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川柳的逍遥 人の世の一家言
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アングルを変えても白い闇である  笠嶋恵美子



行くと来と せきとめがたき 涙をや 絶えぬ清水と 人はみるらむ

こちらから行く人、あちらから来る人と、人々が行き交う逢坂の関で、
私の目から堰き止められそうもない涙が流れています。
人はきっと、この涙を、湧き出て絶えない清水だと思うのでしょうか。

「巻の16 【関屋】」

「巻の2・帚木」で人妻の空蝉と一夜の契りを結んだ光源氏

その後、彼女は夫の赴任地常陸へ行き、互いに疎遠な時が過ぎていた。

やがて夫・常陸介の任期も終え、空蝉は夫に伴い帰京する。

その道すがら、逢坂関に辿りついた一行は、

偶然にも石山寺の詣でる源氏一行と鉢合わせになった。

どちらも大人数なので、大臣である源氏一行を先に通すため、

空蝉の一行は道に控え、道をゆずる。

源氏も空蝉も互いを忘れてはいない。

知りながら声も聞けれないすれ違いは、かえって思いは深くする。

しかし、周囲には大勢の家臣、まして空蝉には夫もいる。

鉤括弧誰か外して下さいな  安土理恵

そこで源氏は、今は衛門佐となった空蝉の弟(小君)に託して、

空蝉に歌を贈り、その場をやり過ごした。

空蝉も源氏からの便りに、思わず感慨に浸る。

その後、右衛門佐を呼んでは仲介役を頼み、

空蝉の心を惑わす手紙をたびたび送り始める。

右衛門佐は、源氏が都落ちをしたとき、災いが及ばぬようにと、

源氏のもとを離れた過去があったが、それでも源氏は、

内心の不愉快さを隠し、
右衛門佐に使いを依頼するのだった。

目くばせと片手でいつも頼まれる  魚住幸子



源氏からのアプローチに少なからず心を動かされた空蝉。

さりげない返事の手紙を返したりもする。

でも、今、空蝉はそんな恋のお遊びどころではない状況にあった。

共に邸に戻った老齢の夫が、病の床に臥せってしまったのだ。

立位置をかえても葬儀屋が見える  都司 豊

空蝉はこの夫と死別して、またも険しい世の中に 放り出されるのであろうか、

と歎いている様子を、常陸介は病床に見ると死ぬことが苦しく思った。

この空蝉のためにも生きていたいと思っても、

それは自己の意志だけでどうすることもできないことであったから、

せめて愛妻のために魂だけをこの世に残して置きたい。

そこで常陸介は息子たちを呼び、

「自分はもう死んでしまうが、妻の空蝉を主人と思い心して仕えなさい」

と繰り返し繰りかえし遺言をいい残し、亡くなってしまうのだった。

入口で悶え出口でまた悶え  平井美智子

常陸介の死後しばらくして息子のひとり、河内守が空蝉に言い寄り始める。

河内守は空蝉よりも年上である。

「父があんなにあなたのことを頼んで行かれたのですから、

   無力ですが、それでもあなたの 御用は勤めたいと思いますから、

   遠慮をなさらないでください」

などと言って来るのである。


あさましい下心を空蝉は知っていた。

源氏の誘いをも一夜限りで拒み続けた空蝉である。

淫らな真似を許すはずはない。

空蝉は辱めを受けてはならぬ、と決意し誰にも相談せず出家してしまう。

河内守はもちろん、そばに仕える女房たちも皆、驚き、嘆いた。

でも、それが空蝉の生き方なのだ。

刺を抜きサボテン不意に出家する  上田 仁

「辞典」人情 VS 恋心

源氏は、自分が窮地に陥って都を離れたとき、周囲の冷たさを実感した。
自己の保身を考え、今まで親しくしていた人も、
源氏からどんどん離れていったからだ。

この関屋の巻に登場する小君(右衛門佐)も逃げていった一人だった。
都に戻った源氏は、自分から離れなかった人たちには、
できる限りの便宜をはかって、
引き立て、
逆に逃げたものたちには、とても冷たい態度で接した。

 逆境の時でも、源氏についてきた者に、河内守の弟・右近将監もいた。
役職を解任されても須磨・明石行きの付き人となったのだ。
右近将監は、右衛門佐にとって血はつながらなくても義理の甥に当たる人。
右衛門佐は、源氏がどんなに右近将監を厚遇しているかすぐにわかる。
「それに比べて自分は、なんとなさけない」恐縮していた。
しかし、源氏は、内心面白くないと思いながらも、それを顔に出さず、
右衛門佐に空蝉との仲介を頼むのである。
源氏の恋心への執着は、裏切り者に対する憎しみより強かったのだ。

くしゃみ二つ言った言わない物忘れ  山本昌乃

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