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川柳的逍遥 人の世の一家言
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人の手も杖も死ぬ日のためにある  森中惠美子

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閉塞作戦で戦死した日本兵の棺を、エスコートするロシア軍の水兵の一隊

「広瀬死す」

広瀬武夫は、慶応4年生まれの帝国海軍軍人。

豊後竹田(大分県)の人である。

海軍兵学校に通いながら、講道館で柔道も習った。

日露戦争の劈頭(へきとう)、旅順港を「閉塞」するため、

湾口に閉塞船を沈める作戦に、従事していたところ、

ロシア軍に発見され、撤退しようとしたが、

部下の杉野孫七上等兵曹がいない。

広瀬は閉塞船の福井丸に戻り、三度も船内を探したが発見できず、

カッターで母船に戻る途中で、ロシア軍の砲撃によって戦死した。

1904年3月27日、享年36歳であった。

友の訃を聞いて沈黙するばかり  堀尾すみゑ

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  広瀬ほか死亡報告書

それをもって「軍神」とたたえられ、「文部省唱歌・広瀬中佐」が作られた。

作詞から、具にその時の状況が浮かぶ。

① とどろくつつ音  飛び来る弾丸    荒波あらふ  デッキの上に
  
   闇を貫く中佐の叫び           「杉野はいづこ、杉野は居ずや」

② 船内くまなく  たづぬる三たび    呼べど答えず  さがせど見えず
   
   船はしだいに  波間に沈み          敵弾いよいよ あたりにしげし

③ 今はとボートに 移れる中佐            飛び来る弾丸に たちまち失せて

      旅順港外 うらみぞ深き                軍神広瀬と その名残れど

                                         
 (作詞作曲不詳)
思い出を削ってごらん歌になる  立蔵信子

「軍神・広瀬武夫の戦死の状況については、様々の本に描かれている」

『そのとき、広瀬が消えた。

 巨砲の砲弾が飛びぬけたとき、広瀬ごともって行ってしまったらしい。

 その隣に座って舵をとっていた飯牟礼ですら、気づかなかったほどであった』

                                司馬遼太郎ー『坂の上の雲』
 
『一巨弾中佐の頭部を撃ち、中佐の体は、一片の肉魂を艇内に残して、

 海中に墜落したるものなり』                  
                                 江藤淳
ー『海は甦える』

『その瞬間、『うーん』という声か呻きか、にぶいさけびが聞えたので、ふと顔を上げると、

 少佐の首が見えず、真っ赤な血がもくもくと首から溢れ出ると見るうちに、

 その胴体がころりと海中に落ち込んでしまった』   生出寿ー『知将・秋山真之』

笛ですかいいえ心の風の音  くんじろう

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ロシア船の甲板に横たわる広瀬中佐の遺体

軍外套を着た遺体は、ほとんど損傷もない状態で収容された。

この写真をよく見ると、不鮮明ではあるが、五体がちゃんと残っているように見える。

ということは、砲弾によって身体が四散したのではなく、

やはり頭部への銃弾か砲弾が、致命傷になったようである。

びしょ濡れになった名前のご冥福  井上しのぶ

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海軍葬ー軍の栄誉礼をもって行われた日本兵の葬儀

ところで、海中に消えた広瀬の、その後については、どの本も触れていない。

実は広瀬武夫の遺体は、

ロシア軍によって発見され、ロシア軍によって葬られた。

広瀬の遺体が敵軍の将校ながら、

名誉の戦死として、丁重に葬られていた事実に驚く。

そして、旅順のロシア海軍墓地に葬られた。

切り裂いた穴から青空が湧いた  井上一筒

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 右の二人がアリアズナの兄

ペテルブルグ時代に親交のあったゴヴァレフスキー子爵の2人の子息、

アリアズナの兄が、ロシア船の船上で遺体の確認に立会い、

広瀬の遺体であることを証明した。

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『葬儀の目撃者の証言―』

「旅順港閉塞作戦で戦死した日本人たちの葬儀が行われた。

 それは、完璧な軍隊の栄誉礼をもって行われた。

 それぞれの棺は、日本の軍旗で覆われ、

 水兵の一隊は、吹奏される葬送曲と合唱の中、

 多数の参会者によって行われた葬儀のあいだ、

 厳粛に名誉ある軍人の、エスコートを続けた」

海岸の位置が地図とはずれている  杉本克子

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  「アリアズナ」

アリアズナは、将来敵になるかもしれない異国の軍人・広瀬武夫に、

一途な思いを抱いた。

アリアズナは兄・セルゲイから、

「お前たちが、何かよからぬことをしたら、あの日本人を殴り倒すからな」

と釘をさされたこともある、・・・が、

彼女は負けず嫌いな性格だったので、兄の言いつけと反対の行動に出た。

広瀬が病に臥せっているとき単身見舞いに行ったのは、

その例だが、

”これは貴族令嬢として上流社会の常識から外れた行為だった” グザーノフ記)

大人ですが約束やぶることがある  安土里恵

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懐中時計(ドラマ使用小道具)

遺体を納棺する前に、広瀬の外套のポケットから、

アリアズナが贈ったパーヴェル・ブーレの懐中時計も発見された。

≪現在その時計の行方は不明≫

 置き去りにされて真っ白い時間  小山紀乃

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『明治ニュース辞典』―(1904年4月11日付毎日新聞)

”死体を収容しロシア軍が葬儀を営む”

4月1日、旅順に於いて日本海軍将校のために葬儀を営めり。

当時将校及び水夫、これを見送り、かつ楽隊を附せり。

この将校の死体は、福井丸の船首なる海上に浮かびしものにて、

頭上に砲丸にての大疵あり、その深さ一寸、外套の袖に金線あり、

頚には革紐にて望遠鏡をかけ、ポケットには短剣を差し居れり。

電報によれば、露人は該死体の広瀬中佐たる事は、

知らずして、葬儀を営みたるものならんも、

その広瀬中佐たる事は、当時船上に留めたる肉片が、

電報に伝へる頭部の深さ一寸の大疵と、符号する事、

並びに、外套の袖に金筋の入り居りし事だけにても、

疑ひなきがごとし。

凛として書は風雪を語り継ぐ  山本芳男

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別れがくることを予感していた広瀬とアリアズナ

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黄昏のなか二人のふる里を語り合う


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広瀬の死に祈るアリアズナ

水に映っている神様の居場所  岩田多佳子         

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