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川柳的逍遥 人の世の一家言
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源氏物語54帖「須磨」

見るほどぞ しばし慰む めぐりあはむ 月の都は はるかなれども

月を見ているしばらくの間は、心が慰められる。
いつ帰れるともわからない都の月は…はるか遠くにあるのだが…。

「巻の12 【須磨】」

光源氏26歳、紫の上は18歳になる。

朧月夜の事件で、源氏を失脚させようと画策していた弘徽殿大后

絶好の口実を与えてしまった源氏。

このままいけば、流罪になってしまう。

そんな不穏な空気を察知した源氏は、須磨の地に下ることを決意する。

いつ戻れるとも分からない旅である。


源氏の周りの人は、大いに悲しみ、

特に今や正妻の地位にいる紫の上は、
一緒に行きたいと泣きせがむ。

自分が帰らなくなるとこの人はどうなるのだろう。

と源氏は思い悩むが、罪を逃れて都落ちをする我が身には、

どんな危険が待ち構えているかもわからず、

彼女を巻き添えにはできない。そして、本心を歌に残して旅に立つ。

惜しからぬ 命にかえて 目の前の 別れをしばし とどめてしかな

(惜しくもない私の命と引き替えに、目の前のあなたとの別れを
   ほんのしばらく止めてみたい。)


風はいつも凭れるものを探してる  河村啓子

そして3月の夜明け前、花は盛りが過ぎ、わずかに咲き残った花が、

闇の中で白々としている…。

まだ辺りは暗い、人目につかないよう、源氏は、粗末なみなりで、

数人の従者を伴っただけで辺境の地・須磨へと旅立った。

須磨は昔こそ人の住まいもあったが、今は人里離れてもの寂しい所と聞く。

連続の想定外に疲れ果て  吉岡 民

私の人生は、一体どこで狂ってしまったのだろう。

人を愛することに善悪はない。

人は生きている限り、いつどこで誰を愛するかわからない。

自分は自分の気持のおもむくままに、人を愛してきた。

何が間違っていたのか、愛すること自体が罪なのではない。

愛してはいけないときに、愛してはいけない人を愛したことが罪なのだ。

それが前世の報いならば、それはこの世で償わなければならない。

いつ帰れるか分からないこの地で源氏は、

華やかだった都の生活を懐かしみ、我が身の不幸を嘆くのだった。

紅しだれ罪の深さを知りなさい  安土理恵

源氏は須磨へ旅立つ前に、出家した藤壺の宮のもとに立ち寄り、
 みす
御簾を隔てて言葉を交わす。

「なぜ、そんなに遠いところに行ってしまうのですか。

    あなたがいなくて、誰が東宮を守ってやるのですか」

「私はいわれもない罪により都を後にします。

    今の帝に対して、何も罪を犯していません。

    思い当たることがあるとしたら、ただ一つです。

    天の眼に見透かされている気がして恐ろしい」

藤壺は、はっと胸を突かれるのだった。

彼女が苦しんで出家まで決意した、そのことなのだ。

すっかり動転して返事さえままならない。そこで藤壺は次の歌を遺した。

見しはなく あるは悲しき 世のはてを 背きしかひも なくなくぞ経る

(連れ添った桐壺院は亡くなり、生き残った貴方も悲しい目に遭っている。
    世の末を、私は出家した甲斐もなく、毎日泣きながら暮らしているのです)

泥よけて生きてきたけど泥の中  石橋能里子

さて、源氏が新居とする須磨の近く明石に、明石の入道という人がいる。

もとは高貴な貴族だったが、変わり者で仕事で赴任後ここに住みついた。

この明石の入道には一人娘・明石の君がいて、

「娘だけはなんとか都の貴族に嫁がせたい」と考えていた。

「光源氏が近くに来たのも。何かの予兆」

と思い立ち、さっそく娘に源氏の嫁になれと打診する。

明石の君は17歳で、優しく気品がある。

身分の高い人は、自分など相手にはしてくれまい。

かと言って、身分相応の縁組みは、こちらからお断りだ。

彼女は、自分を育ててくれた親に先立たれたら、

海の底に身を投げようと思いつめるほど、親思いの娘なのだ。

そんじょそこらの出涸らしの分際で  雨森茂樹

明石の入道の思惑など露知らぬ源氏は、さびしい日々を過ごしていた。

「お祓いをすればこんな生活から抜け出せる」

との周囲の勧めで、ある日、源氏は禊の儀式を行うことにした。

源氏は海の前に座して、祈祷する。

海面は穏やかで、あたりも晴れ晴れとしている。

海を見つめながら、過去のこと将来のことを次々と思い続ける。

遠い海鳴り 密かにほつれ縫い合わす  太田のりこ

ところが、そんな気配もなかったのに、いきなり例を見ない嵐が吹き出す。

波も荒々しく打ち寄せて、人々は足も地に着かないくらい慌てている。

今度は雷が鳴り出し、稲妻が光る、さらにその夜、

源氏は海竜王の使者と見られる化け物の姿を目撃してしまう。


源氏は気味悪く思い、

この海辺の住まいが耐えられそうにない気持になるのだった。


「辞典」 嵐について

ここで急に吹き出した嵐は、次の「巻の13 明石」まで続いて、
源氏の都への復帰を促す役目を果たす。
すなわち、源氏の罪に罰を下したと
いうよりも、
真摯な気持で禊をすることにより、いわれのない罪で、都落ちした

源氏の無念を神々が聞き届けたという意味を持っている。

神様に愛され人に憎まれる  居谷真理子

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