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川柳的逍遥 人の世の一家言
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そのことは明日考える夕月夜  清水すみれ


   紫 式部


目の前に この世を背く 君よりも よそに別るる たましいぞ悲しき

目の前のこの世を背くあなたよりも、他所へと別れて行ってしまう
自分の魂こそ悲しい

「宇治十帖について」

橋姫から夢浮橋までの10巻は「宇治十帖」と呼ばれます。

実は、この宇治十帖にも、作者は別人ではないかという説があります。

第二部まで(巻の30【藤袴】)の文体や用語の使い方と宇治十帖の、

それが異なっていたり、物語の勧め方も変わっているというのです。

ギザギザの方を表にして逃げる  峯裕見子

確かに宇治十帖は主人公が(源氏父子から孫へ)代替わりしたこともあり、

その物語の展開は波乱に満ちて、これまでの面白さとは別の味わいがあり、

そんな部分を指摘して、1人の作者の作品だとは思えないというのです。

裏側を見すぎたらしい目が痛い  佐藤美はる

また、宇治十帖は男性の手によるものだという説や、

紫式部の娘が書いたものだという説、さらには宇治十帖以外にも、

他の作者が書いたものを挿入した巻があるなど、

様々な説が古くから取りざたされています。

それでも現在の通説としては、「匂宮・紅梅・竹河」の作者は別としても、

少なくとも、宇治十帖は紫式部が書いたものだろうといわれています。

裏返しのままで浮んでいる豆腐  平井美智子

それでも全編の現代語訳を完成させた瀬戸内寂聴さんは、

その三巻を含め、すべてが紫式部の手によるものという説を唱えています。

紫式部は、第二部を完成させたのち、かなりの時間をおいてから、

それ以降を書き始めたため、文体や思想が変わったという説です。

いずれにしても、そんな諸説が飛び出すのは、源氏物語が興味深く、

魅力あふれる作品であるからなのでしょう。

「橋姫」からの残り10巻「源氏物語」にもう暫らくお付き合いください。

草に寝て月光あびよいじめっ子  徳山泰子

拍手[4回]

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傘を失くして立冬という駅に着く  岡谷 樹


  宇治10帖相関図  (拡大してご覧ください)


橋姫の 心を汲みて 高瀬さす 棹のしづくに 袖ぞ濡れぬる

宇治川近くで橋を守る伝説の橋姫のようなあなたがた姫君。
その寂しいお気持ちを察すると、棹にかかる水の雫のように、
私の袖も泣き濡れてしまいます。

「巻の45 【橋姫】」

京の都から少し離れた宇治の地に亡き桐壺院八の宮が住んでいる。

この八の宮は、冷泉院光源氏の異母弟にあたる。

身分は高貴だが、王位をめぐる争いに巻き込まれ、さらに京にあった邸も

焼失したため、逃れるようにして宇治の山荘に移り住むようになった。

八の宮の妻(北の方)も大臣の娘だったが、思いの外の逆境に置かれて、

結婚の当初、
親たちが描いていた夢を思い出すにつけても、

余りな距離のある今の境遇が、
悲しみになることもあるが、

唯一の妻として愛されていることに慰められて、


互いに信頼を持つ相愛の夫妻であった。

間引かれた方の仲間に入れられる  安土理恵

夫妻は何年経っても子に恵まれず、寂しい退屈を紛らすような美しい子供

がほしいと時々、呟き願っていたら、思いがけぬ頃に美しい姫が生まれた。

この姫を大そうに愛し、育てているうちに、ふたたび妻が妊娠。

今度は男がいいと望んだのだが、また姫君が生まれた。

安産であったが、産後に妻は病に犯され黄泉の人となってしまう。

この悲しい事実の前に八の宮は、涙に明け暮れる日々が続くが、

歎いてばかりもしておられず、姫たちを男手一つで育て、

わずかな侍者とひっそり暮らしていた。

拵えて自宅待機のすすきです  内田真理子

山奥に隠れ住んでいるものを、はるばる訪ねてくる人もない。

朝霧が終日、山を這っている日のような暗い気持ちで暮らす中、

八の宮は仏道修行に励み、心を清く持ち続けた。

この宇治には聖僧として尊敬される阿闍梨が一人いる。

もともと宮は、仏道の学識の深さを世間からも認められていながら、

宮廷のご用の時などにも、なるべく出るのを避けて、山荘に籠もり

仏道研究に没頭し、宗教の書物をひたすら読み耽った。

これが聖僧として尊敬される宇治の阿闍梨の知るところとなり、

時々、訪ねて来てくれるようになる。

鬼門から抜けて小さな咳をする  桑原伸吉


 八の宮の姉妹

この阿闍梨から、この世はただかりそめのもの、

味気ないところであると
教えられ、宮は、

「もう心だけは仏の御弟子に変わらないのですが、私にはご承知のように

  年のゆかぬ子供がいることで、この世との縁を切れず僧にもなれない」

と言う。

阿闍梨は、冷泉院へも出入りをしており、院の御所を訪れた折、

「八の宮様は聡明で、宗教の学問はかなり深くでき、仏さまにお考えが

   あって
この世へお出しになった方ではないだろうか、

   悟りきっている様子は、
すでに立派な高僧です」という。

この話に院は、


「まだ出家はされていなかったのか。

  『俗聖』などと若い者たちが名をつけているが、 お気の毒だ」と洩らす。

臍みせて楽になりたいなと思う  笠原道子

この冷泉院と僧との、八の宮の噂を薫もその場にいて、聞き入っていた。

薫は自分も人生を厭わしく思いながら、仏道について何もできていない

ことを
遺憾に思いながら、今こうして八の宮の悟りの心境にふれ、

一度会って、教えを乞いたい
と思った。

そして八の宮の山荘を訪ねる。


阿闍梨から話に聞いて想像したよりも、山荘は目に見ては寂しい所だった。

山荘といっても風流な趣を尽くした贅沢なものもあるが、

ここは荒い水音、
波の響きの強さに思っていることもかき消され、

夜も落ち着いて眠れない。


素朴といえば素朴、すごいといえばすごい山荘だった。

そして、こんな家に住んでいる姫たちは、どんな気持ちで暮らしているの

だろうかと薫は想像を膨らます。

雑草よいっぺん笑うたらどうや  筒井祥文


足繁く山荘を訪う薫

2人の姫は、仏の間と襖子一つ隔てた座敷に住んでいる。

女好きの男なら、どんな人が住んでいるのだろうと思うところだが、

薫は
師にと思う方を尋ねて来ながら、女にうつつを抜かす言行があっては

ならない
と思い返し、この気の毒な生活を懇切に補助することに、

心を切り替える。


それから薫は、八の宮に足繁く通い始める。

恋に落ちないように片側を歩く  中野六助


姉妹を垣間見る薫

薫が山荘に通うようになり、冷泉院からも様子を聞かれることも多々あり、

寂しいばかりの山荘にも、ぼちぼちと京の人の影が見えるようになる。

そして院から補助の金品を年に何度か寄贈もされることになった。

薫も機会を見ては、風流な物、実用的な品を贈ることを怠らなかった。

雪のふる音にあわせる願いごと  河村啓子


   姉妹を覗く薫

三年が経ち、少し間が空いてしまったが、薫は再び、八の宮を訪れる。

しかし八の宮は、7日間の仏道修行のため不在。

迷っていると家の中から、琵琶を奏でる音が聞こえてくる。

薫は侍者に言って、よく聞こえる場所に行くと、

垣根の隙間から大君と中の君が
楽器を楽しんでいる。

薫は美しい2人に心を奪われてしまう。

やがて邸の門に戻ると、年老いた女房が薫の対応に出てきた。

弁の君という名の姫たちの世話役を勤める女である。

年令は60前ぐらいか、優雅なふうのある女で、品もよい。

弁は急に他人が聞いても、同情を禁じえないだろう昔話を語り始めた。

薫が長い間、知りたかった自分の出生のことなども弁は知っている。

弁は亡き柏木の乳母子であった。

自分の本当のことを知る人に、偶然めぐり合えたことに薫は泣いた。

エレキバン偶数日には左肩  雨森茂樹

柏木が亡くなる直前、遺言を聞かされたという弁は、その時、真実を

どのように薫に伝えればよいものか分からず、今日にいたってしまった。

しかし今、薫が八の宮に訪ねてくることは、仏のお導きにほかならない。

このまま伝えるべき人に会えなければ、命も少ない老人が持っていても

仕方が無いので、焼いてしまおうと考えていた手紙も預かっているという。

手紙の入った黴臭い袋を弁は薫に渡した。

「あなた様のお手で御処分ください。もう自分は生きられなくなった」

と柏木が言い、弁に渡したものだという。

薫は弁から渡された柏木と女三宮の恋文に複雑な思いにかられる。

薫はなにげなくその包を袖の中へしまった。

哀しみに音あり淡い彩のあり  嶋澤喜八郎


薫 弁から袋を受け取る

薫は自邸に帰って、弁から得た袋をまず取り出してみた。

細い組み紐で口を結んだ端を紙で封じ、大納言の名が書かれてある。

薫はあけるのも恐ろしい気がした。

いろいろな紙で、たまに来た女三の宮のお手紙が五、六通ある。

そのほかには柏木の手で、

「病はいよいよ重くなり、忍んでお逢いすることも     
困難になった

   こんな時さえも、あなたを見ていたい心がそちらを向いている。


   あなたが尼になったということを聞かされ、また悲しく思っている」

ことなどを
檀紙五、六枚に一字ずつ、鳥の足跡のように書きつけてある。

書き終えることもできなかったような、乱れた文字の手紙もあった。

行き先を忘れたらしい蝶が一匹  森田律子

母宮の居間のほうへ行ってみると、無邪気な様子で母は経を読んでいた。

今さら自分が父と母の秘密を知ったとて、知らせる必要もないと思って、

薫は
心一つにそのことを納めておくことにした。

はつゆきや連れてくるのは過去ばかり  清水すみれ

【辞典】 隠棲を余儀なくされた八の宮の経緯

かつて八の宮は陰の東宮候補になったことがある。
これを後押ししたのが弘徽殿大后。源氏の母・桐壷更衣を苛めた人である。
さらには朧月夜の事件で、源氏を政界から追い出そうとした張本人である。
弘徽殿大后はこの事件で源氏が須磨・明石へ離れている間に、当時東宮
だった冷泉院を廃して、八の宮を次期の帝になる東宮にしてしまおうと
陰謀
を企んだのだった。

しかし、その企みは源氏の政界復帰によって打ち砕かれてしまう。
源氏の勢力が増すにつれ弘徽殿大后の発言力は低下し、それに伴って担
ぎ出された八の宮も周辺から敬遠される人物になってしまったのである。
それまでは普通の生活が出来ていたのに、この陰謀があったばかりに勢い
のある源氏に恨まれてはいけないと、八の宮から人が離れていくのである。

三隣亡でも茶柱が立つ不思議  武市柳章

拍手[3回]

ときどきは深いところをかきまぜる  田村ひろ子


  玉鬘と女房たち


竹河の はし打ち出でし 一節に 深き心の 底は知りきや

竹河という歌を謡ったあの一節から、
私の深い心の思いを分かっていただけたでしょうか。

「巻の44 【竹河】」

太政大臣・髭黒は、玉鬘との間にできた3男2女を残して亡くなった。

どの子の未来も幸福になって欲しいと空想を描いて、

成長するのももどかしく
待っていた髭黒だったが、突然亡くなったので、

遺族は夢のような気がして、
生前の髭黒が娘の入内を望んでいたことも

そのままになっていた。


2人とも器量がよく、特に姉の大宮の美しさは世間でも噂になるほどで、

今上帝をはじめ冷泉帝夕霧の子・蔵人少将や柏木の子・など、

多くの求婚者が集まる。

口紅をさすとおんなは花になる  美馬りゅうこ

玉鬘は姉姫をただの男とは決して結婚させまいと思っていた。

妹姫はもう少し蔵人少将が出世したなら、結婚させてもいいと考えていた。

少将は許しがなければ、盗み取ろうと思うほどに深い執着を持っている。

もってのほかの縁と玉鬘は思っている訳ではないが、相手の同意もなく

暴力的に結ばれることは、世間に聞こえた時、こちらにも隙のあったことに

なってよろしくないと思って、蔵人少将の取り次ぎをする女房に、

「決して過失をあなたたちから起こしてはなりませんよ」

と戒めているので、少将も手の出しようがなかった。

一方、上帝への入内となると明石中宮がいて姫の苦労は目に見えている。

退位した冷泉院には、秋好中宮という寵愛をする女性がいる。

どうしたらよいか、玉鬘は判断がつかない。

ハンカチの耳をそろえて少し泣く  清水すみれ
   

満開の桜と競う姉姫と妹姫

3月になって、咲く桜、散る桜が混じって春の気分の高潮に達したころ、

姫君たちはちょうど18、9くらいで、容貌も性質もとりどりに美しい。

姉姫のほうは鮮明に気高い美貌で、華やかな感じのする人で、

普通の人に
嫁がせるのは、もったいないと玉鬘が評価しているのも

もっともなことと思われる。


妹姫は、背が高くて艶に澄み切った清楚な感じのする聡明な顔つきである。

碁を打つために姉妹は向き合っていた。

髪の質のよさ、鬢の毛の顔への掛かり具合など、両姫とも見事である。

この囲碁に熱中している姉君の姿を垣間見ることが出来た蔵人少将は、

少し勇気づけられた気がした。

だが、悲運な蔵人少将の浮かれた気分は、すぐ砕かれてしまう。

マンゴーも女も甘い香を放つ  日野 愿

困り果てた玉鬘が、冷泉院からの催促に折れ、結婚を決めてしまったのだ。

それを聞いた蔵人少将は「自分はもう死んでしまう」と泣き暮れる。

姉君あてにそんな手紙を書き、同情を誘うが決まったものは動かない。

ライバルの薫も思いを残す結果となる。

やがて7月になって姫は妊娠をした。
つわり
悪阻に悩んでいる新女御(姉姫)の姿もまた美しい。

世の中の男が騒いだのはもっとなことだと院は思い、

愛する姫を慰めようと
音楽の遊びをたびたび御殿で催した。

侍従が正月に「梅が枝」を歌いながら訪ねて行った時に、

合わせて和琴を
弾いた左近中将(鬚黒と玉鬘の長男)も常に役を仰せつかっていた。

薫は弾き手のだれであるかを音に知って、姫との手紙のやり取りの仲介を

させていたころの夜を追想するのだった。


哀しみに音あり淡い彩のあり  嶋澤喜八郎

そして姉姫は翌年4月に女宮、次の年には皇子を生む。

院の多くの後宮の女御たちには、男の子が恵まれなかったことから、

院は親王誕生に喜び、ことのほか新女御を愛した。

「在位の時であったなら、どれほどこの宮の地位を光彩あるものに

   できたか、
もう今では過去へ退いた自分から生まれた一親王にすぎない

    のが
残念である」 と院は思うのだった。

愛のうたらくだに瘤が二つある  森中恵美子

しかし院の愛情が大きければ大きいほどば、新女御の立場が苦しくなる。

双方の女房の間に苦く重たい空気がかもし出されてゆく。

新女御は人事関係の面倒さに、里へ下がっていることが多くなった。

玉鬘は娘のために描いた夢が破れてしまったことを残念がった。

御所へ上がったほうの妹姫はかえって、はなやかに幸福な日を送っていて、

世間からも聡明で趣味の高い後宮の人と認められていた。

玉鬘は自分の判断が間違っていたのかと嘆き、

たまたま訪問していた薫に、
愚痴を溢すが超然とした薫は

「よくあることですね」
などと言って、
親身にはなってくれない。

柔軟剤に一晩漬けておくイケズ  山本昌乃


 囲碁を打つ姉妹

【辞典】 作者別人説

原文ではこの竹河の巻の冒頭に、但し書きのような文章が記載されている。
それに加え今までの話は紫の上に仕えていた女房の噂話で「間違っている
かもしれない」とまで書かれている。
今までのことを否定しているような説明なのだ。


原文・書き出し。
これは源氏の御族にも離れたまへりし、後の大殿わたりにありける悪御達
の、
落ちとまり残れるが、問はず語りしおきたるは、紫の ゆかりにも似ざ
めれど、
かの女どもの言ひけるは、「源氏の御末々に、ひがことどもの混
じりて聞こゆ
るは我よりも年の数積もり、ほけたりける人のひがことにや」
などあやしがり
ける。いづれかはまことならむ。

〈ここに書くのは源氏の君一族とも離れた、最近に亡くなった関白太政大
の家の話である。つまらぬ女房の生き残ったのが語って聞かせたのを書
くの
であるから、紫の筆の跡には遠いものになるであろう。またそうした
女たちの
一人が、光源氏の子孫と言われる人の中に、正当の子孫と、そう
でないのと
があるように思われるのは、自分などよりももっと記憶の不確
かな老人が語
り伝えて来たことで、間違いがあるのではないかと不思議が
って言ったことも
あるのであるから、今書いていくことも、皆、真実のこ
とでなかったかもしれな
いのである

無為な日はあっちこっちを掘り返す  森吉留里恵

その出だしの設定方法はもとより、この竹河の巻と前の匂宮、紅梅の巻
はこれまでの41巻から見て、劣っている点が多数あると古くから多くの
人が
指摘している。文体や用語の使い方、何よりも物語の面白さといった
点で、
三部の始まりの三巻は完成度が低いといわれている。

そんな指摘を踏まえこの三巻は、紫式部が書いたものではなく、あとから
別の人
が書いて、差し込んだという説がある。この説は完全に否定されて
おらず、今も
決着はついてない。

 しかしこれからつづく10巻の話は「宇治十帖」とも呼ばれ、
人によってはそれ
までの光源氏のストーリーより評価されている。

源氏物語も残り10巻。ダイナミックなストーリーが展開されます。

その先に触れると未来消されます  上田 仁

拍手[3回]

無添加のエロスを抱いている少女  美馬りゅうこ



心ありて 風のにほはず 園の梅に まずうぐひすの とはずやあるべき

風に乗って庭にある梅の香りが、素晴らしく漂います。
あなたへの気持ちとして贈ったその梅。鶯のように早速、
お返事いただけるものと思っております。

「巻の43 【紅梅】」

紅梅は、前太政大臣(頭中将)の次男で、柏木の弟にあたる。
    あぜち
位は今按察使大納言。 「紅梅」の中心人物となることから、

後世の人により「紅梅大納言」の通称がつけられた。

明るく利発な性格で、幼少の頃から美声で歌をよくし周りを楽しませた。

そんな人だから出世も早く、今では自然に権力もできて世間の信望も高い。

最初の妻は亡くなっており、前太政大臣の長女・真木柱を妻に迎えていた。

真木柱も前夫の蛍宮を亡くし未亡人であった。

2人の間に子どもは4人、前妻が生んだ「長女と次女」

そして真木柱と蛍宮の間の連れ子である「宮の姫君」と、

もう1人は、紅梅と真木柱の間に設けた「長男」である。

水滴がツツーと何か言いたげだ  立蔵信子

紅梅と真木柱は母親の違う娘と、父親のない娘を差別せず、

平等に可愛がっているが、姫君付きの女房同士の間で、

しばしば揉めごとが起こったりしている。

それを真木柱は、きわめて明るい快活な性質だから、どちらがどうのと

善し悪しを詳らかにせず、自身の娘のために不利なことも、

ことを荒だてずに済ませるよう骨を折ったいたから、

極めて平和な家庭であった。


折り紙に命ふきこむ小さな手  寺島洋子


   紅梅大納言

妙齢の娘が3人もいる家の常で、大納言家へは求婚の申し込みが絶えない。

今上帝東宮からも打診があるほど。

帝の傍には中宮がおいでになる。

「どんな人が行っても、その方と同じだけの寵愛が得られるわけもない、

そう言って身を卑下して、後宮の一員に備わっているだけではつまらない、

東宮には、左大臣夕霧の長女が侍していて、すでに寵を得ている」

紅梅はこうした競争相手が多い入内は嫌ったが、

「競争することは困難であっても、そんなふうにばかり考えていては、

幸福になって欲しいと願っているのに、未来が悲しいものになりかねない」

と考え、長女を入内させた。

年はもう十七、八で美しい華やかな気のする姫君であった。

神様がくれた鏡を見てごらん  河村啓子

次女も近い年で、上品な澄みきって、姉にも負けない美しさがあったから、

普通の人と結婚させるのは惜しく、匂宮(兵部卿宮)が求婚してくれたらと、

紅梅はそんな望みを持っていた。

紅梅の一人息子は、かわいく聡明な子であったから、

匂宮が御所などで見つけると、そばへ呼んでは、可愛がった。

「弟だけを見ていて満足ができないと大納言に言ってくれ」

と匂宮が言っているのを聞くと、紅梅は嬉しそうに笑顔を見せ、

「人にけおされるような宮仕えよりは、

  兵部卿宮などにこそ自信のある娘は
差し上げるのがいいと私は思う」


人憚らず言っているのである。

過呼吸の街で幻想をひろう  森吉留里恵

真木柱の連れ子の姫は、内気で、人見知りで恥ずかしがり屋だが、

性質が明るくて愛嬌のある点は誰よりもすぐれていた。

紅梅は長女を東宮へ奉ったり、二女の将来の目算をしたりして、

自身の娘にだけ、「力を入れているように見られていないか」と心配で

「姫君にどういうふうな結婚をさせようという方針をきめて言ってください。

   二人の娘に変わらぬ尽力を、私はするつもりだから」

と真木柱にはいつも気配りを絶やさない。

吾亦紅の無口な訳は伏せておく  本田洋子

真木柱は紅梅の好意を謝して、

「結婚などという人並みの空想を持つことは、

   あの子の弱い気質からみても、
とても無理ことと思っています。


   それで普通の計らいをしてはかえって、不幸を招くことになると

   思いますから、
すべては運命に任せ、自分の生きている間は手もとへ

   置くことにいたします。


   それから先のことは心配でもありますが、尼になるという道もありますし、

   その時にはもう、自身の処置を誤らない女性になっていると思います」

と、涙混じりにつつましやかに言う。

点線になって息つぎうまくなる  目黒友遊

分け隔てなく父親らしくふるまっているつもりの紅梅だが、

御簾に隠れている姫君の容貌は見たことがなかった。

一度は見てみたいと思い、人知れず見る機会をうかがっていたが、

絶対と言ってもよいほど、姫君は影すらも、継父に見せないのである。

「まだ親と認めてもらえない扱いは、残念です」

と御簾越しに言うと、姫君は小さく返事を返してくるだけである。。

声やら気配やらの品のよさに、美しい容貌も想像される可憐な人であった。

紅梅は自分の娘たちを、優れたものと見て慢心しているが、

この人には、劣っているかもしれぬ、またそれ以上の価値の備えている

人なのかも知れないと、いっそう好奇心が惹かれるのであった。

平常心戻せぬままに二度の雨  上田 仁


匂宮 手紙を書く

(真木柱)の姫は、細かい他人の感情も分かる齢になっていおり、

匂宮が寄せている好意を気づかないはずはない。

しかし姫は結婚をして、世間並みな生活をすることなどは断念していた。

父親の勢力を背景に一方の西の姫君の方へは、求婚者が次ぎ次ぎと現われ、

はなやかな空気もそこでは作られる。


一方では、陰の人のように引っ込んで暮らしている様子を、匂宮は聞き、

自身の理想に叶った相手と思いますます惹かれていくのであった。

始終、大納言家の息子を呼んでは、伝令役としてそっと手紙を言付ける。

紅梅の本心を知っている真木柱は、それを心苦しく思い、

「そんな気持ちなどをまったく持っていない者へ、いろいろと好意を寄せた

   手紙をくださっても無駄なのに」

こんなことを言うことがあった。

大きい声を定形外で送りつけ  都司 豊

少しも返事が来ないことに匂宮は苛立って、負けたくないお気持ちもあり、

より熱の入った手紙を書いて送るのであった。

こんな熱心な匂宮を、輝かしい未来も予想される方であると思い、

真木柱は婿に迎えてみたい、どうしようかという気持ちもあった。

しかし多情で、恋人も多く、八の宮の姫君にも執心で、度々、宇治にまで

出かけいる噂を耳にすると、娘のためによい良人になるとは思われない。

不幸な境遇の娘だから、もし結婚をさせることになれば万全の縁でなければ、

笑い者になるばかりであると、大方の心は、断わりすることに決めていた。

しかし御身分柄のもったいなさに、母として時々、返事だけは出していた。

しいほうの顔は金庫にしまっとく  清水すみれ

拍手[3回]

冬景色何処かに僕がいる筈だ  牧浦完次


第三部主な登場人物 (拡大してご覧下さい)

おぼつかな 誰に問わまし いかにして 初も果も 知らぬわが身ぞ

はっきりわからないことだ。誰にどう尋ねたらよぴのだろう。
最初も終わりもわからない、自分の身の上よ。

「巻の42 【匂宮】」

光源氏の逝去以降、それほど世間を魅了する人がいなかった。

今上帝明石中宮の子で紫の上に愛され育てられた「匂宮」と、

同じ六条院で成長した朱雀院の女三宮の子・「薫」の二人が、

それぞれ美貌の評判が高く、貴公子として育ってはいるが

源氏に比べると、まばゆいほどの美男というのでもない、が、

しかし世間には、この2人の貴公子に準じて見るほどの人もいない。

神様がくれた鏡を見てごらん  河村啓子

は、表向きは源氏が父親であるが、実は柏木の不義の子である。

一方の匂宮は、今上帝と明石中宮の三男、帝にも后にもお愛され、

宮中に住居の御殿も持たせてもらっているが、幼い頃、

紫の上に二条院に
住むように言われたこともあってか、

気楽な二条院にいることが多い。


元服の後は兵部卿宮と呼ばれた。

本の眉に小さな目が二つ  筒井祥文

薫は、成長していくにつれ、子ども心にかすかに小耳に挟んでいた

自分の
素性への疑問が大きくなっていく。

「母の三宮はなぜ若くして出家したのだろうか、

   どのような御道心でからか、
急に出家されたのだろう。


   不本意な過ちがもとで、きっと世の中が嫌になることがあったのだろう。

   母に真相を聞くことは、とてもできない。

  後を追うようにして亡くなった柏木という人は・・・?」

隠しておかなければならないことのために、

事情を語ってくれる人がいない
と、薫は推量するが、

生まれ変わってでも真実に出会いたい気持ちが勝ち、


眩しいほど華やかな身辺も気に染まず、自然とひっこみ思案になった。

逆行線のあたりでちょっと泣いてみる  山本昌乃

馨には、この世のものとも思われぬ高尚な香を、身体に備わっている。

遠くにいてさえこの人の追い風は、人を驚かせるほどだった。

多くは、わざわざ香を焚いて、よい匂いをつけていたが、その必要がない。

怪しいほど放散する匂いに、忍び歩きをするのも、知人と接する時にも、

不自由なことになるので
薫は、薫香などは用いない。

庭の花の木もこの人の袖が触れると、春雨後の枝の雫もすがしく香った。

秋の野のだれのものでもない藤袴は、この人が通ればもとの香が懐かしい

香に変わるのだった。

さりげなく薄桃色である尻尾  合田瑠美子

薫は19歳で、帝も后にも愛され三位の参議に昇進し、中将も兼ねていた。

臣下としてこれ以上幸福な存在はないと見られるのだが、心の中には

父や母に対する不幸な認識が潜んでいて、楽天的にはなれない。

貴公子に共通な放縦な生活をするようなことも好まなかった。

すでに円熟に達した老成なふうの男であると 人からも見られていた。
       
自分ながらも予期せぬ恋の初めの路に踏み入るようなことが、

もしあっては、
宮のためにも、自身のためにもよろしくないと思い、

女性は遠ざけた。


独りは寂しい独りは素晴しい  上山堅坊

しかし、人に愛されるべく作られたような風采のある薫であったから、

かりそめの戯れを言いかけたにすぎない女からも、好意を持たれて、

やむなく情人関係になったような、愛人と認めていない相手も多くなり、

女のためには秘密にするほうがよいと、思い、すべて蔭のことにして、

薫の誘うままに女を三条の母宮の所で、女房勤めをさせるようにした。
       
冷淡な態度を始終見せられているのも苦痛ではあったが、

絶縁されるよりはよいと女たちは思って、

女房勤めをする身分でない人々も
薫とはかない関係を続けることで、

自らを慰めているのだが、
その姿を、

目にするだけでも情感を受けられる人であったから、


どの女も強いて自分をを欺くようにして、この境遇に満足していた。

失恋に効きそう水の一気飲み  青砥たかこ


  右・匂宮と大宮

一方、匂宮といえば、薫とは対照的に女性好きでおしゃれ。

祖父の源氏の性格を受け継いでいるようだ。

そして薫に対してライバル意識を持っている。

そのため自分もいい匂いをさせようと、特別にいろいろの優れた香を焚き

匂いをつけたりすることに熱心で、個々の花を愛でたりする風流の心は、

少しも、持ち合わせてはいなかった。

例によって、世間の人は、「匂う兵部卿、薫る中将」と、言い立てて、

良い娘がいる高貴な所々では、心をときめかし婿にと申し出てくる人もあった。

とびきりに化けております鏡の中  北原照子

こういうことで、夕霧の右大臣は大勢ある娘の中の1人は、匂宮へ、

1人は、薫に、
嫁がせたいという希望を持っていた。
                  とうのないしのすけ
雲井雁の生んだ娘たちよりも、藤典侍にできた六女は、

ことにすぐれて美しく、
性質も欠点のない女の子であった。

劣った母に生まれた子として、世間が軽蔑して見ることを惜しく思い、

女二宮がお子を授かれず、寂しい様子であるために、

夕霧は六の君を典侍の所から迎えて、宮二宮の養女に差し上げた。
       
「よい機会に二人の公子に姫君の気配をそれとなく示したなら、

   必ず熱心な求婚者になしうるであろう、すぐれた女の価値を知ることは、

   すぐれた男でなければできぬはずである] と、大臣は思い、

六の君を后の候補者というような大業な扱いをせず、

はなやかに人目を引くような派手な扱いをして、

彼らの心を惹くようにした。


待っている酒が真水に還るまで  雨森茂喜

源氏が亡くなって、六条院にいた人たちの生活も大きく変っていく。

源氏に仕えた夫人たちは、泣く泣くそれぞれの家へ帰り、

六条院の中は寂しく人も少なくなって廃れていく様に、

明石の中宮の嘆くのを見た、右大臣の夕霧は、

「昔の人の上で見ても、生きている時に心をこめて作り上げた家が、

   死後に顧みる者もないような廃邸になっていることは、

   栄枯盛衰を露骨に形にして見せている気がしてよろしくないものだから、

   せめて私一代だけは、六条院を荒らさないことにしたいと思う。

   近くの町が人通りも少なく、寂しくなるようなことはさせたくない」

と言い、
東の町へ落葉宮を移し、

雲居雁の邸と一夜置きに月十五日ずつ正しく分けて
泊るようにした。

そして南町には女一宮二宮(東宮の弟)が住み

花散里は遺産として与えられた東の院に住んだ。

もぐると見える一身上の都合  山口ろっぱ


   匂 宮

【辞典】 光源氏逝去のその後

この寛では、匂宮という、2人の人物を中心にストーリーを引っ張る。
それとは別に、源氏亡き後の主な登場人物たちが、どうなっているのかが、
細かく語られている。
主には、光源氏が住んでいた六条院に暮らしていた人たちにスポット。

紫の上がいた六条院の春の町には、今上帝と明石中宮の子・女一宮が入り、
夏の町には落葉宮、秋の町は変らず、秋好中宮の里邸、冬の町は明石の君
もともと夏の町にいた花散里は、二条東院を相続しそこに住むことになる。
そして尼になった女三宮は、六条院を出て三条の宮邸に移り、勤行に励む。
女三宮の息子である薫はたびたび、母の様子をうかがいにここに訪れている。
そして夕霧の長女は東宮妃になった。
さらに二番目の娘も、東宮の弟・二宮に
嫁いでいる。
藤典侍が生んだ美人と評判の高い六君という娘は、子どものいな
い落葉宮の
養女にして、いずれは薫か匂宮の妻として向かえてもらえるように
備える。

葛根湯を骨折に処方せり  くんじろう

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