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川柳的逍遥 人の世の一家言
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僕にしか見えない虹があるのです  竹内ゆみこ



浅茅は庭の表も見えぬほど茂って、蓬は軒の高さに達するほど、
葎は西門、東門を閉じてしまったというと用心がよくなったようにも
聞こえるが、
くずれた土塀は牛や馬が踏みならしてしまい、
春夏には無礼な牧童が
放牧をしに来た。


尋ねても 我こそ訪はめ 道もなく 深き蓬の もとの心を

誰も訪ねて来ないでしょうが、私だけは訪れることにしましょう。
道もなくなってしまう程の深い蓬の邸に住む、私を思ってくれる
姫のところに。


「巻の15 【蓬生】」

光源氏が都落ちして、須磨・明石に暮らしていたころ、都では、

源氏の恋人たちは、皆さびしく悲しい生活を送っていた。

特に悲惨だったのが末摘花父・常陸宮を亡くし、

引き継いだ邸で貧しく暮らしていたあの不器量な姫君である。


それでも一時は源氏が通い、生活の支援をしてくれたお陰で、

それなりの貴族らしい生活は出来ていた。

しかし、源氏が都を離れた今、極貧の生活に逆戻り、

蓬などの草は
ぼうぼうに生い茂り、

キツネやフクロウの棲み処になっているほど。


はぐれ雲人待ち顔の雛に似て  前中知栄

仕える女房たちは、家を売ろうとか家具調度を売りその場を凌ごうなどの

助言をするが、末摘花は父から受け継いだものを、

決して手放すつもりはなく、ガンとして言うことをきかない。

かつて、常陸宮家に軽んじられた叔母(末摘花の妹)が、

その仕返しとばかり、
悪さをしてくる。

夫が太宰大弐になったのを機に、末摘花を九州に伴って召使いにしようと

画策するが、それも固辞して、源氏との再開を待ち続ける。
                                  めのとご
そんなことで女房たちの中でも、一番信頼していた乳母子の侍従までも、

末摘花の叔母に連れられ、出て行ってしまう。

あとは、年老いた女房が数人。

その彼女たちも、縁故を頼りに出て行く算段をしている。

淋しさがこんなに重い ほんと冬  桑原すゞ代



帝に召還され、都に戻っていた源氏が、花散里を訪ねる途上、

荒れ果てた邸の前を、たまたま源氏が通ったのは、そんな時だった。

荒れたはてた邸を見て、源氏は末摘花の存在を思い出す。

「ここにいた人がまだ住んでいるかもしれない。

   私は訪ねてやらねばならないのだが、

   わざわざ出かけることも大層になるから、この機会に、

   もしその人がいれば逢ってみよう。はいって行って尋ねて来てくれ。

   住み主がだれであるかを聞いてから私のことを言わないと恥をかくよ」

と、車の中から使いの惟光に様子を探るように命じる。

口の無い夜は耳たぶでお話し  井上一筒

惟光が戻り、末摘花が今もこの住まいにいることを確認すると、

源氏は、「どうしようかね、こんなふうに出かけて来ることも近ごろは、

   容易でないのだから、この機会でなくては訪ねられないだろう。

   すべてのことを総合して考えてみても、

   昔のままに独身でいる想像のつく人だ」
と言い、

習わしの手紙のやり取りも省略し、末摘花のいるところに向かった。


常夜灯 誰も帰って来ないけど  安土理恵

末摘花は、望みをかけて来たことの事実になったことは、

うれしかったが、
りっぱな姿の源氏に見られる自分を恥ずかしく思った。

大弐の北の方が準備したお召し物類は、不愉快に思う人からの物だから、

末摘花は見向きもしなかったが、この日ばかりは女房たちが、

それに懐かしい香りを付けて出してきたので、

どうにも仕方がなく着替え、
煤けた御几帳を引き寄せて座るのだった。

荒れた邸、質素な生活、彼女の気苦労の日々を思うにつけ源氏は、

自分の薄情さを思い知るのだった。

人間の隙間に苦い句読点  皆本 雅



「長年のご無沙汰にも、心だけは変わらずに、

    お思い申し上げていましたが、
何ともおっしゃってこないのが恨めしくて、


    今まで様子をお伺い申し上げておりましたが、あのしるしの杉ではないが、

    その木立がはっきりと目につきましたので、通り過ぎることもできず、

    根くらべにお負け致しました」

末摘花は黙ったまま、何も語らない・・・源氏は言葉を続けた。

「こんな草原の中で、ほかの望みも起こさずに待っていてくだすった

   のだから
私は幸福を感じます。

   また私の性癖で、あなたの近ごろの心中も察せず、


   自分の愛から推して、愛を持っていてくださると信じて、

   訪ねて来た私を何と思いますか。

   今日まであなたに苦労をさせておいたことも、私の心からのことでなくて、

   その時は、世の中の事情が悪かったのだと思って許してくださるでしょう。

    今から後のお心に適わないようなことがあったら、

    言ったことに違うという罪も負いましょう」

待つ時と待たせる時計二つ持つ  藤井文代

末摘花はずっと待っていてくれたのだ。

その純真な心に打たれた源氏は、彼女の面倒を見ることを約束。

衣服などを贈るのはもちろん、

邸の修理まで細々と気にかけてやるのだった。


末摘花は2年ほどこの邸に住み、

その後、源氏の邸、二条院東院に移り住んだ。

折り返し点から杖になりました  笠嶋恵美子
         めのとご
【辞典】(仲良し乳母子)

末摘花の貧困生活に耐え切れず、出て行った召使いたちのうち、
年老いた女房を除いて、最後まで残ったのが乳母子の侍従であった。
若い女房たちはとっくに逃げ出してしまったのに、この侍従だけは、
他の貴族に仕えながら何とか生活を支え、末摘花のもとに留まった。
その大きな理由の一つが乳母子という立場である。
末摘花と侍従は、同じ母親のもとで育てられ、姉妹のように暮らし、
泣き笑いをともにした仲良しなのだ。
最後は、末摘花の叔母と一緒に去ってしまうが、悲しい別れだったと
源氏物語には描かれている。
ついでながら、いつも源氏の傍にいる惟光も源氏と同じ乳母子である。

昨日とは温度が違うから泣いた  福尾圭司

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