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川柳的逍遥 人の世の一家言
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四角張った話止めましょ花曇り  柴本ばっは



 (拡大してごらんください)
   金原亭馬生画「長屋の花見」
趣味は絵というだけにうまいものです。


「噺家と川柳」

 

昭和5年ごろ、噺家と親交のある川柳家・坊野寿山4代目柳家小さん
と5代目・三遊亭圓生「俳句をするのに、どうして川柳をやらないん
ですか」と声をかけた。寿山とは、明治33年(1900)、木綿問屋の五男
として裕福な家庭に生まれ、落語が好きだったことから、「旦那」とし
て噺家たちと親しく付き合う川柳人である。寿山の川柳は大学在学中の
21歳ころ、川柳六大家の活躍に合せるように始まったという。寿山の
指摘の通り小さんは俳句については造詣が深く、句作にも自信があった。
「俳句が詠めるんだから、川柳だって…」とその気になり、圓生も乗り
気で「寿山先生が教えてくれるというなら、噺家仲間にも声をかけてみ
ましょう」ということで、噺家による川柳の会が発足した。
名称は「鹿連会」になった。そしてその年、根岸の寿山宅を会場に第一
回句会が催され、そうそうたるメンバーが揃った。
メンバーの名はその時、提出された川柳にて紹介。

 

確信犯だと思う貴方との奇遇  前中知栄

 

拳を打つ男同士へ花が散り  黒門町の師匠ー桂文楽
鼻歌で寝酒も寂し酔い心地  柳家甚五郎ー古今亭志ん生
姐芸者こんな香水けなしてる  三遊亭圓生
縁起物お召しのドテラ使われる  ゲロ万ー金原亭馬之助
三階で見ればダンスは足ばかり  毒舌家ー桂文都
誘惑の眼すんなりと美麗な手  8代目小三治
押入れの枕が落ちる探しもの  柳家小さん
言い訳の顔は煙草の煙の中  紙切りの初代ー林屋正楽
また聞きは本当らしい嘘になり  玉井の可楽ー7代目三笑亭可楽
新所帯雑誌を読んで眠くなる  春風亭柳楽ー8代目三笑亭可楽

 

鼻の下由緒正しく持ち歩く  森田律子

 


 (画面をクリックすると画像が大きくなります)
「鹿連会」11人の噺家たち
左から圓蔵、柳枝、正楽、志ん生、文楽、圓歌、西島〇丸、坊野寿山、
右女助、馬生、小さん、三木助、圓生

 

それにしても弱冠30歳の寿山が自分よりも年上の、一癖も二癖もある
噺家蓮中を向こうに回して川柳指導をする。よくもまあ、「こんな会が
成り立ったものだ」と感心するばかりだが、実際のところ寿山の「力」
はなかなかのものだったようだ。しかし寿山の熱意とは別に、好きもの
とはいえ、気まぐれな人たちの集まり、この会(第一次)は、わずか2
年で自然消滅してしまう。
それから23年。寿山は53歳のとき、6代目・圓生が、同じ齢の寿山
に「先生戦前にやっていた川柳会をやってみたいのですが」「それなら
あんたが幹事だよ」と阿吽の息の会話から、圓生が奔走し、寿山ほか四
谷西念寺住職であり川柳会会長の西島0丸(れいがん)が加わり、落語
家11名、計13名のメンバーで「第二次鹿連会」スタートした。
こちらの会は、10年以上続き、毎月句会が開かれた。

 

納豆を食べて粘着質になる  新家完司

 

11名の落語家の作品。
指の爪生まれもつかぬ色になり  園生
借りのある人が湯船の中にいる  志ん生
鳥鍋を突っつきながら金の事  文楽
鼻歌も欠伸もうつるいい天気  右女助
ゼンマイを巻くにノッポは使われる  小さん
総絞り広巾に〆め金鎖  正楽
あれ以来宮本鍋蓋イヤになり  圓蔵
女房の帯から這入る年の暮  三木助
鉛筆の押し売りがくる昼下がり  馬生
ふぐさしは皿ばかりかと近眼みる  柳枝
神近が落ちて喜ぶ牛太郎  圓歌

 

うやむやで済ませた過去が通せんぼ  上田 仁

 


テレビ出演後の記念写真
古今亭金馬や徳川無声の顔も見える。    

6代目圓生、5代目小さん、寿山の三人の当会の感想がある。
(圓生)
「この会は噺家としての看板が揃っていたし、しかも句がおかしんだ」
(小さん)
「うまいんじゃなくて、おかしいのね」
(寿山)
「でも噺家さんは選者の言うことを聞いてくれない。私が出す席題が
気に入らないと、皆、平気で『悪い題だ』って文句いうんだもの」
圓生の言葉通り、鹿連会の同人には、昭和の名人上手がずらりと並ぶ。
そんな大看板が次々と「おかしい句」を拵えるのだから、世間の注目
を集めるのも当然だった。
31年6月、新築した寿山宅での例会が「落語家と川柳」の題でラジオ
東京から放送され。
32年には、雑誌「淡交」「鹿連会」の特集を組むため、句会の取材
にやってきた。それならばと「ミニ茶会」が始まった。
最年少の馬生が緊張で手を震わせながら茶を点て、皆、よそ行きの顔で
川柳を作った。
そして同じ年の暮、人形町末広の高座で鹿連会を開催した。
即席川柳がウケること、ウケること。
その上がりを待って四谷に繰り出し、ついでの忘年会として大騒ぎ、
「猫(芸者)三匹呼んだ」というエピソードまである。

 

大仏が歩きだしたら人気者  ふじのひろし




 
正月 馬生以外家族勢ぞろい

 

「いだてん」の縁で古今亭志ん生の川柳にページをさきます。
志ん生は、川柳の師匠・坊野寿山に川柳を愛するわけを話した。
「川柳くらい、いい道楽はない。安くて人に迷惑をかけず、腹も減らず、
落語にも役に立つ。倅が酔って遅く帰ったりすると、川柳をやれという
んです」
志ん生の句風は自然流。面倒な作句法などは一切なし。暮らしの中で
見聞きしたことを思ったまま、575にする。
ただそれだけなのに、何ともいえない可笑しみのある句を作る。
干物では秋刀魚は鯵にかなわない
サンマの干物を見て感じただけなのに…、昭和の落語名人たちが呆れ、
感嘆したというのだから、落語家はやっぱり面白くておかしい。

 

笑い過ぎて繁盛亭に住みつく蚊  森吉留理恵

 

戦前の貧乏時代、志ん生(甚五郎)は、お金にまつわる川柳が多い。
抱きついてキッスを見るに金を出し
「志ん生はどんな題が出ても、まず酒と結びつけて句を作る」
とは、鹿連会同人ほぼ全員の見解である。
パナマをば買ったつもりで飲んでいる
この志ん生のすすめで、俳句や絵画が好きだった長男の馬生は戦後、
同会の最年少同人となり、(最後まで最年少の身分は変わらず)
小間使いを兼ねて、いやいや川柳を作ったという。
その作風は「貧乏」が代名詞だった志ん生の家で育ったのに、「貧乏」
を扱った句が見当たらない。志ん生は貧乏そのものを楽しんだが、
馬生は「父ちゃんのおかげで苦労した」という思いが強かったようだ。

 

円周率1000桁言えるのに迷子  清水すみれ

 



志ん生の膝に池波志乃、おりんさんの膝に美濃部由紀子

 


「馬生の次女・美濃部由紀子さんの回想」
祖父・志ん生、父・馬生、叔父・志ん朝は、芸風も性格も全く違う三人
三様なら、趣味も三人三様でした。志ん生の「飲む打つ買う」は有名で
すが、さすがに年を取ってからは「飲む」だけは変わりませんでしたが、
趣味は「川柳と骨董道楽」に落ち着きました。
志ん生の骨董道楽は一風変わっていて、好きで買っても数日で飽きて売
ってしまい、売った先でまた何か買うの繰り返し、何が楽しかったのか、
私が思うに店の店主とのやり取りが楽しかったのではないでしょうか。

 ひっそりと電話を見てる女あり  馬生
 

父・馬生「川柳」もやりましたが「俳句」の方が好きでした。
「日本画・日舞・長唄小唄・カメラ」など多趣味でしたが、晩年はもっ
ぱら俳句でした。父と母は10代の頃、同じ日舞の稽古場で知り合い、
お互い惹かれ合いましたが、弟子同士の恋愛はご法度。そっと俳句で気
持ちを伝えあうという粋なお付き合いをし、結婚しましたので、恋女房
とゆっくりお酒を酌み交わしながら、俳句の話をすることを何よりの楽
しみにしていました。また父は、あの通りの破天荒な人だから、祖父の
替わりに父は10代の頃から家族を養い、祖父が亡くなるまで父親代わ
りに面倒を見てきました。それでも祖父からは、何の引き立てもなく、
自身の力で名人といわれる人になりました。まさに努力の人です。
叔父・志ん朝は志ん生が48歳のときの子。貧乏からやっと抜け出した
後の誕生でしたから何不自由なく育った大店の若旦那の様な人でした。
趣味もやはりそれらしく「車、ゴルフ、ジャズ」
15才の頃にジャズに凝り、ビニールを張った洗面器をいくつも並べ、
ドラムの練習だと暇さえあればボンボン叩き、やかましかった。
三人の共通点は三人とも芸の虫。それでも家で三人が芸談をする事は、
ほとんどなかったと思います。

 

秘書は有能水増しを匙加減   山口ろっぱ        

 

今回の文章は、この回想を語る美濃部由紀子さんと長井好弘さんの共著
『落語名人たちによる名句・迷句「昭和川柳」』を参照しています。
由紀子さんは、志ん生の長男・馬生の次女として、父のマネージャー兼
付き人をしており、写真を見るところ、姉の池波志乃そっくりの色っぽ
い美女である。義兄に中尾彬、叔父に古今亭志ん朝、長男は金原亭小駒
という落語・芸能一家の中で育った。
志ん生の次男・志ん朝(6代目志ん生)は第二次鹿連会には間に合わず、
「仔鹿会」を発会させている。
最後に「仔鹿会」の作品を少し紹介して終ります。

タクシーは客の片手を見逃さず  三升家勝二
岸総理涙をのんで国産車  柳亭小団次
泳いでる人まで逃げる俄雨  柳家小さん(4代目小せん)
トースケがよくて前座の長い夜  古今亭志ん朝
んでない隠居のふところ手  三遊亭余生(5代目圓楽)
くだらない司会でやっと売れてくる  林家三平
めざましにせめられている二日酔い  柳家小ゑん(五代目立川談志)
スタイルを気にする前座背がほしい  橘家升蔵(8代目橘家円鏡)

(志ん朝の「トースケ」とは楽屋の符丁で「ご面相」のこと。
 イケメンは前座でも、二日働けば吉原で遊ぶ金ができると)

 

タクシーで帰るタクシー運転手  くんじろう

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