川柳的逍遥 人の世の一家言
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中万寺の太夫・玉 菊
中万字屋の太夫・玉菊は、人柄がよく、多くの人々に愛された。
玉菊は、吉原を1日貸し切りにしたという伝説の紀伊国屋文左衛門と財力を
競い合った奈良屋茂左衛門の寵愛を受け、身請け話が出てまもなく、酒好き
がたたって享保11年25歳の若さで亡くなってしまったという伝説がある。
燈籠に なき玉きくの くる夜かな
「吉原遊女の悲しい末路」
農家から身売りされた者が、何年ぐらい働けば自由の身になれたのだろうか。
その期間、すなわち「年季」は、27歳までという原則があった。
27歳まで遊女として勤め上げれば、借金も返済し終える計算になっていた。
しかし実際には、吉原で働いている最中にいろいろな出費があって、借金が
増えることも多かった。その場合、27歳になっても年季が明けず、さらに 数年働くことを余儀なくされたのである。 年季明けを迎える前に、体を壊して病死する遊女も絶えなかった。
仕事柄、梅毒などの性病にかかる者が多かったし、当時は死の病といわれた
労咳を患う者も多くいた。 不具合がふえてきたなきたなと思う日々 吉岡 民
遊 女 の 日 常 死亡した場合は実家に連絡し、遺体を引き取りに来るように伝えることもあっ
たが、そんな手間を取らずに、亡骸を菰に包み、近傍の浄土宗浄閑塩寺の無縁 墓地に投げ込むように葬ることがほとんどだった。 反対に、遊女も、特に恵まれて幸せをつかむ者もあった。
身請けという制度がそれで、金持ちや馴染みの客の中には、大金を出して遊女
を落籍し、自分の妻や妾に迎える者があった。 ただし妓楼の側も借金の額そのままで落籍されては儲けにならないので、この 時とばかりに吹っかけた。 そのため、実際に身請けされた遊女の例を見てみると、三百両(3千万)とか、
五百両(5千万)などという金額が支払われている。
渾身の力で熟れている柘榴 中前棋人
「青楼美人合姿鏡」
遊女の日常・貸本を手にする瀬川
なかでも松葉屋の花魁・五代目瀬川を高利貸しの鳥山検校が身請けした時には、
千四百両(1億4千万)という桁外れの金額が支払われ、人々を驚かせた。
こんなように、美貌と運に恵まれた遊女のなかには、吉原を出て幸せになる者
もあったが、そういう遊女はごくひと握りといえた。
多くの遊女はそんな機会の到来を待ち望みながら、年季明けまで働きづくめで
身体を壊し、短い人生を終えることになったのだ。
そういう意味では、吉原は、錦絵にも描かれるように、美しい着物をまとった
花魁が暮らす華やかな世界であると同時に、一度沈んだら滅多なことでは浮き 上がらない「苦界」と呼ぶにふさわいい場所にほかならなかったのである。 身請けが=幸せにつながるとは限らない一例として。
瀬川を身請けした鳥山検校の栄華も永くは続かず、事件から3年後の安永7年
(1778)あまりの悪どさを糾弾され、全財産を没収の上で江戸払いに処された。 これまで、鳥山検校の取り立てに苦しめられてきた江戸の人々は、お上の裁き
に喝采を上げたことだろう。 大富豪だけにフェロモン投げかける 宮井いずみ
江戸の闇金「座頭貸し」(検校・人倫訓蒙図彙)
元禄の頃から盛んになった座頭の金貸しは「座頭貸し」とよばれ「座頭金」は
盲人が高利で貸していた金を意味した。
鳥山検校の場合-----まず貸し付けの前に利息分を前引き(借り手に渡されるのは
6~8割程度)し、さらに礼金を取る。
当時、許されていた一般的な利息の水準は「二十五両一分」である。
(25両の借金に対して月に一分の利息がつく、一分は1両の4分の1だから
年利は12%になる)ところが、鳥山検校は「五両一」の利息を取っていた)
年利にしてなんと60%である。
「座頭金」は幕府が認めた官金であり「座頭貸し」は、債権が保証されたため
貸し倒れは滅多にない。が、
安永7年(1778)旗本の森忠右衛門とその子虎太郎が、借金の返済ができず
夜逃げするという事件が起きた。
旗本といえば、何かことあれば鎧兜を身にまとい将軍の元に馳せ参じるのが
お役目。その旗本が行方不明とあっては、幕府としても放っておけず、日頃
から高利貸したちの悪行に業を煮やしていた為政者は、これを契機に一斉摘
発に乗り出し、鳥山検校をはじめ20人ほどの悪質高利貸しが検挙された。
そのうちに外す梯子が掛けてある 筒井祥文
蔦屋重三郎ー瀬川・鳥山検校のその後 「鳥山検校、松葉屋・瀬川落籍事件」
『安永4年、が吉原松葉屋の瀬川という妓女を落籍した事件は、
おそらく当時の人々の耳目を驚かせたに相違ない。
鳥山検校は、さらにその3年後の安永7年には、悪辣なる高利貸として
処罰された』
筠庭(いんてい)喜多村信節『過眼録』によれば、
『安永七年、高利の金子を借したる者共、多く御咎めありし、其起りは、
御旗下の士、筋わろき金子を借用し、出奔したりしよりの事と云う…中略…
家財の外、有金廿両、貸金一万五千両、所持の町屋敷一ヶ所 鳥山検校…
中略…此鳥山わきて名高く聞へしは、遊女を身請せし事にて噂高かりし也、
瀬川を身請せしは安永四年なり、この瀬川の事は、余別に委(くわ)しく記
したり、爰に略す、所持地所も一ヶ所にはあらず、浮世小路南側、又小舟丁
にも存、北御番所付永御手当地と唱』とある。
神さんがくしゃみしてはる間に悪さ 居谷真理子
「玉菊燈籠」
玉菊を偲ぶ有志がお盆に燈籠を飾り弔った。これが「玉菊燈籠」の始まり。
「燈籠になき玉きくのくる夜かな」
「急戯花之名寄」 3月に行われた「俄」の行事の折に配られた吉原提灯。遊女の名が入っている。
多くの文人と交流のあった津村正恭(まさゆき)の随筆『譚海』には、
『鳥山檢校と云もの、遊女瀬川といふを受出し、家宅等の驕りも過分至極せる
より事破れたりといへり』
瀬川と同じ定めの玉菊を偲んで灯籠を吊るす行事『玉菊燈籠弁』では、
『真芝屋の屁川なり、いかに金がほしいとて、眼のない客を逢ひとをす。
それもたて引かなんぞと、金気(け)のうすい砂糖なら張りも意気地も有で
青楼の傾城ならんに、何ンほ女郎がこすくなつても、
「遊女中間のつらよごし」「こんにやくのよごしがはるかまし」
など』とも論評された。
くしゃみするたびに回りが黴ていく 中山奈々
「五代目瀬川がその後どうなったか」 三田村鳶魚『瀬川五郷』によれば、喜多村信節の『筠庭雑考)』(いんていざ
っこう)に後日譚が記されているという。が、 現存の『筠庭雑考』にこの記事は見えず、宮武外骨の「筠庭雑考」には次の
ように『只誠埃録』(しせいあいろく)所引の『筠庭雑考』が引かれている。
浮草の人生ですか池の百合 井上登美
「噂の中の瀬川」
『私が一時期住んでいた本所埋堀に大久保家の町屋敷あり、そこに大工をする
傍ら大家を勤める結城屋八五郎のところに、切り下げ髪(首のつけ根で髪を
揃えて後ろに垂らした髪型)の老婆がいた。これが実は、八五郎が妻である。
名だたる鳥山檢校が身受した吉原松葉屋の瀬川の今の姿である。
鳥山検校が罪科の後、瀬川は、
噂をする人も多い中に、深川六間堀辺に飯沼何某といふ武家の妻となりて、
子を二人生んで、夫を失い寡婦となってのち、大工八五郎仕事に雇われて
この)屋敷に住むことになった、どのような縁があったのだろうか、
密かに約束ごとをもって、瀬川は八五方へ逃げ辿りついて妻となる、
そのまゝにてすむべきにもあらず、やむを得ず髪を切った、
先に生んだ子のひとりは家督を継ぎ、ひとりは他の養子となるも、放蕩者で
養家を飛び出し、行く所もなく、八五郎の所に舞い戻ってきて、果ては髪結
となったとかいう、
瀬川は、文字の書きぶりは今一なので、「かの飯沼氏より扶持など贈れる事
とか」は八五郎が代筆していたとかの噂についての詳しい事は知らず、
益のない咄ながら、傾城虎の巻などいふされ草紙にも出でて名高き女なれば
語り草とする』
ジョーをもっていたから頑張った 井上恵津子
田沼意次(渡辺謙) 長谷川平蔵(中村隼人) 「べらぼう ちょいかみ13話」
「もはや弱きものにあらず!」と声を荒らげる田沼意次。
「座頭金だよ」と笑みをたたえて話す一橋治済(生田斗真)。
蔦重が「座頭…」とつぶやく。
蔦重(横浜流星)は、留四郎(水沢林太郎)から鱗形屋(片岡愛之助)が再び
偽板の罪で捕まったらしいと知らせを受ける。
鱗形屋が各所に借金を重ね、その証文の一つが、鳥山検校(市原隼人)を頭と
する金貸しの座頭に流れ、苦し紛れに罪を犯したことを知る。
一方、江戸城内でも旗本の娘が借金のかたに売られていることが問題視され、
意次(渡辺謙)は、座頭金の実情を明らかにするため、
長谷川平蔵宣以(中村隼人)に探るよう命じる。
良心の脆さをカネの前で知る 松田順久
「鱗形屋孫兵衛の子・長兵衛から責められる蔦重」
「そろそろ返してくんねえですか? うちから盗んだ商いを!」
と鱗形屋が言い放つ。
鱗形屋の番頭・藤八(徳井優)が蔦重を追い出す。
「盗んだのは私にございます!」と叫ぶ誰かの声。
厳しい顔をしたまま長谷川平蔵が歩を進める。
パイナップルが居心地悪そうな酢豚 橋倉久美子
「橋の上で蔦重,大文字屋」 「じゃあな!」といってその場を離れる大文字屋。
「重三はわっちにとって光でありんした」
「蔦重さん!」と北尾政演(山東京伝/古川雄大)が、嬉しそうに蔦重の顔を
覗き込む。
「本ってなあ、人を笑わせたり泣かせたりできるじゃねえか」と告げる源内。
その下に<蔦重は書で世を照らす>との文字が流れる。
本をめくる蔦重。
そこに「からまる」の文字を見つけた蔦重が何かに気付く。
「重三は、わっちにとって光でありんした」と涙を浮かべる瀬以。
その隣には夫・鳥山検校のカゲが――。
感嘆符発したままの冷凍魚 岡田幸乎 PR |
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