虹はお空のフレスコ俯瞰図に置く 山口ろっぱ
若 紫
見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに やがてまぎるる わが身ともがな
(やっと逢えたけれど、次に逢える夜はもう当分に来ないだろうから、
このまま夢の中に消えてしまいたいと思っております)
「巻の5【若紫】」
光源氏18歳、瘧病(わらわ)の治療のため北山の寺にきていたときのことである。
ここで出会ったのが、あの藤壺によく似た美しい少女。
散歩などしているところに、少女がやってきた。
少女は真っ赤に泣きはらした眼をこすりこすり、
「雀の子を犬君が逃がしてしまったの、伏籠に入れておいたのに」
とお守り役の尼(祖母)に訴えている。
尼は、「こっちにいらっしゃい」と言い少女を自分の膝の上に座らせ、
「あなたはどうしていつまでもそんなに幼いのかしら。
私の命が明日をも知れないのに」 と諭しながら連れ帰る。
この少女が若紫である。
そうだねぇ菫色って言うのかねぇ 河村啓子
源氏は美しい若紫を見ている中、恋い焦がれている藤壺のことを思い出し、
涙ぐんでしまう。
聞いてみるとこの少女は、
源氏の義母であり恋しい人でもある藤壺の姪だという。
母親を早くに亡くし、兵部卿宮という父親がいるにはいるが、
そこには別の正妻がいるので、尼である祖母に育てられている。
源氏はこの少女があの藤壺の姪と知って、なおさら興味を抱いた。
そして可哀想な境遇の若紫を源氏は、側に置いて育てたいと思うのだった。
さっそく「この子を自分の養女に」と申し出るが、
突然の申し出ということで、簡単には承諾されない。
似ていると言われ嫌やわと答える 石橋能里子
やがて療養も終わり、源氏は妻・葵の上のもとに帰るも、
相変わらず妻とは気持がすれ違うまま。
葵の上の父・左大臣は、源氏に気をつかい娘に注意をするが、
葵の上はしぶしぶ従うだけ。
源氏と2人きりになっても他人行儀のつれなさ。
そんな境遇におかれた源氏は、ますますあの若紫への想いが募った。
そんな折、源氏は体調を崩した藤壺が宮中から一時帰宅することを知る。
この機を逃してはならぬと、源氏は王命婦(おうみょうふ)という女房の手引きで、
短いながらも藤壺との密会を果たす。
スキ好きすきと炎くぐってくる恋慕 百々寿子
ところが藤壺は、深く思い悩んでいる様子。
以前、源氏と間違いを犯してしまったときのことを悔い、
「もう二度とそんなことはしてはならぬ」と思っていたからである。
源氏は夫・桐壷帝の実子。
つまり藤壺は義理の母親でもあるのだ。
そして運命のいたずらにより藤壷は、この密会で源氏の子を宿してしまう。
桐壷帝は藤壺の懐妊を聞くと大いに喜び、
「自分の子ができた」とますます妻への愛情を深めていく。
藤壺は帝に優しくされるたびに、罪の重さに恐ろしくなるばかり。
ため息を吐く時 森は深くなる 徳山泰子
一方の源氏も、最近は怖い夢ばかり見る不安定な精神状態。
心配になって占い師に見てもらうと、占い師は、
「将来、あなたは帝の父親になるでしょう」ととんでもないことを言い出す始末。
源氏も「世間が祝福して、騒いでいる藤壺の懐妊は、もしやあの夜の…」
と不安を抱くのだった。
妻にも馴染めず、藤壺の懐妊に疑いと不安を持っていた源氏は、
「せめてあの美しい少女を」 と気を変えてみるのだった。
そして若紫を育てる尼のもとに何度となく手紙を出して、
「ぜひ、養女に」と打診をしているが、なかなか色よい返事はもらえない。
焦点がずれて傷心深くなる 山本昌乃
幼い若紫
そうこうしているうち、しばらく日が経ち、源氏が久しぶりに手紙を出すと、
その内容は思わぬ内容だった。
あの病弱だった尼が亡くなったというのである。
源氏はさっそく若紫を訪ねていった。
屋敷はすっかり荒れ果て、見るからに薄気味悪い。
こんなところで頼るべき人を亡くし、幼い若紫はさぞかし心細かろうと、
源氏は胸が締め付けられる思いがした。
そこで源氏は、若紫の行く末について乳母に確かめたところ、
若紫は、父親の兵部卿宮が引き取ることになったという。
かき混ぜた言葉が不意を突いてくる 佐藤正昭
しかし亡くなった尼もこの乳母も、父親と住まわせるのが心配だった。
兵部卿宮の正妻はその昔、今は亡き若紫の母親に、
大分辛くあたった人で、そして子沢山。
そんな中でおざなりに育てられるのではないかと、危惧するのであった。
バンカーも池もありますご用心 吉岡 民
まもなく、惟光からの報告によると、
明朝、兵部卿宮が若紫を引き取りにくるという。
若紫が父宮のもとに行ったら、もう今までのように会えなくなる。
源氏は夜明け前に惟光を伴って、若紫の屋敷にかけつけ、
強引に乳母ともども若紫を、自分の屋敷に連れ去るのである。
兵部卿宮が屋敷に迎えにきたときは、若紫の姿はどこにもない。
兵部卿宮は落胆し、どうせ少納言が娘を継母のいる自分の屋敷に
連れて行くのを嫌って、姿を隠したのだと嘆いた。
こうして若紫は二条院で暮らし育てられることになった。
ここで若紫は、「紫の上」と呼ばれることになる。
さようならぴったり糊をつけていく 竹内ゆみこ
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