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川柳的逍遥 人の世の一家言
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釣針のかえしのようなアイロニー  井上恵津子


 54帖 玉鬘

恋ひわたる 身はそれなれど 玉かづら いかなる筋を 尋ね来づらむ

夕顔を恋する私の気持は今も変わらないけれど、あの娘はどんな筋を
辿って私のところに来たのだろう。まるで玉鬘の糸をたぐったこのように。

これより「藤裏葉」までの12巻は光源氏の栄華と影のページになります。
そして「玉鬘」から「巻の31【真木柱】までの10巻を「玉鬘十帖」といい、
全編に玉鬘を出演させ、紫式部は、彼女を絶世の美女に仕立て上げます。
さて、その本文に入る前にちょっとおさらいを。
玉鬘の母・夕顔が始めて登場したのは、巻の2の頭中将の思い出話です。
そして、続く4巻の夕顔に、源氏に名を明かさない謎めいた女として登場。
人の住まぬ荒れ果てた邸での逢瀬の最中、夕顔は物の怪に襲われ死去。
このとき腹心の惟光が、主人に変な噂がたってはいけないと夕顔を隠密に
葬ったのでした。

「巻の22 【玉鬘】」

光源氏が、忍ぶ逢瀬の最中、夕顔と離別したのは17歳のとき(巻の4)
                     たまかずら
せめて、行方知れずの夕顔の娘、玉鬘だけでも見つけたいと考えていた。

かつて夕顔の女房だった右近を、紫の上の女房として使っているのも、

夕顔が忘れられないからである。

その玉鬘は、いつの間にかいなくなった母・夕顔の死も知らず、

乳母に連れられ、都を離れて暮らしていた。

もともと玉鬘は、内大臣(頭中将)と夕顔との間に出来た子だから、

乳母はそんな高貴な姫を大切に守り、育ててきたのである。

そしていつかは玉鬘を連れて都に戻らなくてはと考えて暮らすうち、

玉鬘は20歳を超え、美しい女性になっていた。

恋う人の街を通って来た時雨  原 洋志

その美しさは世間の評判で、結婚を願う恋文は後を絶たない。

でもいつかは都に戻ると考えていた乳母は、

「この娘は器量は人並みだが、体に欠陥があり、

そのためどなたとも縁づけず、尼にして一生面倒をみてやるつもりです」

と言いふらし、玉鬘を守った。

乳母の娘や息子たちは、それぞれ土地の者と結婚していく。

乳母は心の中では上京を急いてはいるが、現実は簡単なものではなかった。

玉鬘は分別がついてからというもの、自分の薄幸を嘆くばかりだった。

父にも会えず、母の行方も分らないまま、この田舎で一生を終えるのかと。

長かったねえと曲線は語りだす  田口和代

そこに「病気も平気、オレが治す!」と言って乗り込む無骨者が現れる。
                たいふのげん
地域の人々が恐れる豪族・大夫監である。

乳母には3人の息子がいるが、うち2人は大夫監に取り込まれている。

そのうちの一人が、

「この国で大夫監に睨まれたら、暮らしていけなくなります。

   尊い血筋だと言ったところで、父から子としての扱いを受けず、

   世間に埋もれているのでは、どうしようもありません。

   また逃げ隠れしたところで何の得にならないどころか、

   あの人が怒り出したら何をされるかわかりません」

と服従するのが得策と切り出した。

薄墨に一陣の風来て そして  徳山泰子

乳母は大変なことになったと聞いていたが、長男・豊後介

「この上は亡き父の遺言に従いここを抜け出し、姫を都へお連れしよう」

と言う意見をいれ、夜中に船で逃げ出すことにする。

豊後介は、玉鬘のため、仲のよかった兄弟と仲違いをし、

家族も見捨てていかねばならない。

姉娘は家族が多くなっているので、見捨て出て行くわかにはいかない。

妹のほうは、兵部の君と呼ばれているが、

長年連れ添った夫を捨てて、姫のお供をすることに決めた。

もうそこに沖が来ているではないか  河村啓子


玉鬘 八幡宮参り


都についた一行は、九条に昔知り合いだった人が住んでいたのを訪ね、

身分の卑しい人たちに混じって、暮らしはじめた。

世を嘆きながら、夏が過ぎ、秋になったが、何一つ事態は好転しない。

こんな生活はいつまでも続けられぬと、神仏にすがるため、

一行は、岩清水八幡宮にお参りに行くことにした。

くぐってもくぐってもおしなべてこの世 和田洋子

さらに長谷寺がご利益があると聞くと、早速お参りすることにする。

徒歩の方がより効果があると思い、玉鬘も無我夢中で歩いた。

どれだけ歩き続けただろうか。

自分の足でそれほど歩いたことがなかったので、足の裏が痛くなって、

歩くことができない…そこで休みをとることにした。

そこで、偶然にも夕顔の侍女だった右近と出会う。

何はともあれ蛸の足に違いない  山口ろっぱ

今でも夕顔が忘れられない右近は、

年月が経つにつれ、どっちつかずの
お勤めがそぐわなくなって、

八幡宮にたびたび参詣していたのだ。


右近に対面して乳母はすがるように尋ねる。

「お方様はどうなさったのですか。夢でもいいから、

   どこにいらっしゃるのか知りたいと、ずっと念じ続けていたのですよ」

右近はどう答えていいのか分からず、

「お方様はとうにお亡くなりになってしまったのです」 とだけ答えた。

そして乳母もまた、これまで苦しんできた自分たちの境遇を右近に伝える。

そこで右近は、後ろのほうに控えている姫のほうを見る、

粗末な旅姿ながら美しい人がいる……右近は胸が潰れる思いがした。

伏線は猫のシッポに違いない  立蔵信子

その後、源氏の邸に戻った右近は、すぐにことの次第を源氏に報告する。

源氏は喜び勇み、玉鬘を六条院に養女として迎え入れ、

実父の内大臣にはこれを知らせず、花散里に後見を依頼した。

玉鬘にしてみれば、

なんで父でもない源氏に面倒を見られなければならないのか、


しかも、源氏は父である内大臣に会わせようとしない。

源氏の親切に感謝はしているけれども、

玉鬘の胸の奥深いところに、漠然とした不信感が芽生えてくるのだった。

傘立ての中で三幕目をさがす  前中知栄


平安時代の貴族の衣装

【辞典】

玉鬘を迎えたその年の暮れ、源氏は妻や恋人たちに着物を贈ります。
それぞれの性格や容姿にあった色や柄の衣装を選び贈るのである。
贈る相手は何人もいるので、整理しておくと、六条院には正妻の紫の上、
明石の君、花散里、そして今回やってきた玉鬘がいる。
さらに二条東院には、あの赤鼻の末摘花、出家した空蝉がいる。
源氏はそれぞれに贈る衣装を選んでいくが、それを見ていた紫の上は
着物の色や柄などから、彼女たちの姿や性格を想像し、嫉妬心にかられる。
なかでも機嫌を損ねたのが、明石の君に選んだ白と紫の組み合わせ。
白い小袿(こうちき)に濃い紫を重ねたもの。
気品が高く、源氏が明石の君をどれほど大切にしているのかが分かり、
紫の上は悔しい思いにかられるのである。
 ここでついでに、源氏物語の中で、美人度のコンテストをしてみたら。
1位 玉鬘 2位 紫の上 3位 明石の君 4位 藤壺 5位 桐壷更衣となる。
紫式部が描く、玉鬘は別格の美しさなのである。

夢を追う女は罪な色を選る  上田 仁

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すねているのですね空が鉛色  北原照子


  54帖 乙女

さ夜中に  友呼びわたる  雁が音に  うたて吹き添ふ  萩の上風

真夜中に友を呼びながら空を渡っていく雁の声は何て淋しいのだろう。
その声に萩の上に吹きさらす風の音も加わっている。何という悲しさなんだ

「巻の21 【乙女】」

朝顔のことは気長にやろうと考えた光源氏も、もう33歳になる。

息子の夕霧は、12歳。元服し、位も与えられる。

高貴な親を思えば、四位くらいは当然なのだが、源氏が与えたのは六位。

「最初から高い位を受け、世間を見下しては困る。

苦労をして学問を身につけ自分の力で出世しなさいという」

親心であった。

のぼり道には程よい風をおくように  山口ろっぱ

これに対して「何もそこまでしなくても」祖母の大宮苦言を呈した。

葵の上が亡きあと、夕霧はずっと大宮に育てられてきた。

可愛い孫に苦労をさせたくないのは、当然なのだ。

でも源氏は、教育方針は変えず、夕霧を大学寮に進ませた。

夕霧は不満だった。

今まで自分より下と見くびっていた貴族の子どもたちでさえ、

めいめいが位があがって、自分より上である。

自分だけが六位の浅茅姿で、恥ずかしくて仕方がない。

夕霧は父の処置を恨めしく思うが、歯を食いしばり、見事な成績を収め。

しだいに秀逸な才能を発揮しはじめ、寮試も及第する。

蜃気楼の中で光っている男  森田律子


学校で学ぶ夕霧


その頃、宮中では冷泉帝の后が決められた。

秋好中宮梅壷)である。

源氏の強力な後押しで決まった人選であった。

右大将(頭中将)は歯軋りをする。

源氏とかつての左大臣家の権力争いである。

源氏は内大臣から太政大臣に昇進し、右大将は内大臣になった。

この内大臣には、10人余りの子がいたが、うち女の子は2人、

1人は冷泉帝の女御・弘徽殿

もう1人は、大宮のもとにいる雲居雁である。

一色が欠けて理想が描けない  嶋沢喜八郎

雲居雁の母親は内大臣と別れたため、祖母の大宮に育てられていた。

大宮といえば、夕霧の祖母でもあり、2人は同じ邸で育った幼馴染の

いとこ同士で、淡い恋心を抱く仲であった。

雲居雁は寂しかった。

父にはあまり愛されておらず、母は再婚し、義理の父と暮らしていたが、

やがて母とも引き裂かれて、大宮のもとにきたのである。

そこに夕霧がいた。

夕霧は12歳、雲居雁は14歳。


2人の間に次第に恋心が生まれ、互いに手紙を交し合うようになっていた。

それなのに、夕霧が大宮のもとを離れて、二条東院に行ってしまう。

雲居雁はまた独りぼっちなってしまうのだ。

崖に咲く花はいつでも清純派  有本さくら子

内大臣はこれまで雲居雁に関心を持ったことがなかったが、

自分の娘を改めて見てみると、上品で瑞々しく、何とも美しいと思った。

そんな気持を抱いて、大宮邸を去るとき侍女たちの立ち話を耳にする。

「いかに賢いつもりでも、やっぱり親バカね。

   自分の娘のしていることを、
なんにも知らないんだから」


内大臣はハッとした。やはりそうだったのか。

娘と夕霧の仲を疑わぬわけではなかったが、まだ子どもと油断したいた。

これに激怒した内大臣は、雲居雁を自分の邸に連れ戻してしまう。

夕霧も源氏の邸に勉強部屋を用意され、今では大宮の邸に来るのは稀。

なにが疚しいのかも分からない幼い2人の仲は、引き裂かれてしまう。

泣き黒子 梅雨前線通過中  和田洋子

2人を不憫に思った大宮が、最後に2人だけで会える機会を

作ってくれた
時にも、互いに泣き合っているだけだった。

夕霧は学問で成果を出すので、すぐに位は上がるが

雲居雁に会えない寂しさは日ごと増すばかり…そんな時目にしたのが、
とうないしのすけ
宮廷の催しに出る五節の舞姫(後の籐典侍)として源氏が選んだ惟光の娘。

物陰から見かけたその姿は、雲居雁に似て美しく、寂しい気持を癒した。

そこで夕霧は、五節の舞姫に恋文を送る。

雲居雁に会えない寂しさを、この恋で紛らわせたいのである。

このように浮気心を起こした夕霧だが、

やはり雲居雁に思いを募らせることに変わりはなかった。

ときどきは不真面目がいい生きるには  瀬川瑞紀


源氏が作った広大な六条院

だが夕霧からの手紙を舞姫が読んでいる時に、父(惟光)に見つかってしまう。

「何たること」と最初は怒った父だったが、恋文の送り主が夕霧だと聞くと

態度を一変、源氏様の子なら間違いはないと許される。

そうこうするうち、源氏は六条御息女の旧邸あたりの四町を用地として、

新邸(六条院)を建てる。

四つの町は春夏秋冬のそれぞれの季節に配され、

そのそれぞれに関係の深い女性が集められた。

春の御殿は、源氏が常に起居する御殿で紫の上が住む。

夏の御殿は花散里で、夕霧の養育係になる。

秋の御殿は、秋好中宮で冷泉帝の中宮が住む。

冬の御殿は、明石の君が他の女性より少し送れて移り住んだ。

ここで花散里を初めて見た夕霧は「器量はあまり美しくない」と感じつつ、

父が彼女を大切にするのは、きっと心が美しい人だからと考えるのだった。

淋しくていつも誰かを愛してる  中村幸彦

【辞典】 

雲居雁と夕霧の祖母・大宮。
これまでは可愛い2人の孫に囲まれて穏やかな日々を送っていた。
娘の葵の君に先立たれ、さらに摂政太政大臣にまでなった夫も他界。
それでも孫たちの成長を楽しみに、心をなごますお婆ちゃんだったが、
そんな平穏な生活も長くは続きません。
それを邪魔したのは、源氏という義理の子、そして内大臣という実の子。
源氏は可愛い孫に厳しい教育を受けさせ、学問の為、自分の邸から遠避け
内大臣は、幼い恋に怒り、大宮の邸から連れ去っていくのである。
2人を引き裂く詳しい内容を知りたい方は、原文の一読を薦めます。

父さんが父親だとは限らない 河村啓子

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沈黙のオンザロックが溶けぬまま  合田瑠美子

  54帖 朝 顔

かきつめて  昔恋しき  雪もよに  あはれを添ふる  をしの浮寝か

いろいろな昔の思い出が恋しく懐かしく思われる雪の夜。そこに一層
しみじみとした気持を添えてくれるのは、オシドリの鳴き声だったのか。

「巻の20  【朝顔】」

光源氏が若い頃から執心していた女に、朝顔の姫がいる。

その朝顔の父・桃園宮が死去し、彼女は加茂の斎宮を退いて、

叔母の女五宮が住む、桃園邸にう移ることになった。

源氏はこれを機会に年老いた五宮の見舞いにかこつけ桃園邸を訪ねる。

見舞いを終え、その足で朝顔の部屋へ向かう源氏だったが、

彼女の態度はつれなく、いっこうに源氏に靡こうとはしない。

逢わないと決めて日暮れが早くなる  阪本こみち

朝顔は賀茂神社に仕える斎宮の役を終えたばかりで、恋愛にはうとい。

源氏への想いはそれなりにはあるが、いままでつれなかったのに、

急に靡くのも変だと考えたのだ。

仕方なく源氏はその場は見送ることにした。

とはいえ、一度芽生えた恋心を簡単に消せないのが、源氏の悪い癖。

その後も見舞いにかこつけては、桃園邸へ足を運んだ。

そこで、源氏は思わぬ人と遭遇する。
            げんのないしのすけ
あの年老いても好色な源典侍だった。

恋路には理性がすこし邪魔になる  渋谷さくら

彼女はこの邸に世話になっていたのだ。

源典侍は相当な老婆だが、品を作って源氏に言い寄る素振りをする。

源氏は困り果て、そそくさとその場を立ち去りながら、思った。

「あんな人が長生きして、素晴しい人たちは亡くなってしまうのか」

と世の無常を感じるのだった。

薄墨の上に女工作員  酒井かがり


登場人物の系図(朝顔の巻)

ようやく朝顔のもとに辿りついた源氏だったが、面会は御簾の外。

源氏は思い切って「嫌いなら嫌いとはっきり言って欲しい」と言う。

それでも朝顔は、女房を通してのらりくらりの返事しか帰さない。

源氏はあきらめ、また帰るしかなかった。

気にしないと言うが気にしている顔だ  有田晴子

やがて2人の仲が世間で噂になり、紫の上の耳にも届いた。

一時は嫉妬にかられた紫の上だったが、

源氏の「朝顔とは何でもない」という言葉に納得し胸をなでおろす。

そして、雪の沢山積もった上に、なお雪が降り積もる12月のある夜、

源氏は童女を庭へおろして雪まろげをさせた。

その様子を紫の上と眺めていた源氏は、ふと藤壷のことを思い出し、

昔語りにこれまで縁あった女性たちの人柄などを語りはじめる。

曲線を入れたら私らしくなる  浅井ゆず

その後、寝室にはいってからも源氏は、藤壺の宮のことを思いながら、

眠りについたが、夢のようにでもなく、仄かに宮の面影が見えた。

藤壷は非常に恨めし気に、

「あんなに秘密を守ると約束をしたのに、私たちのした過失が知れ渡り、

   私は恥ずかしく苦しい思いとをしています。

   あなたが恨めしく思われます」 という。

返事をするつもりでたてた声が、夢に襲われたような声であったから、

「まあ、どうなさいました」と言う、紫の上の声に源氏は目がさめた。

源氏が、張り裂けるほどの鼓動を感じる胸を押えていると、涙が流れた。

夢から醒めても源氏の目から、涙は止まらない。

肋骨一本抜かれてからの失語症  笠嶋恵美子

紫の上は源氏の見た夢が、「どんなものであったのだろう」と思うと、

自分だけが別物にされた寂しさを覚えて、声を殺して縮こまっている。
                                   じゅきょう
翌朝、源氏は夢のことは何も言わず、藤壺の供養に誦経を寺へ頼んだ。

仏勤めをされたほかに、民衆のためにも功徳を多く行なった宮が、

あの一つの過失の為に、この世での罪障が消滅し尽くさずにいるかと、

深く考えてみればみるほど、源氏は悲しくなるのである。

生命線ぐにゃりと曲げた罪ひとつ  上田 仁

【辞典】(血縁関係)

この巻で源氏は、以前アプローチをかけていた朝顔への思いが再燃。
この朝顔、源氏にとって従兄弟の関係になる。当時は血縁が近くても、
それほど気にせず恋愛や結婚の対象であった。このように源氏物語は、
たくさんの登場人物が思わぬところで親戚関係だったりする。
まず、源氏の父は桐壷院。桃園院は桐壷院の弟にあたり、源氏の叔父。
次に、女五宮は桃園院の下、桐壷院の妹になる。
それにこの巻に出てくる大宮は、桐壷院の最も下の妹で、
源氏の前妻・葵の上の母親。つまり女五宮は大宮の妹になる。
まとめれば、朱雀帝と朧月夜の間には、2男2女の子がいて、
長男・桐壷院・次男・桃園宮その下に、長女・大宮、末っ子に大宮がいる
と言うことになる。ああ、ややこしい。

盃の数と命の数があう  森中恵美子

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きもち斜めに正座する低音やけど  酒井かがり


源氏になつく明石の姫

入り日さす 峰にたなびく 薄雲は もの思う袖に 色やまがえる

日が沈もうとしている峰にたなびく薄雲は、何て悲しい色をしているのか。
私の着ている喪服の袖の色にそっくりだ。
雲もあの人の死を悲しんでいるのか。


「巻の19 【薄雲】」

季節も冬になり、明石の君は心細さに旨も潰れる思いである。

光源氏の訪問はめったになく、明石の君は姫を可愛がることで、

寂しさを紛らわしていた。

明石の姫を引き取り紫の上のもとで育てる。

そのためにも源氏は、「これではたまらないだろう、

   私の言っている近い家へ引っ越す決心をなさい」

と明石の君が邸を移るように
勧めるのだったが。

もし姫が引き取られたら、ただでさえ訪問の途絶えがちなのに、

どうして源氏が訪ねてくることがあろう。

また身分の低い明石の君が、正妻の近くにいくのも憚られる。

また預ける紫の上に姫が疎んじられないだろうかなど、

明石の君は、
あれやこれやと悩みが尽きず、なかなか決心がつかない。

考える人のポーズで日が暮れる  三村一子

明石の君を思いやって、源氏は、やさしく言葉をかける。

「何も心配はいらないのですよ。あちらの方は本当に子ども好きで、

   しかも何年たっても子に恵まれません。

   梅壷女御があれほど大人になっていても、親代わりを喜んでする

  性分ですから、姫のことも大切に世話をするでしょう」

明石の君には、何もかも分かっていた。

自分の娘がどのような人生を送るのか、全ては紫の上の気持一つなのだ。

明石の君は、姫の将来を思い、泣く泣く承諾するしかなかった。

崖に咲く花はいつでも清純派  有本さくら子


  別れの日

雪の日、明石の姫は、乳母や姫の女房たちと、源氏の車に乗りこむ。

「お母様もお乗りになって」

と姫は、まだおぼつかない口調で声をかけてくるが、


明石の君は唇を噛みしめ見送るだけ…車が走り出し、

姫の呼ぶ声が遠のいていく…
すべてが終わった。

明石の君は、寂しくて、その日一日を生きていくことができないと思った。

三歳の幼さで、自分の境遇は分かるはずもなく、

明石の姫は、紫の上の住む二条院へ移ったのである。

最初のうちは、母のいないことに愚図っていた姫だったが、

紫の上のいつも側にいて、実の娘以上の可愛がりように、やがてなついた。

明け烏ここで二声鳴く場面  井上一筒

年が明け、源氏32歳の春、葵の上の父・太政大臣が亡くなる。

それに続くように藤壺も病に勝てず帰らぬ人となった。

源氏は悲しみに暮れ、しばらくは茫然自失の日を送り、

世の無常を嘆くのだった。


母である藤壺を亡くした冷泉帝も深い悲しみの中にいた。

その悲しみに追い討ちをかけるように、藤壺の49日の法要が済んだ頃、
             そうず
母の信頼の厚かった僧都から、出生の秘密を聞かされる。

オクターブ下げて訳あり胡瓜切ってます 山本昌乃

それは、冷泉帝の本当の父親が、源氏であるという事実である。

冷泉帝は、隠れた事実を夢のように聞き、心は悶え悩むのだった。


そして本当の父を臣下においていることに罪の意識を感じ始める。


そこで冷泉帝は、源氏に「帝になってほしい」と譲位を依頼する。

驚いた源氏は、冷泉帝が秘密を知ったのだと悟る。

でも源氏からは口にせず、ただ、

「桐壷院の遺志に背くようなことはいけません」
と冷泉帝を諭す。

天空に異変が起き、世間が動揺しているのは、これが原因ではないのか。

冷泉帝は、自分がこの世にいること自体が、恐ろしかった。

淋しいこと言うなと蜘蛛が降りてくる  桑原伸吉

その秋、冷泉帝の後宮に仕えていた梅壷が、里帰りで二条院に戻ってくる。

源氏は梅壷と六条御息所の思い出話に耽るうち、

亡き六条御息所の面影を梅壷に見て、恋心が芽生えそうになる。

「何て人だろう」 梅壷は驚き呆れ、御簾の後ろへ身を引いた。

梅壷にとっては、源氏の求愛はいとわしいだけだったのだ。

どんな時代にも、いくら男前であっても、尻軽男は嫌いという女性は

いくらでもいたのである。


(梅壷はこの時「秋が好き」と言ったことから、この以降、秋好中宮と呼ばれるようになる)

戸惑いがほうれい線で揺れている  井本建治

【辞典】 夜居の僧都

冷泉帝は自分の出生の秘密を、夜居の僧都と呼ばれる祈祷僧から、
聞いてしまい、
その結果、自分の運命に悩み苦しむことになる。

では何故、夜居の僧都は藤壺と源氏の不義密通を知っていたのか。
この僧都、もともと桐壷院が存命していた時代から祈祷師として
天皇家に仕えていた。
祈祷師は施主の願いを叶えるために、お祈りをしてくれる人)

そのためには、懺悔する内容を聞き、どんな願いを叶えたいのか
知っておく必要がある。

夜居の僧都は、過去に藤壺から依頼を受け、祈祷を行なっていた。
現代ならば、業務上知り得た顧客の秘密は守る、という守秘義務に
僧都の行為は違反をしている。
もちろん当時でもこんな口の軽い僧は倫理に反している。
でも、
この物語は軽薄な僧が多く登場し、人の運命を大きく左右させていく。


好奇心なんじゃもんじゃの種を蒔く  北川ヤギエ

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恋たのしワンバウンドして手の中に  森中恵美子



かはらじと 契りしことを たのみにて 松のひびきに 音をそえしかな


あなたの心は変わらないという約束を頼りにして、松風の音に
私のなく声を添えながら、これまでずっと耐えてまいりました。

「巻の18 【松風】」

光源氏は、本宅二条院の東に邸を所有しており、ここを美しく改装した。

西の対には花散里を住まわせ、東の対に明石の君を迎えるつもりであった。

しかし明石の君は、源氏の愛情だけを頼りに住み慣れた場所を

離れることや、
上流社会についていく自信がないことなどの

不安がよぎり、
京へあがることの決心がつかない。
                           おおいがわ
明石の入道は自分の娘の苦悩を見かねて、大堰川のほとりに

所有する
別荘を修理して、そこに母娘を住まわせることにした。

まずはここに住み、都に慣れればよいというのである。

源氏もこの提案に賛成し、邸の修理を手配するなど乗り気である。

雲は魔術師熊もクジラも作り出す  片山かずお

秋風が吹く頃、大堰の邸の修理は終わり、都へ旅立つ日が来た。

明石の君は22歳、姫君はまだ3歳のときである。

明石の入道は「もはや私の役目は終わった」と、随行せず、

人目に立つのを避けて、明石の君親子は船でひっそりと旅立つのだった。

大堰の邸は川べりの様子が明石の海辺に似ており、とても風情がある場所。

でも、明石の君は故郷に似た風景を見ても、不安はつのる。

到着してから数日が経つのに、源氏の訪問がないのだ。

本当はすぐにでも駆けつけたい源氏は、正妻の紫の上を気づかい、

口実が見つけられなかったのである。

雲ひとつないと言うのにふさぎこむ  信次幸代


 源氏になつく明石の姫

それでも何とか他の用事にかこつけ、大堰の邸に足を運ぶことができた。

源氏は久しぶりの対面に感無量である。

明石の君も直衣姿の源氏の美しさを、眩しく思う。

明石の君は、そっと幼い姫君を源氏の前に押し出す。

姫君は緊張した面持ちで、おずおずと源氏を見上げ、にっこりと微笑む。

源氏はそのあどけない笑顔を奮いつきたいほど可愛いと思った。

そして、源氏は「ここは遠くて、私もたびたびは訪れることが出来ないので、

   二条東院に移りなさい」と、勧めるが、明石の君は

「まだ都暮らしが不慣れなもので、もう少しここに」と答える。

そしてその晩は、明け方まで、源氏は明石の君と過ごした。

そこはかとなく漂っているのです  森田律子

後、自邸に戻った源氏は、こちらも愛しい妻の紫の上に正直に報告をする。

紫の上は当然不機嫌な顔をするが、源氏は間髪を入れず一つの提案をする。

「あなたに明石の姫を育ててもらいたい」と。

紫の上は一瞬、キョトンとした表情を見せたが、次の瞬間、少し微笑み、

「本当にいいの?うれしいああ、どんなに可愛いことでしょう。

   私、きっとその幼い姫君を気に入ると思うわ」と言い、

無邪気に喜んでいる。
紫の上はもともと子どもが大好きなのだ。

それを見越して提案したことだが、源氏には不安があった。

姫君を母親から引き離して、その母である明石の君が悲しむのではないか。

源氏は、明石の君が、独りで泣き暮らしている姿を考えていた。

仕舞屋の棚にいくつか残る種  筒井祥文


源氏の考えた寝殿造りの邸

「辞典」 対の屋について

当時の貴族が住む家は、寝殿造りで、建物は大きく四つの棟に分かれている。
四つとは、「寝殿」「北の対」「東の対」「西の対」で、
このうち北と東西の対をまとめて、「
対の屋」と呼ぶ。
対の屋と寝殿とは渡殿と呼ばれる屋根のついた通路で結ばれている。

通常は寝殿に主人が住み、対の屋には、妻や家族、女房たちが住んでいた。
 西は花散里、東が明石の君とすると、もうひとつ北の対が残っている。
光源氏はこの北の対を特に大きく造り、部屋を細かく仕切ったものにした。
そこには、今まで心を通わせてた他の恋人たちを住まわせようと考えたようだ。

ふり切った雫もいつか虹になる  桑原すゞ代

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