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川柳的逍遥 人の世の一家言
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ときどきは深いところをかきまぜる  田村ひろ子


  玉鬘と女房たち


竹河の はし打ち出でし 一節に 深き心の 底は知りきや

竹河という歌を謡ったあの一節から、
私の深い心の思いを分かっていただけたでしょうか。

「巻の44 【竹河】」

太政大臣・髭黒は、玉鬘との間にできた3男2女を残して亡くなった。

どの子の未来も幸福になって欲しいと空想を描いて、

成長するのももどかしく
待っていた髭黒だったが、突然亡くなったので、

遺族は夢のような気がして、
生前の髭黒が娘の入内を望んでいたことも

そのままになっていた。


2人とも器量がよく、特に姉の大宮の美しさは世間でも噂になるほどで、

今上帝をはじめ冷泉帝夕霧の子・蔵人少将や柏木の子・など、

多くの求婚者が集まる。

口紅をさすとおんなは花になる  美馬りゅうこ

玉鬘は姉姫をただの男とは決して結婚させまいと思っていた。

妹姫はもう少し蔵人少将が出世したなら、結婚させてもいいと考えていた。

少将は許しがなければ、盗み取ろうと思うほどに深い執着を持っている。

もってのほかの縁と玉鬘は思っている訳ではないが、相手の同意もなく

暴力的に結ばれることは、世間に聞こえた時、こちらにも隙のあったことに

なってよろしくないと思って、蔵人少将の取り次ぎをする女房に、

「決して過失をあなたたちから起こしてはなりませんよ」

と戒めているので、少将も手の出しようがなかった。

一方、上帝への入内となると明石中宮がいて姫の苦労は目に見えている。

退位した冷泉院には、秋好中宮という寵愛をする女性がいる。

どうしたらよいか、玉鬘は判断がつかない。

ハンカチの耳をそろえて少し泣く  清水すみれ
   

満開の桜と競う姉姫と妹姫

3月になって、咲く桜、散る桜が混じって春の気分の高潮に達したころ、

姫君たちはちょうど18、9くらいで、容貌も性質もとりどりに美しい。

姉姫のほうは鮮明に気高い美貌で、華やかな感じのする人で、

普通の人に
嫁がせるのは、もったいないと玉鬘が評価しているのも

もっともなことと思われる。


妹姫は、背が高くて艶に澄み切った清楚な感じのする聡明な顔つきである。

碁を打つために姉妹は向き合っていた。

髪の質のよさ、鬢の毛の顔への掛かり具合など、両姫とも見事である。

この囲碁に熱中している姉君の姿を垣間見ることが出来た蔵人少将は、

少し勇気づけられた気がした。

だが、悲運な蔵人少将の浮かれた気分は、すぐ砕かれてしまう。

マンゴーも女も甘い香を放つ  日野 愿

困り果てた玉鬘が、冷泉院からの催促に折れ、結婚を決めてしまったのだ。

それを聞いた蔵人少将は「自分はもう死んでしまう」と泣き暮れる。

姉君あてにそんな手紙を書き、同情を誘うが決まったものは動かない。

ライバルの薫も思いを残す結果となる。

やがて7月になって姫は妊娠をした。
つわり
悪阻に悩んでいる新女御(姉姫)の姿もまた美しい。

世の中の男が騒いだのはもっとなことだと院は思い、

愛する姫を慰めようと
音楽の遊びをたびたび御殿で催した。

侍従が正月に「梅が枝」を歌いながら訪ねて行った時に、

合わせて和琴を
弾いた左近中将(鬚黒と玉鬘の長男)も常に役を仰せつかっていた。

薫は弾き手のだれであるかを音に知って、姫との手紙のやり取りの仲介を

させていたころの夜を追想するのだった。


哀しみに音あり淡い彩のあり  嶋澤喜八郎

そして姉姫は翌年4月に女宮、次の年には皇子を生む。

院の多くの後宮の女御たちには、男の子が恵まれなかったことから、

院は親王誕生に喜び、ことのほか新女御を愛した。

「在位の時であったなら、どれほどこの宮の地位を光彩あるものに

   できたか、
もう今では過去へ退いた自分から生まれた一親王にすぎない

    のが
残念である」 と院は思うのだった。

愛のうたらくだに瘤が二つある  森中恵美子

しかし院の愛情が大きければ大きいほどば、新女御の立場が苦しくなる。

双方の女房の間に苦く重たい空気がかもし出されてゆく。

新女御は人事関係の面倒さに、里へ下がっていることが多くなった。

玉鬘は娘のために描いた夢が破れてしまったことを残念がった。

御所へ上がったほうの妹姫はかえって、はなやかに幸福な日を送っていて、

世間からも聡明で趣味の高い後宮の人と認められていた。

玉鬘は自分の判断が間違っていたのかと嘆き、

たまたま訪問していた薫に、
愚痴を溢すが超然とした薫は

「よくあることですね」
などと言って、
親身にはなってくれない。

柔軟剤に一晩漬けておくイケズ  山本昌乃


 囲碁を打つ姉妹

【辞典】 作者別人説

原文ではこの竹河の巻の冒頭に、但し書きのような文章が記載されている。
それに加え今までの話は紫の上に仕えていた女房の噂話で「間違っている
かもしれない」とまで書かれている。
今までのことを否定しているような説明なのだ。


原文・書き出し。
これは源氏の御族にも離れたまへりし、後の大殿わたりにありける悪御達
の、
落ちとまり残れるが、問はず語りしおきたるは、紫の ゆかりにも似ざ
めれど、
かの女どもの言ひけるは、「源氏の御末々に、ひがことどもの混
じりて聞こゆ
るは我よりも年の数積もり、ほけたりける人のひがことにや」
などあやしがり
ける。いづれかはまことならむ。

〈ここに書くのは源氏の君一族とも離れた、最近に亡くなった関白太政大
の家の話である。つまらぬ女房の生き残ったのが語って聞かせたのを書
くの
であるから、紫の筆の跡には遠いものになるであろう。またそうした
女たちの
一人が、光源氏の子孫と言われる人の中に、正当の子孫と、そう
でないのと
があるように思われるのは、自分などよりももっと記憶の不確
かな老人が語
り伝えて来たことで、間違いがあるのではないかと不思議が
って言ったことも
あるのであるから、今書いていくことも、皆、真実のこ
とでなかったかもしれな
いのである

無為な日はあっちこっちを掘り返す  森吉留里恵

その出だしの設定方法はもとより、この竹河の巻と前の匂宮、紅梅の巻
はこれまでの41巻から見て、劣っている点が多数あると古くから多くの
人が
指摘している。文体や用語の使い方、何よりも物語の面白さといった
点で、
三部の始まりの三巻は完成度が低いといわれている。

そんな指摘を踏まえこの三巻は、紫式部が書いたものではなく、あとから
別の人
が書いて、差し込んだという説がある。この説は完全に否定されて
おらず、今も
決着はついてない。

 しかしこれからつづく10巻の話は「宇治十帖」とも呼ばれ、
人によってはそれ
までの光源氏のストーリーより評価されている。

源氏物語も残り10巻。ダイナミックなストーリーが展開されます。

その先に触れると未来消されます  上田 仁

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無添加のエロスを抱いている少女  美馬りゅうこ



心ありて 風のにほはず 園の梅に まずうぐひすの とはずやあるべき

風に乗って庭にある梅の香りが、素晴らしく漂います。
あなたへの気持ちとして贈ったその梅。鶯のように早速、
お返事いただけるものと思っております。

「巻の43 【紅梅】」

紅梅は、前太政大臣(頭中将)の次男で、柏木の弟にあたる。
    あぜち
位は今按察使大納言。 「紅梅」の中心人物となることから、

後世の人により「紅梅大納言」の通称がつけられた。

明るく利発な性格で、幼少の頃から美声で歌をよくし周りを楽しませた。

そんな人だから出世も早く、今では自然に権力もできて世間の信望も高い。

最初の妻は亡くなっており、前太政大臣の長女・真木柱を妻に迎えていた。

真木柱も前夫の蛍宮を亡くし未亡人であった。

2人の間に子どもは4人、前妻が生んだ「長女と次女」

そして真木柱と蛍宮の間の連れ子である「宮の姫君」と、

もう1人は、紅梅と真木柱の間に設けた「長男」である。

水滴がツツーと何か言いたげだ  立蔵信子

紅梅と真木柱は母親の違う娘と、父親のない娘を差別せず、

平等に可愛がっているが、姫君付きの女房同士の間で、

しばしば揉めごとが起こったりしている。

それを真木柱は、きわめて明るい快活な性質だから、どちらがどうのと

善し悪しを詳らかにせず、自身の娘のために不利なことも、

ことを荒だてずに済ませるよう骨を折ったいたから、

極めて平和な家庭であった。


折り紙に命ふきこむ小さな手  寺島洋子


   紅梅大納言

妙齢の娘が3人もいる家の常で、大納言家へは求婚の申し込みが絶えない。

今上帝東宮からも打診があるほど。

帝の傍には中宮がおいでになる。

「どんな人が行っても、その方と同じだけの寵愛が得られるわけもない、

そう言って身を卑下して、後宮の一員に備わっているだけではつまらない、

東宮には、左大臣夕霧の長女が侍していて、すでに寵を得ている」

紅梅はこうした競争相手が多い入内は嫌ったが、

「競争することは困難であっても、そんなふうにばかり考えていては、

幸福になって欲しいと願っているのに、未来が悲しいものになりかねない」

と考え、長女を入内させた。

年はもう十七、八で美しい華やかな気のする姫君であった。

神様がくれた鏡を見てごらん  河村啓子

次女も近い年で、上品な澄みきって、姉にも負けない美しさがあったから、

普通の人と結婚させるのは惜しく、匂宮(兵部卿宮)が求婚してくれたらと、

紅梅はそんな望みを持っていた。

紅梅の一人息子は、かわいく聡明な子であったから、

匂宮が御所などで見つけると、そばへ呼んでは、可愛がった。

「弟だけを見ていて満足ができないと大納言に言ってくれ」

と匂宮が言っているのを聞くと、紅梅は嬉しそうに笑顔を見せ、

「人にけおされるような宮仕えよりは、

  兵部卿宮などにこそ自信のある娘は
差し上げるのがいいと私は思う」


人憚らず言っているのである。

過呼吸の街で幻想をひろう  森吉留里恵

真木柱の連れ子の姫は、内気で、人見知りで恥ずかしがり屋だが、

性質が明るくて愛嬌のある点は誰よりもすぐれていた。

紅梅は長女を東宮へ奉ったり、二女の将来の目算をしたりして、

自身の娘にだけ、「力を入れているように見られていないか」と心配で

「姫君にどういうふうな結婚をさせようという方針をきめて言ってください。

   二人の娘に変わらぬ尽力を、私はするつもりだから」

と真木柱にはいつも気配りを絶やさない。

吾亦紅の無口な訳は伏せておく  本田洋子

真木柱は紅梅の好意を謝して、

「結婚などという人並みの空想を持つことは、

   あの子の弱い気質からみても、
とても無理ことと思っています。


   それで普通の計らいをしてはかえって、不幸を招くことになると

   思いますから、
すべては運命に任せ、自分の生きている間は手もとへ

   置くことにいたします。


   それから先のことは心配でもありますが、尼になるという道もありますし、

   その時にはもう、自身の処置を誤らない女性になっていると思います」

と、涙混じりにつつましやかに言う。

点線になって息つぎうまくなる  目黒友遊

分け隔てなく父親らしくふるまっているつもりの紅梅だが、

御簾に隠れている姫君の容貌は見たことがなかった。

一度は見てみたいと思い、人知れず見る機会をうかがっていたが、

絶対と言ってもよいほど、姫君は影すらも、継父に見せないのである。

「まだ親と認めてもらえない扱いは、残念です」

と御簾越しに言うと、姫君は小さく返事を返してくるだけである。。

声やら気配やらの品のよさに、美しい容貌も想像される可憐な人であった。

紅梅は自分の娘たちを、優れたものと見て慢心しているが、

この人には、劣っているかもしれぬ、またそれ以上の価値の備えている

人なのかも知れないと、いっそう好奇心が惹かれるのであった。

平常心戻せぬままに二度の雨  上田 仁


匂宮 手紙を書く

(真木柱)の姫は、細かい他人の感情も分かる齢になっていおり、

匂宮が寄せている好意を気づかないはずはない。

しかし姫は結婚をして、世間並みな生活をすることなどは断念していた。

父親の勢力を背景に一方の西の姫君の方へは、求婚者が次ぎ次ぎと現われ、

はなやかな空気もそこでは作られる。


一方では、陰の人のように引っ込んで暮らしている様子を、匂宮は聞き、

自身の理想に叶った相手と思いますます惹かれていくのであった。

始終、大納言家の息子を呼んでは、伝令役としてそっと手紙を言付ける。

紅梅の本心を知っている真木柱は、それを心苦しく思い、

「そんな気持ちなどをまったく持っていない者へ、いろいろと好意を寄せた

   手紙をくださっても無駄なのに」

こんなことを言うことがあった。

大きい声を定形外で送りつけ  都司 豊

少しも返事が来ないことに匂宮は苛立って、負けたくないお気持ちもあり、

より熱の入った手紙を書いて送るのであった。

こんな熱心な匂宮を、輝かしい未来も予想される方であると思い、

真木柱は婿に迎えてみたい、どうしようかという気持ちもあった。

しかし多情で、恋人も多く、八の宮の姫君にも執心で、度々、宇治にまで

出かけいる噂を耳にすると、娘のためによい良人になるとは思われない。

不幸な境遇の娘だから、もし結婚をさせることになれば万全の縁でなければ、

笑い者になるばかりであると、大方の心は、断わりすることに決めていた。

しかし御身分柄のもったいなさに、母として時々、返事だけは出していた。

しいほうの顔は金庫にしまっとく  清水すみれ

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冬景色何処かに僕がいる筈だ  牧浦完次


第三部主な登場人物 (拡大してご覧下さい)

おぼつかな 誰に問わまし いかにして 初も果も 知らぬわが身ぞ

はっきりわからないことだ。誰にどう尋ねたらよぴのだろう。
最初も終わりもわからない、自分の身の上よ。

「巻の42 【匂宮】」

光源氏の逝去以降、それほど世間を魅了する人がいなかった。

今上帝明石中宮の子で紫の上に愛され育てられた「匂宮」と、

同じ六条院で成長した朱雀院の女三宮の子・「薫」の二人が、

それぞれ美貌の評判が高く、貴公子として育ってはいるが

源氏に比べると、まばゆいほどの美男というのでもない、が、

しかし世間には、この2人の貴公子に準じて見るほどの人もいない。

神様がくれた鏡を見てごらん  河村啓子

は、表向きは源氏が父親であるが、実は柏木の不義の子である。

一方の匂宮は、今上帝と明石中宮の三男、帝にも后にもお愛され、

宮中に住居の御殿も持たせてもらっているが、幼い頃、

紫の上に二条院に
住むように言われたこともあってか、

気楽な二条院にいることが多い。


元服の後は兵部卿宮と呼ばれた。

本の眉に小さな目が二つ  筒井祥文

薫は、成長していくにつれ、子ども心にかすかに小耳に挟んでいた

自分の
素性への疑問が大きくなっていく。

「母の三宮はなぜ若くして出家したのだろうか、

   どのような御道心でからか、
急に出家されたのだろう。


   不本意な過ちがもとで、きっと世の中が嫌になることがあったのだろう。

   母に真相を聞くことは、とてもできない。

  後を追うようにして亡くなった柏木という人は・・・?」

隠しておかなければならないことのために、

事情を語ってくれる人がいない
と、薫は推量するが、

生まれ変わってでも真実に出会いたい気持ちが勝ち、


眩しいほど華やかな身辺も気に染まず、自然とひっこみ思案になった。

逆行線のあたりでちょっと泣いてみる  山本昌乃

馨には、この世のものとも思われぬ高尚な香を、身体に備わっている。

遠くにいてさえこの人の追い風は、人を驚かせるほどだった。

多くは、わざわざ香を焚いて、よい匂いをつけていたが、その必要がない。

怪しいほど放散する匂いに、忍び歩きをするのも、知人と接する時にも、

不自由なことになるので
薫は、薫香などは用いない。

庭の花の木もこの人の袖が触れると、春雨後の枝の雫もすがしく香った。

秋の野のだれのものでもない藤袴は、この人が通ればもとの香が懐かしい

香に変わるのだった。

さりげなく薄桃色である尻尾  合田瑠美子

薫は19歳で、帝も后にも愛され三位の参議に昇進し、中将も兼ねていた。

臣下としてこれ以上幸福な存在はないと見られるのだが、心の中には

父や母に対する不幸な認識が潜んでいて、楽天的にはなれない。

貴公子に共通な放縦な生活をするようなことも好まなかった。

すでに円熟に達した老成なふうの男であると 人からも見られていた。
       
自分ながらも予期せぬ恋の初めの路に踏み入るようなことが、

もしあっては、
宮のためにも、自身のためにもよろしくないと思い、

女性は遠ざけた。


独りは寂しい独りは素晴しい  上山堅坊

しかし、人に愛されるべく作られたような風采のある薫であったから、

かりそめの戯れを言いかけたにすぎない女からも、好意を持たれて、

やむなく情人関係になったような、愛人と認めていない相手も多くなり、

女のためには秘密にするほうがよいと、思い、すべて蔭のことにして、

薫の誘うままに女を三条の母宮の所で、女房勤めをさせるようにした。
       
冷淡な態度を始終見せられているのも苦痛ではあったが、

絶縁されるよりはよいと女たちは思って、

女房勤めをする身分でない人々も
薫とはかない関係を続けることで、

自らを慰めているのだが、
その姿を、

目にするだけでも情感を受けられる人であったから、


どの女も強いて自分をを欺くようにして、この境遇に満足していた。

失恋に効きそう水の一気飲み  青砥たかこ


  右・匂宮と大宮

一方、匂宮といえば、薫とは対照的に女性好きでおしゃれ。

祖父の源氏の性格を受け継いでいるようだ。

そして薫に対してライバル意識を持っている。

そのため自分もいい匂いをさせようと、特別にいろいろの優れた香を焚き

匂いをつけたりすることに熱心で、個々の花を愛でたりする風流の心は、

少しも、持ち合わせてはいなかった。

例によって、世間の人は、「匂う兵部卿、薫る中将」と、言い立てて、

良い娘がいる高貴な所々では、心をときめかし婿にと申し出てくる人もあった。

とびきりに化けております鏡の中  北原照子

こういうことで、夕霧の右大臣は大勢ある娘の中の1人は、匂宮へ、

1人は、薫に、
嫁がせたいという希望を持っていた。
                  とうのないしのすけ
雲井雁の生んだ娘たちよりも、藤典侍にできた六女は、

ことにすぐれて美しく、
性質も欠点のない女の子であった。

劣った母に生まれた子として、世間が軽蔑して見ることを惜しく思い、

女二宮がお子を授かれず、寂しい様子であるために、

夕霧は六の君を典侍の所から迎えて、宮二宮の養女に差し上げた。
       
「よい機会に二人の公子に姫君の気配をそれとなく示したなら、

   必ず熱心な求婚者になしうるであろう、すぐれた女の価値を知ることは、

   すぐれた男でなければできぬはずである] と、大臣は思い、

六の君を后の候補者というような大業な扱いをせず、

はなやかに人目を引くような派手な扱いをして、

彼らの心を惹くようにした。


待っている酒が真水に還るまで  雨森茂喜

源氏が亡くなって、六条院にいた人たちの生活も大きく変っていく。

源氏に仕えた夫人たちは、泣く泣くそれぞれの家へ帰り、

六条院の中は寂しく人も少なくなって廃れていく様に、

明石の中宮の嘆くのを見た、右大臣の夕霧は、

「昔の人の上で見ても、生きている時に心をこめて作り上げた家が、

   死後に顧みる者もないような廃邸になっていることは、

   栄枯盛衰を露骨に形にして見せている気がしてよろしくないものだから、

   せめて私一代だけは、六条院を荒らさないことにしたいと思う。

   近くの町が人通りも少なく、寂しくなるようなことはさせたくない」

と言い、
東の町へ落葉宮を移し、

雲居雁の邸と一夜置きに月十五日ずつ正しく分けて
泊るようにした。

そして南町には女一宮二宮(東宮の弟)が住み

花散里は遺産として与えられた東の院に住んだ。

もぐると見える一身上の都合  山口ろっぱ


   匂 宮

【辞典】 光源氏逝去のその後

この寛では、匂宮という、2人の人物を中心にストーリーを引っ張る。
それとは別に、源氏亡き後の主な登場人物たちが、どうなっているのかが、
細かく語られている。
主には、光源氏が住んでいた六条院に暮らしていた人たちにスポット。

紫の上がいた六条院の春の町には、今上帝と明石中宮の子・女一宮が入り、
夏の町には落葉宮、秋の町は変らず、秋好中宮の里邸、冬の町は明石の君
もともと夏の町にいた花散里は、二条東院を相続しそこに住むことになる。
そして尼になった女三宮は、六条院を出て三条の宮邸に移り、勤行に励む。
女三宮の息子である薫はたびたび、母の様子をうかがいにここに訪れている。
そして夕霧の長女は東宮妃になった。
さらに二番目の娘も、東宮の弟・二宮に
嫁いでいる。
藤典侍が生んだ美人と評判の高い六君という娘は、子どものいな
い落葉宮の
養女にして、いずれは薫か匂宮の妻として向かえてもらえるように
備える。

葛根湯を骨折に処方せり  くんじろう

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消え方もいろいろとあり模索中  新家完司



大空を かよふまぼろし 夢にだに 見えこぬ魂(たま)の 行く方たづねよ

大空を自由に翔ける幻術士よ。
夢にも姿の見えないあの人の、魂の行方を捜してきておくれ

「巻の○ 【雲隠れ】」

41巻の「幻の巻」光源氏は一年の引篭もり生活の後、出家を覚悟して、

その美しい姿を人前に現した。

長大な「源氏物語」の中で、生きた源氏が登場する最後のストーリーです。

そして次の42巻からは、源氏亡き後の子孫たちの話になっていきます。

その41巻と42巻の間にあるのが、タイトルだけで本文のない、

空白だけの「雲隠」です。


41巻「幻の巻」は5歳、次の42巻「匂宮」では、14歳。

つまり、8年間の空白があるのです。

この空白を「雲隠」の巻名だけが埋めていることになります。

その後の、源氏の人生である出家や死を、この2文字で表しているのです。

とはいえ本文がないのだから、その8年間、源氏がどんな生活を送って

いたのか、何があったのか、詳細は分かりません。

考えさせてほしいと沖になっている  竹内ゆみこ

実際にこの巻名は、紫式部がつけたのか、後世の誰かがつけたのか、

そこにどんないたずら心が働いたのか、はっきりと分かっていなのです。

この「雲隠れの巻」については、古くからさまざまな説があります。

「紫式部による逆打ち切り説」

紫式部は、光源氏の死を以って『源氏物語』を終わらせるつもりであった。

ところが、40巻の刊行後に出版社とのいざこざがあり、それに切れた

紫式部が、その後の構想を何も言わず本人が雲隠してしまったというもの。


しばらくして、式部は他の出版社に移り、前の出版社への当て付けとして

予定になかった「41巻【匂宮】」を書いたというのである。

「紫式部なりきり」

燃え尽きた紫式部を諦め、第三者が式部の筆調を真似て、続編を書いた。

系譜から解き放たれて迷う蝶  笠嶋恵美子

「紫式部の記憶喪失」

40巻・幻の執筆後に、紫式部が源氏のいないシナリオにやる気が消えた、

か、
記憶喪失を装ったか、以後の構想を考える積極性をなくした。

「出版社の都合」

雲隠れは、余りにも俗悪な内容だったので、出版社が自主削除した。

「紫式部なりきり」

燃え尽きた紫式部を諦め、第三者が紫式部の筆調を真似て、続編を書いた。

系譜から解き放たれて迷う蝶  笠嶋恵美子

「人権団体の圧力」

実は本文があったが、それを読んだある中学生がその内容を人権活動家に

相談すると、瞬時、全国的な抗議運動にまで発展し封印を余儀なくされた。

「タイムパラドックス」

原稿紛失。あるべきはずの原稿が、消えてしまった。

「紫式部の思惑」

通説としては、作者の紫式部があえて巻名だけをつけ本文は書かなかった。

主人公の死を暗示させたままで詳細は描かない。

そんな斬新な手法を用いた、紫式部らしいところである

電柱の影で泣いてる影法師  岡谷 樹

「雲隠六帖」

天台宗の教典が60巻あったことから、源氏物語の54巻にも6巻を加え

同じ巻数にしようと考えた。

単なる数字合わせだったか。

 もしも、まぼろしとなった雲隠れが発見されれば、大事件ですが。さて、

「幻」の巻から「匂宮」の巻までに、述べた通り8年間の時間経過があり、

この間に源氏は、出家し嵯峨にて隠棲し、2、3年後に死去したと

「巻の49・宿木」に記されています。

種明かしはきっと あの世にてかしこ  佐藤美はる

【辞典】 第三部・薫の物語の主な登場人物

 柏木と女三宮の間にできた不義の子。世間では源氏の子と思われている。
    自分の出生の秘密を引きずりながら、煮え切らない幾多の恋を経験する。

匂宮 今上帝と明石中宮の子。源氏の孫にあたる。傷心の源氏を幼い無邪気
   さで慰めていたあの子どもです。大人になると、源氏も顔負けのプレ
            イボ
ーイぶりを発揮する。

明石中宮 源氏と明石の君の子。第三部では立派な皇后になっている。匂宮
   という女遊びが絶えない子どもをたしなめる母親として、物語の要所
            要所
で登場する。

夕霧 源氏の子。傷心の源氏を立派に助けていた夕霧も、第三部では、自分
   の子ども達を心配する親として登場。それでもまめな性格は変らない。

源氏 第三部では故人としてしか登場しない。がそれでも多大な影響力を残
   している。新しく登場するほとんどの人物に源氏の影が見え隠れする。

蔵人少将 夕霧と雲居雁の間にできた子。左大臣の娘と結婚するが、その後
   も玉鬘の姉君を恋慕する。

玉鬘 前太政大臣の子、母は夕顔。かつて多くの男性から結婚を求められた
   が、結局は髭黒と結婚した。

姉君 玉鬘と髭黒のあいだにできた子。冷泉帝のもとに入るが、他の妻たち
   の嫉妬を受ける。

動かない波になったらお婆さん  八上桐子

拍手[4回]

コロコロ携え草ぼうぼうの駅に立つ  山口ろっぱ


  匂宮と明石の君

 わが宿は 花もてはやす 人もなし 何にか春の たづね来つらむ

「わたしの家には花を喜ぶ人もいませんのに、どうして、
    春が訪ねて来たのでしょう」

「巻の41 【幻】」

新年が改まっても、紫の上の死の衝撃があまりにも深かったので、

暖かい春の光のなかにいても、光源氏の悲しみは去りません。

例年のように人びとが年賀に来ても、源氏は「気分のすぐれない」と伝え、

誰とも会おうとしない。

 「人に会う時だけは、しっかりと落ち着いて冷静にいようと思っても、

    今の茫然としている身の有様や、時に起こす愚かな間違いを、

       迷惑がられては、死後の評判まで悪くなってしまう。

       譬え呆けたという噂がたったとしても、見苦しい姿を見せる方が辛い」

といい、夕霧が訊ねてきても、御簾を隔てて会うのが、精一杯であった。

こんなにも無口が似合う春霞  清水すみれ

なぜ 出家させてやれなかったのか。

なぜ 悲しませてばかりいたのか。

女三宮を迎え、紫の上の部屋に戻ったら、

彼女は涙を隠していたではないか。


今さらながら紫の上が可哀想で、自分の浅はかさが悔やまれてならない。

人が噂するに違いない時期だけでも、じっと心を静めていなければと、

我慢して過ごしてる一方で、世間体や面倒をみてくれる女房などのことを

考えると、憂き世を捨てる踏ん切りをつけることはできない。

夫人たちの元へ稀に顔を出しても、真っ先に涙が止めどなくこぼれ、

まことに具合が悪くて、どの部屋にも無沙汰がちになってしまう。

花びらを数えて一日を終える  竹内ゆみこ


匂宮と源氏と明石

そんな中でも、紫の上が可愛がっていた匂宮の相手をしているときだけは、

源氏も少しは、元気が出る。

明石の宮は、それを知って源氏の慰めに匂宮を残し、内裏にひとり帰る。

無心に遊ぶ匂宮は桜が散ってしまわないように、

「几帳を木の周りにおいて
風を防ごう」と、可愛いことを言う・・・

こんなとき源氏のこころもほころぶ。


「梅や桜を楽しんで・・・お祖母様がおっしゃったから」 

と紫の上から言われたことを忘れていないのだ。

2月になると、梅の木々が花盛りになったのも、まだ蕾なのも梢が美しく、

一面に霞んでいるところに、あの形見の紅梅に、鴬が陽気に鳴き出した。

それを観ながら

「いよいよ出家するとなると、すっかり荒れ果ててしまうの


   だろうか、亡き人が心をこめて作った春の庭も」 

見るもの見るものに、亡き人のことが思い出されてくるのである。


折り紙に命ふきこむ小さな手  寺島洋子

少し気分を変えようと、源氏は尼宮(女三宮)のところへ行くことにした。

尼宮は花を愛しむ気持ちなどはさらさらなく、とても幼いままの様である。

ちょうど仏前で経を読んでいた。

たいした信仰によって入った道でもなかったが、人生に何の不安もなく、

余裕のある身分であるために、専ら気まぐれに仏勤めができ、源氏は、

その他のことにも一切無関心でいられる様子が、はうらやましく思った。

浅い動機で仏の弟子になった人にも、劣る自分であると残念に思った。

裏返しのままで浮んでいる豆腐  平井美智子
あかだな
閼伽棚に置かれた花に、夕日が照って美しいのを見て、源氏は、

「春の好きだった人の亡くなってからは、庭の花も情がなく見えますが、

   こうした仏にお供えしてある花には、好意が持たれますね」

また、

「対の前の山吹は、ほかでは見られない山吹ですよ、

   花の房などがずいぶん大きいくて、品よく咲こうなどとは思っていない

   花と
見えますが、にぎやかな派手なほうでは、優れたものなのです。


 植えた人がいない春だとも知らずに、例年よりもまたきれいに咲いて

    いる
のが、哀れに思われます」 と言うと、女三宮は、

「谷には春も無縁です」と、勤行に専念しているようで冷たいあしらい。

「ほかに言い方もありそうなものを」と、源氏はそう心に思いながら、

紫の上なら、こんな思いやりのないことを絶対に言わない女であったと、

少女時代からの紫の上のことを追想するのだった。

価値観のちがう女とたそがれる  桜 風子

源氏はそこからすぐ明石の君を訪ねる。

さすがに彼女はたしなみ深く、すぐに感じよく席を設けてくれるなど、

傷心の源氏を気遣ってくれる。

この人のだれよりも怜悧な性質は見えるものの、紫の上は、

「こうでもない高雅な上品さがあった」と、思い比べては、

その幻ばかりを追いかけて、悲しみがさらに増す。

ときどきは深いところをかきまぜる  田村ひろ子


 出家を思う源氏

そして明石の君とは、昔の話などをする。

「若い頃は逆境も経験し、どんな野山の果てで、命を果たしてしまっても

   惜しくはないと思っていましたが、年がいって死期が近づく頃になって、

   いろいろな係累を増やすことになった為に、今まで出家も遂げることが

   できないでいるのが自分で歯がゆくてならなりません」


などと、紫の上と死別した悲しみとは関係ないように、言っているが、

明石の君には、源氏の内心は分かっている。

「昔の例を見ても、突然、心の傷つけられるような悲しみに会うとか、

   大きな失望をしたとか言うような時に、厭世的になって出家をする

   という
ことは、あまり褒められることではございません。


   もうしばらくご発心を延ばして、宮様がたも大人におなりになり

 不安なことなどが一切ないころまで、このままでご家族に動揺を

 与えないようにしていただけましたら、大変うれしく存じます」

ありふれた話でいいのもう少し  阪本こみち

「恋愛の深さ浅さと故人を惜しむ情とは、別なものだと思います。

    少女時代から自分が育ててきた人と、一緒に年をとり今になって、

   一人だけが残されて、一方が亡くなってしまったということに、

   自らを憐んで、また
故人について、その時あの時と、あの人の感情の

 美しさの現われた
時とか、あの人の芸術とか、複雑にいろいろなことが

 思い出されるたびに、
深い哀愁に落ちていくのです」 


など、亡き紫の上の昔のこと今のことを、語り合って夜は更けていく。

そして、このまま明石の君のところで、

「泊まっていってもよい夜であるが」とは
思いながら

源氏が帰っていくのを見て、明石の君は一抹の物足りなさを感じている。


源氏も自身のことを、怪しく変わってしまった心であると思うのだった。

野暮なこといいっこなしの膝と膝  田口和代

一周忌の法要が済んでも、かつてのような源氏は戻ってこない。

季節の風物を見ても何もかもが、紫の上と結びつけてしまう。

菊、雨、蓮の花・・・・・。

年末、源氏は女房などに形見の品を分け、紫の上の手紙も焼いた。

出家の覚悟ができたのだ。
    おぶつみょうえ
年末の御仏名会で、源氏は籠もっていた部屋から出て、

初めて人前に顔を見せた。

その姿は、

以前にも増して美しく、眩しいばかりの神々しさだったという。

これからの日々は淡彩画のように  新家完司

【辞典】 光る光源氏

約一年、紫の上を思いながら、ごく親しい人としか会わなかった光源氏が
やっと人前に顔をみせ、その素晴らしい容姿に周囲が感動したことを示し、
幻の巻は描かれている。これまでの憂鬱な日々を払拭してくれる華々しい
最後です。この幻には、「ご容姿、昔の御光にもまた多く添ひて、ありがたく
めでたく見えたまう」と源氏の美貌が表現されている。昔評判だった光輝く
姿よりも、もっと美しくなり見事だと言っているのである。
 女三宮の登場以来、源氏は慌てふためく姿や、悲しみにくれる姿ばかり
で源氏の美しさを示す描写は薄れがちだったが、紫式部は「やはり源氏は
美しかった」と締めくくり、源氏を主人公とした物語は終わるのです。

一幕の劇の終わりに見る夜景  中野六助

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