます。「宝物はもうこれだけか。ぜんぶ
出せば、命だけは助けてやろう」と桃太郎が言うと 鬼は「はい。もうこ
れで、残らずでございます」
※ 教材は「桃中ヨリ一男児化出シ、育之テ桃太郎ト称シ、後遂ニ復讐ノ
コトニ至ルノ一話也」とありますが。
年金に未加入だった桃太郎 吉川幸子
⑦
※ 福澤諭吉がこんなことを言っています。自分の子供に日々渡した家訓
「ひゞのをしへ」の中で「桃太郎が鬼ヶ島に行ったのは宝をとりに行くた
めだ。けしからんことではないか。宝は鬼が大事にして、しまっておいた
物で、宝の持ち主は鬼である。持ち主のある宝を理由もなくとりに行くと
は、<桃太郎は盗人と言うべき悪者>である。また、もし、その鬼が悪者
であって世の中に害を成すことがあれば、桃太郎の勇気においてこれを懲
らしめることはとても良いことだけれども、宝を獲って家に帰り、お爺さ
んとお婆さんにあげたとなれば、これはただ欲のための行為であり、大変
に卑劣である」と厳しい。
桃太郎宝蔵入ゟ 夷福山人作・歌川広重画 (国立国会図書館蔵)
ハッピーエンドのはずやったのになあ 雨森茂樹
山東京伝著『絵本宝七種』
打ち出の小槌をふるう桃太郎とお供の雉・犬・猿
「落語・桃太郎」
我々の子供の時代は恐いものが沢山あって、躾けもしやすかったんですな。
親の言い付けは守らなならん、学校の先生やお巡りさん、母ちゃんに父ちゃ
ん、恐い物がいっぱいありましたな。
「遅くまで起きてるとお化けや幽霊が出て来るぞ。ほ~ら後ろから…あぁ~
恐い恐い。早く寝んねし、寝床へ入んねん。寝床へ入ったらもう恐いお化け
も出てけぇへんからな。さあ、布団へ手ぇ入れて。お父ちゃんが面白い話し
をして聞かしたるさかい、それを聞きながら寝んねするんや、ええか…。
池と沼違いの分かるカッパたち ふじのひろし
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んではってん。お爺さんが
山へ柴刈りに行て、お婆さんが川へ洗濯に行た。川の上の方から大きい桃
が流れてきて、お婆さんはこれを家へ持って帰って、ポンと割ったら中か
ら元気のええ男の子が生まれてきた。この子に桃太郎という名前を付けた。
この子が大きくなって、鬼ケ島へ鬼退治に行くと云うので、キビ団子をこ
しらえて持たしてやると、犬と猿と雉が出てきて、一つ下さい、その代わ
りお供します。三匹を引き連れて鬼ケ島へ攻め込んだ。この桃太郎はんが
強いねや。三匹もよう頑張った。とうとう鬼が降参や、山のように宝物を
出して謝った。車に積んだ宝物、エンヤラ、エンヤラと持って帰って来て、
お爺さんやお婆さんに孝行したちゅうのや。
ククククっと笑って鼻を折っている 笠嶋恵美子
なあ、面白いやろ。桃太郎さんのお話し…金ぼう…金ぼう…、寝てしも
うたがな。 えぇ、子供というのは罪が無いもんやなぁ~」
てなことを云うてましたのは、もう昔のお話しでございます。
きょうびの子供はなかなか、こんなことくらいでは寝ぇしまへんわ。
ある父親が、眠れないと訴える息子に昔話の『桃太郎』を話して寝かしつ
けようとしますが、息子は「話を聞くことと寝ることは同時にできない」
と理屈っぽく反論してきます。父親は困りつつ話を始めます……が。
「昔々……」と言えば「年号は?」
「あるところに……」と言えば「どこ?」
「おじいさんとおばあさんが…」と言えば「名前は?」
といちいち聞くので、話がまったく進みません。
ほんのハナウタ渦を背中であやしつつ 酒井かがり
「ええか、昔々や」
「何年ほど?」
「何年ほどって…、こんなもん、お前、ずっと前から、ここは『昔々』
ちゅうんやがな」、
「なんぼ昔でも年号というのがあるやろ。元禄とか、天保とか、慶応とか、
明治とか」
「年号もなにも無いくらいに昔や」
「年号も無いとは、これはよっぽどの昔やな」
「そうや、よっぽどの昔や。あるところに…」
「どこや?」
「どこでもええやないかい。親が『あるところ』ちゅうてんねや、
あるところやなぁ、と思うとかんかい」
「昔でも国の名ァちゅうもんがあるやろがな。大和とか、河内とか、
摂津とか、播磨とか」
「国の名ァも無いくらい昔や」
「国の名ァも無いのん? そら、縄文時代より前やな?」
「知らん、そんなもん。とにかく、あるところにお爺さんと、お婆さんが
住んでたんや」
「お爺さんの名前は?」
「もうええかげんにせぇよ、お前なぁ、そないに次々と引っかかってたら、
寝る間もあらへんやないかい。名前もないッ。名前も無い昔や」
「へぇ、人間に名前の無かった時分ちゅうたら、そら原始人の時代やな?」
「あぁ、よっぽど昔や。お爺さんとお婆さんが住んでたんや」
「歳は?」
「ほんまにどつくで。歳も無い。歳の無いくらい昔や」
「無茶云うたらいかんわ。なんぼ昔でも歳はあるわいな。一年たったら一
つづつ歳とらはんねん」
「そら、始めのうちは歳もあったわい。そやけど火事で焼けてしもうて、
それから無くなった」
背中から湿布を外すひねり技 前中知栄
「無茶云いな。歳が火事で焼けたりするかいな」
「お前、ごじゃごじゃ云うさかい、話しが一つも前へ進まへんやないか。
少々わからんことがあっても、黙って『ふーん』ちゅうて聞いてたら、
だんだんと分かるようになってくるもんやがな」
「ふーん」
「お爺さんは山へ柴刈りに行った」
「ふーん」
「お婆さんは川へ洗濯に行った」
「ふーん」
「舐めたらあかんで。ほんまに、こいつだけは手ェが付けられんなぁ~、
みてみい。どこまでしゃべったか忘れてしもうたやないか!
運命は同心円のこま回し 三村一子
そやそや、桃が流れて来たとこや。それを持って帰ってポンと割ったら
中から男の子が生まれた。桃から生まれたんで桃太郎という名前を付け
たなぁ。この子ォが鬼ケ島へ鬼退治に行くというので、キビ団子という
美味しいものをこしらえて持たせてやると、途中で犬と猿と雉が出てき
て、一つ下さい、そのかわりお供します。三匹が供をして鬼ケ島へ攻め込
んだなぁ。猿がかきむしるやら、犬が食いつくやら、雉が目玉つつくやら。
鬼も降参やぁ。山ほどの宝物を出して謝った。車に積んだ宝物、猿が引く、
犬が押す、エンヤラ、エンヤラァと持って帰ってお爺さんやお婆さんに孝
行したちゅうねん。 なぁ、おもろいやろ。さあ寝ェ~寝んかい。寝ぇっち
ゅうのに、このガキは…。なんや、大きい目ェ剥きやがったな」
失った言葉探して日が暮れる 合田瑠美子
「あない、やいやい云うさかいに、寝たろかいなと思うてたんやけど、
あんまりアホな話し聞かされたさかいに、だんだん目ェが冴えてきた」
「冴えて来た? 悪いガッキャなぁ、こいつ。何で冴えてくるねん」
「なんでて、桃太郎の昔話やろ」
「そや、桃太郎の昔話やがな」
「桃太郎みたいな子供向けの話しされたらかなんなぁ。わいらもっと、
こう…恋愛モンみたいな…」
「生意気なことぬかすな。お前ら桃太郎で十分じゃ!」
「お父はん、何も知らへんやろうから、ちょっと話しをするけれども、
この桃太郎という話しは、日本の昔話の中でも一番ようでけてんねん。
外国へ持っていっても引けを取らん、ようできた話しや。それをあんな
言い方したら作者が泣く」
「な、何が作者や、お前ら、何も知れへんねん」
適当でいいとレシピに書いてある 橋倉久美子
最後に、曲亭馬琴先生の三匹の相棒についての解説です。
馬琴は「『燕石雑志』より、<鬼ヶ島は鬼門を表せり。之に逆するに、
西の方申・酉・戌(さる・とり・いぬ)をもつてす>と言い。
鬼門は、鬼が出入りする方角として、嫌われている方角で、東北(丑寅)
の方角であり、これは「陰」で、その反対の南西(未申)の方角が「陽」
である。<東北に位置する鬼を退治するには>、その対極であるべきで、
そこには、羊、猿、犬が並んでいる。羊は弱者なので省かれて、猿鶏犬が
選ばれて人間を助ける」と言っている。
シンバルは猿人手不足のシンフォニー 近藤北舟
[3回]