川柳的逍遥 人の世の一家言
ていねいに拭いておく明日へのメガネ 山本昌乃
「官女菅観菊図」 (岩佐又兵衛筆・山種美術館蔵)
牛車の簾をあけて、野の菊を眺める女房たち。
今でいう車でいく郊外への花見物というころか、
宮中で限られた生活をする女房にとって、こうした屋外への遠出は、 さぞかし楽しいものであったにちがいない。 約7年にわたり、藤原定子の教育係を務めた清少納言だったが、藤原定子の父
・藤原道隆と覇権争いをしていた藤原道長が宮中で力を付けてくると、藤原道 長に内通している疑いを掛けられ、中宮の一家と対立し、容赦ない圧迫の手を
加える左大臣藤原道長方に内通している、とのうわさにいたたまれず,中宮の そばを離れて長期の宿下がりに閉じこもった。 そして,たまたま中宮から賜った料紙に,「木草鳥虫の名や歌枕」などを思い
つくままに書き続けることによって気を紛らせた。 木よ花よお前も水がほしかろう 森光カナエ
これが《枕草子》の「日記的章段」のはじまりである。
たまたま生まれたものとされているが,半ばは意識的に右近中将源経房の手を
経て、これが世人の目にとまり,意外な好評を受けて,次々と書きつづけた。 自然をおもいつくままに描いたもの以外に「日記的章段は」、一条天皇と藤原
定子を初めて間近に仰ぎ見た時のときめきや、初宮仕えの、不安を書き留めた <宮に初めて参りたるころ>のことや、定子との穏やかな日々をはじめとして、 宮中の儀式や貴族達との交流が記され、藤原定子賛美をほぼ主題としている。 不可逆な時間のなかの無知無害 斉尾くにこ
式部ー枕草子 ・木の花・草の花 木の花は-------
木の花は梅、濃くも薄くも紅梅が好き。
桜は、花びらが大きくて枝は細いのが好き。
藤の花、花房ながく、色うつくしいのがめでたい。
卯の花は品格がややおとり、どうということはないけれど、咲く時節がおも
しろい。 郭公が花の蔭に隠れているだろうと思うのも面白い。
賀茂祭のかえり、紫野のあたり近いみすぼらしい賤の家垣根などに、
白く咲いているを目にするのも、情緒ある風情である。
ウメもも桜しっかり襷受け渡す 高橋太一郎
郭公 花橘はにほうとも 身を打つ花の垣根忘れな 西行 四月の末、五月はじめの頃の橘もいい。
葉が濃く青く、花はたいへん白く咲いているのなど、雨の早朝みると、
たぐいなくすばらしい。 花の中から黄金の玉のような実がのぞいてくっきりしているのは、
朝霧にぬれる桜のながめにも劣らない。 郭公が守ってくると思うから、よけいすばらしく見えるのかもしれない。
新しい出会い待ってる春四月 津田照子
山紫陽花・楊貴妃 梨の花 梨の花、世間では、色気のないもののたとえのようにいうけれど、
唐土(もろこし)では、この上ないもののようにいう花である。 楊貴妃の泣く顔の描写にも、「梨花一枝、春の雨を帯びたり」とある。
よくみると、やはり梨の花は、花びらの端に、そこはかとなき匂いや
色気もなきにしもあらず、というところである。 どうしても白い涙が描けません 清水すみれ
桐の花
桐の花の紫に咲いたのはいい。 葉のひろがり方はいやだが、なみの木と同じように考えられぬ。
尊い上品な木なのである。唐土では鳳凰がこの木に栖むという。
またこの木から琴ができるのだ。
そこもなみの木とちがう。
推敲の汗を重ねたほんまもん 柴辻踈星
草の花は--------- 草の花は、なでしこ。女郎花。ききょう。菊の所々。色あせているの。
かるかや。りんどう。
枝ぶりはぶこつだが、花やかな色合いで咲いているのがいい。
萩は色濃く、枝もたわわに咲いているのが、朝霧にぬれて、
なよなよと伏しているのがいい。 牡鹿がたちならすというが、かくべつの風趣だ。
八重山吹も好き。 脳ミソをシェイクマンネリを破る 宮原せつ
すすきに一匹のキリギリス
「薄を入れないのはどうかとおもうわ」、という人があるが、 ほんとにそう秋の野をおしなべて、いちばんの面白さは薄にある と思われる。穂先の暗い赤色が、朝霧にぬれて、靡いているさま のいい感じ、これはどんな、花にもない。 すすきの穂光る思い出置き去りに 藤本鈴菜
秋の終わりになると、これは見所がなくなる。
色とりどりに咲いていた花の、あとかたもなく散ったあと、
冬の末まで、 あたまの白く乱れ広がったのも知らず、昔を思い出顔に、
風に靡いてゆれうごいている、何だか人間に似ていること。 人によそえてみる心持のせいで、あわれな、と思うのだろう。
昔のロマン解いて裂いて織りあげる 太田のりこ
マツムシ スズムシ
虫は------- 虫は、鈴虫、松虫、はたおり、きりぎりす。
蝶。藻にすむ虫。かげろう。蛍。
蓑虫はあわれな、しみじみした虫。
鬼が生んだので、親に似て恐ろしい心を持っているだろうと、親は粗末な衣
を着せ、「もうすぐ秋風が吹くようになったら、迎えにくるからね。待って おいで」といって逃げていった。 それともしらず、蓑虫は風の音を聞いて秋になると、「ちちよ、ちちよ」と
心細そうに鳴いている。 そんなあわれな言い伝えがある。 蟋蟀と鈴虫の音で終い風呂 宇都宮かずこ
キリギリス コウロギ
蜩(ひぐらし)。額づき虫。 小さな虫のくせに道心をおこして、拝んでいるなんて、思いがけず、暗い所で
ことことと音をたててのを聞きつけたときは、面白く思われる。
蠅はにくらしいものだ。
いろんなものに止まり、顔などに濡れた足で止まったりして。
夏虫は面白く、かわいい。
灯を近く寄せ、物語などをみているとき、本のうえを飛びあるくのも、ふっ
と楽しくて。 蟻はにくらしいものだけれど、身軽くて水の上まですいすいと
歩いているのが面白い。
秋の蚊の罪を問うてはなりません 前中知栄
類聚的章段---------------
枕草子における「類聚的章段」は、一般的に「ものづくし」と称される
章段のこと。
「心ときめきするもの」や「すさまじきもの」「山は」「歌の題は」といった 特定のテーマを掲げ、それに属する物事を羅列し、さらに清少納言の主観的な 解説が加えられている。 (類聚=同じ種類の事柄を集めること) 河原でお祓いをする安倍晴明 気のはればれするもの------------
満足して気のはればれするもの。
上手にかいてある絵巻物。
見物のかえり、女たちがいっぱい乗った牛車に、男たちが大ぜいつきそい、
牛をよく使う者が、車を心地よく走らせるなど。 白く清らかな、みちのく紙に手紙を書いたの。 川舟のくだるさま。
お歯黒のきれいについたの。
美しい糸をきちんとより合わせてあるもの。
弁のある陰陽師にたのんで河原に出て呪詛の祓いをしたの。
夜、寝起きに飲む水。
ひとりつれづれと物思いのあるとき、特にしたくもないが、かくべつ疎くも
ないというお客が来て、世の中のあれこれ、おもしろいうこと、腹のたつこと、
公私ともども楽しそうに話してくれるのは、心がはれゆく思いがする。 薔薇園の話に付いていないノブ みつ木もも花
雀
当時の雀とは、小鳥一般のことをいった。
『枕草子』の「胸がときめくもの」をはじめ、『源氏物語』にも、若紫の君が
飼っていた雀の子を逃がしてしまう場面がある。
胸がときめくもの-----------
胸がときめくもの、雀を飼うこと。
幼い子を遊ばせているところの前を通るとき。
舶来の鏡の、おもてがすこし曇っているのを見る気持。
身分ある男の、牛車を家の前にとどめて、召し使いに取次を申し入れている
もの。 上等の香をたいて一人横になり、物思いしている私。
あたまを洗い化粧をして、香のしみた衣を着る。
そういうときは、誰も見る人なくても、心のうちははればれと、深いよろこび
がわいてくる。 男を待つ夜。---------雨や風が戸を打つ音にも、はっと、こころときめきする
ものだ…。 百歳に備えて習う三味太鼓 坂上淳司
納戸縮緬地千鳥歌文字模様小袖 (東京国立博物館蔵)
「胸がときめくもの」として頭を洗い化粧して、香のしみた衣を着ることが 挙げられている。 今も昔もおシャレをする気持ちは変わらない。 過ぎた昔が恋しいもの-----------
過ぎた昔が恋しいもの、人形ごっこの道具。
二藍や葡萄染の布の切れはしが、押しつぶされて、綴じ本の中にあったのを
みつけたとき。 しみじみした昔の文を、雨のふるつれづれにさがし出して読んでいるの。
枯れた葵。 去年の扇。 月のあかるい夜。
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