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川柳的逍遥 人の世の一家言
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ブルータスの役が五人もいる悲劇  中野六助

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「本能寺の変」

5月20日、近江・安土城。

信長は、光秀と作戦会議をしていた。

光秀が、秀吉が陣を張る備中へ出立するのが6月1日。

信長は、

「京を経て、秀吉の元に行くので、到着は5日か6日になるだろう」

という。 すると、光秀が、

「主だった家臣はすべて戦に出ており、京の信長の守りが手薄になるのではないか」

という。 だが、信長に抜かりはなかった。

嫡男の信忠の軍勢を、堺においておくというのだ。

もし、京が攻められたら、即座に、堺から援軍が来るという仕組みだった。

京を攻めるとしたら、同時に、堺をも攻めなければならない。

それだけの戦力を有する大名は、畿内にはいなかった。

それを聞いて光秀は、安堵する。

だんだんと顔が近づく話し合い  和田直美

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すると、信長は光秀に言う。

信長 「こたびの中国攻めを機に、おぬしの領地は召し上げる」

光秀 「今、何と・・・・?」

信長 「丹波一国と近江の領地じゃ。

    代わりに、中国の石見と出雲は好きなだけ取るがよい」

石見、出雲はまだ毛利の領地だった。

つまり、いまだ自分のものでない領地を、

「自分の手で奪い取れ」
ということだった。

それを聞いた光秀は驚き、絶望する。

領地を召し上げられたら、家臣は路頭に迷うことになってしまうからだ。

それを考えると、光秀の手は無意識のうちに震えていた。

昨日まで確かに背中だったのに  谷垣郁郎

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信長 「・・・そうじゃ」

光秀 「は?」

信長 「考えれば、わしを襲うことの出来る者が、一人だけおったわ」

光秀 「そ、それは・・・?」

信長 「誰よりも都の近くにおる者・・・・光秀おぬしじゃ」

光秀 「(絶句し)・・・・・」

信長 「どうじゃ?謀叛でも起こしてみるか?」

光秀 「め、滅相もないことにございます・・・・・」

笑えない錯覚王様の裸    荻野浩子

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小姓の森蘭丸は、信長の側に控えていて、

いつも信長が光秀に対して、辛くあたることが気になっていた。

そして、光秀が帰ったあとで聞いてみた。   

すると、信長は言う。

信長 「光秀は長い放浪の末、足利義昭に、次いでわしに仕えてきた。

    そのためか、安易に人に打ち解けず、目には見えぬ殻をまとうておる。

    それが人物を小そう、窮屈にさせておるのじゃ」

蘭丸 「見えない、殻・・・」

信長 「それに気づき、自らも脱ぎ捨てねばならぬ。

    わしに万一のことあらば、あとを託せるのは、明智光秀ただ一人なのだからな」

生きざまのひとつひとつに灯がともる  森中惠美子

蘭丸 「お心の内、やっとわかりましてございます。

    ・・・ただ・・・、そのお気持ち、明智様に届くものかと」

信長 「(笑い)それは、あの者の器量次第よ」

信長は、光秀の力量を人一倍買っていて、”自分の後継に決めていた”のだった。

蘭丸は、そんな信長の気持ちが、

果たして、”光秀にわかっているかどうか”心配だった。

その問いには答えない予定です   山口ろっぱ

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5月28日、丹波の亀山城では、光秀が悩んでいた。

信長の自分への冷たい仕打ちに、堪えきれなくなっていたのだった。

手の震えも一段と激しくなっていた。

そんなとき、家老の斉藤利三から、

堺に行くはずの信忠が、信長の警護の為に、京に留まるという話を聞く。

信長の手勢はせいぜ100人前後、

信忠の手勢も1千人に満たない人数だった。

それが一ヶ所に集まっている。

それに対して、自分の手勢は1万を越える。

本の背に心を掴む文字がある  泉水冴子

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光秀の様子がおかしいと思った利三は、心配そうに見つめる。

すると、光秀が言う。

光秀 「利三」

利三 「はっ」

光秀 「わしは、途方もないことを考えておる」

利三 「途方もないこと?」

利三は、それまで震えていた光秀の手が、ピタッと止まっていることに気付く。

立聞きをする時息を止めなさい  井上一筒

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6月1日の夜、光秀の軍勢は、中国目指して出立した。

そして、丹波・老ノ坂の別れ道に差しかかった時、

光秀は行軍を止める。

光秀 「皆の者・・・・、これより東へ向かい、桂川を渡る。

     目指すは本能寺なり。

     明智日向守光秀、天に代わりて織田信長を成敗いたす・・・・!

     天下布武の美名のもと、罪もなき民草を殺戮し、神仏を虐げしのみならず、

     不埒にも自らを神に祭り上げ、あまつさえ、帝をもおのれの下に置かんとする、

     所業の数々、許し難し!

     よって、これを誅罰するこそ、天の道にかなうものなり!」

しんと静まり返る一同。

唾を飲む者もいる。

光秀は見回すと声を張って言った。

光秀 「敵は・・・・本能寺にあり!」

光秀の軍勢は、進み始める。

取り立てに行きます夢の中だって  くんじろう

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6月2日、寅の刻。

信長が本能寺の自室で寝ていると、表から激しい物音が聞えてきた。

さっそく、蘭丸に様子を探らせると、

何者かが攻め込んできたことがわかった。

既に寺の周辺は、大軍勢に囲まれているという。

信長 「いかなる者の企てか?」

蘭丸 「明智勢と見受けられます」

信長 「明智・・・・・そうか・・・・ 光秀、お前も天下が欲しかったか・・・」

信長は、決して逃げることなく、家来共々奮戦する。

だが、多勢に無勢。

敵の手に落ちるのは時間の問題だった。

真実を辿れば見えて来た火種    楠原富子

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信長は、坊丸に、

「寺の境内のことごとくに、残らず火を放て」

と厳命すると、一室に蘭丸を連れていく。

信長 「よいか!わしの首、骨、髪の一本もこの世に残すな!」

蘭丸 「承りましてございます」

紅蓮の炎が信長を包む。

炎の海に崩れ落ちる本能寺。

刀を抜いたまま叫び、歩き回る光秀。

謀叛の成功に酔いしれる顔が、炎に照らし出される。

光秀 「首じゃ、首を探せ!信長の首をさらせば天下は変わる。

    この光秀のものとなるのじゃ!」

火と煙と騒音の中、狂ったように笑う光秀・・・。

消し忘れたト書きが笑い始める  森田律子 

【豆辞典】

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    森 蘭丸

織田信長の小姓、近習として知られる蘭丸・坊丸・力丸の森三兄弟といえば、

ドラマや映画では、必ずといっていいほど、

美丈夫の男子として描かれる。

もちろん、彼らが本当に美男子だったということを、

示す信頼できる資料はない。

しかし、「本能寺の変」で、燃え盛る炎の中、

信長に従って討ち死にしたのが、

それぞれ18歳、17歳、16歳という若さの盛りであったという事実が、

彼らを永遠の美男子とみなす伝説に、

寄与しているのかも知れない。

プチトマトむかし私もこうだった  西恵美子

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   森 力丸

彼らが信長の近習になったのは、

父である森可成が信長の家臣だったためで、

三兄弟のさらに、兄である可隆長可も信長に仕えている。

父や兄は、桶狭間の戦いや、姉川の戦いに参戦し、

信長の躍進に大きく貢献したが、

三姉妹の父である浅井長政との戦いの最中に、戦死している。

つまり三兄弟にとって、

浅井三姉妹は、親の仇ともいえるのである。

忘れるというマジックを手に入れる  小山紀乃

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   森 坊丸

信長に対する兄弟の忠誠心はゆるぎなく、

取次や奏者としての仕事にも、有能だったといわれている。

なかでも蘭丸は、

奥州から贈られた白斑(しらふ)の鷹、疲れを知らない青馬とならぶ、

信長の三大自慢のタネであったらしい。

”ぬばたまの 甲斐の黒駒 鞍着せば 命死なまし 甲斐の黒駒”

人づてに聞くと嬉しい褒め言葉  高島啓子

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蘭丸の具足(兼山歴史民族資料館)

蘭丸には、その奉公ぶりを示すエピソードがいくつもある。

たとえば、信長が切った爪を捨てる際、

ひと指分足りないということで探しまわったという話や、

蔵の戸が閉まっていることを承知しながら、

閉め忘れたと思っている信長の機嫌を損わないよう、

そっと開けて、再び閉めたという話などが残されている。

もも苺一粒わたくしの時給  杉本克子           

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