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川柳的逍遥 人の世の一家言
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ほんのハナウタ渦を背中であやしつつ  酒井かがり




 
(画面は拡大してご覧ください)
里見義実が大鯉に乗っている図


里見八犬伝の挿絵は、柳川重信渓斎英泉が担当した。
重信は北斎の弟子で、師に似合わず作者の指定に忠実であることに定評
のある人であった。もう一人の英泉は、北斎の娘・お栄の思い人で北斎
の画房・錦帯舎に出入りしていた絵師である。馬琴は、喧嘩別れをして
いる北斎に未練があるかのように、この2人に「里見八犬伝」の挿絵を
まかせた。(因みに版元は山崎平八(初篇ー5篇)美濃屋甚三郎(6篇
ー7篇)丁子屋平兵衛(8篇-完))




「紙芝居風ー里見八犬伝」初篇



 
 里見義実が大鯉に乗っている意味。
「鯉」「里」「魚」を合せた文字で「里見の魚という寓意が込め
られている。鯉は安房には、生息しない。幻想の大鯉に乗った図には、
「不可能を可能にする」意味がこめられている。

これは、足利将軍と鎌倉の関東管領との武力威勢が衰えて、仲違いし、
それにつれて世は戦国の様を呈するようになった折、里見義実が戦乱
を房総に避け、土地を開き、国の基礎を起こした里見家の物語である。


蹴り上げた楕円は神の領域へ  斉藤和子




里見義実、上陸した三浦に半身の龍を見る。




安房に上陸した時の里見義実は、弱冠19歳。
結城合戦の落ち武者で従者は、杉倉氏元堀内蔵人の2人きりだった。
主従たった3人で、どうして安房国内に里見氏再興の拠点を作ることが
できたのだろう。義実主従は、それから三日目の4月19日に三浦矢取
の入江に着いた。一行が土地の少年に食物を乞うと、少年は無礼にも義
実に土くれをぶつけた。が、義実は「土は国の基だから、これは天が安
房の国をくれる前兆である」とプラスに解して、空をみると俄かにおこ
る風雨とともに白竜が、南をさして飛び去って行く。それは自分が南の
安房を領土とする祥瑞だと理解した。



花も葉も水に流して現在地  佐藤正昭





 金碗八郎が乞食に扮して潜行し、山下を討つ機をうかがっている図





義実たちが到着した安房は四郡の内、長狭と平郡の二郡を有する神余光
は、側室の玉梓という淫婦を寵愛し、酒食におぼれ、家中は乱れ切っ
ていた。侫人(ねいじん)の山下定包(さだかね)は、玉梓と密通して
権力を我が物とし、重い税をかけて、民の恨みをかっている。その山下
は出仕するごとに白馬に騎っていた。民は山下を討ち取る計画をしてい
る。それに気づいた山下は、神余を狩りに誘い、主君の白馬を毒殺して
「自分のを使ってください」と親切めかして白馬に乗せた。山下を狙っ
ていた民の矢は、定包ともしらず射た。定包は山下の狙い通り一命を落
した。そのいきさつすべてを乞食姿の金碗八郎(かねまりはいろう)が
耳にした。金碗八郎は主君の諫めていれられなかった忠臣で、身に漆を
塗って乞食を装い、主君の仇の山下を狙っていたのだった。



二進法で群がるピラニアの確か  前中知栄





 玉梓の怨霊が心地よげに金碗八郎の切腹を見届けている図
 
 
 

 
「八犬伝」初篇の壮絶なドラマの発端は、悪霊制裁から始まる。
乱世の房総半島に、源頼朝以来の名家・神余家(じんよけ)があり梟雄
山下定包が、妻の玉梓との奸策によって領主・神余光弘が殺害され、神
余家は滅亡する。そしてその山下を里見義実が神余家忠臣・金碗八郎
協力を得て討つ。山下征伐のあと、玉梓義実の前にひかれる。義実
仁慈の人で、いったんは玉梓の処刑を許そうとしたが、金碗八郎が強く
誅罰を主張したので、とうとうこれを斬首する。玉梓「金碗の不幸な
最後とその家の断絶」を予言し、義実の児孫を「煩悩の犬となさん」
怨みつつ、刑場の露となる。この呪詛が里見家の運命を変え、金碗の横
死を招く因縁となる。その後、山下討伐の功績によって滝田城・東条城
の二城を得た義実は、金鞠を東条城主に任命した。意外にも八郎はこれ
を辞退して壮絶な切腹死を遂げる。これは斬首された玉梓が摂り憑いた
ものだった。





玉梓惨殺の図


昨夜やられた紫のみみず腫れ  井上一筒





伏姫と八伏を富山に追う大輔の図



金碗八郎の臨終の際に、義実は、金鞠が流浪中に濃萩という女に生ませ
た男子に引き合わせ、その子に金碗大輔孝徳という名を与えることを約
束した。金鞠が息を引き取ると、玉梓の姿が影の如く大輔の身に沿うて、
やがてかき消すように消えたが、それを見たものは義実だけであった。



しみじみが滲み出ているお人柄  津田照子
 
 
 

 
  
八伏、
 

 
 
 

時はくだり長禄元年(1457)、里見領の飢饉に乗じて隣領館山の安西
景連が攻めてきた。落城を目前にした義実の前に、痩せ衰えた飼犬の
八房が姿を見せた。八伏は白犬だが、身体に「八所の斑毛」があるので
「八伏」と名付けられ、義実は里見の飼い犬とした。八伏伏姫の遊び
相手として育ち、可愛がられて、伏姫17歳になるころには、逞しい猛
犬となった。義実はいじらしい八伏に、何気なくつぶやいた。「こんな
時にお前が敵将・安西景連を啖い殺してくれたらなあ。その時は恩賞は
望む通りにするぞ。魚肉はふんだんに喰わせる」と。八伏は背を向けて
こばむ様子であった。つい戯れて、「しからば官職を与えんか、領地を
与えんか、それとも我が娘婿にして伏姫と娶わせんか」と言った。八伏
は、尾を振り頭をもたげ「わわ」と吠え、それを望むかの様子を見せる。
 
 


白い月犬歯じんじん疼き出す  太田のりこ




 
八房はその夜、安西の陣営深く忍び入り、安西景連の首を啖えて戻って
来たのである。はじめ義実らは、八伏が飢えのあまりに戦死者の人肉を
喰ったかと思った。しかし、首を洗ってみると、まがうことなく敵将の
安西の首である。大将を討たれた安西軍は総崩れになった。武将は逃げ、
士卒は里見方に降参、帰順した。滅亡必死であった里見軍は、一匹の犬
の大功のため、労せずして宿敵を自壊させ、義実は安房一国の国主とな
ったのである。



無無・空・般若心経みたいな日  下谷憲子





長槍で八伏を殺そうとする義実の図




さて、そうなると問題は、八伏への恩賞でえあった。相手は犬である。
義実は考えうる最高の待遇を八伏に与えた。山海の美味、八伏専用の
居室や布団、犬養部の役人設置など…。八房は牡犬である。八伏はその
恩賞に見向きもしなかった。ひたすら義実が口にした伏姫の婿にすると
いう約束の履行を迫るかのように見えた。義実は困惑し後悔した。犬に
姫を与えることなど出来るものではない。すると八伏は狂暴化し始めた。
そして伏姫の居室に乱入して、姫の袂を押さえ離さなかった。激怒した
義実は、ついに自ら長槍をとって八伏を殺そうとした。その間に割って
入ったのは伏姫であった。



惨劇の始まりというバナナ  蟹口和枝





牛に乗った童子の図




八伏は狸に育てられた犬であった。は異名を「玉面」という。
和調で「タマツラ」と読むならば、玉梓の名に通じる。八伏の災厄は玉
梓悪霊の仕業であったかと、義実の悔やみは尽きない。伏姫の伏の字は
「人にして犬に従う」と読む。これが伏姫の運命だったのか。伏姫は、
わが命を八伏に与える決意のもとに、犬と共に暮らした。
「八伏、お前に申しておきます。一端、義によて伴われて行きますとも、
人畜の区分婚姻の分は守ります」こうして伏姫は、読経の日々を過ごし、
八房に肉体の交わりを許さなかった。ある日、伏姫は山中で牛に乗った
笛吹き童子から、八房玉梓の呪詛を負っていたこと、読経の功徳によ
りその怨念は解消されたものの「八房の気を受けて種子を宿したこと」
が告げられる。



吹雪襲来わたしがなにをしたという  夏井せいじ





       伏姫切腹の図




犬の子を懐妊したと疑われた伏姫は、遺書を認め、自死を決意し、心静
かに最後の読経を始めた。ちょうどその頃、対岸に伏姫の婚約者・金碗
大輔が狩人に扮して鉄砲を構え、狙いを定めていた。大輔八伏
を富山に連れ去ったことを知って、八伏を殺し、姫を奪還しようと富山
の洞窟に近づいたのである。同じころ義実もまた伏姫の身を案じて山に
入っていた。山の霧が晴れた頃、大輔は対岸に八伏の姿をみて狙撃した。
弾は八伏を倒し、同時に伏姫の乳の下を射た。大輔伏姫を誤射したこ
とに驚き、腹かき切って詫びようとする。そこへ義実が辿り着き、伏姫
誤射は「逆に畜生とともに死のうとした伏姫の立場を救うことになった
と、大輔の自害を制する。誤射は、伏姫を掠めただけの傷であったので、
気絶していた伏姫は、やがて目覚め、父と大輔をみとめ懐胎を恥じ泣いた。
そして身の証しを立てようと、懐剣を腹につき立て真一文字にかき切った。



遠ざかるサイレン犬が泣いていた  月波与生





八犬士髷歳白地蔵之図




八犬士髷歳白地蔵之図の八人の童子は、服装も髪型もさまざま。中に女の
子が2人いる。八犬伝は八人の男犬士の物語でなかったか。犬塚信乃
坂毛野である。余談はさとき。
 伏姫割腹の瞬間、創口(きずぐち)から、一朶の白気(白く輝く不思議
な光)が閃いて、姫の襟に掛けていた水晶の数珠が虚空に舞い上がった。
数珠は空で千切れ、その一百は連なったまま地上へゆっくりと落下したが、
空に遺った八つの珠は、燦然として光明を放ち、どこへとなく飛散してい
った。伏姫はこれを見て「よろこばしや我が腹に、物がましきはなかりけ
り。
の結びし腹帯も、疑いも解けたれば、心にかゝる雲もなし」
と末後
の心を吐露する。感極まった大輔は、姫の血刀をとって再び割腹しようと
するが、義実は叱咤して止め、出家を命ずる。大輔は君恩に感じ、「犬」
の字を二つに裂いて「ゝ大」(ちゅだい)法師と改め、飛び散った八玉の
行方を探し、廻国修行の旅に出る。即ち、ゝ大「仁義礼智信忠孝悌」
の八つの徳目が刻んだ珠を所持する八人の犬士を探す旅にでるのである。


徘徊と思われそうで犬連れる  ふじのひろし

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