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川柳的逍遥 人の世の一家言
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毒消し草バケツの中で実らせる  村山浩吉






            俄 祭 り




江戸時代、俄とは、「仁輪加」「仁和歌」「二和加」などとも表記され
素人が演じる即興の芝居や狂言で、宴席や路上などで演じられた即興の
芝居で「にわかに始まる」ことから「俄」または「茶番」とも呼ばれた。
江戸時代中期には、江戸の吉原俄、福岡の博多俄が演じられ、明治には
「改良俄」「新聞俄」「大阪俄」といわれたものから喜劇劇団が生まれ、
現在の新喜劇にもつながるとも言われる。
【吉原俄の開催時期】
吉原俄は、毎年8月中旬~9月中旬、屋台の上で幇間と呼ばれる男芸者や
女性の芸者などが芝居を見せました。




にぎやかにしてくれ忘れさせてくれ  石橋芳山





     若木屋 vs 大文字屋





「べらぼう13話ちょいかみ」
昨年に続き吉原で行われる『俄(にわか)』祭り。その企画の覇権を巡り、
若木屋(本宮泰風)大文字屋(伊藤淳史)らの間で戦いの火ぶたが切られた。
蔦重(横浜流星)は、30日間かけて行われる俄祭りの内情を面白おかしく書い
てほしいと平賀源内(安田顕)に執筆を依頼すると、朋誠堂喜三二はどうかと
勧められる。宝暦の色男とも呼ばれている。秋田藩留守居役の喜三二の正体は、
かつて蔦重も松葉屋で会っていたあの男だった…。末尾へつづく。




舞っていたいのだ折り鶴だとしても  竹内ゆみこ




蔦屋重三郎ー江戸っ子侍・朋誠堂喜三二





 
     朋誠堂喜三二 
狂名は手柄岡持、俳名は月成。




上役で俳人の佐藤朝四にいろいろと教わりながら、江戸の文化サロンの一員に
なった。名が世に知られるようになったのは安永6年、また喜三二蔦重との
関係が密になるのもこの安永6年で鱗形屋孫兵衛が出版した「黄表紙」に作者
として筆を執ってからだ。





  
    平沢常富 (朋誠堂喜三二)      尾美としのり

 
宝暦の色男と呼ばれた朋誠堂喜三二は、秋田藩の江戸留守居役だった。
留守居役とは、その藩の外交官。江戸に常駐し、他藩の同役と情報交換するの
が仕事だ。情報交換は、どういうわけか吉原や遊里の料亭で行われた。
遊ぶ金の出所は藩の財布だ。
つまり吉原で飲んでお引けとなって朝帰り。
当然、繁華街に足繁く通うのだから、吉原との関係密ならざるをえない外交官
といっても藩では物頭ランク(今でいう中間管理職)、べらぼうに忙しいわけ
ではなく、吉原通いが職務になるくらいでなのでネタはある。
仕事の合間に戯作を書いてみたらヒットしてしまい一躍人気作家となった。




脇道に逸れて出会った福の神  高浜広川




武士なのでそこそこの教養はあり、しかし江戸っ子の粋も通も洒落もわかる。
こういう人物が書く話は、どうしたって面白いのだ。
蔦重はこうした喜三二の、武士らしからぬ江戸っ子気質を見て懐に入る。
喜三二も吉原から這い上がってくる蔦重が気に入った。
蔦重の手口は、必ずしも真っ当なやり方ではない。
鱗形屋の危機に乗じて自分に近づいてきたのは明らかだ。
それでも吉原に通い、様々な権力者たちの噂ややり口を見て、清濁併せ呑んで
きた喜三二には、「この若造に賭けたら、面白いものが見れそうだ」
蔦重という人間に興味を抱いたのだった。





馬が合う無職とかいてある名刺  新海信二





       『見徳一炊の夢』①





前に軽く触れたが喜三二『見徳一炊の夢』を鑑賞してみよう。
浅草茅町の金持ちの息子、清太郎は厳しく育てられ、年頃というのに遊ぶこと
もままならず、手代の代次とお喋りをして憂さを晴らす日々。
ある日父の留守中に、二人で話しているうちに近所のかめ屋から蕎麦の出前を
注文する。蕎麦を待つ間に清太郎はうとうととし、夢の中に浅草並木の栄華屋
という夢を商う店が出現。栄華屋は邯鄲の枕を貸し出し、金額に応じた内容の
夢をみさせるという。
清太郎は自分の家から千両を盗み出し、50年分の夢を買う。
最初の20年は京、大坂、長崎と遊歴し、唐にまで行って遊蕩する。




この春のしどろもどろに咲いた花  平井美智子




40歳になり、江戸が一番自由だと悟り、戻って江戸の遊里で4人もの芸妓を
身請けし遊里での遊びに飽きると、俳諧、歌舞伎、能、茶道と通な遊びに嵌る。
70歳になると、さすがに家が恋しくなり、浅草茅町の実家に行ってみる。
実家では清太郎は死んだことになっており、家は手代の代次が継いでいた。
自分の50年忌が行われており、そこに借金取りがやってきて、清太郎が遊び
倒した50年分のツケ百万両を払えという。代次は全財産を処分しツケを払う。
そこに清太郎が戻り「何という恥か」と我が身を振り返る。




春先のお伽噺はみな斜め  筒井祥文





       『見徳一炊の夢』②





清太郎と代次は剃髪し、悟りを開き諸国へと修行の旅へ。
「百万両持っている人も、百万両使い捨ててしまう人も、共に生れた時は丸裸。
 あら面白や、南無阿弥陀 南無阿弥陀」
代次「若旦那居眠りをなされていましたか、まだ夢の中というお顔つきですが」
清太郎「不思議なこともあるものだ。50年は全て夢であったか」
小僧「富くじが当たるかもしれない。良い夢かも知れませんよ」
かめ屋「もし、お頼みもうしやす。いまお誂えの蕎麦が参りやした」




七味から反省文を書かされる  みつ木もも花




放蕩し栄華を極め、何もかも手に入れたのち、何もかも失う。
夢から覚めて現実をしるという、恋川春町『金々先生栄華夢」と同じ流れの
話である。
しかし、喜三二の方は、春町の金々先生が「栄華を極めたところで一炊(ご飯
が炊きあがるほど短い間)の夢だ。真面目に働こう」という悟りに対して、
「え、どうせ夢なら楽しい方が良くない?それもまた徳ってやつじゃん」
洒落ている。
「なんかめちゃくちゃ景気がいい夢みちゃったな」という清太郎に、小僧
「なんか良い前兆かもしれないっすよ、富くじ当たちゃうんじゃないですか」
と、これまた夢のようなことを言っている。そんな景気の良い話をしながら
これから食べるものは「オレが奢ってやれるのはこれくらいしかないんだ」
という一杯16文(520円)の蕎麦なので。




サヨナラも言わずに虹は去ってゆく  斉藤美恵子




喜三二は自身の身分をよくわきまえていた。
抜擢され留守居役となったとしても下級武士であり、藩士の一人にすぎない。
それでも江戸は自由だし、下級武士は気楽な稼業だ。
飲みニケーションがきつい時もあるが、藩の金で遊べるのならそれも乙なもの。
いまのこの状態を使用しまくろうという考えである。
喜三二のポシティブな思考と自虐が、戯作となり狂歌となった。
物語の中で、歌舞伎に茶道にと通な旦那遊びに興じるが、それは喜三二の自虐と
穿ちだろう。
そうやって栄華を極める遊びを演じ、あとで転けたところでそれは「あら面白や」
という洒落なのだ。




おもしろい一日だったまた明日  田邊 新二





               『亀山人家妖』 (朋誠堂喜三二作/北尾重政画)
版元と戯作者のやりとりを面白おかしく描いた黄表紙である。
軽妙なメタフィクション的展開が印象的に描かれる。
これを書いた朋誠堂喜三二は、北尾重政と共に「車の両輪として重三郎を
支えた」
天明期に入ってからの重三郎の躍進は、この二大巨匠のバックアップが、
基盤となっている。





町人髷の蔦屋重三郎と侍髷の朋誠堂喜三二





絵草紙問屋・蔦屋重三郎、絵草紙の作者喜三二が元へ年礼に来る。
「当春の『天道大福帳』は、とんだ評判が良う御座りまして有難う御座ります」
などとちよ/\ら(口先だけのお世辞)を言ふ。
「来年も頼みますよ」
と持ち上げられた喜三二は鼻高々。
「未年の春の新版青本を書いてくださいませ」
「来年のをもう頼むのか。さっさと正月の内に、書きやせう。
書こうと思へば直に出来る」
など大己(おほうぬ=自惚れ)を並べる。
「春の内書きやしょう。書こうと思えば直できる」
と安請け合いしたのである。ところが、アイディアが浮かばない。
来春出版の本の宣伝をしなければならない九月になって、
「せめてタイトルだけでも決めろ」と、
蔦重が、喜三二のところだけを空けた外題披露のポスターを持ってくる。
仕方なく喜三二はタイトルだけをひねり出す――




仕事場の鬼と虫とは馬が合い  北出北朗










「べらぼう12話ちょいかみ ②」
<喜三二>らしき人物を囲んで笑顔を見せる蔦重、勝川春章、北尾重政
「喜三二。朋誠堂喜三二」と話す源内
男性へ「喜三二大明神様!」と手を合わせる鱗形屋の一家。
画面下には<覆面作家を探せ>の文字が流れる。
歩きながら
「面白えこと言ってくんだよな!蔦重ってのは」『金々先生栄花夢』
作者・倉橋格こと恋川春町岡山天音さん)に話しかける男性。
それから吉原で開催された「俄」の祭りの様子が映し出される。
誰かを見つけて動きを止めるうつせみ。
「この野郎!」と憤りながら立ち上がる吉原の若木屋(本宮泰風)
揉める男たち。
「この祭り、勝てる!」と喜んだ様子を見せる大文字屋。
「鳥が啼く東の花街に…俄かの文字が整いはべり」の声を背景にめくられる本、
雀踊りを舞う女性たち、歌う午之助が続けて映り、踊りの衣装をまとった女郎・
うつせみが、誰かを前に動きを止める姿が…。
その下に<俄で吉原を統一せよ>の文字が流れる。




雫切る今日の答えは決めました  田村ひろ子

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