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川柳的逍遥 人の世の一家言
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釣針のかえしのようなアイロニー  井上恵津子


 54帖 玉鬘

恋ひわたる 身はそれなれど 玉かづら いかなる筋を 尋ね来づらむ

夕顔を恋する私の気持は今も変わらないけれど、あの娘はどんな筋を
辿って私のところに来たのだろう。まるで玉鬘の糸をたぐったこのように。

これより「藤裏葉」までの12巻は光源氏の栄華と影のページになります。
そして「玉鬘」から「巻の31【真木柱】までの10巻を「玉鬘十帖」といい、
全編に玉鬘を出演させ、紫式部は、彼女を絶世の美女に仕立て上げます。
さて、その本文に入る前にちょっとおさらいを。
玉鬘の母・夕顔が始めて登場したのは、巻の2の頭中将の思い出話です。
そして、続く4巻の夕顔に、源氏に名を明かさない謎めいた女として登場。
人の住まぬ荒れ果てた邸での逢瀬の最中、夕顔は物の怪に襲われ死去。
このとき腹心の惟光が、主人に変な噂がたってはいけないと夕顔を隠密に
葬ったのでした。

「巻の22 【玉鬘】」

光源氏が、忍ぶ逢瀬の最中、夕顔と離別したのは17歳のとき(巻の4)
                     たまかずら
せめて、行方知れずの夕顔の娘、玉鬘だけでも見つけたいと考えていた。

かつて夕顔の女房だった右近を、紫の上の女房として使っているのも、

夕顔が忘れられないからである。

その玉鬘は、いつの間にかいなくなった母・夕顔の死も知らず、

乳母に連れられ、都を離れて暮らしていた。

もともと玉鬘は、内大臣(頭中将)と夕顔との間に出来た子だから、

乳母はそんな高貴な姫を大切に守り、育ててきたのである。

そしていつかは玉鬘を連れて都に戻らなくてはと考えて暮らすうち、

玉鬘は20歳を超え、美しい女性になっていた。

恋う人の街を通って来た時雨  原 洋志

その美しさは世間の評判で、結婚を願う恋文は後を絶たない。

でもいつかは都に戻ると考えていた乳母は、

「この娘は器量は人並みだが、体に欠陥があり、

そのためどなたとも縁づけず、尼にして一生面倒をみてやるつもりです」

と言いふらし、玉鬘を守った。

乳母の娘や息子たちは、それぞれ土地の者と結婚していく。

乳母は心の中では上京を急いてはいるが、現実は簡単なものではなかった。

玉鬘は分別がついてからというもの、自分の薄幸を嘆くばかりだった。

父にも会えず、母の行方も分らないまま、この田舎で一生を終えるのかと。

長かったねえと曲線は語りだす  田口和代

そこに「病気も平気、オレが治す!」と言って乗り込む無骨者が現れる。
                たいふのげん
地域の人々が恐れる豪族・大夫監である。

乳母には3人の息子がいるが、うち2人は大夫監に取り込まれている。

そのうちの一人が、

「この国で大夫監に睨まれたら、暮らしていけなくなります。

   尊い血筋だと言ったところで、父から子としての扱いを受けず、

   世間に埋もれているのでは、どうしようもありません。

   また逃げ隠れしたところで何の得にならないどころか、

   あの人が怒り出したら何をされるかわかりません」

と服従するのが得策と切り出した。

薄墨に一陣の風来て そして  徳山泰子

乳母は大変なことになったと聞いていたが、長男・豊後介

「この上は亡き父の遺言に従いここを抜け出し、姫を都へお連れしよう」

と言う意見をいれ、夜中に船で逃げ出すことにする。

豊後介は、玉鬘のため、仲のよかった兄弟と仲違いをし、

家族も見捨てていかねばならない。

姉娘は家族が多くなっているので、見捨て出て行くわかにはいかない。

妹のほうは、兵部の君と呼ばれているが、

長年連れ添った夫を捨てて、姫のお供をすることに決めた。

もうそこに沖が来ているではないか  河村啓子


玉鬘 八幡宮参り


都についた一行は、九条に昔知り合いだった人が住んでいたのを訪ね、

身分の卑しい人たちに混じって、暮らしはじめた。

世を嘆きながら、夏が過ぎ、秋になったが、何一つ事態は好転しない。

こんな生活はいつまでも続けられぬと、神仏にすがるため、

一行は、岩清水八幡宮にお参りに行くことにした。

くぐってもくぐってもおしなべてこの世 和田洋子

さらに長谷寺がご利益があると聞くと、早速お参りすることにする。

徒歩の方がより効果があると思い、玉鬘も無我夢中で歩いた。

どれだけ歩き続けただろうか。

自分の足でそれほど歩いたことがなかったので、足の裏が痛くなって、

歩くことができない…そこで休みをとることにした。

そこで、偶然にも夕顔の侍女だった右近と出会う。

何はともあれ蛸の足に違いない  山口ろっぱ

今でも夕顔が忘れられない右近は、

年月が経つにつれ、どっちつかずの
お勤めがそぐわなくなって、

八幡宮にたびたび参詣していたのだ。


右近に対面して乳母はすがるように尋ねる。

「お方様はどうなさったのですか。夢でもいいから、

   どこにいらっしゃるのか知りたいと、ずっと念じ続けていたのですよ」

右近はどう答えていいのか分からず、

「お方様はとうにお亡くなりになってしまったのです」 とだけ答えた。

そして乳母もまた、これまで苦しんできた自分たちの境遇を右近に伝える。

そこで右近は、後ろのほうに控えている姫のほうを見る、

粗末な旅姿ながら美しい人がいる……右近は胸が潰れる思いがした。

伏線は猫のシッポに違いない  立蔵信子

その後、源氏の邸に戻った右近は、すぐにことの次第を源氏に報告する。

源氏は喜び勇み、玉鬘を六条院に養女として迎え入れ、

実父の内大臣にはこれを知らせず、花散里に後見を依頼した。

玉鬘にしてみれば、

なんで父でもない源氏に面倒を見られなければならないのか、


しかも、源氏は父である内大臣に会わせようとしない。

源氏の親切に感謝はしているけれども、

玉鬘の胸の奥深いところに、漠然とした不信感が芽生えてくるのだった。

傘立ての中で三幕目をさがす  前中知栄


平安時代の貴族の衣装

【辞典】

玉鬘を迎えたその年の暮れ、源氏は妻や恋人たちに着物を贈ります。
それぞれの性格や容姿にあった色や柄の衣装を選び贈るのである。
贈る相手は何人もいるので、整理しておくと、六条院には正妻の紫の上、
明石の君、花散里、そして今回やってきた玉鬘がいる。
さらに二条東院には、あの赤鼻の末摘花、出家した空蝉がいる。
源氏はそれぞれに贈る衣装を選んでいくが、それを見ていた紫の上は
着物の色や柄などから、彼女たちの姿や性格を想像し、嫉妬心にかられる。
なかでも機嫌を損ねたのが、明石の君に選んだ白と紫の組み合わせ。
白い小袿(こうちき)に濃い紫を重ねたもの。
気品が高く、源氏が明石の君をどれほど大切にしているのかが分かり、
紫の上は悔しい思いにかられるのである。
 ここでついでに、源氏物語の中で、美人度のコンテストをしてみたら。
1位 玉鬘 2位 紫の上 3位 明石の君 4位 藤壺 5位 桐壷更衣となる。
紫式部が描く、玉鬘は別格の美しさなのである。

夢を追う女は罪な色を選る  上田 仁

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