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川柳的逍遥 人の世の一家言
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未生流えんぴつ五本挿して夏  井上一筒











小野篁は、平安時代の偉大な漢詩人。この名前を取った教科書で、子どもが漢字
を覚えるための本です。近世初期から幕末にかけて多数の版が作られ、町人の間
でもおなじみの存在でした。だからこそ多くの人に通じるパロディーの面白さが
あり、春町の趣向を生かして後年、式亭三馬は「小野愚譃字盡(おののばかむら
うそじづくし)」という滑稽本を出しています。



遠い日の偶然からの第一章  山崎夫美子







        『小野譃字盡』(国文学研究資料館所蔵) 





冒頭に述べた通り、漢字学習のための教科書でもある『小野篁歌字尽』という
本は、江戸初期に作られ、後期まで版を重ねました。
文化3年(1806)に出た式亭三馬の『小野字尽』(おののばかむらうそじづく
し)は、この本のパロディーで、第一項には、人偏に「春・夏・秋・冬・暮」
が書いてあって、「春うはき、夏はげんきで、秋ふさぎ、冬はいんきで、暮は
まごつき」としています。旁が同じものもあります。
「汀・灯・釘・町・打」の歌は「水みぎは、火はともしびに、金はくぎ、田は
まちなれば、手をうつとよむ」です。
この歌は、「睨み返し」「掛け取り漫才」など歳末の落語で、パロディーで
あることを離れて、滑稽な歌として枕に使われるようになりました。




ゴキブリも牛丼が好きなんだな  市井美春




蔦屋重三郎ー『小野篁歌字尽』ー③




絵の漢字を読む=〔たゆふこうしもうさんぶつつけ〕
九十匁がたゆふ(太夫)。こうし(格子)六十匁。三分ちうさん(昼三)。
家出の漢字は、揚げ代をもって遊女の階級を表す。




解説=
太夫の位は、宝暦年間に現われたが、揚げ代は【九十匁】、格子は格子女郎。
同時にこの格式はこの当時にはない。揚げ代は【六十匁】
【昼三】の揚げ代は、「昼三分・夜三分」。この当時、画面のような道中が、
ゆるされるのはこの階級。仲の町の通りを客を迎えに行くわけで【しげみや、
アノ、ぬしが来てか見てきや】と言っている。「ぬし」とは、お目当ての客、
「あの方」といった感じ。「しげみ」は、「禿の名」である。
【ぶつつけ】は、交じり見世にいる揚げ代【一分】の遊女。




もう少しこのままがいい落ち椿  津田照子





絵の漢字を読む=〔大はたきのたまくかんどう〕
毛氈をかぶりますのがおう(大)はたき。酒がのたまく。薦(こも)が勘当。
「下り、諸白あり」という看板の掛かる居酒屋の店頭の景。




解説=
昼から舛で【かぶる】ごとく【酒】を飲んでいる【のたまく】がいる。
【のたまく】とは、わけのわからぬことを、ぐずぐずくどくど、言うくらいに
出来上がった酔っぱらいのこと。
【総体不景気な、ふさ〳〵しい屋台骨だ。今度見やれ、仕方がある】といった
ごとくを並べるわけである。
【毛氈をかぶる】とは、特に親や主人の前をしくじることを言う。
こうなると、当時の通言で【人はたき】、則ち、勘当されたりすることになる。
放蕩のあげく【毛氈をかぶる】仕儀となり、【勘当】された【薦被り】(乞食)
が画面下方にいる。【あんな話を聞いても、昔恋しや、腹は淋しや。お余りを
くださりませ】と若いのに哀れである。





失敗の記憶ばかりだマンボウだ  宮井いずみ





絵の漢字を読む=かねばこさかてこけぶさきやく
早く空くやつがかねばこ(金箱)。飛ぶさかて(酒代)。惚れるがこけに。
帰るぶざきやく(武左客)。
吉原への道、夜の景。漢字は「早」を部首としてこじつける。




解説=
放蕩に遣い散らしはじめると、【早く空く】のが【金箱】である。
左端の粗末な姿をした若い男がその末路。
【昔は、やりが迎ひにでたが、いまは長刀あしらいより、ぞうりが長刀なりに
なった】
と、ぼやく。昔は遣り手までが、丁重に迎えに出てくれるくらいのお
大尽だったものが、今は体よく適当にあしらわれる(長刀のあしらい)。
「長刀草履」は長刀の刃のごとく、片方が擦り減った草履のことである。
画面中央には、【酒代】(チップ)をたんまりはずまれたのであろう、四つ手
駕籠が【飛ぶ】がごとく【早く】走っている。世の中金次第なのである。
【コレハさへ、やつさ、コリヤコリヤ】とは、駕籠かきの掛け声である。
画面右は【武左客】二人連れ。「武左」は武左衛門の略。田舎侍の野暮さ加減を
罵ってかく言う。またの名を「浅葱裏」。武家屋敷の長屋には、門限があるので、
【早く帰る】のを習性とする。【先頃、彼が方より、かくのごとくの玉づさをさ
しこした。よつてそれがしかく熱くまかりなったと云々】
と、四角張った言葉で
惚気る。「玉づさ」すなわち、手紙は遊女の手管の初歩。この程度で夢中になる、
まさに【早く惚れる】、遊びを知らぬ【こけ】(野暮)。
【なか〳〵われらおよばぬこと。まことに貴殿は当世の大通だ】と、相槌を打つ
連れも同類である。




芍薬を脱ぎ散らかしている吐息  黒川弥生





絵の漢字を読む=やぼつうむすこおやじ
金の死ぬのがやぼ(野暮)に。生かすつう(通)。無くすがむすこ(むすこ)。
番おやぢ(親爺)なり。




解説=
親の前を偽って吉原へ出掛けようとする息子。漢字は金偏で「人種」を表現。
質屋であろうか、帳場格子に「質蔵之掟」という札の付いた鍵がぶらさがって
いる。「紙類品々」と書かれた包みが前に積んである。その奥、帳場格子の向
こうに【親父】がいる。脇には銭の束。とかく【金を無くす】工夫を日々案じ
ている【放蕩息子】にとって【親父】【金の番】そのもの。
目を盗んで、遊びに出るにも相応の知恵がいる。
【今晩、名主様へ謡講に参じます。遅くは泊ってまいります】と言っているが、
謡講をダシにするのは、かなり使い古された手という感がある。
「うたい本おやぢをばかす道具なり」の川柳もある。
親父は、【なんだ名主様へ、舞台子を呼ぶ。人のいたみ(費用負担のこと)な
らば行ってみろ】
と、通じていない上にあくまでケチ。
迎えにきた悪友が店先にいて、【首尾はどふぞしらん】と、うまく抜け出せる
や否やを窺っている。目ざとくそれを見つけた丁稚が、【モシなんぞ、お買い
なさるのかへ。おは入りなさりませ】
とは、とんだアクシデント。





真四角になろう成ろうとして楕円  石橋芳山





絵の漢字を読む=おやかたしんぞうはつさくきん〳〵
花色がおやかた(おやかた)。赤いのがしんぞう(新造)。白が、はつさく
(八朔)。黒が、きん〳〵(金々)。すべて衣偏にまつわる言葉を吹き寄せる。




解説=
【花色】は縹(はなだ)色。黒に染め返しがきくので経済的な染め色である。
【親方】は、この場合妓楼の主人。派手な稼業に見えながらも、これくらいの
倹約を自分に課さなければ経営は成り立たない。
【新造】【赤】系統の仕着せの振袖を着る。
【八朔】は、八月一日の吉原の行事。遊女は全て【白】無垢を着る。
画面はその八朔の夜のようだ。【きんきん】とは、当世風の風俗で身形・髪形
を整えてある様をいう流行語。まさに【きんきん】然とした【黒】仕立ての通
人がただいま到着。通を気取って、遊里通いをする人士たちは【黒】ずくめで
きめたがる。【遅くなって急がせたら、いつそ暑い。アノ子、水を持ってきて
くりや】
と言っている。後ろにいる遊女が、扇で風を入れてやっており、脱が
せた羽織を相方の遊女が【干しておきんしやう】と受け取る。
画面右端の新造は【ヲゝ笑止】と、この男の様子を可笑しがっているが、新造
は、箸が転がっても可笑しがる年齢なのである。 連れは武士のようである。
【身ども、大きに待かね山の芋田楽、サア〳〵ひとつきこしめせ】と、強烈に
古い洒落を言って、駈けつけ三杯をすすめる。




裏地なら真っ赤な嘘で固めてる  木口雅裕





絵の漢字を読む=ねんかけくるわつきみえんづき
親里がねんあけ(年明け)色里がくるわ(くるわ)。芋がつきみ(月見)に。
披くゑん(縁)づき。新案の漢字は「里」字を部首にこじつける。




解説=
【年明け】とは、遊女の年季を勤め終えること。年が明いた遊女は【親里】
戻ることができる。
【色里】【廓】であるのは説明の要なし。【月見】は、吉原の紋日のひとつ。
【里芋】を供えるのは、九月十三日の後の月。
画面は、しかるべきところに【縁付き】して、奥様となったもと遊女が【里び
らき】で親里にやってきたところを描く。
【里びらき】とは、里帰りのことである。立派な奥様らしい出で立ちで、供の
小僧に持たせている土産も相当なものであるが、遊女時代の癖が抜けていない。
【今日、里開きながら来んした。うちでもよろしくとサ】という挨拶に、
【ヤレ〳〵里開きはよいが、もふ、「来んした」とは言やんな。兄も今まで内
にいたものをサ】と、つい飛び出た遊女言葉を母親が咎めている。母親は団子を
作っているところ。丁度今日は【月見】の日なのだろう。





ときめきに色は着けずにおきましょう  大沼和子





絵の漢字を読む=みうけかみさんしうとまごひご
千秋がみうけ(身請け)。万歳おかみさん。千箱がしうと(舅)。
玉がまご(孫)ひこ。祝言の時によく謡われる謡曲「難波」の詞章「千秋万歳
の千箱の玉を奉る」に
出て来る言葉を、漢字に仕立てて目出度くこじつけた。




解説=
【身請け】【かみさん】【舅】という読みと、案出の漢字に対応関係はない。
【身請け】されて【かみさん】になり【舅】に恵まれ【玉】とも言うべき、
【孫ひこ】に恵まれて一家は栄える。
黄表紙は、何があろうとも、最後は、めでたしめでたししで終わるのを約束と
している。【めでたい〳〵、鶴の羽重ね、千秋のと、むだ字尽くしで舞ひ納む】
という祝言の書入れで、この黄表紙も締めくくられる。




化ける日の白装束を縫っている  平井美智子











べらぼう25話 ちょいかみ





天明3年(1783) 浅間山が大噴火して噴煙による日照不足や長雨で、東北地方が
大凶作となる。この大凶作による物価の高騰で大坂の貧民が米屋や商家を襲撃、
さらに打ち壊しは、江戸や長崎など諸都市へ広がった。
江戸城中では、この危急の状況に、田沼意次(渡辺謙)や幕府の重臣たちは頭
を抱えていた。取り敢えず、意次は、商人たちに米の値下げを命じるものの、
素直に従うとは考えられない。短絡的な対処にすぎないと分っていながらも、
今出来ることを急ぐしかないと判断した、が…。




雨の日のバケツは雨の音で泣く  清水すみれ










戯作者や絵師ら出入りする者の多い耕書堂では、米の減りが早く、重三郎(横
浜流星)も苦労していた。そんなところに、幼い頃に自分を残して姿を消した
蔦重の実母、つよ(高岡早紀)が、店に転がり込んできたのだ。突然の再会に
重三郎は怒りをあらわにし、追い返そうするが妻のていが間に入りつよを庇う。
聴けば、つよは不作のあおりを受け、やむなく江戸へ舞い戻ってきたとのこと。
その後、つよは、店の座敷で来客の髪を結いはじめる。
重三郎は、その勝手な振る舞いに眉をひそめるものの、つよは「代金はとって
ない」と言い張る始末。ていは、その髪結いの時間を活用して、店の本を手渡
していた。これに閃いた重三郎は、本の販促に新たな形として取り入れていく
ことを思いつくのである。





水飲み場三カ所持っている小鳥  井上恵津子




一方江戸城では、意次が、高騰する米の値に対策を講じるも下がらず、幕府の
体たらくに業を煮やした紀州徳川家の徳川治貞(高橋英樹)が、幕府に対して
忠告する事態にまで発展する…。
【さて26話の「三人の女とは」誰のことを言うのだろう?】
一人目はつよ=ていは形だけの妻と言いながら、蔦重の実母。蔦重が7歳の時
に離縁し、蔦重を置いて去った。髪結の仕事をしていたこともあり、人たらし。
対話力にたけており、蔦重の耕書堂の商売に一役買う。
二人目はてい=ていは形だけの妻といいながら、重三郎の商売を支えてきた。
ていは「自分に女房としての器がない」と、出家へ思い悩む一方、重三郎の口
から出てくるのは、「誰とも添う気のなかった俺が、選んだただ一人がていだ」
と、真っ直ぐな言葉でていを説く。
三人目は?、誰のことなんだろう?
重三郎が、かつて本気で惚れた花ノ井・瀬川のことか。重三郎の心の奥には、
今もなお、瀬川が、比べようのない特別の人として住んでいる。
それとも誰袖のことか。




行き先をじっと思案の赤蜻蛉  前岡由美子

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