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川柳的逍遥 人の世の一家言
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運命は同心円のこま回し  三村一子 


 
 (画像は拡大してご覧ください)
       浮 世 床  
髪結床に暇な連中が集まっている。
欠伸するやつ。本を読む奴。将棋指す奴。
浮世床はいつもさわがしい。
          

 

「詠史川柳」 江戸の景色ー④ 髪結床-2


 

【夢床】 (江戸小咄)
江戸の中頃、「世辞床」という床屋、親方が愛嬌もので大層はやる。
客が詰めかけて、その人の番がくるまで1時間も2時間もゆうゆうと
して待っている。
将棋盤があり、碁盤があり、貸本なども並べてあるから、待っていても
退屈しない。親方は人の顔さえ見れば、「色男!」という。
どんな人でも色男と言われれば、悪い気はしない。
「親方、こんにちは」
「ヤァ、色男」
流行る床屋だから、いつでも客が混んでいる。
大勢待っている中に、ひとりゴロリ寝ている男がいる。
「ヤァ金さん、こいつはさっきからここに寝ているのかね。
    この忙しいところへ来てゆうゆうと寝ているとは、呑気だなァー、
 大きな鼾をかきゃァがってーオイ民、起きろ起きろ」
「ァァァーやァ お早う」
「お早うじゃねえや、この混む床屋に来て呑気に寝ている奴もねえもん
   じゃねぇか。邪魔にならァ」



 

ぐっすりと眠り眉間の皺を取る  新家完司



 

「眠る気もなかったが、昨夜のお疲れで、ついトロトロと」
「昨夜のお疲れという面じゃァねえや」
「いつのまにか大分揃ったが、色の出来ねぇ醜男ばかりだ」
「てめえの面を見ろ」
「よく面面というが、人間は面で女が惚れやしねえよ。
 胸三寸の心意気というものがある」

「何を言ってやがる。て
 めぇの胸三寸心意気なんざァあんまり役にたたねえ。
 人から借りたものは忘れてしまう、貸したものはいつまで経っても、
 覚えているしー」

「そんなことはどうでもいいや。
 こう見えてもおれはたいへんな色男なのだが、お前は知るまいね」

「よっぽど酔狂な女でねえと、お前にゃァほれやしねえ。
 器量が悪くっても身なりがいいとか、垢ぬけているとか、読み書きが
 出来るとか、遊芸ができるとか、金があるとか、何とかいう人には、
 一つの取り柄のあるものだが、お前を見ねえ、面ァまずいし、人間が
 卑しいし、身なりは悪いし、金は年中なし、その上いうことが口に悪
 を持ってるし、洒落はわからず、粋なことは知らず、食い意地がはっ
 て色っぽくて、おまけに無筆ときているから一つだって取り柄がねえ」


 

空っぽになれと理髪店の鏡  桑原伸吉




   出張床屋


 

「そねむなそねむな。
 実は昨日芝居を見に行って、とんでもない女に惚れられて実に弱った」

「お前の言うことは違ってらァ、どこで芝居の中でおめえに惚れるような、
 酔狂な女があるものか」

「ところがあるね、ちょっと一幕のぞこうと思って、小屋の者に親しい
 のがあったから、そいつに頼んで、後ろの方で、おれがぼんやり見て
 いると菊五郎のすることに、いいところがあったから、音羽屋ァーと
 褒めたと思いねえ。
 すると桟敷から年齢32、3になる垢抜けした年増が出てきて、俺の
 顔を見て、「あなたは音羽屋がご贔屓でございますか」と言うから、
 わっちは大の贔屓だが、このくらい気の利いた役者はございません、
 というと、頼もしいじゃありませんか、「わたしも音羽屋が贔屓でご
 ざいます、どうぞこちらえ」ってんで、桟敷に案内されて、「今度い
 いところがあったら、女が褒めるというわけにはいきませんから、ど
 うぞ褒めて下さいましな」、と頼まれたから、俺も男だ、ええお安い
 ご用でございます、褒めてやりますとも、と言った。
 きっかけでいいところがあったから、音羽屋ー!と褒めた。
 「もっと大きな声で」、と言うから、うんと声を張上げて音羽屋ー!
 「もっと大きな声で」、と言うから、これより大きな声は出ません、
 これが頭抜けの一番でございます、と言った」


 

耳打ちの数だけ揺れるヤジロベー  神野節子


 

「棺桶屋みたいだなァ」
「それからなほ褒めてやろうと思ったが、声が続かねえから、眼をつぶ
 って、音羽屋!音羽屋!と褒めていたところが、「もうとっくに幕は
 閉まっていますよ」、
と言われて眼をあいてみると、なるほど幕が閉
 まっている。するとその女が、「まこと相済みませんが、あなたのお
 茶屋はどちらでございます
」、と聞くから茶屋も何もございません、
 芝居に懇意な者がいますから、一幕のぞきに来ましたんで、と言うと、
 「私のお茶屋は、これこれという茶屋でございますが、まことに失礼
 ですが、ちょっとお茶屋まで来て下さいまし」、と言って行ったが、
 しばらくして、茶屋の若い衆が迎えに来た。
 茶屋へ行って二階へ上がって見ると、女がちゃんと坐っている。
 そこへ茶に煙草盆が出ている。
 ところがその女が、「あなたご酒を召し上がりますか、それとも甘味
 がお好きでございますか」、と言うから俺は考えた。
 いきなり酒を飲むと言ってみねえ、この人酒飲みだから、付き合いは
 出来ないと思われるのが嫌だ、といって下戸だと言うのも、気が利か
 ねえ」

「何と言った」


そう来たら恋に落ちてくしかなくて  中村幸彦


 

「さようでございます、甘い物を下さいますれば頂きますし、ご酒も下
 さいますれば頂きます。下さいませんければ、頂きませんと言った。
 すると、「あなた 大層お眠そうでございますこと、昨晩のお疲れで
 ございますか」と言うじゃァねえか。
 それから俺が、実は昨夜友達に誘われて、つき合いで仕方なく繰り込
 んで、夜っぴて騒いだもんですから、どうも眠くてしようがございま
 せん。実は後の幕はこの間見ましたから、お前さんまことにすみませ
 んが、こちらの座敷でもようございますから、少しの間拝借して寝か
 して頂くわけにはまいりませんか、と言ってみたところ、「お安いご
 ようでございます。どうぞお休み下さいまし」とやがて女中を呼んで、
 何だか内緒話をしていたが、「さァどうぞこちらへ」と、奥の離れた
 小座敷へ連れていったのさ」


 

現役のままボリュームは絞らない  美馬りゅうこ


 


「なるほど」
「暖簾くずしの掻巻に、暖簾くずしの蒲団を二枚敷いて、ちゃんと床が
 とってある。芝居茶屋に限って、こんなことがあるわけのものじゃァ
 ねえが、どういうわけか趣向がちゃんとしてある。
 枕元に煙草盆があって、こっちの方の盆の上に湯沸かしに水が入って、
 湯飲みが伏せてある。なお床の上に船底の枕に、縮緬のククリと枕が
 二つ並んでいるからおかしいや」

「何故」
「何故って、この枕は誰がすると思う」
「てめえがする」
「一つは俺がするが、もう一つは誰がすると思う」
「てめえが寝相悪いから、向こうで気を利かして二つならべたんだろう」
「枕を二つするやつがあるか、首が二つありゃァ、しめえしー、ところで
 一つの枕をそばへおいて俺が大の字になって寝てしまった。
 するとその女がやってきた」

「来たか」


 

舞い降りた女神へ思わずスキップ  山本昌乃


 

「来て
「あなたまァそんなに大きくなって寝ていらっしゃてはいけないじゃァ
 ありませんか、わたしも頭痛がして仕方がないので、あとの幕はみた
 くございませんから、まことにすみませんが、あなたの脇へ少々入れ
 て寝かして下さいまし」
と、こう言うんだ」
「でどうした」
「それから俺が、ご遠慮なくお入んなさいまし、と言うと、恥ずかしそ
 うに入って来た」

「それから」
「入ってくると、ここに俺が困ったことが出来た」
「何が困った」
「小便がしたくなった」
「間抜けなやつだなァ」
「そこで俺が女に、小便に行きたくなりました、と言うと、
「今下へおりると少し面倒でございますから、少々待っていてください。
 わたしが都合いたしますから」
と言って女が下へ駆け下りて、算段してきたものは何だと思う」

「わからねえ」


 

引き算を重ねこころを無に保つ  高浜広川




煙草盆の中の竹筒が灰落とし


「灰吹きだ。灰吹きを5、6本持ってきて、
 「この中へなしくずしなさいまし」と言うんだ。
 灰吹きとは、タバコの吸い殻を吹き落とすための竹筒。
「たいへんな騒ぎだなァ」
「ところが小便が詰まっていたんだから、なかなか灰吹きにしきれねえ」
「おやおや」
「すると女が障子を開けて「廂間 (ひあわい)なら誰もみておりません、
 土蔵と土蔵の間ですから、この廂間 なら大丈夫でございます」
 と言うから、成程と関心をしてその廂間 へ小便をした」

「それから」
「いい気持ちに小便をして寝たと思ったら、てめえに起こされた」
「なんだ夢か」
「夢だ」
「この野郎、長い夢を見やァがったな。まるで形なしか」
「少し形がある」
「どこのところが本当だ」
「小便だけー 少しここがジメジメする」

 

片方の眉で昨夜の傘たたむ  山本早苗




浮世床の店前はいつも賑やか


 

「不精床」  (江戸小咄)
江戸の中頃、人呼んで「不精床」という髪結床。
障子に大きな達磨の絵が描いてあって、その絵は達磨の顔だが、
親方の顔だかわからぬという程、親方が髭ぼうぼう。
よく髭っ面というのはあるが、面っ髭というほうで、髭の中に顔がある。
店先にあるものは道具でも何でもすべて汚い。
12、3になる子供を1人下剃りに使っているが、親方は不精で、
おまけに頑固で世辞もなにも言わない。
近辺の人は、不精床と称えて、めったに髪を結いにも来ない。
けれどもそこは広い江戸のことで、通りがかりの人が空いているから
ちょっと結ってもらおうと、入り込む人もいる。


 

首筋に刃物散髪屋の微笑  くんじろう


 

「親方、ひとつ結ってもらいたいもんでございます」
「なにをやるんです」
「頭を結ってもらいたいものでございます」
「どこへやるんだえ」
「頭髪(あたま)が出来ようというのさ」
「お気の毒だが俺の家では頭髪は出来ない。
 頭髪は人形師の処へ行かなくっちゃァ出来ない」

「人形の頭髪をこしらえるのではない、髪が結えようかと言うのさ」
「髪なら結う」
「だからさっきから髪が結えようかと言っているのに」
「髪を結えるから髪結職をしているんだ。結えなければ床屋はしていない。
 髪結床へ来て髪が結えようかとは何だ」

「堪忍しておくんなさい。じゃァ結っておくんなさい」
「お前さんはお客だろうね」
「代を払うから客ですね」
「客が職人に仕事をさせるのに、結っておくんなさいとは何だ。
 そんなお世辞は面白くない。髪を結えなら結えと言えばいい、
 その言葉も余計なことだから、言わなくっていい。
 黙ってここに上がっていれば俺の方で月代を剃る。髷も結ってやる。
 余計なことは言わない方がいい」

「堪忍しておくんなさい、小言を言われに来たようなものだ。
 どうです、すぐにようがすか」

「下剃りからはじめやります」

電気椅子空いた私の番がきた  田久保亜蘭


「親方、髷の形をみてこの通り結っておくんなさい」
「お気の毒だが俺の家では、その通りは結えない。もう少し新らくなる」
「冗談言っちゃいけない。髷っ節を切っておくんなさい」
「またそんな余計なことを言う。黙っていても月代を剃るのに、
 髷を結ってあっちゃァ剃れないから、俺の方でちゃんと切る」

「ごめんなさい。じゃァ湿しましょう」
「それでー」
「やかんを貸しておくんなさい。-銅壷もないようだが」
「髪結床へ来てやかんを貸してくれー。贅沢を言いなさるな。
 銅壷で湯などを沸かして客に使わせる人の料簡が知れねえ。
 頭寒足熱といって、頭は冷やすべきものだから、水で沢山だ」

「オヤオヤ、水がちっともありゃァしない。底の方にすこしばかり
 こびりついてるーやァ大変だ、親方ボウフラが湧いてるぜ」

「あァ20年以来瓶を洗ったことがないからね」
「小僧さんにでも、そう言って水を一杯汲みにやっておくんなさい」
「お気の毒だが、俺のところの小僧は水汲みに来ているのじゃないから、
 キレイな水を使いたければ向こうの裏に井戸があるから、
 一杯汲んでおいでなさい」

「冗談言っちゃァいけない。髪結床へ水を汲みに来やァしない」
仕方がないから、客は汚い水で頭を冷やして腰をかける。
小僧は小さいから高い下駄を履かなければ、月代を剃ることができない。
小僧はゴリゴリ剃るからたまらない。



 

この思い届くでしょうかかすみ草  柴本ばっは




 明治22年頃の床屋

 

「落語にするとこうなります」

行きつけの床屋が混んでいるので、代わりに入った床屋が大変な店。
掃除はしていないし蜘蛛の巣だらけ、ハサミも剃刀も錆だらけ。
肝心の主人たるや、無愛想でぐうたらそのもの…。
顔に乗せた手拭いが熱すぎる。
「熱いよ!親方!」
「こっちも熱くって持ってられねえから、お前の顔に載せたんだ」

 

 語尾上げる余程自信がないらしい  平井義雄

 

次は頭を濡らしてもらおうと頼むと、
「水桶にボウフラがわいているから」
「おい親方、ボウフラなんか湧いてるのかよ!」
「これぁ飼ってんだよ。水桶をこう叩くだろ。そら、沈んだ。
 かわいいだろ。その間に頭ぬらしとけ」
非衛生極まりない。

 

 過呼吸をときどき起こすハーモニカ  北原照子

 

頭を剃る段になると、小僧に剃らせようとする。
「おい大丈夫かい?」
「何言ってやがんでえ。うちの小僧にも稽古させねえといけねえ」
「俺は稽古台か!」

 

鑑あるから目を合わす舌を出す  田中博造

 

しぶしぶ剃刀を当てさせると、案の定痛くてたまらない。
聞くと下駄を削った剃刀で剃っているという。
呆れて音を上げた客、剃刀も親方に代わってもらうが、
親方は客の頭がデコボコで剃りにくいとこぼす始末。
しかも側に控えて見学する小僧にいちいち指図する。
「おい、俺の手元よく見ておけ……何見てんだ? 
何ぃ、表に角兵衛獅子が通っている!? そんなもの見てんじゃねえよ!」
と小言の連続。そのうち親方、手を滑らせる。
「あ痛ッ! ああっ、血が出ちまったじゃあねえか。
 親方!どうしてくれるんだ!」
「なあに、縫うほどのものじゃねえ」


すぐ破るルールでセロテープだらけ  山本早苗




【詠史川柳】



 
人丸の肖像画と和歌
 ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に
    島隠れゆく 舟おしぞ思ふ  

 

≪柿本人麻呂≫

 

人麻呂は枕時計を世に残し

 

万葉の歌人柿本人麻呂。その人麿が枕時計を世に残したというのですが、
「そうか、人麻呂が枕時計は柿本人麻呂が発明したのだ」
などと感心してはいけません。古今和歌集に
「ほのぼのと明石の浦の朝霧に 島がくれゆく船をしぞ思う」
という和歌があり
「この歌はある人の曰く、かきのもとのひとまろがうたなり」
と注がついています。
小野篁(たかむら)が隠岐へ流される時に詠んだ歌とも、言われますが、
川柳ではもっぱら人麻呂の歌ということになっています。
実は、この歌は早起きの「おまじない」として使われました。
早起きをしなければならない日の前の晩、寝る前にこの歌の上の句を唱え、
翌朝、首尾よく目覚めた時に、下の句を唱えます。
それを枕時計といったのです。

さかむけを噛んでる湯気の立つ茶の間  森田律子

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