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川柳的逍遥 人の世の一家言
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傘を失くして立冬という駅に着く  岡谷 樹


  宇治10帖相関図  (拡大してご覧ください)


橋姫の 心を汲みて 高瀬さす 棹のしづくに 袖ぞ濡れぬる

宇治川近くで橋を守る伝説の橋姫のようなあなたがた姫君。
その寂しいお気持ちを察すると、棹にかかる水の雫のように、
私の袖も泣き濡れてしまいます。

「巻の45 【橋姫】」

京の都から少し離れた宇治の地に亡き桐壺院八の宮が住んでいる。

この八の宮は、冷泉院光源氏の異母弟にあたる。

身分は高貴だが、王位をめぐる争いに巻き込まれ、さらに京にあった邸も

焼失したため、逃れるようにして宇治の山荘に移り住むようになった。

八の宮の妻(北の方)も大臣の娘だったが、思いの外の逆境に置かれて、

結婚の当初、
親たちが描いていた夢を思い出すにつけても、

余りな距離のある今の境遇が、
悲しみになることもあるが、

唯一の妻として愛されていることに慰められて、


互いに信頼を持つ相愛の夫妻であった。

間引かれた方の仲間に入れられる  安土理恵

夫妻は何年経っても子に恵まれず、寂しい退屈を紛らすような美しい子供

がほしいと時々、呟き願っていたら、思いがけぬ頃に美しい姫が生まれた。

この姫を大そうに愛し、育てているうちに、ふたたび妻が妊娠。

今度は男がいいと望んだのだが、また姫君が生まれた。

安産であったが、産後に妻は病に犯され黄泉の人となってしまう。

この悲しい事実の前に八の宮は、涙に明け暮れる日々が続くが、

歎いてばかりもしておられず、姫たちを男手一つで育て、

わずかな侍者とひっそり暮らしていた。

拵えて自宅待機のすすきです  内田真理子

山奥に隠れ住んでいるものを、はるばる訪ねてくる人もない。

朝霧が終日、山を這っている日のような暗い気持ちで暮らす中、

八の宮は仏道修行に励み、心を清く持ち続けた。

この宇治には聖僧として尊敬される阿闍梨が一人いる。

もともと宮は、仏道の学識の深さを世間からも認められていながら、

宮廷のご用の時などにも、なるべく出るのを避けて、山荘に籠もり

仏道研究に没頭し、宗教の書物をひたすら読み耽った。

これが聖僧として尊敬される宇治の阿闍梨の知るところとなり、

時々、訪ねて来てくれるようになる。

鬼門から抜けて小さな咳をする  桑原伸吉


 八の宮の姉妹

この阿闍梨から、この世はただかりそめのもの、

味気ないところであると
教えられ、宮は、

「もう心だけは仏の御弟子に変わらないのですが、私にはご承知のように

  年のゆかぬ子供がいることで、この世との縁を切れず僧にもなれない」

と言う。

阿闍梨は、冷泉院へも出入りをしており、院の御所を訪れた折、

「八の宮様は聡明で、宗教の学問はかなり深くでき、仏さまにお考えが

   あって
この世へお出しになった方ではないだろうか、

   悟りきっている様子は、
すでに立派な高僧です」という。

この話に院は、


「まだ出家はされていなかったのか。

  『俗聖』などと若い者たちが名をつけているが、 お気の毒だ」と洩らす。

臍みせて楽になりたいなと思う  笠原道子

この冷泉院と僧との、八の宮の噂を薫もその場にいて、聞き入っていた。

薫は自分も人生を厭わしく思いながら、仏道について何もできていない

ことを
遺憾に思いながら、今こうして八の宮の悟りの心境にふれ、

一度会って、教えを乞いたい
と思った。

そして八の宮の山荘を訪ねる。


阿闍梨から話に聞いて想像したよりも、山荘は目に見ては寂しい所だった。

山荘といっても風流な趣を尽くした贅沢なものもあるが、

ここは荒い水音、
波の響きの強さに思っていることもかき消され、

夜も落ち着いて眠れない。


素朴といえば素朴、すごいといえばすごい山荘だった。

そして、こんな家に住んでいる姫たちは、どんな気持ちで暮らしているの

だろうかと薫は想像を膨らます。

雑草よいっぺん笑うたらどうや  筒井祥文


足繁く山荘を訪う薫

2人の姫は、仏の間と襖子一つ隔てた座敷に住んでいる。

女好きの男なら、どんな人が住んでいるのだろうと思うところだが、

薫は
師にと思う方を尋ねて来ながら、女にうつつを抜かす言行があっては

ならない
と思い返し、この気の毒な生活を懇切に補助することに、

心を切り替える。


それから薫は、八の宮に足繁く通い始める。

恋に落ちないように片側を歩く  中野六助


姉妹を垣間見る薫

薫が山荘に通うようになり、冷泉院からも様子を聞かれることも多々あり、

寂しいばかりの山荘にも、ぼちぼちと京の人の影が見えるようになる。

そして院から補助の金品を年に何度か寄贈もされることになった。

薫も機会を見ては、風流な物、実用的な品を贈ることを怠らなかった。

雪のふる音にあわせる願いごと  河村啓子


   姉妹を覗く薫

三年が経ち、少し間が空いてしまったが、薫は再び、八の宮を訪れる。

しかし八の宮は、7日間の仏道修行のため不在。

迷っていると家の中から、琵琶を奏でる音が聞こえてくる。

薫は侍者に言って、よく聞こえる場所に行くと、

垣根の隙間から大君と中の君が
楽器を楽しんでいる。

薫は美しい2人に心を奪われてしまう。

やがて邸の門に戻ると、年老いた女房が薫の対応に出てきた。

弁の君という名の姫たちの世話役を勤める女である。

年令は60前ぐらいか、優雅なふうのある女で、品もよい。

弁は急に他人が聞いても、同情を禁じえないだろう昔話を語り始めた。

薫が長い間、知りたかった自分の出生のことなども弁は知っている。

弁は亡き柏木の乳母子であった。

自分の本当のことを知る人に、偶然めぐり合えたことに薫は泣いた。

エレキバン偶数日には左肩  雨森茂樹

柏木が亡くなる直前、遺言を聞かされたという弁は、その時、真実を

どのように薫に伝えればよいものか分からず、今日にいたってしまった。

しかし今、薫が八の宮に訪ねてくることは、仏のお導きにほかならない。

このまま伝えるべき人に会えなければ、命も少ない老人が持っていても

仕方が無いので、焼いてしまおうと考えていた手紙も預かっているという。

手紙の入った黴臭い袋を弁は薫に渡した。

「あなた様のお手で御処分ください。もう自分は生きられなくなった」

と柏木が言い、弁に渡したものだという。

薫は弁から渡された柏木と女三宮の恋文に複雑な思いにかられる。

薫はなにげなくその包を袖の中へしまった。

哀しみに音あり淡い彩のあり  嶋澤喜八郎


薫 弁から袋を受け取る

薫は自邸に帰って、弁から得た袋をまず取り出してみた。

細い組み紐で口を結んだ端を紙で封じ、大納言の名が書かれてある。

薫はあけるのも恐ろしい気がした。

いろいろな紙で、たまに来た女三の宮のお手紙が五、六通ある。

そのほかには柏木の手で、

「病はいよいよ重くなり、忍んでお逢いすることも     
困難になった

   こんな時さえも、あなたを見ていたい心がそちらを向いている。


   あなたが尼になったということを聞かされ、また悲しく思っている」

ことなどを
檀紙五、六枚に一字ずつ、鳥の足跡のように書きつけてある。

書き終えることもできなかったような、乱れた文字の手紙もあった。

行き先を忘れたらしい蝶が一匹  森田律子

母宮の居間のほうへ行ってみると、無邪気な様子で母は経を読んでいた。

今さら自分が父と母の秘密を知ったとて、知らせる必要もないと思って、

薫は
心一つにそのことを納めておくことにした。

はつゆきや連れてくるのは過去ばかり  清水すみれ

【辞典】 隠棲を余儀なくされた八の宮の経緯

かつて八の宮は陰の東宮候補になったことがある。
これを後押ししたのが弘徽殿大后。源氏の母・桐壷更衣を苛めた人である。
さらには朧月夜の事件で、源氏を政界から追い出そうとした張本人である。
弘徽殿大后はこの事件で源氏が須磨・明石へ離れている間に、当時東宮
だった冷泉院を廃して、八の宮を次期の帝になる東宮にしてしまおうと
陰謀
を企んだのだった。

しかし、その企みは源氏の政界復帰によって打ち砕かれてしまう。
源氏の勢力が増すにつれ弘徽殿大后の発言力は低下し、それに伴って担
ぎ出された八の宮も周辺から敬遠される人物になってしまったのである。
それまでは普通の生活が出来ていたのに、この陰謀があったばかりに勢い
のある源氏に恨まれてはいけないと、八の宮から人が離れていくのである。

三隣亡でも茶柱が立つ不思議  武市柳章

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