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川柳的逍遥 人の世の一家言
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一匹の秋刀魚抜き身のように下げ  菱木 誠



日本橋魚市繁栄図
様々の魚介をたらいにのせた魚売り、棒手振、漁師らが走りまわる。


近年不漁が続く秋の味覚サンマが、今年も深刻な漁獲不漁に陥っている。
海水温の上昇、周辺国の乱獲が原因とみられ「大衆魚のはずが、高級魚に
なっている」と庶民の嘆き節が聞こえるほどに価格高騰で家計に影響を及
ぼしている。

「サンマの小咄」
昔の御身分の高い方々は、下々の庶民の生活はご存じありません。
ですから常々少しでも知りたいと思っております。
天候に恵まれた初秋の日。
お殿様がご家来を連れて、目黒不動参詣をかねて遠乗りにでかけました。
目黒に着かれたのは、お昼近くのことでした。
近くの農家から、秋刀魚を焼くいい匂いが漂っております。
その時、ご家来が
「かような腹ぺこの折りには、秋刀魚で一膳茶漬けを食したい」
といったのを聞きつけたお殿様、
「自分もぜひ秋刀魚というものを食してみたい」とご家来に所望した。
さんまが走ると大根まで走る  樋口百合子


さぁ困ったご家来衆。
「秋刀魚とは下魚でございますゆえ、お上のお口にはいりますような魚
ではございません」
といったものの、お殿様のお言いつけではしかたがない。 
何とか農家のお爺さんに頼んで焼いた秋刀魚を譲ってもらうことにした。
お殿様は、生まれてはじめての秋刀魚がすっかり気にいられた。
お腹が空いていたことも合わさって、忘れられない味になってしまった。
ところが屋敷に帰っても、食卓に秋刀魚のような下魚は出てこなかった。
ある日のこと、親戚のお呼ばれでお出掛けになりますと
「なにかお好みのお料理はございませんでしょうか。
なんなりとお申し付けくださいまし」
というご家老の申し出に、お殿様、すかさず秋刀魚を注文した。
不意打ちで急所二の句を継がせない  上田 仁

親戚は驚いて、日本橋魚河岸から最上級の秋刀魚をとり寄せた。
このように脂が多いものをさしあげて「もしもお体に触っては一大事」
と、十分に蒸したうえ、小骨を丁寧に抜いて、だしがらの様になった
秋刀魚を出した。
「なに、これが秋刀魚と申すか。まちがいではないのか?
たしか、もっと黒く焦げておったはずじゃが・・・」
脂が抜けてぱさぱさの秋刀魚が、おいしいはずがありません。
「この秋刀魚、いずれよりとりよせたのじゃ?」
「日本橋魚河岸にござります」
「あっ、それはいかん。秋刀魚は目黒にかぎる」

冗談のような A から C でした  きゅういち



多数の棒手振りの商人の行き交う日本橋



「江戸の景色」 庶民の家計から江戸っ子のマネー事情


江戸っ子の住いといえば、九尺二間の裏長屋が定番だが、
その簡略で粗末な住居が象徴するように、生活は決して楽ではなかった。
「宵越しの金は持たない」と気風(きっぷ)のよさが喧伝される一方で、
収入は少なく、経済的に不安定な生活を余儀なくされていた。
そんな江戸っ子が従事した職業といえば、「大工や左官などの職」や
「天秤棒を担いだ魚売りや野菜売り等の棒手振」が代表的なものだろう。
その大工と棒手振の家計事情を『文政年間漫録』の史料から見てみよう。

床板をずらしてへそくり確かめる  杉浦多津子



        仕事中の大工

「大工職人の家計」
大工は誰でもなれる職業ではない。いわば専門技術職であるから、
江戸っ子の中では高い収入を取っていたほうである。
熟練度にもよるだろうが、その日当は、銀四匁二分。
食費として別に一匁二分が支給された。
都合五匁四分であり。金一両が銀六十匁とすると、1両を今の相場の
10万円に換算すると1万円弱となる。
ただし毎日仕事があるわけではないから、年間実働294日とすると、
年収は294万円ほどである。
支出はどうか、妻子の3人暮らしの場合で。
家賃百二十匁、米代三百五十四匁、塩・味噌・醤油・薪・炭代が七百匁、
道具・家具代・衣服代が各々百二十匁、知人・親戚との交際費が百匁、
計一貫五百十四匁、手許に残るのは七十三匁六分。
わずか10万円ほどに過ぎない。

コンニャクは何枚だろう紙袋  合田瑠美子



   野菜売り


「野菜売りの棒手振商人の場合」
1日の売り上げは、千二百~千三百文。
金一両が銭四貫文(四千文)とすると、3万円強となる。
原価が六百~七百文だから、一見大工よりも割がいい。
しかし翌日の仕入れ代に加えて、米代二百文、味噌・醤油五十文などを
支出していくと、百~二百文しか結局、残らない。
さらに翌日が雨ならば仕事は出来ず収入はゼロ。
棒手振商人の場合、大工のような専門技術は必要とせず、少しの元手が
あれば誰でも始められたが、手許に残る金額は僅かだった。
そのため、本来の生業の他にも、別の仕事をする必要があった。
ここには病気や怪我などの急な支出は入っていない。また火事や何らか
の災害に合うと、たちまち生活困窮者の転落するのだ。

メインディッシュの丸干しが灰になる  山本早苗



  大工上棟の図


「気分を変えて、ある大工の棟梁の1日を追う」
江戸ではひと冬に大小あわせて100件以上の火事があったという。
この被災後の復興工事が頻繁に行われていたから、腕さえあれば仕事は
いくらでもあった。
大工の仕事は、現在の午前8時頃から始まるので、間に合うように家族
に見送られて家を出る。そして午前10時頃に30分位の休憩。
その後仕事を再開して正午頃昼食となる。妻が持たせた弁当があり、
これを食べるが、なくても外食産業が発達しており、困らなかった。
昼食後仕事にもどり午後2時ごろにまた30分ほどの休憩を取る。
その後、日が暮れるまで働いて、1日の仕事が終わりだ。


風よ雲よみなレジェンドの羽になる  桑原すゞ代




材木屋の店先で材木購入の算段をする場面


一方、息子と娘2人は朝、手習に出かける。
息子の方は父親のような大工の棟梁になるのが夢だ。
大工も棟梁になるのには、指図(図面)が引けなければならない。
木材の調達や手配する大工の手間賃の計算などもあり、
読み書き算盤も必要とされた。





赤子のお守や掃除・洗濯に勤しむ長屋の女たち
妻は洗濯などの家事に忙しい。
といっても衣類は1人につきわずか数枚、住んでいる所も四畳半の部屋に、
土間と台所が付いている程度なので掃除もすぐに終わる。買い物も日常的
に使う物ならば物売りたちが家のすぐそばまで売りにくるので、買いに出
かける必要がない。昼には子どもたちが帰ってきて、お腹が空いたと騒ぐ。
娘の方は、武家屋敷の奉公に上ることを夢見て、このあと三味線と踊りの
お稽古だ。多少月謝が高くても、武家屋敷へ奉公にあがればよい縁談が舞
い込む。
父親が仕事から帰ってきたら子どもたちは父親と湯屋に行き、その後、
家族そろっての夕食になる。
日が暮れたらすることがないので、さっさと寝てしまう。

夢を縫うパステルカラーの刺繍糸  中岡千代美




  日本橋ー魚市全図
「次は、ある棒手振りの魚売りの1日」
とある独身男性、彼の仕事は、棒手振りと呼ばれた魚売り。
棒手振りは僅かな元手で始められる商売で、地方から江戸にやってきた
人たちでも出来る仕事だった。
高利ではあるが、「朝借りてその日の夜には返す」という、金の借り方
もあったので、元手がなくても出来る商売であった。
魚売りの朝は早い。夜明けには河岸が開く。
それまでに行かなければよい魚は仕入れることが出来ない。


金魚鉢ほどの広さで泳ぐ日々  靍田寿子



お得意の待つ広場で魚を捌く棒手振り


日本橋の魚河岸は有名だが、そのほかに落語「芝浜」にでてくる雑魚場
(ざこば)と呼ばれる魚河岸があった。仕入れた魚は、お得意の処へ持
って行って売り捌く。
行く時間はだいたい決まっているので、客の方が待っていてくれる。
江戸では魚屋が用途に応じて捌いてくれるから、魚が捌けなくても十分
主婦業はこなせた。夏の日の長い時期には、夕方にも市が立つので、
早い時間に売り切ってもう一度仕入れて売りに出る者もいた。
日が暮れる前に売り切れるか、売り切れなくても商売は終了する。


魚の目が探り入れてる足の裏  上山堅坊





仕事が終われば、独身の身軽さで外食するのもいいし酒を飲むのもいい。
酒は酒屋から買って飲むが、家まで持って帰るまで我慢できずに
店先で飲むこともあったようだ。
また吉原を冷やかす者もいただろう。吉原で花魁遊びするのは、棒手振り
稼業では無理だが、原の中には安く遊べる店もあった。
もっとも江戸ではたくさんの若い女性を見られるところは少ないので、
その姿を見るだけでも十分だったかもしれない。

酔うて寝る半端な夢を見ないよう  美馬りゅうこ



「江戸小咄ー初鰹」 
棒手振りが初鰹の声、威勢よく売ってくる。
「あゝ買いたいものだが、銭がない。せめて呼んでみよう」
と大きな声で
「鰹やい 鰹やい」 
と呼べば、棒手振りが寄って来て
「今、呼んだのはお前かい」
と桶をおろせば、声の客、
「どりゃ見てみようかい。ウゝ初鰹じゃ、なァ塩鰹はないかのー」
見るのは初鰹。買うのは安い塩鰹。
売れ残った鰹は、保存のために塩気をまぶし、塩鰹になる。
その時点で安くなる。
また鰹とは偉い奴である。色々な名前もあり、夏にも秋にも季語になる。


そのうちを入れこんでおく追い鰹  山本昌乃

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