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川柳的逍遥 人の世の一家言
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近頃は塩をまきたい事多し  中野 稔





         紫式部に歌を所望する道長


私は世間では取るに足らない存在だとわかっているけれど、
それでも物語によって人と関わっているとき、恥ずかしいことやつらいこと
から逃れられた。
でも、宮中で働き始めて、恥ずかしさやつらさを、
1つ残らずすべて思い知っている。 なんてつらい人生なんだ。


落ち込んだ心いまだに薄曇り  靏田寿子









式部ーちょっと語り


「道長と紫式部の怪しい関係」


中宮の彰子さまのもとに出仕する以前より、源氏の物語の一部が貴顕の方々の
お目に触れておりましたため、宮仕えの間、ことあるごとに物語を引き合いに
出して、お話なさる方が多うございました。
とりわけ、なにかにつけて、私をからかわれたのが左大臣・道長殿でした。
” すきものと名にし立てれば見る人の 折らで過ぐるはあらじとぞ思ふ "
(あなたは色好みだと評判だから、あなたに会って、何もしないで
済ますひとはいないだろう)
現在ならばセクハラ・パワハラとも言うところでしょうか。


ぞっこんと昔は書いたラブレター  原 洋志





        藤 原 道 長



ある時など、かの「源氏」を書いたほどの女性だから、
「さぞや色好みに違いない」といった意味の歌を書いてお寄越しになられまし
たので、少々腹立たしく思いながらも、

" 人にまだをられぬものを誰かこの 好きものぞとは口ならしけむ "
(私は、まだどなたともよい仲になったことなどありませんのに、
誰が色好みなどという評判を立てたのでしょう。
びっくりいたします)
と、ご返歌申し上げて、やんわり殿をかわしたこともございました。


言い勝ってどこか寂しい萩の花  柴辻踈星


その程度のことでしたらまだしも、我慢のしようがございますが、その歌の
やりとりの後、ある晩、私が渡殿に寝ておりましたら、夜更けに戸をしきり
と叩く音がするではありませんか。
あまりの恐ろしさに、声をあげることもできず、眠ることなどかなわず、
じっと身を硬くして一晩を明かしました。
" 夜もすがら水鶏よりけになくなくぞ まきの戸口にたたきわびつる "
(一晩中、水鶏(くひな)よりも熱心に槙の戸口を叩いたけれども
戸口を開けてくれないので、がっかりした)


言い負けてちょっと嬉しい胸のうち  津田照子





         紫式部の部屋を訪う道長





犯人は、誰あろう道長殿、翌朝になって、
「戸を開けないとは、ひどいではないか」と、
恨みごとのお歌を寄越されましたが、いったい何が面白くて、このような
おからかいなさったのでしょう。
" ただならじとばかりたたく水鶏ゆゑ  あけてはいかにくやしからまし "
(ただごとではないほどに戸口を叩く水鶏でしたから、戸口を開け
たらどんなにか悔しい思いをすることになったでしょう)
「戸を開けていたら、さぞや後悔なさったことでしょう」と、
しっかりお返事を差上げました。
もちろん、色恋のほのめかしを上手に歌に詠みこんで贈答し合うことは、
雅な方々の社交の一種でもあったのですが、どうやら「源氏」の作者ならと、
私は必要以上に色事の達人とみなされていたようです。
(道長と紫式部の怪しい関係は、大河ドラマ「光る君へ」の内容とちがって
いるようです)


もう朝というのに月は帰らない  くんじろう






         紫 式 部 と 倫 子





「道長は恐妻家だった」





【原文】
『宮の御前、きこしめすや。仕うまつれりと、われぼめし給ひて、
「宮の御ててにてまろ悪ろからず、まろが娘にて、宮わろくおはしまさず、
 母もまた幸ひありと思ひて、笑ひ給ふめり。
 「よい男は、持たりかし思ひたんめり」
 と、戯ぶれ聞こえ給ふも、こよなき御酔ひの紛れなりと見ゆ、さること
 もなければ、騒がしき心地はしながら、めでたくのみ聞きゐさせ給ふ。
 殿のうへ聞きにくしとおぼすにや、渡らせ給ひ
 ぬるけしきなれば、「送りせずとて、母うらみ給はむものぞ」とて、
 急ぎて御帳の内を通らせ給ふ』


よろけるとコントのようと娘が笑う  小川 道子




【訳】
(「あなたの父さまとして、俺は悪くない男ですし、俺の娘としても、あなた
は悪くはない。そして、きっとお母さまも、
『私はこんな人の妻になれて幸運だわ』と、思ってほほえんでいるのです。
「いい夫をもったわ~と思ってらっしゃるのだ」
道長さまはそう冗談をおっしゃっていた。
たぶん、すごく酔っている。私は大丈夫かいなと思ったが、中宮様は、
楽しげに聞かれているみたいだった。
が、奥様は「こんな発言聞いてらんないわ」と思ったらしい。
自分の部屋にお戻りになってしまった)


おみくじは凶「酒に注意!」と書いてある  新家完司






  襖の陰で何おか囁き合いクスクス笑っている女房たち



「ああ、お母上を部屋まで送らないと。後で機嫌が悪くなっても困るし」と、
道長さまはおっしゃって、急いで御帳台をくぐる。
奥様の後を追うのだろう。
続けて道長さまは、「中宮、あなたより母上を優先するのは失礼だと思われ
るかもしれませんが、親があるからこそ子もちゃんとしてられるものですよ」
とつぶやかれる。
女房たちはくすくす笑いながら、道長さまをお送りした。


触ったら叱られそうな言葉尻  ふじのひろし


道長の妻・倫子は、当時においては珍しく夫に対等な姿勢をとる女性だった
らしい。それもそのはず、倫子からすれば、道長に土御門邸を「あげた」
は自分なのだし、そもそも倫子が父母から譲り受けた邸だ。
身分だって、倫子の父の地位が高かったからこそ、道長は今の権力まで手に
できたのだ。
倫子という妻がいて、幸運なのは道長のほうなのである。
(これじゃ、さすがの道長も頭があがりませんわなー)

滑稽に語れば楽になる昨日  清水すみれ

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