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川柳的逍遥 人の世の一家言
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火を逃げて五年十年火をくぐる  森中惠美子

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  暗殺・激闘のあった部屋

『「暗殺の日」-②  ≪~①からのつづき≫』

間髪を容れず、2人の刺客が奥の八畳に躍り込む。

1人が、「コナクソ」と一声もろとも慎太郎の後頭部を斬り、

もう1人が、龍馬の額を横に払った。

龍馬は、背後の床の間に置いた佩刀を取ろうと、中腰で後ろに向いたところを、

右の肩先から左背まで、袈裟懸けに浴びせられる。

怯まず刀を摑んで振り返る。

そこへ、三の太刀が襲ってきた。

刀を抜く暇がなく、鞘のまま受け止める。

刺客の刀勢は、猛烈だった。

寺町や紫陽花の首猪の首  石田柊馬

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龍馬が受け止めた鞘の2えぐれ”

衝撃で鞘の鐺が、天井を突き破り、

鞘越しに刀身に食い込んで、刃を九センチほど削り、

さらに流れて、龍馬の額を鉢巻なりに、ザックリと斬り割った。

血しぶきが飛び、白い脳漿が露出した。

龍馬は悲痛な声で、

「石川(中岡の変名)、刀はないか、刀はないか」

と叫びながらその場に昏倒する。

凍音に変わるロクサーヌのブルース  山口ろっぱ

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   鴨居に残る刀傷

慎太郎も短刀で必死に戦ったが、全身に11ヶ所の傷を負って気絶した。

敵はなおも、臀部に二太刀斬り付ける。

反射のありなしで、生死を確かめるのである。

慎太郎はその痛みで、意識を取り戻したが、死んだふりをしていると

「もういい、もういい」

という声がして、

一団は風のように、すばやく段梯子を駆け下りて、消え去った。

きみはもう雲と遊んでいるだろうか  あいざわひろみ

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龍馬の激死を見ていた暗殺の額

しばらくすると龍馬も蘇生したと見え、

刀を抜いて、行灯の前ににじり寄り、
刃を火光に照らして、

「残念、残念」

と呻くように呟いていた。

「慎太、慎太、どうした。手は利くかー」 

「手は利く」

龍馬は行灯を提げて、次の六畳までにじり進み、

「新助、医者を呼べ」

と階下に声を掛けたが、何の応答もない。

声もしだいに弱まり、

「慎太、僕は脳をやられたから、もうだめだ」

その言葉を最後に、ガックリと落ち入る。

慎太郎は、裏の物干しまでいざってゆき、大声で助けを呼んだが、

近江屋の家内はシーンと静まりかえっていた。

つま先はそんじょそこらの貝である  井上一筒

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龍馬のために鶏鍋の具を買いに出かけていた峰吉

龍馬殺しの実行者7人のうち、

渡辺吉太郎・高橋安次郎・桂隼之助・桜井大三郎は、

翌・慶応4年早々、鳥羽伏見の戦で戦死し、土肥仲蔵は行方不明。

佐々木只三郎は、淀で重症を負い、それがもとで間もなく死んだ。

明治まで生き残ったのは、今井信郎だけで、

この男は後に、妄想か売名か、自分が龍馬を斬ったと≪告白≫して、

世の話題になった。

近江屋の外に出ると、十五夜の月が、雲を割って明るく町を照らしていた。

佐々木は、”その時、義経少しも騒がず”

と『船弁慶』の一節を高らかに謡いながら、落ち着き払って現場を立ち去った。

鴨川がわずかに憶えている竜馬  黒田忠昭

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