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川柳的逍遥 人の世の一家言
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ステゴザウルスの背にキューピットの矢 酒井かがり


夕霧から文を取り上げようとする雲居雁

のぼりにし 峰の煙に たちまじり 思わぬ方に なびかずもがな

亡くなった母の火葬の煙、あの昇っていく煙と一緒になってしまいたい。
思わぬ方向になびいていかないように。

「巻の39 【夕霧】」

夕霧の巻の冒頭は次のような文章で始まる。
「まめ人の名をとりて、さかしがりたまふ大将・・・」

(誠実でまめな人という評判があり、賢そうな態度をみせているお方、
  という意味で、父である光源氏とは対照的に、一途に雲居雁を求め、
  まず浮気などしない誠実な人として、夕霧を描いていた紫式部だが、
 やっぱり彼も男だった として、イケズな紫式部を垣間見せる)
                                   とうないしのすけ
とにかく前大臣の邪魔で雲居雁と会えない間にも、夕霧は藤典侍という

一人の
女性のもとにしか通わず、雲居雁と結ばれたあとは、

疎遠になっている。


ずっと妻である雲居雁を大切にしてきた。

今まで色恋ざたに疎かった夕霧だからか、落葉宮に恋心を覚えてからは、

大変な執心ぶり。

とはいえ、あまり無理強いできないのが夕霧の性格。

落葉宮のところを訪問するのは、あくまで親友・柏木が亡くなったのを

可哀想だと思い、そのお見舞いという名目である。

そのためいつも対応に出てくるのは、落葉宮の母・一条御息所で、

落葉宮とは、たいてい女房を介してのやりとりだけだった。

ふわふわの座布団だった外された  美馬りゅうこ

そうしているうちに一条御息所が、物の怪に煩い、

急遽、小野の山荘へ
と療養に行くことになった。

母のことが心配で落葉宮もついていく。

夕霧はそこへも何度もお見舞いに出向いた。

そこでは御息所は出てこれず、落葉宮が出迎えてくれるようになった。

そんなある日、山の霧が濃くなったのをチャンスだと考えた夕霧は、

「帰り道がおぼつかないので、この山荘に泊めて欲しい。

   同じことならこの御簾の前でお許し願いたい」 

と訴え、その口上を取り次ぎにいく女房の後についていき、

無遠慮に御簾の中に入り込んでしまう。

一輪車もうわたくしは迷わない  前中知栄

女房は驚いて振り返り、落葉宮は恐ろしくて襖の外へ逃げようとする。

夕霧は必死に引き留めて、胸のうちを訴えるが、それ以上のことはしない。

根が奥手の夕霧は無理はしたくなかった。

そして説得を続けたまま、明け方近くになってしまう。

拒み続けた落葉宮は、世間の噂になることを恐れ、

「夜が明けきる前に帰ってください」と泣きながら訴える。

夕霧はとても立ち去りたかったが、ここでいきなり事に及んだら

面目もないと
あきらめ、立ち込める朝霧に紛れて帰って行く。

化けの皮被りセリフが出てこない  山本昌乃

間が悪いことに、夕霧が朝方帰る姿を祈祷僧が見ていて、

それを一条御息所に報告してしまう。

それを聞いて御息所はびっくりする。

御息所も夕霧を珍しい至誠の人であると信頼し、来訪者が少なく、

寂れてゆく邸へ度々足を運んでくれる大将には、どれだけ感謝していたか。

「そこまで信頼していた夕霧にそんな魂胆があったのか。

    自分の知らないうちに、2人が男と女の関係になっていたとは」

まさかとも思う反面、御息所は裏切られた気持ちのほうが強い。


落葉宮は内気で、昨日のいきさつを問いただすことも出来ない。

その時、夕霧より手紙が届き、「どういう手紙か」と御息所が訊ねる。

御息所は気弱になって、夕霧は今日は来ないものと胸騒ぎがする。

そしてこの一件で衰弱が増した御息所は、身を奮い起こし、

震える手で夕霧への抗議の手紙を書き連ねた。

足し算を引き算にしたのは女  上田 仁

一度契りを結んだら、三日間通うという当時の習わしがある。

それが破られれば女性にとっては大変な屈辱。

でも今回はそんな関係には至らなかったので、夕霧は自邸で燻ぶっていた。

そこに一条御息所の手紙が届いた。

震える手で書かれた文なので読み憎く、明かりを寄せようとしたとき、

背後からそっと近づいてきた雲居雁に、その手紙を奪い取られてしまう。

雲居雁は手紙を取り上げてみたものの、さすがに中まで読もうとせず、

何処かに隠してしまう。

やっと隠し場所を見つけたのは翌日の夕方。

返事の遅れたことを気にしながら、御息所に夕霧は手紙を書いた。

思惑のなかへと雪をつもらせる  清水すみれ


  御息所の死

雲居雁と一夜を過し、三日間の通いもせず、手紙の返事も寄こさぬ夕霧。

「そんな男に娘が辱められたのか」

御息所の嘆きはひとしお心配が重なり、具合はどんどん悪くなる。

もはや危篤状態。

そうした中で、夕霧の返事が届けられる。

御息所は読み聞かせてもらっている内容を、かすかな意識の中で聞き、

やはり今夜も夕霧が来ないのかと絶望して、

夕霧を誤解したまま息を引き取ってしまう。

あなたから届いたふみはよく燃える  中野六助

御息所の甥の大和守が執り行う葬式の最中に、夕霧は慌てて駆けつける。

そこで落葉宮にお悔やみの言葉をかける。

しかし落葉宮にしてみれば母の死の
直接の原因を作ったのは、

夕霧だと思っているから、返答すらしない。


落葉宮はせめて亡骸だけでもしばらく側において、

母と別れを惜しみたいと
訴えるが、葬儀は滞りなく行われ、

遺体は跡形もなく灰となってしまう。


落葉宮は身悶えして嘆き悲しむ。

そうした中でも夕霧は抜かりなく、大勢の手伝いの者を差し出して、

大和守を感激させ、手なずけてしまう。

真っ白い雲に隠してみる柩  板野美子

その後、夕霧が何度手紙を送っても、落葉宮は返事を書かない。

どうしても会って話したい夕霧は、何度も小野まで足を運んだ。

それでも落葉宮は会おうとしない。

そうこうしているうちに、49日の法事の日を迎える。

夕霧がそれもすべて取り仕切った。

世間に自分が落葉宮の夫だと、思わせるためだった。

もちろん世間の人は落葉宮も合意の上のことだと思っている。

しかし、致仕大臣は非常に不快なことと思っていた。

自分の息子である柏木の妻だった落葉宮が、

同じ自分の娘である雲居雁から夕霧を奪ってしまったのだから。

水掻きも尻尾も沼に置いてきた  井上恵津子

源氏や紫の上もそうしたいろいろな噂を耳にするが、

夕霧のやることなら心配ないと、忠告はしなかった。

でも妻の雲居雁は腹を立てている。

そこで夕霧を問い詰めるが、なんだかんだと言い訳されて、

やり過ごされてしまう。


当の夕霧は、振り向いてくれない落葉宮に業を煮やし、

もう実力行使しかないと考えた。

まず落葉宮親子が居た邸の改装を行った。

落葉宮はまだ、母と住んだ山荘におり、そこで一生を過すと言っている。

それでも夕霧は、主人不在の邸を自分の邸のように改装を急いだ。

そうしておいて、落葉宮たちに声をかけ呼び寄せる。

山荘にいた女房など従者は皆、夕霧が手配した車に乗り新装の邸に入る。

落葉宮も嫌々ながら従った。

手の内を読むかのようにひょっこりと  新川弘子

夕霧は待っていた。
                              ぬりごめ
でも落葉宮は、引越しのあとも物置などに使う塗籠の閉じこもっている。

夕霧はなんとかそこに入り込み、ようやく夫婦の契りを結んだ。

いつまでも帰ってこない夕霧に、たまりかねたのが雲居雁であった。

もう限界と、実家の前大臣邸に幼い子たちを連れて里帰りしてしまう。

それを聞いて夕霧は、前大臣邸に行くが、雲居雁は戻ってはくれない。

栗はぜる小さな秋のはじまりに  和田洋子

雲居雁には、あの藤典侍からも慰めの手紙が届く。

そんな騒動をみて前大臣は、落葉宮に恨みがましい手紙を送る。

落葉宮は亡き夫の父親にそんな恨み言をこと言われ、

夕霧への不快感を深めるばかりだった。

今はどこからも睨まれ、落ち着く場所がない夕霧なのである。

手の届くところの虹が消えていく  笠嶋恵美子

辞典】  紫式部の意地悪

当時は、男が女性の元に三日間通い続け結婚の意志があると見なされた。
一条御息所は、2人の間に肉体関係がなかったとは知らないから、
一晩だけで通うこともせず、手紙で愛の言葉も寄越さない夕霧の仕打ちを、
一晩限りの遊びだったのかと恨んだ。
夕霧としては、
つれなく拒まれたのだから通い詰めるわけにはいかない
のは当然だった。


夕霧は源氏の家系には珍しく子沢山。
雲居雁との間に男4人と女4人の計8人。愛人の藤典侍との間に男2人、
女2人の計4人。式部は夕霧のマメさをこのように表現したのだろう。
雲居雁はいつも育児に追われ、真面目な夕霧が浮気などしないと
安心していたから、
いつのまにか太ってしまった。
こんな訳で雲居雁は色恋の対象から外れてしまった。


それが、ここにきてとんでもない恋のドタバタ劇。
しかも崩壊寸前の家庭は、幼い恋を成就させた雲居の雁と築いたもの。
夕霧はこのとき29歳。当時では中年と呼ばれるような年齢である。
そこまで真面目一本で通してきた男が、一度恋に落ちてしまうと
どうなるか
とんでもないというストーリーを紫式部は描いた。

真面目すぎて危ういということは、夕霧自身も自覚していて、
雲居雁との口喧嘩の中で「相応な地位についた男が、一人の妻を守り
続け
その妻にびくびくしているなんて笑い物だ」と言っている。


水をさすあなたはいつもそうなのよ  田中君子

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