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川柳的逍遥 人の世の一家言
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酸化した油で大安を揚げる  森田律子

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「大内裏から脱出する二条天皇」(歴史と民族の博物館・埼玉)

二条天皇は女装して密かに六波羅へと脱出した。

25日夜、二条は女装して牛車い乗り、

清盛の六波羅の私邸に迎え入れられた。


                     (画面をクリックすれば大きく見れます)


水底で月は檸檬になりました  古田祐子

「第二幕・六波羅合戦」

藤原信頼源義朝が挙兵したのは、

平治元年(1159)12月9日、

憎んでも余りある信西を三条鳥丸の院御所に襲い、

続いて内裏を占拠して、二条天皇の身柄を押さえた。

天皇を確保した反乱軍は、一時京都を完全に制圧し、

その兵革は、成功したかに見えた。

空想が碁盤の石の下にある  筒井祥文

しかし「六波羅」が動き出すと、

しだいに雲行きが変わっていく。

六波羅の主人、清盛の帰還とともに、

政局は此処を中心にまわりはじめたのだ。

ドアはいま 隣の部屋を出ていった  山本早苗

「平治の乱  二条天皇奪還」

天皇脱出の手立てをする密命をおびて、

内裏に入ったのは、

藤原惟方の義兄弟である藤原尹明(ただあき)だった。

尹明は、天皇を女装させて女房用の車に匿い、

25日夜を待った。

手筈どおりに大宮二条で火災がおこり、

警備の武士が気をとられている隙をついて、

内裏を出た。

後発に棒高跳びの特技あり  井上しのぶ

そのとき警備の者が怪しんで、

車の御簾を上げさせたが、

17歳の天皇を女性と見誤ったともいう。

天皇が六波羅に入ったのは、

26日の晩だった。

天皇の脱出計画を知らされた後白河上皇も、

同日、ひそかに内裏から逃れ、仁和寺に身を寄せた。

六波羅を臨時の皇居として、

天皇を奪い返す策は、見事に成功した。

水紋の夥しきは水面下  蟹口和枝

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信頼義朝は天皇を奪われた瞬間、

謀叛人に転落するのだ。

「これで反乱も終わった」

と公卿たちが喜ぶのも、無理はなかった。

それが院政期に、天皇権力に寄生することで台頭した、

院近臣たちの常識である。

法則を背負って登る豆のつる  桜 風子

「平家の棟梁はいかがした」

と、公卿たちは、浮かれ気分で、

この六波羅の主人の姿をさがす。

なんといっても、第一の功労者だ。

皆で褒め称えてやれば、

「あの遠慮がちな六波羅の主人も感激するだろう」

と、わいわい騒ぎあう。 

一匹の魚の笑い見にゆこう  森中惠美子

「いずこにおる、平家の棟梁」

公卿たちは、

「恥ずかしがらずに出て来い」

とでも言いたげな口調だった。

祝宴でも始めそうな公卿たちは、

なかなかお目当ての、平家の棟梁が出てこないので、

車座になって、お喋りを始めた。

きらきらと単孔目鯉苔を食う  大西泰世

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   清盛像

「お待たせいたしました」

出し抜けに頭上から声が降ってくる。

訝しげに見上げた公卿たちは、息を呑む。

そこにいたのは、確かに平家の棟梁・平清盛だった。

オーロラの裏の座敷牢に居ます  井上一筒

だがいま、公卿たちの前に現れた清盛には、

いつもの腰の低い微笑はない。

口調こそ丁重だったが、

別人のように厳しい表情だった。

それにしても、清盛のいでたちは何たる有様であろうか。

此処はいま臨時の皇居だ。

殿上である。

しかし清盛は、公卿たちが後ずさるような、

武者姿で現れたのだ。

絶句した公卿たちは、

眼を見張って、清盛の武者姿を仰ぐ。

まず嗚咽漏らしたのは袖口  酒井かがり

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   平清盛公日招像

そこにいる清盛は、冒し難い威厳に満ちていた。

しかも、見る者の眼を奪う美しさがあった。

清盛の軍装は、黒で統一されていた。

鎧の縅毛は黒、太刀も黒漆、

矢は柄も羽根も黒で、沓まで熊毛だった。

だがただ一点、冑の立物だけが銀だった。

その白く輝く立物が、ひた黒の装束を、

心憎いまでに引き立てていた。

沈黙を買いに行く万札のシワ  山口ろっぱ

公卿たちを圧倒した清盛の大音声が、

殿上に響きわたる。

「殿上の方々、お喜び召さるのは、まだ早い。

 本当のいくさが始まるのはこれからじゃ」


殿上が水を打ったように静まり返る。

清盛は続けた。

「主上の玉体を奪われて観念するのは公家の習い。

 なれど武家の習いは違い申す。

 殿上の方々、もしやお忘れか」


これを聞いて、水を打ったようだった殿上が、

ふたたびざわめき始めた。

いま私積乱雲の中にいる  ふじのひろし

一座の公卿たちに、不安げな表情が広がっていく。

清盛のいかめしい軍装が、いやでも思い出させた。

「このたびの兵革の張本人・中納言信頼とともに、

 蜂起した者の名を」


「義朝・・・」 

公卿の誰かがつぶやき、

清盛は大きくうなずいてみせる。

緞帳の糸のほつれか悲の匂い  嶋澤喜八郎

「左馬頭義朝は源氏の棟梁。

 主上の玉体を奪われたからといって、

 おめおめと引き下がる者ではござらぬ。

 再び玉体を奪い返さんとして、

 かならずやこの六波羅へ、攻め寄せてまいりましょう」


ある日ふと保険証書が気にかかる  山本昌乃

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