ジュテームジュテーム試されているのか 前中知栄
「秀吉悲痛」
秀吉と淀殿の期待の星・鶴松は、
体が弱く、生まれつき病気勝ちだったが、
天正19年(1591)8月19日、ついに危篤に陥った。
淀城での医師による、懸命な治療の一方、
秀吉は、京都東福寺に籠って日夜、
快復平癒を祈願したが、空しかった。
ひーと哭いて後頭から襲う鵺の鳴く夜 山口ろっぱ
秀吉は、わずか3歳で逝った鶴松の死に号泣し、
髷を切って喪に服す。
淀殿も、骸となった幼いわが子を、抱きしめた。
鶴松の幻を、秀吉は追う。
初秋、まどろんで鶴松の夢を見、
炬燵の上を涙の海にした。
”亡き人の形見に泪残し置きて 行方知らずも消え落つる哉”
と、突き上げる悲しみを歌にした。
弔電を打つダンラクにある乱れ 森中惠美子
名護屋城屏風
その悲しみを、「朝鮮出兵」で忘れようとするかの如く、
肥前・名護屋城(佐賀唐津)の普請を命じ、
「たとえ、息子の鶴松が蘇生し、予の足下に平伏し、
多くの涙を流し、
父の慈悲にすがって
この企てを断念するように嘆願しても、
決して聞きいれはせぬ」 (フロイス『日本史』)
と宣言し、関白を甥・秀次に譲り、自ら 「太閤」を名乗って、
世界に己が”佳名”を知らしめたいと、
諸大名に出撃命令を出した。
ぶれていく月を押しピンで止める 岩田多佳子
山上宗二の墓がある早雲寺
「山上宗二」
利休の一番弟子・山上宗二は、
堺の山上に住んだので、山上を姓とした。
利休に茶を学ぶこと20年、利休茶道の極意を皆伝された。
信長に茶を持って仕え、
信長の死後は、秀吉に仕えた。
天正10年には、
姫路城また山崎妙喜庵の茶会で、茶頭をつとめている。
口に衣を着せぬ宗二は、ある日、
「黄金の茶室」を自慢する秀吉に、
「そんなものなど、茶道の道に外れます」
と、秀吉の成金趣味を笑い、批判した。
洗濯バサミ噛みつくことで仕事する 三上博史
同時に、師匠の利休に対しても、宗二は、
「あんなもの黙認するのは、あなたは堕落している」
と、痛烈な言葉をあびせた。
そして、そのまま大坂城から姿を消した。
逃げた先は、東国の北条一族の北条幻庵のもと。
頼られた幻庵は、宗二の気骨を愛し、客分として遇した。
そこで宗二は、北関東に茶湯を広めたという。
穴を出て蟹よさてさてしあわせか 中野六助
宗二の墓
その後、身を隠すでもない宗二は、
秀吉の配下の者にみつかってしまい、
秀吉の前に、引き出せれてしまう破目になる。
「宗二 こんなところに隠れておったのか?」
秀吉はじくじくと、
「おまえは、まだ、わしの黄金の茶室を、
成金の俗物主義だと思っているのか?」
宗二を責める。
「思っております」
宗二も譲らない。
怒った秀吉は、宗二をいたぶり、
部下に命じて、鼻を斬らせた。
鬼は外言うこと聞かぬ天邪鬼 柴田敬子
その上で秀吉は、また同じことを聞く。
そして、宗二の答えは、また同じ。
秀吉は、次に、宗二の耳を切り落とした。
こうして宗二は、秀吉になぶり殺しにされる。
この一部始終を目撃した利休は、
このとき、何を思ったのだろうか。
利休が、謝罪か切腹か二者のうち、
切腹を選んだ裏には、
秀吉の理不尽な拷問に耐え、
信念を曲げなかった宗二の姿への、
反省があったのかも知れない。
ナイアガラの滝も袈裟がけに斬った 井上一筒
大河ドラマ・「お江」-第25回・「愛の嵐」 あらすじ
江(上野樹里)は利休(石坂浩二)切腹の命を覆すよう説得するべく、
秀吉(岸谷五朗)のもとを訪れる。
だが秀吉は、その話を聞いた途端にいらだち、
席を立ってしまった。
利休を救いたいと焦る江。
秀次(北村有起哉)から、
「利休が詫びを入れさえすれば、切腹は免れる」
という助言も受け、とにかく本人に会って、
秀吉に頭を下げてくれるよう、頼もうと考える。
逆風を奏でる葬送曲を聞く 太田 昭
しかし、利休は厳しく見張られており、容易に会うことはできない。
そこで彼女は、
同じように、彼の身を案じる秀勝(AKIRA)と、
炭売りに変装。
なんとか、警備の目をかいくぐり、
利休との対面を果たすのだった。
利休は、そうまでして訪ねてきた江の気持ちを、
十分に理解し、また、うれしくも思った。
だがその上で、自分は死を受け入れると話す。
江は、「切腹などさせませぬ」と食い下がるが、
利休は決然と言う。
「これは、利休が決めた、利休の道なんですわ」
最後の晩餐のり茶漬けサラサラと 中村登美子
利休切腹の知らせを受けた秀吉は、
人目もはばからず号泣する。
彼は、本心では、今も利休を慕っており、
誰かが切腹を止めることを願っていた。
少しして、さらなる悲劇が彼を襲う。
鶴松(大滝莉央)が病死したのだ。
秀吉は、髷も結えぬまま、亡くなった愛児を思い、
自らの髷を切り落としてしまうほど、嘆き悲しむ。
そして、生きる力を取り戻すかのように、
新たな戦の計画に、のめりこんでいく。
見なければよかった箱の中なんて 佐藤美はる
[6回]