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川柳的逍遥 人の世の一家言
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丸めてみたり拡げてみたりがらくた有情  荻野美智子






         黄表紙「廓 愚 費 字 尽」
滑稽・へりくつ・諧謔が堂々まかりとおる黄表紙の世界。
一冊まるごと読み解けば、ナンセンスの裏に潜む江戸の機知に脱帽させられる
こと請け合い。
ここに出てくる漢字は、どんな分厚い辞書にも載っていない、見たこともない
漢字ばかりです。黄表紙の作者が知恵を絞って、洒落っ気たっぷりに創作した
漢字ですが、意味あるものをこさえられているので、一字一字目を凝らして、
読んでみてくんなんし。



真冬から春へくるりとモネの庭  宮原せつ





                                       式亭三馬・小野譃字盡  



恋川春町 『廓費字盡(さとのばかむらむだじづくし)』
天明三年(1783)正月蔦重刊、恋川春町画作。
   
「竹冠」「愚」は、式亭三馬の造語で「ばかむら」と読みます。
(とっかかり「竹冠」に「愚」なんて字はありません)



【解説』=往来物として盛んに刊行された『小野篁歌字尽』のパロディで、部
首を揃えた漢字を、いくつか一行に並べて、その読み方を歌にして示すという
形式をなぞる。漢字のほとんどは、新たに作者が案出したもので、部首と旁の
奇抜な組み合わせや、ひねりの効いた読み方で、機知的な笑いをかもし出す。
それらは全て、吉原の遊びやその周辺の事情にこじつけられ、画面の「絵解き」
を行なう。また、逆に漢字の解釈のヒントを、絵が読者に与える仕掛けともなっ
ています。




作り笑いで良いと甘茶のお釈迦様  藤本鈴菜





            『小 野 篁 歌  字 尽』





 春つばき 夏はえのき 秋ひさぎ  冬はひいらぎ 同じくはきり
平安の歌人・小野 篁(おののたかむら)は、木偏の「春夏秋冬」をこう詠んだ
江戸時代の寺子屋で「往来物」という初歩の教科書の教材として使われた。
漢字を属性ごとに並べて、読み方を和歌のリズムで覚えさせたという。
ついでながら、魚偏でみますと、
 春さわら 夏はふぐにて 秋かじか  冬はこのしろ  師走ぶりぶり





何つかむ絵本をめくる小さい子  矢橋菌徒










蔦屋重三郎ー式亭三馬・『小野篁歌字尽』




『小野篁歌字尽』(おののたかむらうたじづくし)は、往来物の一種として、
江戸時代には盛んに刊行されていた。
部首を揃えてその旁の異なる字を並べ、その読み方を、和歌の形式で調子よく
覚えさせるというもの。ここに掲げたのは山本義信筆のものである。





         序   (恋川春町)


愚(ばかむら)は篁(たかむら)の九代の后胤(こういん)かんも天目ひやも、
よく飲みぬけにして、又大通もそこのけにて高慢きん〳〵己(うぬ)ぼうゆへ、
人みな己野愚と笑ふ。その身は町にいりながら、また能(よく)おり〳〵お江
戸に通ひ小野小町にちぎりをこめ、則、恋川はる町をうむ。はる町人となるに
およんで「父・馬鹿むらむだ字を案じて、あたへて曰く、これをさくら木にち
りばめてはつ春うぬのほまちにしろと、よって画てたわけを弘ちゃくすと云
                        十代の作者  恋川春町




もやもやが晴れる引き摺ることはない  佐藤 瞳





                           絵の漢字を読む=はないきさかりいきつく

花はかみ(紙)。身形(みなり)はいき(意気)と読みにけり。勤めはさがり。
果はいきつく。





【解説】=絵と合わせてどうぞ。
吉原遊女屋の座敷における通人の遊びを描く。台のもの(画面中央にあるデコ
レーション過剰なオードブル)が運ばれてきた。この台のものは一分(現在の
2万円位)の値でかなり高値である。画中右の、【身形】【いき】な遊客が
運んできた若い者に、紙を一枚与えようとしている。
これは「紙花」と称して、小菊紙の懐紙を【花】(ちっぷ)の代用として与え
る吉原の風習で、一枚一分に相当する。紙花を貰った者は、茶屋を通して清算
する。したがってと読む。若い者は【琴浦さんよろしうへ】
遊女に取り成しを頼んでいる。
画面右下、【ここで帰られては大かぶりの】と若い者をからかっている法体の
男は、江戸神、すなわち素人の太鼓持ちであろう。
台のものは、客の注文に応じて取り寄せるのではなく、勝手に運ばれてきてし
まうものなのである。それに対して遊客が【長す】(長す(男の名、長なんと
かいう類の名前の下を略し、敬称「す」を付けた)と、たしなめている。
遊客の後ろで【一ツ飲みなんせ【紙】を【花】と、イヤヨ】と酒を勧めている
のは新造(新人の遊女)である。
遊女の左にいるのは、引手茶屋の女将であろうか【早く替えてきさつしゃいナ】
と、禿(遊女の使う幼女)に酒のお代わりを指示している。
引手茶屋は、吉原仲の町通りの両側に軒を重ねて営業しており、客の遊興の面
倒をみる。【遊女の勤め】(揚げ代)も茶屋を通しての【さがり】(掛け)と
なる。かように派手な遊びをし尽くした【果】ては、代々の財産も使い果たし
【いきつく】ことにもなろう。




瀬戸際であしながおじさんの援助  井上恵津子





    絵の漢字を読む=しのぶほんといやつけるいしやさん

忍ぶかさ(笠)。絵本がほんといや(本問屋)也。禿がつける。籠がいしや
(医者)さん。




【解説】=吉原大門口の景。漢字は全て門構えとなり、大門に関係のある事物
が噴き寄せられる。編【笠】は、人目を【忍ぶ】姿。中央の男がそれである。
遠国の高位の武士と見受けられる。【承ったより豪華な地でござる】などと、
初めての吉原見物にたいそうご満悦な様子。お供の武士はその下役であろう。
着流しの冴えない衣装に、これまた野暮な髪形をしている典型的な田舎武士で
ある。この男が【コレがかの蔦屋サ。国方への土産を求めよふか】と指差して
いるのは、大門口にあった【本問屋】蔦屋重三郎の店である。
障子に、富士山形に蔦の葉の商標が見える。店先に積み重ねられている商品が
黄表紙で、これは田舎への恰好の江戸土産となる【絵本】である。
画面右端。二人の【禿】が大門に【つける】(見張りをする)様が描かれている。
これは馴染みの関係がすでにありながら、他の遊女にも渡り歩くような不義理を
した客を掴まえようとしているのである。
吉原の出入口はここ大門一カ所しかない【逃がして叱られさつしやんなよ】
【ナアニサ】と気合は入っている。
大門をくぐって廓内に【籠】で乗り付けられるのは【医者さん】だけである。
籠かきが【頼む〳〵、エゝあぶねへ】などと言って、今大門をくぐるところ、
後ろについているのは、薬箱を背負った医者のお供である。




もう少しこのままがいい落ち椿  津田照子





     絵の漢字を読む=「つねるまついんきよしんじう」

指二本寄せるがつねる。折るがまつ(待)。遣うが隠居(いんきょ)。
切るがしんぢゆ(心中)





【解説】=老人客と若い新造の床の景。漢字はみな、「指」に縁のあるものを
こじつける。朋輩女郎が寝間着姿で訪ねてきている。
【ぬしや ァ、おとなしくもねェ。きるからひて(意味不明)、よくわっちらが
を連れてきてくんなんせん、憎らしい】
と、彼女の馴染みを連れて来てくれな
かったことを難じて老人客の腕を【つねっ】ている。
彼女は【指折り】数えて来訪を待っていたのであろう。
老人は【フワウ/\、ぱやまった/\/\、まつたよしおき(「新田義興」の
洒落)大明神かけて今度は(連れて)くるよ】と、フガフガ明瞭ならざるもの
言いで弁解している。
この老人の左手の行方に注目、【指を遣う】のが【隠居】という字の解となっ
ている。年を取っても手だけは達者なわけである。
新造は、【アレサ、くすぐってへわな】という反応。
『新造をおもちゃに隠居して遊び』(柳多留)という川柳もある。
【指を切る】のは【心中】の一つで遊女の手管の代表的なもの。





ときめいた場面でちゃんと涙出る  古賀由美子





      絵の漢字を読む=こわいろたいこぢまわりしゃれ

言偏(ごんべん)に似るがこわいろ(声色)。茶がたいこ(太鼓)、
毒がぢまわり(地回り。上下がしやれ(洒落)




【解説】=仲の町の引手茶屋での遊び。引手茶屋は画中に見えるように、腰折
れの鬼簾(おにみす)と縁先の床几が特徴。
誘客を中心にして向かって、左側に遊女と茶屋の女将。そして右側に芸者が二
人いる。扇を手に持っている芸者は【声色】を遣っている。その文句は
【兄は一万、弟は箱王、元服なして、十郎介なり、五郎時致、ハテ珍しい】で、
これは、曽我狂言のいわゆる「対面」の場の科白である。
客は【イヨ/\/\、秀鶴、恐ろしいの木。三ぱい小たてに飲もふ】と、この
芸にご満悦である。秀鶴は中村仲蔵の俳名でその物真似をしているのがわかる。
「恐ろしい」に「椎の木」を言い掛け、兄弟の父・裕康の最期「椎の木三本小
楯に取り」を効かせている。茶屋の女将も【よく似てやすねェ】と感心しきり。
外を行く下駄履きの柄の悪い風俗の二人連れは【地回り】、吉原を徘徊し、遊女
らを冷かして歩くのを日課とする。【毒を言う】(悪口雑言)のが得意技である
彼らも、【えゝ、いまいましく恐ろしい、親ァねへか】と言っている。
【いまいましく恐ろしい】とは、彼ら一流の乱暴な褒め方「素晴らしい」といっ
た意味である。「親はないか」とは、芸を褒め称える常套句。
残った漢字について解説すると、【たいこ】は太鼓持ちのこと。
【茶を言う】(冗談を言う)のが商売。回りの人間を【上げたり下げたり】して
【洒落】る。





出汁の効いた少し不幸がちょうどいい  黒田るみ子





絵の漢字を読む=ちょきやねぶかさいかわせかき

寝るがちよき(猪牙)。 騒ぐがやねぶ(屋根舟)糞かさい(葛西)。
ごたごたするが川せがき(施餓鬼)也。





両国橋下の隅田川。往来の景。
【解説】=猪牙とは、猪牙舟のこと。吉原通いによく使われた快速船である。
画中、橋にかかろうとしている小舟がそれ。朝子の舟での帰路、舟中で【寝】
睡眠不足と疲労とを解消するのである。山谷掘の船宿は、帰り客のために蒲団を
積み込む。画中の客はこれから北に向かうところ。
【船衆、ちょっと太郎に寄りたい】などと船頭に言っているが、太郎とは向島の
川魚料理で有名な料理茶屋中田屋のことで、葛西太郎の愛称で親しまれていた。
【やねぶ】は、屋根舟の略で通人用語。屋根舟は川遊びなどにも利用される低い
屋根の付いた4、5人乗りの舟である。
画中下方に見える、苫葺の屋根のある小舟は【葛西】、舟の愛称を持つ隅田川の
名物【糞舟】である。葛西は当時江戸へ野菜を供給していた近郊農業の地である。
ここの農家は、江戸市中の家主との間で野菜との交換契約を結び、そこの糞尿を
汲み取って、肥料として農地に運んでいた。
その葛西舟と行き違う屋形船の吉野丸【いつそ胸が悪くなった。臭い臭い】
【それは屋形に初めて乗りなすったからサ】という声が聞こえてくる。
この屋形船は【川施餓鬼】を行っているところで、船上にはそのための祭壇と多く
の人が【ごたごた】乗り込んでいる。
漢字はそれを抽象(かたど)っている。





火星行き船アンパンを積み忘れ  井上一筒





              「黄表紙廓愚費字尽」絵解きは次号②へも続きます。









「べらぼう24話 あらすじちょいかみ」




日本橋通油町で地本問屋を営んでいる丸屋小兵衛(たかお鷹)の買収を巡って、
蔦屋重三郎(横浜流星)と吉原の親父たちが動き出します。
扇屋宇右衛門(山路和弘)は,扇屋に揚代のツケを溜め込んでいる茶問屋・亀屋
の若旦那を抱き込んで、丸屋を買い取らせようとしますが失敗。
「吉原者」である蔦重による買収を危ぶむ日本橋通油町の商家たちから、かえっ
て警戒されることに…。
ならばと言うことで、駿河屋市右衛門(高橋克実)と扇屋宇右衛門は,、丸屋が、
あちこちに出している借金の証文を買い取って集めます。
丸屋の店の権利は、吉原が持っているとして丸屋に乗り込もうとすると、
鶴屋喜右衛門(風間俊介)が、仲介して大坂の書物問屋・柏原屋(川畑泰史)と、
丸屋のてい(橋本愛)がまさに店の売買契約を結ぼうとしているところ。





朝顔が咲く直前は闇の中  奥田航平











吉原の親父たちから出される借金の証文に加えて、蔦重は、ていに自分と縁組を
して「丸屋耕書堂」を一緒にやろうと言い出します。
しかし、蔦重「色仕掛け」がまずかったのか、かえって、ていの気持ちは頑な
ものに。丸屋の権利はそのまま、柏原屋に移ってしまいます。





なくときのBGМは空のうた  西田雅子





兄・松前道廣(えなりかずき)が琥珀の直取引を持ちかける
誰袖(福原遥)が根気よく 廣年に誘いの文を出し続けているところに、廣年が
久しぶりに文字屋に登楼。しかし今度は兄・松前道廣も一緒です。
しかも道廣は大胆にも、大文字屋市兵衛(伊藤淳史)と一緒に琥珀の直取引をし
ないかと持ちかけます。誰袖が廣年に持ちかけても、一向に進まなかった話が、
道廣の登場であっさりと道が開けました。
松前藩が、抜荷をしている証拠を探し回って上知を行いたい意知(宮沢氷魚)は、
このやり取りを隣の座敷で聞き心の中で快哉を叫びます





泥くさく勝ちを狙ってゆくつもり  吉岡 民

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