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川柳的逍遥 人の世の一家言
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きょうは”♯”で明日は”♭”  森吉留里惠


  絵 合

身こそかく しめの外なれ そのかみの 心のうちを 忘れしもせず

我が身はこのように宮中の外にいる身分になってしまいましたが、
あの頃、あなたを想った心の中は、今もずっと忘れずにいるのです。

「巻の17【絵合】」
              みやすどころ
光源氏は31歳。六条御息所から娘を託されていた源氏は、

この娘を養女として面倒を見ていた。

いずれは冷泉帝に入内させようと考えていたが、

前帝の朱雀院が娘に
恋心を抱いていると知り、

仲を裂くことになる入内に源氏は及び腰。


そんな煮え切らない態度を見て、藤壺は「早くしなさい」とハッパをかける。

人の恋路を邪魔することに抵抗はあるものの、源氏は娘の入内を決めた。

娘は、宮中の梅壷という御殿に住むことになり、梅壷と呼ばれた。

やわらかに密封 愛が熟れだした  森田律子

さて、新しい女御を迎えた当の冷泉帝はまだ13歳。

梅壷は22歳である。


冷泉帝は梅壷より歳の近い女御の弘徽殿(14歳)といつも一緒にいる。

そんな冷泉帝の気を引いたのが、梅壷の特技の絵だった。

冷泉帝は前々から絵が好きだったので、梅壷の描く絵に感心を示し、

梅壷のもとにばかり行くようになる。

この噂を聞きつけて、不愉快に思ったのが弘徽殿の父・権中納言である。

かつては頭中将と呼ばれていた源氏の親友だ。

源氏にいつも引けをとり、今回も源氏の連れて来た娘に、娘が負けている。

そこで権中納言は、帝の気を引こうと自分の所有する絵を見せびらかす。

「美しい絵だね。梅壷に見せたい」との冷泉帝の願いは、当然、聞かない。

いけずしておすまし顔の座禅草  徳山泰子

源氏は、権中納言の大人気ない仕打ちを、苦笑いした。

3月10日ごろ、宮中では行事もなく、誰もが暇を持て余している。

そこで源氏は、梅壷と弘徽殿の双方が参内していたこともあり、

藤壺の宮の御前で、どちらの絵が優れているか、公開品評会を提案する。

これが絵合である。

もちろん冷泉帝も出席する。


梅壷側からは、竹取物語や伊勢物語などの由緒ある物語絵が出され、

弘徽殿の側からは宇津保物語、正三位の物語の絵が出される。

しかし、いずれ劣らぬ絵画ばかりなので、なかなか勝負が決まらない。

結局、勝負がつかず改めて、帝の前で絵合が行なわれることになった。

男はゆうべ眠れたろうか絆創膏  山本昌乃

絵合は宮中あげての盛大なものとなり、勝敗の判定は、
         そちのみや
源氏の弟である帥宮が務めることになった。

梅壷側、弘徽殿側とも、これ以上は描けないという

すばらしい絵が出され、
優劣がつかない。

勝負はつかないまま、ついに夜を迎える。

いよいよ最後の一番である。


梅壷側が、最後の一番になって「須磨の絵巻」を出してきたので、

権中納言は動揺した。

中納言側も決戦用に特にすばらしい絵を用意していたのだが、

源氏の描いた須磨の絵巻は、人々の目を引いた。

人々が見たこともない須磨の景色や海辺の様子が隅々まで描かれている。

尾骶骨あたりで見せてやる気骨  藤井孝作

源氏が須磨に流されたとき、誰もが気の毒と思ったが、

実際に絵を見て彼の寂しさ、悲しさが手に取るように分かるようで、

帥宮をはじめ、並み居る人々が感涙に咽んだ。

それほど見事な絵だった。

所々に感動を誘う歌も書き込んであり、他の巻も思わず見たくなる。

誰の脳裏からも、他のことが消えた。

今までの数々への作品の興味が、この絵日記に移ってしまい、

梅壷側の勝利は明らかだった。

結局、この作品で勝負は決まり、源氏は絵の評価ばかりでなく、

宮中での政権も不動にし、また梅壷女御は弘徽殿女御を押さえて、

抜きん出た存在となった。

賭けるものないから首を置いてくる 中野六助

【辞典】 藤壺の野心

この絵合の巻の冒頭は、藤壺の催促から始まっている。
藤壺は源氏に「早く梅壷を入内させなさい」と迫っている。
なぜ藤壺はそんな口出しをしたのだろうか。
14巻・澪標で源氏は、養女にした梅壷を入内させようと思いつくも、
朱雀院を気づかう気持もあって、藤壺に相談をもちかけた。
それを聞いた藤壷は「よく気がついた」と喜び、
「朱雀院のことは知らぬふりおして入内させなさい」と助言している。

実はこれ、藤壺の野心からきたもので、政治の実権を身内で固めたいという
思惑が言わせた台詞なのだ。
冷泉帝は自分の子、そこに実父の源氏が後見になる娘を送り込み、
うまく男子が生まれ、帝に・・・。藤壺はそんな青写真を描いていたのだ。
そうなれば、藤壺・源氏ペアの一族の繁栄は約束されたようなものだから。

ペリカンの嘴くらい拗ねてはる 青砥英規

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