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川柳的逍遥 人の世の一家言
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一族の顔認証で開く襖  月波余生




        暁に帰らむ人は イメージ





枕草子における「随想的章段」は、清少納言が自然や人事を観察して思った
ことを自由に書いたパラグラフである。
たとえば「春はあけぼの」は、こちらに分類され、春夏秋冬それぞれに風情
を感じる瞬間について、独特な感性で鋭く表現している。
その他、別れ際における恋人のあるべき姿を描いた「暁に帰らむ人は」や、
他人の噂話や陰口を言う人への、痛快で新しい意見を述べた「人の上言ふを
腹立つ人こそ」のパラグラフなどがある。




とんがった耳はどこでもドア越えて  富山やよい




式部ー枕草子 「にくらしいもの」






          火鉢  (滴翠美術館蔵)
「にくらしいもの」では、火鉢の火にあたりながら手のひらを返し、シワを
のばしている人や、話ながら足までのせてこすっている人が挙げられている。




「にくらしいもの」
にくらしいもの。急用のあるときやってきて、長話をする客。
適当にあしらえる人なら、「あとで」といって帰ってもらえるけれど、
さすがみ気がおけて遠慮のある人は、そうも言えないのでにくらしくなる。
 硯に髪に毛の入って磨られているのなど。
 また、墨の中に石が入っていて、磨るときしきしと鳴るの…。
たいしたこともない平凡な人が、やたらとにこにこして盛んに喋っているの。
 火鉢の火や囲炉裏などに、手のひらをひっくり返しひっくり返し、手を押し
 のばしたりして、あぶっている者。
いったいいつ若い人などが、そんな見苦しいことをしたのだろうか。
年寄りじみた人に限って、火鉢のふちに足まで持ち上げて、話をしながら足を
こすったりなどするようだ。
そういう無作法者は、人の所にやって来て、座ろうとする所を、まず扇であち
こち扇ぎ散らして塵を掃き捨て、座る所も定まらないでふらふらして、狩衣の
前を膝の下に巻き込んで座るようだ。




先生あの娘片肌脱いでますよ  酒井かがり





         「にくらしいもの」として
急病人のためにようやく探しあてた験者にお祈りさせようとすると、
すぐに眠り声になることを挙げている。




急に病人が出たので、祈らせようと修験者を探すと、いつもいる所にはいない
ので、別の所を探していると、待ち遠しいほど長い時間が経ち、やっとのこと
で待ち迎えて、喜びながら加持をさせると、この頃、物の怪にかかわって疲れ
きってしまったのか、座るやいなや読経が眠り声なのは、ひどく憎らしい。




痛点にモーツアルトの子守歌    吉松澄子 





          彩絵花丸模様舞扇
「にくらしいもの」では、無作法な人が人の家に来て、自分の座る場所を扇で
ばたばたとやって、塵を払うことが評されている。




とりもなおさずお行儀の悪い人は、人の前にやってきて、座る場所をばたばた
と扇で払って塵をはき捨て、しどけない坐りようで、狩衣の前の垂れも、膝の
下へ巻き込んだりする。
こういうことは、とるに足らぬ身分の者がするのかと思っていたが、そうでも
なく、少しはましな身分の、式部太夫とか駿河の前司などという人々がやるん
だから、見るに堪えない。




いちびりの成れの果てです蒟蒻は  新川弘子
 




        「 絵 師 草 子 」(宮内庁三の丸丸尚蔵)





酒を飲んでわめく人。
口の中へ指を入れて、歯をほじくったり、髯のある人はそれを撫でたり、
杯を人にやって酒をついだりするようす、まことににくらしい。
口をへの字にしたり、苦しがりながら、「もっと飲め」などと杯をさし、子供
たちが歌を歌う時のように体をゆさぶり、ほんとに酒飲みってにくらしい。
身分の高い人が、こんなことをなさるのを目撃したので、よけい、いとわしく
思うのである。




友が来てギンナン焼いて沁む地酒  川西則子




人のことを羨ましがり、自分の身の上をこぼし、人の噂をあれこれ言い、ちょ
っとしたことも知りたがり聞きたがって、喋らないでいると、恨んだり悪口を
言ったりし、また、ほんの少し聞きかじったことを、自分は前からよく知って
いたように、いい気になって人に吹聴する、そんな人もにくらしい。
 物を聞こうと思う時に泣く赤ん坊。
 烏が集まりやかましく鳴きかわして飛んでいるの。
こっそり忍んでくる男を見知って吠える犬は、打ち殺したいほどである。




蛭は背を百足ゲジゲジ脛を這う  井上一筒





ブーンと唸って顔の周りを飛ぶ蚊





無理な場所に、いたしかたなく隠して寝かせておいた男が、鼾をたてているの。
 また忍んできて、長烏帽子がものにつきあたり、ガサッと鳴ったりするの。
 また引き戸を荒々しく開けるのもにくらしい。
少し持ち上げるようにして開けたら鳴らないのに…。
 眠たいと思って臥しているときに、蚊が細い声でかすかにブーンと唸って顔
のまわりに飛びまわる。その羽風が蚊の体相応にあるのもにくらしい。




襖から野太い声が出られない  石橋芳山
 




        ギシギシザワザワとうるさい牛車





牛車
乗り物として、実用とともに、外観の装飾を華美にすることを競った。
普通は四人乗りで、二人乗りや六人乗りの場合もある。
悪い牛車はぎしぎし音をたて、うるさかったのだろう。(栄花物語)




ぎしぎしという牛車に乗っていく人。自分は聞こえないのかしらとにくらしい。
 また世間話をしているとき、さきくぐりして喋る人。
 出しゃばりは、大人も子供もにくらしい。
ちょっと遊びに来た子供を、可愛がって相手になり、いろんなものをおもちゃ
にやると、それに慣れて、しじゅうやって来て、家具など散らかしたりするの
もにくらしい。
 自宅でも宮仕えしている所でも、会わずにおこうと思う人が来た時、しって
狸寝入りなぞしている。それを侍女たちがわざわざお起こしにきて「寝坊な」
と言い、顔にゆすぶったりするのはにくらしい。




背は縮む耳は騒ぐし眼はかすむ  宮井元伸




新参者が、古参をさしおいて、物知り顔に指図するようなことをいうのも、
たいへんにくらしい。
 恋人の男が、昔の女のことなどを褒めたりするのも、過去のことだけれど、
やっぱりにくらしい。まして現在のことなら、どんなに嫉妬されることだろう。
しかしまた考えると、現在のことの方が、却ってそれほどでもないかも知れぬ。
 くしゃみしてまじないを唱える人もにくらしい。
総じて一家の男あるじでなくては、高らかにくしゃみなどするのはにくらしい。
 蚤もたいへんにくらしい。衣の下をはねまわって、もちあげるようにする。
 犬が声を合わせ、長々と吠えているのも不吉でにくらしい。
 開けて出た戸を、あと、閉めない人も……。
「ねーちょっと! 自分の開けた戸ぐらい閉めていきなさいよ!」




どや顔の犬とポーカーフェイスの猫  森田律子






   何か面白いことはないかしらと・清少納言 (谷文晁画)




「人の上言ふを腹立つ人こそ」
清少納言のまことを見るには、「人の上言ふを腹立つ人こそ」の段だろう
これは清少納言が、「人の悪口は楽しくってやめられないわ-」と叫んでいる
パラグラフである。
そして、悪口を言う人に腹を立てている人に対しては、「いい人ぶっててわけ
わかんない」と、ムカついてもいる。
おしまいには、親しい人の場合には、かわいそうだから我慢して悪口言わない
けど、「ほんとは言えたらめっちゃ笑えるのに」と本音もこっそり認めている。




生も死も喜怒哀楽も飲むティッシュ  金瀬達雄




「暁に帰らむ人は」
夜更けの頃に帰ってく人は、服装なんかはそんなにきちっとキレイにしたり、
烏帽子の紐をしっかり結んだりしなくってもいいと思うのよね。
だらしなく、みっともなく、直衣・狩衣などがゆがんでいるとしても、
誰がそれに気付いて、笑ったりけなしたりもするだろうか…。
誰も見ている人なんかいないわよね。やはり男は、暁の様子こそ素敵で、
ゆうゆうぜんとしていなくてはいけない、と認めているパラグラである。




おしりで塞ぐバスタブの底の穴  河村啓子

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