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川柳的逍遥 人の世の一家言
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わたくしに似合う夕陽はどれですか  清水すみれ

 
    西の対

鳴く声も 聞こえぬ 虫の思ひだに 人の消つには きゆるものかは

鳴く声も聞かせず、あなたを照らして光る蛍は私と同じ思いなのでしょう。
人が消そうとしても、蛍の光と同じように私の思いは簡単には消せません。

「巻の25 【蛍】」
                たまかつら
光源氏からの告白を受けた玉鬘は、心が苦しくてたまらなかった。

実の父・内大臣のもとで、源氏から求愛されるならまだしも、

世間的な父親に想いを寄せられるなど「なんとおぞましい」と思っている。

最近では、熱心に求婚する蛍宮と結ばれるほうがいいと思うほど。

そんななか、例によって源氏が蛍宮からの恋文をチェックし、

なにやら侍女に色よい返事を出すよう指示をしている。

何となく、面白がっている様子なのだ。

玉鬘には、父親として見せるこんな態度の源氏と、愛を告げた人とが

同じ人物とは思えないくらい、彼の気持ちが理解できないでいた。

蜥蜴の青をまとう左半分  森田律子

色よい返事をもらった蛍宮は、その夜、早速、玉鬘のもとへ出かけた。

当然、御簾ごしの対面だが、蛍宮は熱心に玉鬘へ口説きの言葉を投げる。

そのときである。 

明かりの乏しい当時の室内に、突然ぱっと光が灯る。


慌てた玉鬘はとっさに扇で顔を隠すが、

蛍宮の目には彼女の横顔が焼きついた。


初めてみた玉鬘の美しさに、一層、心を揺さぶられるのであった。

一条の光に見えてあれは罠  平井美智子


その明かりの犯人は、夥しい数の蛍だった。

そしてその蛍を解き放ったのは源氏であった。

蛍宮を色よい返事で呼び寄せ、たくさんの蛍を仕込んでおき、

一斉に放したのだ。


優雅ないたずらだが、源氏はいったい何を考えているのか。

おしまいの一分間は笑いたい  吉川幸子

それからしばらく経って、梅雨の長雨がつづく頃、

源氏はまた、恋文チェックでもしようと思い、玉鬘もとを訪ねた。

六条院の女君たちは物語に熱中している。

田舎暮らしが長かった玉鬘も、見たこともないような物語の世界に触れ、

それを書き写したりして日々を送っていた。

源氏はそんな玉鬘を相手に「物語の虚構にこそ真実が宿っている」

という独自の物語論を説く。

惑星に帰ろう桃の種持って  藤本鈴菜


    夕 霧 模写 三田尚之)

その頃、夕霧明石の姫の子守で人形遊びの相手をしていた。

源氏は夕霧を紫の上には近づけないようにしていたが、明石の姫の許へは、

出入りを許していた。


自分が死んだ後、夕霧が後見になる際、気心も知り、

親しんでいたほうが都合がいいと考えたのだ。

源氏はこの二人の実の子を、大切に扱っていた。

夕霧は明石の姫と人形遊びをまめまめしくしながら、

時折、雲居雁と遊んだ頃を思い出し、涙ぐんでいる。

夕霧は雲居雁を忘れることがなかった。

だが彼女の女房から「六位風情」と軽蔑されたことが今でも、心が苛む。

梅雨空を剥がすと好きが溢れ出す  和田洋子     

もし夕霧が、雲居雁になりふり構わずつきまとっていたなら、

内大臣も根負けして、二人の結婚を許したに違いなかった。

あるいは源氏が頭を下げたなら、話は違っていたかもしれない。

だが、夕霧は何としても内大臣に理非を判断していただかねばと

心に決めていて、雲居雁にだけは並々でない恋心を抱きながら、

表向きは、一向に焦ったところを見せようとしない。

それがまた内大臣はしゃくに障るのである。

内大臣にはたくさんの子供たちがいたが、娘はそう多くない。

弘徽殿女御も中宮にと期待したが、秋好中宮に先を越され、

雲居雁も東宮妃にと目論んでいたが、夕霧の為に思い通りにならなかった。

脱皮への方程式が見付からぬ  松下和三郎


    競 馬

【辞典】 花散里への愛情

源氏物語の本文から割愛されたエピソードがふくまれています。
源氏が花散里と一夜を過ごす場面です。

この場面は、蛍の美しい光の映像をイメージさせる下りと、
源氏が観念的な物語
論を展開するくだりの間に挿入されているもの。
エピソードは、花散里のいる
夏町で馬術競技の催しが行なわれた場面から
始まります。 この催しには夕霧がたく
さんの友達を連れてきて、其々が
得意の馬術を競い大変盛り上がるものでした。

その夜、源氏は夏の町に残り、花散里の部屋に泊まります。
花散里は源氏にとって
心が和む大切な人である。
でも寝所をともにすることはありませんでした。二人は別々に
休みます。
花散里はいつも寝る場所である御帳台を源氏に譲り、
自分はその
側に几帳を隔てて寝むのです。
それほど頻繁に訪れるわけではない源氏と枕をともに
するのは、
恐れ多いこと。花散里はそんな謙虚な気持ちをもっている人なのです。

そういう相手だから源氏がここへ訪れるたびに、心が癒されるのでした。

花図鑑に載らない花がひっそりと  雨森茂樹

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