逆立ちの目の高さより出直そう 森中恵美子
大 坂 城
「大坂城での暮らし」
信長の長男・信忠の子・三法師(織田秀信)は、
信雄の清洲と、秀吉の山崎、の中間に位置する安土にいたが、
そのままにしておいては危険なので、秀吉はとりあえず、
丹羽長秀の居城になっていた坂本城に、三法師を移した。
もっとも、坂本城に三法師が移ったその翌年に、丹羽長秀は亡くなり、
その子の長重は減封されて、坂本城を失ったので、
三法師は、こののち、文禄元年(1592年)ごろ、
岐阜城主になるまで、秀吉のもとで過ごした。
ジョーカーは胸の谷間に隠しとく 中岡千代美
坂本城の石垣跡
初と茶々も、新しくできた「大坂城」で暮らすようなる。
お江もまた、佐治と別れて戻ってきていた。
小牧長久手の戦いで、家康が尾張から三河に戻るときに、
佐治与九郎(一成)が船の手配をしたのが、秀吉の逆鱗に触れ、
離縁ということになったのである。
茶々が重病なので、「急ぎ大坂へ」という口実でせきたてられ、
与九郎とも、交わす言葉もそこそこに、
別れなければならなかった・・・・・
揚げ足を取って難儀を捏ねている 森 廣子
大坂城へ戻ってきたお江は、与九郎のことを思い出して、
泣き暮らしていた。
しかし、与九郎は城も取り上げられ、
伯父の信包のところで、居候ということになった。
お江は、
「もはや戻るべきところもない」 と悟らざる得なかった。
まぼろしを剥がしつづけた現在地 たむらあきこ
現在の大坂城と大手門
大坂城とはいえ、現代に残る綺麗に切った巨石を積み上げた石垣や、
櫓や門は、「大坂の陣」後に、徳川秀忠が築いたもので、
三姉妹や三法師が暮らした秀吉時代の石垣は、
安土城などと同じように、
小さな自然の石を積み上げ
建物は黒い漆塗りの板を張り、
金の瓦など飾りが、たくさんついたものであった。
この大坂城、そして、のちの「聚楽第」には、
秀吉の養子や、人質として預かっている人たちが、たくさん住み。
懐の深い北政所のもとで、とても賑やかで夢のような
生活を送ったという。
善悪が潜む人間やめられぬ 和泉冴子
『大河ドラマ・お江・「猿の正体」-みどころ』
江(上野樹里)は、過ぎ去ったことは忘れ、
前向きに生きていこうと、心に決めた。
だが、秀吉(岸谷吾朗)に対する仇討ちは、まだ諦めていなかった。
仇討ちをするに当たって、
手始めに秀吉の弱点を探り出さなければならない。
そこで、江は城内の事情に詳しいヨシ(宮地雅子)を相棒に、
早速、行動を開始。
秀吉に近い人物から秀吉のことを探り始める。
だがそこで目にしたのは、皆が秀吉を慕っている様子。
弱点につながるようなほころびは、まったく見いだせない。
虎描けばネコ猫描けばトラになる 新家完司
思うままに行動する江に、振り回されながらも、
いつも傍にいて、彼女を支えるヨシ。
ヨシは江にとって、姉たちとは別の、かけがえのない存在。
大河では、このヨシを江の諜報員のような役割を与えている。
実は彼女、大坂城に来て日が浅いにもかかわらず、
城内の情報をくまなく集め、
それをしっかりと帳面に書き留めている。
ヨシの探偵気質は、これからも何度となく江の役に立つ。
目の前に誰かが開けた覗き穴 井上一筒
気を取り直し、今度は秀吉の側近中の側近である三成(萩原聖人)や、
秀吉の弟・秀長(袴田吉彦)、軍師の官兵衛(柴俊夫)などを訪ねるが、
彼らから聞き出せたのは、
「人を見る目が確か」 「身内思い」 「優しい」
といった美点ばかり。
江は、思うようにことが運ばない苛立ちを感じながら、
次こそはと、秀吉を最もよく知るおね(大竹しのぶ)に会いに行く。
だが彼女も期待を裏切り、
「夫のおかげで今の私がある」
という感謝の言葉を口にするのだった。
背景にゆれてばかりのユキヤナギ 清水すみれ
それから、数日後、江のもとに秀吉の遣いが来た。
江は、本人に聞く良い機会だと思い、勇んで秀吉のもとに行く。
秀吉は、江が自分のことを聞き回っていることを、
知っていた。
だが、今日、江を呼び出したのは、それとは関係なかった。
甥の秀次(北村有起哉)のことで、
信長譲りの知恵を借りたいということだった。
解凍は軽いキッスで始めよう 奥山晴生
すぐに四国攻めも始まる。
秀次は、小牧・長久手の戦い以来、不甲斐ない戦いに落ち込んでいる。
秀吉にとって、ゆくゆくは跡継ぎにと考えている秀次が、
いまの体たらくでは困る・・・。
すぐに四国攻めも始まる。
そこで、江にどうしたらいいか、意見を聞きたいのだと言うのだった。
江 「秀吉殿が出陣しなければよいではありませんか。
すべてを秀次殿にしょわせるのです。
さすれば、あのお方も覚悟が定まりましょう」
秀吉 「秀次の覚悟か・・・」
落ちそうな椿の首にセロテープ 杉山ひさゆき
それから暫くして、
秀吉が病床に臥せっているという情報が入ってきた。
今は四国攻めの最中のはずである。
江は、秀吉の部屋に行ってみると、
至って秀吉は元気で、病というのは仮病だった。
江の意見を聞いた後、秀次にすべてを任せようと、仮病を使ったのだ。
江は、天下の秀吉が、自分ごとき小娘の意見を真剣に聞き、
実行したことに驚いた。
もう一度あなたの声が聞きたいの 長崎緋美
すると、秀吉は、「お屋形さまもそうじゃった」と言う。
秀吉 「わし如き、百姓出身の男をお信じになり、取り立ててくだされた・・・。
それに比べれば秀次は身内じゃ。
信じぬわけには参るまいて。 のう?」
そこへ、四国攻めの戦勝の報告が来る。
それを聞いた秀吉は、秀次も自分も壁を越えたと喜ぶ。
春になると力だめしをする素質 立蔵信子
江は、これまでの鬱憤を秀吉にぶつける。
秀吉 「わしは、そなたが怖いのじゃ・・・」
江 「だから、夫とともに死すればよいと?それ故に戦をしかけたのか?」
秀吉 「そうではない。もし、そうならそなたを呼び戻したりはしておらぬ」
江 「ではどうして・・・」
秀吉 「・・・淋しゅうての」
江 「淋しい?」
冬木立寂しい顔を武器にする 美馬りゅうこ
秀吉 「お屋形様に誰より似ておるそなたじゃ。・・・少しでもお屋形様に近づきたい。
そして、『それをお屋形様にご覧に入れたい』
という思いがあるゆえであろうかの・・」
江 「私は伯父上ではない! それに、伯父上に近づくなど・・・」
秀吉 「わかっておる。・・・じゃが、近づきたかった。
それゆえ、そなたを養女にまでしたのやもしれぬ」
その秀吉の言葉に、江は意味もわからず怒りが込み上げて来る。
血眼になって探している鼓動 三村一子
そして、これまでの秀吉の自分への仕打ちを責める。
次第に涙声になり、泣きながら秀吉を責める。
すると、秀吉も泣きながら謝るのだ。
秀吉 「泣くな・・・江・・・いや、お江様・・・なんでもよいから、泣くな。
そなたが泣くと、わしも・・・わしも」
江 「泣くな!猿の分際で・・・」
秀吉 「猿とて、泣くのじゃ!」
二人は声を出して泣き続けた。
むらさきの殺意とももいろの殺気 板野美子
姉たちのもとに戻った江は言う。
江 「・・・姉上、私・・・はひとつだけわかりました」
茶々 「わかった?」
江 「猿は大嘘つきです・・・」
初 「そのようなことはわかっておるわ」
江 「でも・・・、その大嘘の中に 『まこと』 があるのです」
茶々 「まこと・・・?」
江 「その、まことに・・・、人は動かされるのです。心動かされてしまうのです」
江の秀吉への怨みも、この日だけは、
すっかり消え去ったようだった。
原点に戻るいやいやではあるが 岡田陽一
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