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川柳的逍遥 人の世の一家言
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淡い記憶の温もりに明石の君  藤井孝作


  明石の浜

このたびは 立ちわかるとも 藻塩焼く けぶりは同じ かたになびかむ

今は、いったん別れることになりますが、藻塩を焼く煙が同じ方向に
たなびくように、いずれ私はあなたを都に迎え入れたいと思っています。

「巻の13 【明石】」

光源氏27歳。 あれ以来、雷を伴った嵐は続き源氏は不安でならない。

さらに追い討ちをかけるように、雷が邸の廊下に落ち、火事になる。

やがて火は消し止められるが、不安は大きくなるばかり。

その夜、源氏の浅い眠りの夢枕に・亡父・桐壺院が現れ、

「どうしてこんな見苦しいところにいるのか。

   住吉の神のお導きに従って、早々に船出してこの浦を立ち去れ」

と告げるのだった。

愛というにがうりの赤き種かな  徳山泰子

まさにその明け方、嵐の海を渡り、明石の入道がやってきた。

入道が言うには、「夢に異型のものが現れて、船を支度して、

かならず風雨がやんだら漕ぎ出せという。

そこで船を用意させたところ、
案の定すごい風と雷で、

異形のものが言った通りになった。


船を出すと風は不思議にも順風となり、この浦に到着した。

まさに神のお導きに違いない」とのことだった。

桐壷院の夢のお告げのこともあり、源氏は須磨を離れ、

明石の入道を頼って、
明石の浦に移り住むことにした。

入道の船に数人の従者を伴って乗り込むと、例の不思議な風が吹いて、

帆を押し明石の地へ一息で到着した。

想定外ばかり届いて春が往く  美馬りゅうこ


入道の船に乗り込む源氏たち

明石の入道は、明石の浦に着いた源氏を厚遇した。

浜辺の豪勢な邸を用意し、食事から衣料まで至れり尽くせりで、

何ひとつ不自由のないようにもてなした。


そして、源氏に「娘をもらってほしい」と願いを打ちあけるのだった。

しかし、源氏には都に残してきた紫の上がいる。

このような境遇になったのも、もとはといえば、色恋沙汰が原因なのだ。

今度ばかりは源氏も、新たな恋人をつくる誘いに乗るわけにはいかない。

一方通行の恋です果てしない荒野  板野美子

一方、須磨で嵐の日々が続いていたころ、

都でも次々と不吉なことが起こりはじめていた。


3月の嵐の夜のことである。

朱雀帝の枕元に桐壷帝が現れ、帝を睨みつけている。


帝が畏まっていると、院は源氏のことなど、さまざまことを注意してくる。

帝は恐ろしくなり、母の弘徽殿大后にそのことを言うと、大后は

「雨が降り空の荒れている夜は、思い込んでいることが夢に現れるものです。

   そんなことで軽率に驚いてはなりません」 とたしなめる。

気のもんと言われてふわっと軽くなる  大海幸生

ところが、しばらくすると、帝は眼を患い、祖父・太政大臣は死に、

大后は病気に犯され、しだいに体が痩せていく。

帝は、「やはり、源氏の君を無実の罪で明石に追いやったことで、

  こうした報いを被ったに違いない。

  この上は、是非源氏の君を呼び戻し、官位も戻したい」

と大后に訴えた。

しかし、源氏の官位を奪うよう画策したのは、大后である。

必死に訴える帝に対して大后は、

「そんなに簡単に許しては世間に笑われる。断じてなりません」

と聞き入れてくれようとはしない。

揉み手してひょっこり顔を出す昔  合田瑠美子

明石で孤独に暮らす源氏にも、手紙のやりとりなどで、都での出来事は、

多少なりとも知ることができる、が、朱雀帝の悩みまでは知る由もない。

いつ終わるとも知れない流離の身で、源氏のさびしさは増していく。

そんな中、源氏は明石の入道の誘いに負け、明石の君と契りを結んでしまう。

身分違いだと、どうせ遊びだと知っていたはずなのに、

人を愛するというのは、これほど苦しいことなのか。
                    さいな
明石の君は狂おしい思いに身を苛まれていた。

だが恨み言を言っても嫌われるだけだ。

理性の限りを尽くして穏やかに装う。

そうやって、ほんの一時、源氏と過ごす苦しい時間、

そして、その後の気の遠くなるような待つだけの時間。

もう昔のように穏やかな時間を取り戻すことなど出来ないのだ。

確実に時間は進むものと知る  竹内ゆみこ


琴を奏でる明石の君

明石の君は、父・入道の英才教育のおかげで見事な琴を奏でる。
源氏は別れの日に、初めて聞くこの琴の音をどうしてもっと早く
聞かせてくれなかったのか…と恨めしく思うのだった。


源氏はそんな明石の君をしだいにかわいらしいと思うようになるのだが、

やはり今頃一人で自分を信じて待っている紫の上のことも、忘れられない。

源氏はもう、愛する妻をなおざりにはできない。

そこで、紫の上には明石の君のことを正直に知らせることにした。

「成り行きでこうなったが、君のことは決して忘れていない…」

やがて、明石の君は源氏の子を宿す。

その頃にはもう、源氏は毎日のように明石の君のもとに通っていた。

そして並々ならぬ愛情も育まれていた。

そんなとき、都から「源氏の罪が許される」という知らせが届く。

沸点を超え当然の成り行きに  オカダキキ

まもなく朱雀帝は、弘徽殿大后の言いつけを無視し、

独断で源氏の罪を許し、都へ戻ることを許可した。

一緒にいた従者はもとより、都にいる源氏を取り巻く人たちは大喜び。

源氏帰京の知らせは、すぐにも明石にも届いた。

明石の一族はそれを歓迎したものの、源氏との別れに涙は尽きなかった。

いよいよ出立の二日前。

源氏は夜も更けないうちに、明石の君のもとを訪れた。


明るい光のもとで、明石の君をはっきり見たのは、これがはじめてである。

気品があり、想像よりはるかに美しい。

源氏はこのまま離れ離れになるのは惜しいと思うのだった。

そして源氏は、

「今この地に留まることは出来ないが、必ず悪いようにしない」


と明石の君をいつか都に呼ぶことを約束し、明石を後にするのだった。

あれからのだんまり ボクの意思表示  山本昌乃

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