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川柳的逍遥 人の世の一家言
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はなびらも時もほろほろ流れ去る  新家完司


柱に歌の紙を挟む真木柱

今はとて 宿かれぬとも 慣れ来つる 真木の柱は われを忘るな

今はもう、この屋敷を離れていく私ですが、慣れ親しんできた真木柱さん、
どうか私のことを、忘れないでいてください。

「巻の31 【真木柱】」

「冷泉帝に知れてしまったら大変、しばらくは内密にしておきましょう」

光源氏髭黒に言う。


玉鬘への恋の争奪戦は髭黒が勝利したのだ。

起きてしまったこおとは仕方がない。

当時は三日続けて女君のもとに通えば、結婚は成立する。

その後玉鬘は、日が経っても心を開く様子がなく、ずっと思いつめている。

髭黒は思う…玉鬘は見れば見るほど、美しい。

顔立ちも姿も理想的である。この世にこれほどの人がいたのか。

もう少しで他人のものになるところだった。

髭黒は天にも昇る心地である。

源氏は不本意で残念なことと思うも、今更どうにもならないことだった。

潔く源氏は、髭黒を婿として迎えることにした。

願望が叶い男がピンクで浮いている  上田 仁

玉鬘は泣き暮れていた。

今となっては、源氏の優雅さや優しさが懐かしい。

源氏なら自分の気持ちを無視して、強引に奪うことなどなかった。

玉鬘は今更ながら源氏のことを恋しく思う。

11月になって、髭黒は昼間でも、

人目につかないよう身を忍ばせて、玉鬘の部屋に籠もっている。

玉鬘は自分から望んだことではないとはいえ、

源氏がこのことをどう思っているかと考えると、死ぬほど恥ずかしい。

一方、まじめな気の優しい髭黒は、

玉鬘が出仕をすれば、帝の寵愛を受けるのではないかと気を揉んでいる。

そこで髭黒は、宮中に出たついでに玉鬘をその侭、連れて帰ろうと考えた。

空想を腹いっぱいに生きている  佐藤美

その一方で、髭黒には長年連れ添った本妻・北の方がいる。

北の方は式部卿宮の娘で、紫の上の姉にあたる。

器量も優れて美しく、性格もおっとりとして穏やかで立派な女性だった。

ところが、物の怪に取り憑かれて、ここ数年、常人のようではなかった。

時々、正気を失うようなことがある。

自然と夫婦仲も冷めたものになっていた。

それでも髭黒は、北の方だけを正室として大切に扱っていた。

だが今や、玉鬘のあまりの美しさに、我を忘れてしまっていた。

一枚の女のウロコへばりつく  須磨活恵

日も暮れると髭黒は気もそぞろ、どうかして玉鬘の元へ出かけたいと思う。

あいにく雪が盛んに降っている。

髭黒は格子をあげたまま、どうしたものか思い悩んでいる。

北の方は、

「あいにく雪ですね。この雪ではさぞかし道が大変でしょう。


   もう夜も更けましたわ」と外出を促す。

もうおしまいなのだ。

引留めたところで無駄だろうと、北の方は思い詰めている。

その姿が実に痛々しい。

「この雪で、どうして出かけられるのですか」

「お出かけをやめてここにいらしても、

   あなたの心が他のところにあるのでは、
かえって辛い。

   よそにいらしても、私を思い出してくださるのなら、

  
そのほうがうれしい」 と穏やかな口調で言う。

ささやきの美学へ水の輪がゆれる  山本昌乃


髭黒に香炉の灰をかける北の方

髭黒は北の方の泣きはらした顔を見ると、可哀相だと思いもするが、

玉鬘のもとに行きたい気持ちが募り、わざとらしく溜息をついて、

出かける衣装に着替えて香を焚きしめる。

北の方はじっと堪え、見るからにいじらしく、

脇息に寄りかかり打ち伏している。

                               ふせご
と、突然北の方はすくっと起き上がって、大きな伏籠の下にあった香炉を

取り
上げるなり、髭黒のうしろから香炉の灰を浴びせかけた。

1トンの四角い夢にうなされる  井上一筒


例の持病が出たのだ。

夜中だったが、髭黒は僧を呼び寄せ、加持祈祷を行った。
              ちょうぶせ
北の方は一晩中、物の怪調伏のために、加持の僧に打たれたり、

泣き喚きながら夜を明かした。

髭黒は、日が暮れてくると、そわそわと玉鬘のもとに出かけていった。

人の好い顔をそろそろ脱ぐとする  牧浦完次

髭黒には北の方との間に、12歳の姫君と、その下に男君が2人いる。

北の方の父・式部卿宮はそういう事情を聞きつけ、迎えを差し向けた。

いつかはこうなるだろうと予測はしていたが、実際にその場になると、

女房たちもみな今日が最後だと、ほろほろと泣きあっている。

子供たちも、深い事情は分からないものの、つられて泣いている。

「親とは形ばかりで、子供に対して愛情を失った父君では、この先、

   力になってくれるはずもないでしょう」

と北の方が言うので、乳母たちも一緒になって嘆いている。

わかれ霜誰かが笑う誰かが泣く  森中恵美子

髭黒から誰よりも愛された一番上の娘・真木柱は屋敷を離れるのが恋しく

柱の割れ目に自分が詠んだ歌の紙を差し込んでいる。

今はとて 宿かれぬとも 慣れ来つる 真木の柱は われを忘るな

こうしたさまざまな事件のごたごたで、気分が塞ぎこんでいる玉鬘に

気を遣い、
髭黒は尚侍として出仕するのを許可する。

こうして玉鬘の参内の日がやってくる。

玉鬘を目にした冷泉帝は、その美しさに心を奪われる。

心配な髭黒は、玉鬘を早々に退出させ、強引な言い訳で、

帰り先を
六条院ではなく自邸にし、玉鬘を迎え入れたのである。

そしてその年の冬、玉鬘は髭黒の子、可愛い男の子を産む。

柔らかに月光三小節目のメンソーレ  山口ろっぱ

【辞典】 真木柱に描く、裏側

式部卿宮は源氏最愛の妻・紫の上の父親、つまり源氏の義父になる。
そして髭黒の本妻は、紫の上の腹違いの姉である。かつて式部卿宮は、
源氏が須磨・明石に都落ちした際、災いが自分の及ぶことを恐れ、源氏
から離れたという過去があった。それを根に持ち源氏はいつも自分のこと
を冷遇しているのではないかと、式部卿は考えている。さらにその邪推に
油を注ぐのが式部卿宮の妻・大北の方である。彼女は自分が生んだ髭黒
の本妻が、惨めな思いをしているのに、夫が別の女性に生ませた紫の上
は幸せに暮らすことが我慢できないのである。さらに、この夫婦、今回の
玉鬘の件も、源氏が巧妙に仕組んだ、自分たちへの嫌がらせだと考える。
玉鬘は、源氏が引き取った女性、それが髭黒をたぶらかし、幸せだった家
庭を壊したというひねくれた考え方である。つまりこの計画の陰で源氏が
糸を引いていると思ったのだ。

愛というクロスワードを解いている  佐藤美はる

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