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川柳的逍遥 人の世の一家言
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君に恋する為に生まれてきたのです  森田律子


富岡製糸場の生糸商標

「楫取寿の死」

「子どもを育てるのは母親、まず母親が学ぶことこそが大事」

かって兄・松陰は、よくそう言っていた。

女たちのための学校を作ろう、兄の志を引き継いだ美和の夢が、

学びの場にする空き家を見つけたことで一歩、現実に近づいた。

その矢先、司法省で働き始めた久米次郎から、

美和宛の手紙が届いた。

「母(寿)の気持ちが分かるなら、今すぐ家を出ていってほしい」

と強い語調で書いてある。

一体どういうことなのか、美和は一度東京に行ってみようと考えた。

美和は義兄の楫取素彦に、「寿の見舞いに東京に行きたい」

というと、

素彦は「寿も喜ぶだろう」と快く美和を送り出してくれた。

筆順のどこかが違う正義感  筒井祥文


   久米次郎

東京の寿の住む家の前で、仕事から帰ってきた久米次郎と対面すると、

露骨に顔をしかめ、

「帰ってください。どれだけ 母を苦しめるつもりですか」

と棘のある言葉がかえってくる。

美和は当惑するしかなかった。

「久米次郎、美和が来とるんですか」

2人の会話が耳に届いたのだろう、

奥の部屋から寿が声をかけてくる。

奥へ通された美和が、久しぶりに見る姉は一回り小さくなっていた。

遠目には釣り合い取れていた夫婦  柴本ばっは

「何故、楫取のそばを離れてここに来たのか」

と、寿は問うが、美和には答えられない。

「私の送った手紙のことでしょう」

憮然と久米次郎は言う。

「父上のおそばにおられるべきは母上です。

   この人がおるから、母上はもう自分は無用だなどと…」

美和がいるから安心だと言いながら、

寿が寂しく微笑むのが、久米次郎にはたまらなかったのだ。

木綿語で話して肩凝りを治す  清水すみれ


   杉 民冶

事情をしった寿は、久米次郎を席から外させ、美和に言う。

「夫の世話ができない自分の身が情けなく、

   ふと口をついて出てしまった」

のだと。

「でも、羨む気持ちは気持ちもないと言えば嘘になります」

夫は自分に優しくしてくれるが、

心配な事や辛い胸の内は打ち明けてくれない。

けれど、美和には違う。

美和になら話せる。

「やから、焼けるくらい感謝しておるんです」

「義兄上は、姉上を誰よりも大事に思うておられます。

   それは、そばにおる私がいちばんよう分かっとります」

その後、美和は少しの間、折角来たのだからと、

寿の世話をするため東京に留まることにした。

生きているリズムで溜まるゴミの山  竹内いそこ


 新井領一郎

このころ(明治9年)新井領一郎の営業努力により、

外国人外商を経由せずに、日本人が初めて生糸の直輸出を実現した。

こうした生糸の仕事が忙しくなった中、

美和は群馬と前橋を何度か行き来することになる。

当時の「楫取書簡」を紐解くと、

「今般阿三和氏(美和)帰県」 (明治8年10月19日)

明治11年頃になると、

「今日頃、阿三和も東京より見舞いにきます」

「阿三和も、多分 今月中には帰寧できることになりました」

という不思議な記述も見られる。

帰寧とは、嫁いだ娘が初めて里帰りするという意味で、

楫取は途中から美和の名も呼び捨てになり、

美和に対する意識が変わってきたのだろうか。

さらに明治14年1月6日の記述では、

「阿三和さんは、私が引き取り、前橋で寿の看護人、

   または私の家の女幹事になってくだされば、

   お互いに幸せになるでしょう」

と、楫取の美和への意識は,妻のような扱いに飛躍している。

すりこぎに君は命と彫っている  田口和代


楫取が民治に宛てた手紙

年が明けて14年1月、寿の病状は手の施しようがなく、

長男の篤太郎も萩から妻を連れ、寿の枕元にいた。

そして明治14年1月30日、薬石効なく、寿は43歳で他界する。

楫取の悲しみは深く、

妻が手を通した衣類を洗うことすら忍びないと、

涙する日々を送ったという。

楫取は義兄・民治(梅太郎)に宛て手紙で心情を次のように吐露している。

「なかんづく臨終まで御着用候衣類、襟垢など付き候分、

   入梅にも至り候時はかびに成り候ゆえ、

   洗濯仕らずては年置きも相成らず。

   これを洗ひ候ては誠に惜しく、兎角涙の種にござ候」

(臨終の時に寿が来ていた着物には襟垢(えりあか)がついていて、
 梅の季節になる頃には、かびになるでしょうが、
    洗濯しないと置いておけない。

    でも、洗ってしまうのは非常に惜しく、涙の種になっております

髭剃ってさてこれからの置き所  山本早苗

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