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川柳的逍遥 人の世の一家言
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シナリオを遣らずの雨が書き替える  小林満寿夫

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『エピソード―岩倉具視』          

かっての五百円札に刷り込まれていた人物といえば、岩倉具視である。

長い間、財布のなかで、親しまれてきた岩倉さんだが、

幕末から昭和初期の頃には、意外と陰険な「ヤモリの男」と呼ばれていた。

時は、慶応3年(1867)12月9日、「京都御所内・小御所」において、

徳川幕府による260年間の日本統治に、ピリオドを打つ「会議」が執り行われていた。

このときの主役が、岩倉具視であった。

対するは、土佐の山内容堂である。

容堂は、朝廷と幕府とを合体させて、諸藩連邦を目指し、

政局の安定を図ろうとしていた。

獏を探しに切符一枚携えて  井上恵津子

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  容堂・「鯨海酔侯」の扇

しかし、容堂は大酒飲みで、朝から『酔って候』の悪い癖がある。

この日も、朝から飲んでいた。

岩倉の立場は、

「徳川の嫡流を完全に絶たなければ、新政府は実体のないものになる」

との考え方に拠る。

大久保利通、西郷隆盛も、同様の考え方であった。

容堂とは、まったく相容れない立場にある。

縛りたいものがあるのに紐がない  佐藤美はる

西郷は、

「いよいよのときには、この短刀一本でケリがつく」 

と、別室で同志を前に鞘を抜いてみせ、覚悟を決めている。

そこで腹黒い岩倉は、容堂おろしを決断する。

容堂の腹の内は、すでに割れている。

酒を飲んでいる容堂が、失言するのは当然と見て、

その言葉尻をつんで、

「一気におろしてやろう」


と計画したのである。

待ちに待った容堂の発言が始まった。

「本日の暴挙たるや、二三の者たちが幼沖の天子を押して、天下を私物化しようとしている」

と、やった。

沈黙の中で発信する自信  白石恵子

それを聞くなり岩倉は、こう切り返した。

「御前でござるぞ、山内どの。幼仲の天子とは無礼千万。お言葉をひかえられ」

容堂は動揺する。

さらに岩倉は、そのタイミングを捉えて、居丈高に叱りあげた。

もはや容堂に勢いは無かった。

岩倉は、自ら御前会議の主役に立ち、ついに容堂の主張を退けたのである。

≪岩倉の陰険な対応にはかなりの凄みがあったらしい。

 この一件があって、岩倉具視は陰険な「ヤモリの男」と形容されるようになった≫

虚勢張り瀬戸際をゆくほかはなし  村岡義博

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岩倉・西郷によるクーデターの図

「小御所会議を中継する」

12月9日の”王政復古のクーデター”があったその日の、午後8時頃から、

生れたばかりの三職による「小御所会議」が開かれた。

議題は、「徳川家処分」だ。

世直しへそのうち筵旗が立つ  西山春日子

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    小御所・古写真

小御所は上中下の三間に分かれている。

御簾に隔てられた「上段の間」は、

中央に厚畳二枚を重ねた上に、褥(しとね)を置いて玉座とし、明治天皇が臨席する。

一段下の「中段の間」には、総裁以下が着座する。

玉座に向かって右(東側)には、岩倉具視ら、親王及び公家が西向きに並ぶ。

左には徳川慶勝、松平春嶽、浅野茂勲、山内容堂、島津茂久の五大名が、列座している。

「下段の間」には、大久保一蔵、後藤象二郎、辻将曹など、

参与になった五藩の重臣たちが、敷居際まで詰めている。

水練が畳みの上のお役人  ふじのひろし

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中山忠能が開会を宣した。

最初は水を打ったような静寂。

まず容堂が、雷が轟くような声で、

「この会議には、慶喜公も列席させるべきだある」 と発言した。

喧嘩腰である。

体格と声量で一座を圧倒した容堂は、傍若無人に言いつのる。

「かくのごとき暴挙を企てられた三、四卿は、いかなる意図をもって幼沖の天子を擁し、

 政権をほしいままにするのであるか」

右足が沈むすばやく出す左  杉山ひさゆき

「不敬であろう!」

鋭い一喝が響く。

岩倉具視である。

顔を蒼白にして膝立ちになり、ハッタと睨み付ける眼光は刺すように鋭い。

「今日の拳は、ことごとく宸断に出で賜うものである。

 幼沖の天子を擁するとは何たる妄言ぞ」

見事なカマシであった。

失錯に気づいた容堂はとっさに態度を改め、畳に深々と頭をたれ、

玉座に向かって失言を謝罪する。

沈みます藁一本を懐へ  谷垣郁郎

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春嶽らが歩き回った小御所の廊下

これで流れが変わった。

春嶽がグズグズ抵抗して重い空気になり、

忠能が徘徊老人のようにウロウロするのを、具視が、また叱り飛ばす。

休憩時間に、具視は、

「容堂を何とかしろ」

茂勲に凄みを利かせる。

しばらくして再開された討議では、容堂はむっつりと沈黙を守り、

会議は、

「慶喜に官位返上と領地上納を命ずる」

ことに一決した。

虹の向こうの楢山を誰ももつ  森中惠美子

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