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川柳的逍遥 人の世の一家言
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すねているのですね空が鉛色  北原照子


  54帖 乙女

さ夜中に  友呼びわたる  雁が音に  うたて吹き添ふ  萩の上風

真夜中に友を呼びながら空を渡っていく雁の声は何て淋しいのだろう。
その声に萩の上に吹きさらす風の音も加わっている。何という悲しさなんだ

「巻の21 【乙女】」

朝顔のことは気長にやろうと考えた光源氏も、もう33歳になる。

息子の夕霧は、12歳。元服し、位も与えられる。

高貴な親を思えば、四位くらいは当然なのだが、源氏が与えたのは六位。

「最初から高い位を受け、世間を見下しては困る。

苦労をして学問を身につけ自分の力で出世しなさいという」

親心であった。

のぼり道には程よい風をおくように  山口ろっぱ

これに対して「何もそこまでしなくても」祖母の大宮苦言を呈した。

葵の上が亡きあと、夕霧はずっと大宮に育てられてきた。

可愛い孫に苦労をさせたくないのは、当然なのだ。

でも源氏は、教育方針は変えず、夕霧を大学寮に進ませた。

夕霧は不満だった。

今まで自分より下と見くびっていた貴族の子どもたちでさえ、

めいめいが位があがって、自分より上である。

自分だけが六位の浅茅姿で、恥ずかしくて仕方がない。

夕霧は父の処置を恨めしく思うが、歯を食いしばり、見事な成績を収め。

しだいに秀逸な才能を発揮しはじめ、寮試も及第する。

蜃気楼の中で光っている男  森田律子


学校で学ぶ夕霧


その頃、宮中では冷泉帝の后が決められた。

秋好中宮梅壷)である。

源氏の強力な後押しで決まった人選であった。

右大将(頭中将)は歯軋りをする。

源氏とかつての左大臣家の権力争いである。

源氏は内大臣から太政大臣に昇進し、右大将は内大臣になった。

この内大臣には、10人余りの子がいたが、うち女の子は2人、

1人は冷泉帝の女御・弘徽殿

もう1人は、大宮のもとにいる雲居雁である。

一色が欠けて理想が描けない  嶋沢喜八郎

雲居雁の母親は内大臣と別れたため、祖母の大宮に育てられていた。

大宮といえば、夕霧の祖母でもあり、2人は同じ邸で育った幼馴染の

いとこ同士で、淡い恋心を抱く仲であった。

雲居雁は寂しかった。

父にはあまり愛されておらず、母は再婚し、義理の父と暮らしていたが、

やがて母とも引き裂かれて、大宮のもとにきたのである。

そこに夕霧がいた。

夕霧は12歳、雲居雁は14歳。


2人の間に次第に恋心が生まれ、互いに手紙を交し合うようになっていた。

それなのに、夕霧が大宮のもとを離れて、二条東院に行ってしまう。

雲居雁はまた独りぼっちなってしまうのだ。

崖に咲く花はいつでも清純派  有本さくら子

内大臣はこれまで雲居雁に関心を持ったことがなかったが、

自分の娘を改めて見てみると、上品で瑞々しく、何とも美しいと思った。

そんな気持を抱いて、大宮邸を去るとき侍女たちの立ち話を耳にする。

「いかに賢いつもりでも、やっぱり親バカね。

   自分の娘のしていることを、
なんにも知らないんだから」


内大臣はハッとした。やはりそうだったのか。

娘と夕霧の仲を疑わぬわけではなかったが、まだ子どもと油断したいた。

これに激怒した内大臣は、雲居雁を自分の邸に連れ戻してしまう。

夕霧も源氏の邸に勉強部屋を用意され、今では大宮の邸に来るのは稀。

なにが疚しいのかも分からない幼い2人の仲は、引き裂かれてしまう。

泣き黒子 梅雨前線通過中  和田洋子

2人を不憫に思った大宮が、最後に2人だけで会える機会を

作ってくれた
時にも、互いに泣き合っているだけだった。

夕霧は学問で成果を出すので、すぐに位は上がるが

雲居雁に会えない寂しさは日ごと増すばかり…そんな時目にしたのが、
とうないしのすけ
宮廷の催しに出る五節の舞姫(後の籐典侍)として源氏が選んだ惟光の娘。

物陰から見かけたその姿は、雲居雁に似て美しく、寂しい気持を癒した。

そこで夕霧は、五節の舞姫に恋文を送る。

雲居雁に会えない寂しさを、この恋で紛らわせたいのである。

このように浮気心を起こした夕霧だが、

やはり雲居雁に思いを募らせることに変わりはなかった。

ときどきは不真面目がいい生きるには  瀬川瑞紀


源氏が作った広大な六条院

だが夕霧からの手紙を舞姫が読んでいる時に、父(惟光)に見つかってしまう。

「何たること」と最初は怒った父だったが、恋文の送り主が夕霧だと聞くと

態度を一変、源氏様の子なら間違いはないと許される。

そうこうするうち、源氏は六条御息女の旧邸あたりの四町を用地として、

新邸(六条院)を建てる。

四つの町は春夏秋冬のそれぞれの季節に配され、

そのそれぞれに関係の深い女性が集められた。

春の御殿は、源氏が常に起居する御殿で紫の上が住む。

夏の御殿は花散里で、夕霧の養育係になる。

秋の御殿は、秋好中宮で冷泉帝の中宮が住む。

冬の御殿は、明石の君が他の女性より少し送れて移り住んだ。

ここで花散里を初めて見た夕霧は「器量はあまり美しくない」と感じつつ、

父が彼女を大切にするのは、きっと心が美しい人だからと考えるのだった。

淋しくていつも誰かを愛してる  中村幸彦

【辞典】 

雲居雁と夕霧の祖母・大宮。
これまでは可愛い2人の孫に囲まれて穏やかな日々を送っていた。
娘の葵の君に先立たれ、さらに摂政太政大臣にまでなった夫も他界。
それでも孫たちの成長を楽しみに、心をなごますお婆ちゃんだったが、
そんな平穏な生活も長くは続きません。
それを邪魔したのは、源氏という義理の子、そして内大臣という実の子。
源氏は可愛い孫に厳しい教育を受けさせ、学問の為、自分の邸から遠避け
内大臣は、幼い恋に怒り、大宮の邸から連れ去っていくのである。
2人を引き裂く詳しい内容を知りたい方は、原文の一読を薦めます。

父さんが父親だとは限らない 河村啓子

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