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川柳的逍遥 人の世の一家言
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切りはなす後ろ二両のさみしさを  清水すみれ


  54帖 藤葉裏

わが宿の 藤の色こき たそがれに 尋ねやはこぬ 春のなごりを

藤は雲井雁のこと。私の家の藤の花が美しく咲いております。
この美しい夕暮れに、春の名残りを尋ねて、どうぞおいでください。
暗に結婚の許諾の意味をこめる。

「巻の33 【藤裏葉】」

六条院の姫の入内の仕度で、だれも繁忙をきわめている時にも、

夕霧は物思いにとらわれて、ぼんやりとしていることが多い。

自身で自身がわからない。

どうしてこんなに執拗にその人を想っているのだろう、

これほど苦しむのであれば、伯父の内大臣が弱気になっているときに、

思い切って、昔の関係を復活させればよかった。

しかし、できることなら伯父のほうから「正式に婿として迎えよう」

言って来れる日までは、昔の雪辱のために待っていたい、と

煩悶しているのである。

雲井雁の方でも、洩れ聞く夕霧の縁談の噂に、物思いする日々が続く。

もしもそんなことになったなら、

永久に自分などは顧みられないであろう、
と思うと悲しかった。

一過性の恋よ輪郭ぼけてくる  山本昌乃

内大臣も夕霧を認めようとせず、2人に冷淡な態度をとり続けてきたが、

今も依然として娘の心が、その人にばかり傾いているのを知っては、

親心として、夕霧が他家の息女と結婚するのを坐視するに忍びなくなった。

話がどんどん進行してしまって、結婚の準備ができたあとで、

こちらの都合話を言い出しては、夕霧を苦しめることにもなる。

自身の家のためにも不面目なことになっては、世上の話題にされやすい。

秘密にしていても、昔あった関係はもう人が皆知っていることである。

何かの口実を作って、やはり自分のほうから負けて出ねばならない

とまで、大臣は決心するに至った。

菊日和亡くしたものはウツクシイ  太田のりこ


  藤見の宴

内大臣はどうにかして夕霧と和解したいと、その機会を求めていた。

大宮の三回忌に、内大臣は歩み寄りの姿勢をみせ、

4月のじめに、自邸の藤の花の宴に夕霧を招待することにした。

内大臣は夕霧の座席を整えると、気を遣うこと並一通りではない。

儀式ばった挨拶は短い目にして、すぐに花見の宴に移った。

内大臣は、思うところがあり、夕霧を酔わせようと杯をすすめる。

年重ね影がまあるくなってゆく   信次幸代

夕方になって参会者が次々に帰るころ、内大臣は大宮の健在だった頃を

偲びながら、春の末の哀愁の深く身にしむ景色を、ながめていた。

夕霧も「雨になりそうだ」などと退散して行く人たちの言い合っている声を

聞きながら、庭のほうばかり眺めている。

好機会であるとも大臣は思ったのか、

内大臣は酔った振りをし、夕霧に
杯をすすめながら袖を引き寄せて、

「どうしてあなたはそんなに私を憎んでいるのですか。

    今日の御法会の仏様の縁故で私の罪はもう許してくれたまえ。

    老人になってどんなに肉身が恋しいかしれない私に、

    あまり厳罰をあなたが加え過ぎるのも恨めしいことです」

などと言いだすと、夕霧は畏まって、

「お亡れになりました方の御遺志も、

    あなたを御信頼申して、
庇護されてまいるように

    ということであったように心得ておりましたが、


 なかなかお許し願えない御様子に今まで、御遠慮しておりました」

自問自答して今日も一日して暮れる  雨森茂喜

夕霧は、内大臣がどうしていつもと違った言葉を自分にかけてきのだろう

と、
無関心でいる時のない恋人の家のことでもあるから、

何でもないことも耳にとまって、いろいろな想像を描いていた。

やがて夕霧はひどく酔った振りをして、

「気分がわるくなって、とても我慢ができません。

    お暇するにも道中が危なくなってしまいました。

    どうか今夜はお部屋を貸していただけませんか」と言う。 

内大臣は


「柏木よ。部屋を用意してあげなさい。

   この年寄りは酔っ払ってしまって失礼ですから、もう引っ込むとしよう」

意を察して柏木は、夕霧をそっと雲井雁の部屋に案内をする。

夕霧は夢ではないかと思った。

雲居雁は前よりもずっと美しく成長していた。

傾げれば葉裏の紅も燃えている  徳山泰子

源氏は夕霧がいつもより輝いた顔をして出て来たのを見て、

内大臣邸であった前夜のことを悟った。

「根比べに勝ったなどと思ってはいけないよ。謙虚に有難いと思いなさい。

今度の態度は寛大であっても大臣の性格は、

生一本で気難しい点もあるのだからね」

と夕霧を諭すのである。

身の程の小吉でした 以下余白  佐藤美はる

さて明石の姫の入内は4月20日過ぎと決まった。

本来なら、後見役として母親が一緒に入るのが習わし、

そうなれば対面上は、母の紫の上が後見役である。

それを紫の上は実母の明石の君を後ろ身として付き添わせようと提案する。

実の親子がいつまでも離れていては可哀想と思ったのである。
            おおい
明石の君は、あの大堰での別れ以来、初めて成長した娘と対面出来た。

さらに後見役の入れ替わりの時には、

紫の上と明石の君が始めての体面を果たした。


2人は互いの美しさと教養の深さを認め合い、

これまでのわだかまりを綺麗に流し合った。

忘れるってうれしいことかもしれません  安土理恵


夕霧・雲居雁夫妻

夕霧は結婚、明石の姫は入内……源氏はもう心配はないと感じ、

昔から念願だった出家も本気で考え始めていた。

来年はもう40歳である。

その秋、源氏は准太上天皇の地位に上りつめ、内大臣は太政大臣に、

夕霧は中納言に昇進した。

そして夕霧は、雲居の雁と共に亡き大宮が住んでいた三条邸に移り住む。

さらに栄誉なことが待っていた。

冷泉帝が、前帝の朱雀帝と一緒に源氏の六条院を訪問するというのだ。

帝の外出は行幸といわれ、そこに前帝もやってくる。

六条院のもてなしでは、盛大に歌や舞が披露された。

そこで招待の太政大臣は、源氏こそ世の星だとその繁栄を讃えた。

秋の酒 自分を少し甘やかす  和田洋子

【辞典】 一般的に源氏物語は三つのブロックに分けられる。

その第一部の最後がこの藤裏葉の巻で源氏の青春期を描いている。
第二部は34~41巻まで。源氏40歳から52歳までの晩年で破綻して
いく愛情への苦悩や源氏の子供たちが織り成す恋愛模様が描かれる。
第三部は42から54巻まで。源氏は故人として登場。孫達の世代が繰り
広げる愛憎劇である。さて、一番華やかに見える一部が終わってしまうが、
この後のストーリーが源氏物語真骨頂の巻が多数揃って一層面白くなる。

終章は神に逆らうかも知れぬ  太田扶美代

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