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川柳的逍遥 人の世の一家言
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息子よ 父の万年筆だよ 体温だよ  本田洋子


 (画面をクリックすると拡大されます)
卯 の 花 月  (豊国画)
ちょいといなせな魚屋さんに皿を持って群がる女房たち


「江戸の風景」  江戸っ子と粗忽長屋


「江戸っ子」という独特の市民が広汎に成立したのは、18世紀中期以降
のことである。
江戸っ子とは、江戸言葉を話す江戸根生い(生れ生い育った土地)の人び
とのことであり、初期の江戸では伊勢商人、近江商人など上方の有力商人
の江戸店が江戸の取り仕切っていた。
彼らは江戸生活者ではあったが、江戸っ子とはいえなかった。
ところが木場・魚河岸・日本橋・神田・蔵前などに初期以来、住みついた
町人たちが中期になると、社会・経済の中核として成長してきた。
明和8年(1773)の川柳に、「江戸っ子のわらんじをはくらんがしさ
(騒がしいさ)というのがあり、これが出自とされる。
さらに2年後の安永2年に、「江戸っ子の生まれそこない金を持ち」
「江戸っ子にしてはと綱はほめられる」などの用例が洒落本・黄表紙など
に散見するようになる。つまり文芸・演劇・浮世絵・遊郭の遊び、様々な
趣味でも、主役として江戸文化を引っ張ったのが江戸っ子だったのである。


何も足さずまた引かないというおしゃれ  柳川平太




山東京伝煙草店 (暖簾右下に京伝名が見える)



「江戸っ子とは」と、山東京伝は次のように定義付けている。
① 江戸城徳川将軍家のお膝元に生まれ、
② 宵越しの金を使わない
③ 乳母日傘で成人し洗練された高級町人で
④ 市川団十郎を贔屓する「いき」と「はり」とに男を磨く生きのよさ
⑤ 洒落たキセルで煙草を格好よく燻らせる男 
というのはありませんが、因みに、戯作者として有名な山東京伝は、
寛政5年(1793))書画会の収益を元手に銀座に「粋な男を作る男
の持ち物として」タバコを売る店・京屋伝蔵店を開店、自らもデザイン
した本革素材の煙管を売って儲けたという話は多くの人の知るところ。
煙草入れは粋な江戸っ子の代表的な装身具だった。

100人そろって煙草を吸っている  酒井かがり



黒桟留革提げ煙草入れ


金唐革一つ提げ煙草入れ


   
金唐革腰差し煙草入れ ①  金唐革腰差し煙草入れ ②


主に大名が用いた「御殿形煙管」
上) 折入角紋散らし彫り  
下) 竹に千成瓢箪彫り


ふんわりと浮いたら免許皆伝だ  新家完司



魚売一心太七 市川左団次


  
「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」
式亭三馬の「浮世床」「江戸っ子は宵越しの銭は持ったことがない」
という表現がある。
これは江戸後期(19世紀)に出現した江戸っ子の美意識であるが、
安永3年(1774)の頃の「江戸っ子の生まれそこない金を持ち」
川柳がいうように18世紀中ごろには、すでに金離れがよく物事に執着
しない江戸時代に共通する江戸っ子たちの美意識の精神があった。
当時、金を貯めようとしても、現在の銀行に相当する両替商は、預金に
利子などつかなかった。むしろ手数料を取った。
 江戸は火事が多く、金を貯めても火事で灰燼に帰してしまうことを経
験で知っていた江戸根生いの商人たちは、金を貯めるよりも商売仲間や
地域との関係や社会的信用を大切にし、そのために金を使った。
また歌舞伎に行ったり、遊郭に出かけたり、俳諧・川柳・狂歌などを作
ったりなどに金を惜しまなかったのである。
だからこそ江戸文化が花開いたのである。


在るようで無い ないようでやはりない  嶋沢喜八郎



一方、江戸文化を楽しんだ長屋の住人は、身体さえ壊さなければ仕事は
江戸で常にあった。彼らには定年などはなく、今よりはるかに短命であ
ったので老後の不安を持つ暇もなく死を迎える。だから老後の蓄えなど
あまり考慮しなかった。
むしろ長屋での常日頃の人間関係にこそ大事にした。
そのためには冠婚葬祭、病気、火事見舞いなどに金を惜しんではいけな
かったのである。
つまり「宵越しの金を持たない」とは、実は自分のために贅沢をすると
いうだけの意味ではなく、一緒に生きている他人のためにも金を使って
しまうという意味なのである。
それが巡り巡って自分も生かすことになる。
江戸っ子にとってサバイバルであり、最後は自分に返ってくるという考
え方なのだと江戸研究者は分析している。


天秤に昨日と今日の正直さ  みつ木もも花




菰の下の行き倒れは誰なのか


落語・「粗忽長屋」 気風のいい江戸っ子はそそかしい。


同じ長屋に住むそそっかしい八五郎と熊五郎は隣同士で兄弟分。
ある日、八五郎は浅草観音に参り、雷門を出た所で黒山の人だかりにぶ
つかる大勢の野次馬の股ぐらの間をくぐって見ると、これが行き倒れで、
菰をめくって見ると熊五郎だ。
「熊の野郎、今朝寄った時にはぼんやりしていて、ここで行き倒れて
いるのも気がつかねえんだ」
世話人が " この人は昨日の夜からここに倒れているんだ " と言っても八
五郎は納得しない。ついには本人をここに連れて来て、死骸を見せて引
き取らせると言い出し、世話人の言うことも聞かずに、長屋の熊五郎の
家に行く。そして熊五郎に " お前は昨日、浅草で死んでいるというが
熊は死んだ心持ちがしない " という。昨夜のことを聞くと " 仲(吉原)
をひやかし、馬道で飲んで酔っ払い、その先はどうやって長屋に帰った
か分からない "
  という。


でこぼこを埋めるでこぼこの片割れ  清水すみれ



「お前はそそっかしいから悪い酒に当たって、死んだのも気づかずに
帰って来ちまったんだ」
「そう言われてみると、今朝はどうも気持ちがよくねえ」
八五郎は半信半疑の熊さんを引っ張って、死骸を引き取りに現場に戻る。
野次馬をかき分けて、
「おう、ごめんよ、ごめんよ、行き倒れの本人を連れて来たんだ、
どいてくれ、どいてくれ」
行き倒れを見て
「ああ俺だ、なんて浅ましい姿になっっちまったんだ」
なんて調子だ。あきれ返る世話人を尻目に八さんは、本人が引き取って行
くと言って熊さんに死骸を抱かせる。
「兄貴、わからねえことが出来ちまった」
「何が」
「抱かれているのは確かに俺だが、抱いてる俺は誰だろう」



一生に二度は乗れない霊柩車  櫻田秀夫

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