膝の皿とり替えてから出直そう 笠嶋恵美子
「落語によく登場する人物」
大家さん
地主から委託された雇い人。長屋の相談役。(長屋の花見)
若旦那
大体が放蕩息子で仕事が出きず、金食い虫。(長屋の花見)
大旦那
まじめで、商売一筋。ケチで小うるさい。(片棒)
権助
商家の使用人。地方出身で真面目で勤勉。(権助提灯)
与太郎
少々おつむが足りず、定職を持たないフリーター。(孝行糖)
熊五郎
真面目だが酒好きで、大雑把な性格。失敗が多い。(初天神)
甚兵衛
相談に乗ったり、仕事を紹介したりする性格のいい人。(火焔太鼓)
おかみさん
職人のおかみさんは働き者でしっかり者で焼きもち焼き。(文七元結)
(噺によって、人物像は多少の違いがあります)
ゲートインするなら原液のままで 酒井かがり
(画像は拡大してご覧ください)
魚を打って歩く棒 手 振 り
「落語を一席」 芝浜 (いだてんつながり)
ここに出てくる主役は、熊さんとおかみさん。
長屋住まいの熊さんは「魚熊」と呼ばれる棒手振りの魚屋さんです。
腕もいいし、評判も上々ですが、酒好きなのが珠に瑕で、しかも
のべつまくない呑んでいたいため、仕事が疎かになってしまいます。
結局お得意さんは離れていき、本人も休むようになり、今も半月ほど、
仕事しないで休んでおります。
暮れも押し詰まったある日、「明日から一生懸命働く」という熊さん
の言葉を信じたおかみさんは、熊さんがすぐに働きに出られるように
支度を整えます。翌朝、熊さんを何とか起こして、市場へ買い出しに
送り出します。
日本橋の魚河岸が有名ですが、芝の浜にも魚市場があり、小魚を専門
に扱っておりました。
断崖に来ると押したくなる背中 森田律子
魚市場に着いても夜が明けませんし、まだ魚市場も開いておりません。
おかしいなァと思っていると、明六つを告げる切通しの時の鐘が
ゴーンと鳴りはじめます。
「かかあのやつ、時刻を間違えやがった…」
ようやく一時ほど時間を間違えて早く起こされたことに気がつきます。
仕方がないので浜へ出て一服していると、お天道様が出てきましたので
手を合せ。顔でも洗おうと思って海に入ると、足元に紐が見えます。
革の財布の紐であることがわかり、手に取ってみるとずっしりと重く、
驚いた熊さんは、一目散に財長屋に帰り、おかみさんに話します。
中身を確かめてみると、小粒(二分金)で50両も入っております。
これはもう仕事どころではありません。
司教様ワタリガニどすお導きを 山口ろっぱ
「これだけありゃあ、もう好きな酒飲んで、遊んで暮らしていけらぁ」
と大はしゃぎ。
「今日ばかりは思う存分呑んでもいいよ」と、
おかみさんにもすすめられ、酒を呑んで、ひと眠りして、湯屋の帰りに、
飲み友達を連れてくるし、酒と仕出し料裡を届けさせて、
どんちゃん騒ぎです。
あげくの果て熊さんは、すっかり酔い潰れて寝てしまいます。
日の暮れの頃、おかみさんに起こされ
「酒と仕出しの支払いをどうするの」
と尋ねられます。
「50両渡したじゃねえか」と答えると
「知らないよ」と言われてしまいます。
おかみさんは、熊さんが拾ったお金のことを本当に知らないようです。
あらいやだ押すと凹んだままになる 小林すみえ
「朝、芝の浜で拾ってきた財布を預けたじゃねえか」と、
言ってみても
「なに寝ぼけて馬鹿なこと言ってるんだい。夢でも見たんだろう。
この家のどこにそんな五十両なんて金があるんだい。
しっかりしてくれなきゃ困るよ」と、
言い返されてしまうなど、埒のあかない同じようなやりとりが続きます。
何度も「おかしいなァ」と思いますが、おかみさんが、あまりにも
はっきりと言いますので、自分の方が間違っていると思い直し、
「金拾った夢なんて、われながら情けねえや。これというのも酒のせいだ。
よし、もう酒はやめて商売に精と出すぜ」
と反省、改心し、明日からは酒を止めて、一生懸命働くことを約束します。
嘘少しまぜて話を丸くする 上田 仁
(画像は拡大してご覧ください)
商人や侍などで賑わう豊島屋商店前
もともと腕がよくて、いい魚を仕入れてきますから、
お得意はどんどん帰ってくるし、商いも順調です。
三年もしないうちに長屋住いの棒手振から、表通りに見世を構えるよう
になります。
そして、ちょうど三年目の大晦日の夜、熊さんが湯屋からさっぱりして
帰ってくると、何故か畳が新しくなっています。
そして、おかみさんが年越し祝いの福茶を入れながら、あらたまって
「見てもらいたいものがある」と言い出します。
「この財布、見覚えがあるかい」と言って、
おかみさんが出してきたのは、50両入った革の財布です。
「へそくりとしては随分と貯めこんだもんだなァ」と、
感心いたしますが、やはり見覚えはありません。
時刻表にはなかったバスがやってくる 竹内ゆみこ
「三年前にお前さんが芝の浜で拾った財布だよ。
夢なんかじゃなかったんだよ…」
おかみさんの言葉から、ようやく3年ばかり前に、芝の浜で革の財布を
拾ったことを思い出します。
「なんだと、こん畜生め!」
熊さんがむくれるのは当たり前、そこでおかみさんが
「ちょっと聞いておくれ。あの時、お前さんがこの50両で遊んで暮ら
すって言うから心配になって、お前さんが酔いつぶれて寝ている間に、
大家さんに相談に行ったんだよ。そうしたら、
≪拾った金なんぞを猫糞したら手が後ろ回ってしまう。
おれがお上に届けてやるから、全部、夢のことにしてしまえ≫と、
言われて、お前さんに嘘ついて夢だ、夢だ、と押し付けてしまったんだよ。
自分の女房にずっと嘘をつかれて、さぞ腹が立つだろう。
どうかぶつなり、蹴るなり思う存分にやっとくれ」
不安的中右脳左脳がショートする 宮井いずみ
ちょっと間をおいて熊さんは、
「おうおう、待ってくれ。
おれがこうして気楽に正月を迎えることができるのは、みんなお前の
お蔭じゃねえか。おらぁ、改めて礼を言うぜ。この通りだ。ありがとう」
と言います。それを聞いたおかみさんは
「そうかい、嬉しいじゃないか……久しぶりに一杯飲んでもらおうと
思って用意してあるんだよ。さあ、もうお燗もついてるから…」
「えっ、ほんとか、さっきからいい匂いがすると思ってたんだ。
…じゃあ、この湯呑みについでくれ。おう、お酒どの、しばらくだなあ、
たまらねえや どうも、だが、待てよ」
「どうしたんだい?」
「よそう、また夢になるといけねえ」
言わぬが花過去はきれいに折りたたむ 山本昌乃
酒に溺れて仕事を怠けてしまった人でも、心を入替えて真面目に働けば、
いい暮らしが手に入るという教訓と。
酒が過ぎるとどうなるかという反面教師も含んだ噺。
内助の功、嘘も方便というキーワードも含まれている。
ちょっとほろっとさせる人情噺。いい噺に仕上がっています。
あざやかな指摘人生やり直す 三村一子
[3回]
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