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川柳的逍遥 人の世の一家言
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時効になっても影に裁かれる  小林すみえ


 病床の柏木と夕霧

時しあれば 変わらぬ色に 匂ひけり 片枝枯れにし 宿の桜も

季節が巡ってくれば、いつもと変わらない色に染まり咲いてくれますね。
柏木が亡くなったように、片方の枝が枯れてしまった邸の桜の木にも。

「巻の36 【柏木】」

光源氏の冷たい眼にさらされた六条院での宴会以来、柏木は、

父である前大臣邸で病の床から抜けれなくなっていた。

人は誰でも死んでいく、ならば、

まだ少しでも憐れみをかけてくれる人がいるうちに、燃え尽きたい。


このうえ生きながらえていたなら、恥ずべき浮き名もたち、

自分にとっても、あの人にとっても、死ぬほどの煩悶が待っている。

自分が死んでしまえば源氏もそれに免じていくらかは許してくれるだろう。

それにしても、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

柏木は思い乱れて、涙を止めることができない。

それでも柏木は女三宮への思いはすてきず、

看護の人々が側を離れた際に、力を振り絞って手紙を書いた。

身の底の水がさざなみ立っている  大葉美千代

いまはとて 燃えむ煙も むすぶほれ 絶えぬ思ひの なほや残らむ

この世の最後と私を葬る煙も燃え燻ぶって、空に立ち上がることのできない
あなたを思う火は、どこまでもこの世に残ることでしょう。

せめて不憫と思ってください。

その言葉だけを頼りに、私はあの世に旅立ちます。

柏木に憎しみさえ覚える女三宮は、返信などする気はない。

小侍従は柏木の死ぬ覚悟を聞くと、哀れで、泣きながら女三宮にいう。

「ご返事を差し上げてください。これが最後のお手紙になるでしょうから」

こ侍従の再三の説得に女三宮は、しぶしぶ手紙を書いた。

語らない心中お察しください  岡内知香

女三宮が元気な男の子を生んだのは、返事を書いた翌朝だった。

男の子だった。

事情を何も知らない人々は、

源氏の晩年にこのような高貴な男の子が生まれたので、

その若君への寵愛は、並ぶものがないだろうと思った。

だが不義の間に生まれた子である、父からも母からも望まれない子だった。

その子は、後に、と呼ばれることになる。

ただいまもお帰りもない風の家  ふじのひろし


  赤子を抱く源氏

源氏は人前では上手に繕うが、生まれた子供の顔を見ようともしない。

源氏は自分の過去を振り返り、

「これは、かつて不義の子をつくった罪の償いか」

と思い、複雑な気持ちになっていた。

「なんて冷たい態度でしょう。ずいぶん久しぶりでお生まれになった

    若君が、
恐ろしいほどお美しいというのに」


と年老いた女房が呟くのを小耳に挟んだ女三宮は、心が凍るのを覚えた。

そんな源氏の冷たい態度に女三宮は「出家させて欲しい」と言い出す。

尼になれば死んだとき、少しは罪が消えるかも知れないという思いだった。

源氏は心の中で「それも妙案」と思うが、口にせず早まるなと認めない。

モザイクがあって貴方が見えにくい  米山明日香

朱雀院は、女三宮が無事に出産したと聞き、合いたくてならなかなった。

ところがその後、気分のすぐれない状態が続いていると耳にする。

朱雀院は居ても立ってもいられなくなり、

出家の身にあるまじきことと知りながら、夜、闇に紛れて山を下りた。

源氏もいきなり朱雀院が訪ねて来たので、驚きつつ女三宮の前に通す。

女三宮は弱々しく泣きながら「どうか私を尼にしてください」と願い出る。
                  たぶら
「私が出家を取り合わなかったのは、物の怪が誑かせることだから」

と取り繕うように源氏が言うと、朱雀院は

「たとえ物の怪がすすめることにせよ、こんなに衰えた病人が願っている

   ことを聞き流してはあとで後悔し、つらい思いをするでしょう」

と言って、髪を切り女三宮を出家させてしまう。

鳩尾のあたりににがい花言葉  皆本 雅


柏木を見舞う夕霧

女三宮の出産と出家を聞いた柏木は、一層具合が悪くなり衰弱していく。

死を悟りはじめた柏木は、見舞いに訪れた夕霧に、

「あなた以外に誰にも言えない煩悶を抱えているのです。

   実は源氏の君とちょっとした行き違いがあって、この数ヶ月

   ずっとお詫びを
していたのですが、なかなか許していただけず、


   その挙句このような状態になってしまいました」

意を決したように出来事のあらましを語った。

夕霧は、「どうしてこんなに悩むまで私に相談しなかったのです。

   知っていれば、必ず2人の間に入って、うまく仲を取り持てたのに」

という。


「このことは胸の内にしまって、外には漏らさないように。

 一条においでになる落葉の君ことが気になって、

    何かにつけて見舞ってやってもらえないでしょうか」

と呼吸も切れ切れに柏木が言う。

シナリオを抜け出して海は凍える  山口ろっぱ

それから間もなくして、柏木は息を引き取った。

柏木の妻・落葉宮(女二宮)の悲しみは深く、

臨終にも立ち会えなかった
恨めしさが加わり、

一条の広い御殿でひっそりと暮らしていた。


夕霧は柏木との約束を守り、しばしば一条宮を訪れた。

4月になって、いつも応対している落葉の宮の母・一条御息所の体調が

すぐれず、初めて落葉宮の応対を受けた。

夕霧は初めのうちは柏木の頼みを果たすために一条宮を訪れいたのだが、

落葉の宮の奥ゆかしさに、夕霧はほのかに恋心を抱き始めるのである。

錯覚に酔って発芽をしてしまう  雨森茂喜

【辞典】 (子の祝い)

この時代、新生児の死亡率が高く、節目ごとにお祝いの催しが開かれた。
出生後まもなく行われるのは「産養」(うぶやしない)と呼ばれる祝賀で、
誕生してから五・七・九日目に行われる。そして50日めに催されるのが
「五十日の祝い」で、赤ん坊にお餅を与えるという儀式が行われる。
通常この役は、母方の祖父か父親が務めるが、祖父の朱雀院は出家、
父柏木は死んでいないので源氏が務めた。抱き上げる赤ん坊が源氏に
にこにこ笑いかけてくる顔は、柏木にそっくり。それには源氏も苦笑い。

めんどうになってきたのでみな許す  橋倉久美子

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