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川柳的逍遥 人の世の一家言
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いくさが消えぬ父の波母の波  森中惠美子

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               市

「市の再婚を考察する」

天正10年(1582)6月の清洲会議で、

お市柴田勝家のもとに輿入れすることになり、

お江たち三姉妹も母親とともに、北ノ庄城(福井市)に移り住むことになった。

この時、お市の方は37歳。

当時としては、孫がいてもおかしくない年齢である。

三姉妹の長女・茶々は15歳くらいで結婚適齢期。

次女のは、女好きの秀吉の食指がうごかなかったことからすると、

14歳ぐらいでも、まだまだ、こどもこどもしていたのであろう。

三女・お江は10歳ぐらい。

3人とも、もう物心がついた年齢である。

身の丈に合うた暮らしを謳歌する  亀山 緑

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   三姉妹

お市の方と柴田勝家の夫婦仲は、

「熱愛といっていいほどだったのでは」 ないかと思われる。

明らかに、秀吉が有利に天下獲りを進めるための、

”政略結婚”
であったにもかかわらず、

2人の仲はよかった。

ラーメンの汁に沈んでいた指輪  井上一筒

これはなぜか。

お市の方は、小谷城が落ちたあと、出家せずに伊勢に10年間あずけられた。

信長から、政略結婚を命じられたが、すべて断っている。

けれども清洲会議では、勝家のもとに嫁ぐのを承諾している。

お市には再婚相手は、「勝家意外にはありえなかった」 のだと考える。

さらに柴田勝家には、正室がいた様子がない。

当時の感覚から言えば、出家してでもいない限り、

家名を維持するために、子をもうけるのが普通である。

フルーツの分だけ胃袋空けてある  山田昭九朗

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    勝家の像

勝家は、「市のために正室の座を空けておいた」 のではないか。

この2人が、10年のブランクを経て、ようやく結ばれたのだ。

勝家にいたっては、お市が浅井長政に嫁いでいる間も、

「男の操」
を守っていた。

これで熱愛にならないほうが、どうかしている。

上流に向けて利き足から入る  森田律子

では三女・お江はどういう生活をしていたか。

お江は、小谷城から脱出したときは、乳飲み子だった。

実父・浅井長政の記憶はない。

お江が物心ついてから、北ノ庄城に移るまでの10年間、

後見人の織田信包が父親がわりだったが、しょせん父親がわりである。

信長の命令でと東奔西走しているうえ、

本能寺の変で、秀吉に従うと決めたら、

即座に、お市と三姉妹を秀吉に差し出す程度の、関係でしかなかった。

お江たち三姉妹と、お市が柴田勝家と暮したのは、

わずか9ヵ月間ほどだったが、

一緒に過ごす時間は、充分にあっただろう。

束縛はシルクの紐にしてほしい  清水すみれ

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天正10年10月15日、京都大徳寺で秀吉が、

信長の法要を大規模におこなったときも、勝家は動かず、

同年12月に、秀吉が岐阜城の織田信孝を包囲して、投降させたときも、

勝家は豪雪で動けなかった。

言い方をかえれば、勝家はもっぱら北ノ庄城で待機し、

水面下で調略戦をおこなっていた。

つまり、ずっと北ノ庄城にいたわけで、お江たち三姉妹や市たちと、

家族団欒の時が充分にあったわけだ。

今日風を見ました青い色でした  河村啓子

お江にとっては、柴田勝家が最初の「父親像」だったといえる。

女に極端に清潔で、剛直な柴田勝家を最初に見てしまっては、

後年お江が、徳川秀忠のもとに輿入れしたとき、

温厚な秀忠に違和感を覚えても、不思議ではない。

切り取ってみても独りという指紋  山本早苗

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『お江ー「初めての父』 あらすじ』

激動の天正10(1581)年も、秋が訪れようとしていた。

尾張・清洲城では、市(鈴木保奈美)と三姉妹の引っ越しの準備で、

おおわらわだった。

市と柴田勝家(大地康雄)とも婚儀により、

勝家の居城である越前・北ノ庄城に移る為だ。

だが、茶々(宮沢りえ)初(水川あさみ)は相変わらず、

この婚儀には批判的だった。

2人は、実父の浅井長政のことをまだ覚えており、

「父は長政意外には、あり得ない」

という考えだ。

暴れ川の気持ちが痛いほどわかる  西美和子

だが、江(上野樹里)だけは少し違っていた。

長政が亡くなったとき、江はまだ赤子で、殆ど父の記憶はない、

今度の母の婚儀で、父と呼ばれる存在が出来る事を、

密かに期待しているところがあったが、

姉たちの考えに、逆らうわけにはいかなかった。

姉の言い分妹の泣きボクロ  山口ろっぱ

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清洲城での婚儀が終わった市は、三人の娘たちと一緒に、

越前・北ノ庄城に向かう。

北ノ庄城では、勝家と、家老の佐久間盛政(山田純大)が一行の到着を迎えた。

勝家は、家臣たちの前でも、

市に対しては、主を仰ぐような平身低頭のもてなしである。

「後悔しておいでなのではないかと・・・」

それを聞いて市は、呆然とした。

自分の心が、定まっていなかったことに気づいたのだ。

確かに秀吉への恨みから、勝家へ嫁ぐ決意をした。

だが、一旦嫁いだからには、勝家の妻なのだ。

絵に描いた餅はこんがり焼いて食う  井丸昌紀

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市は、娘たちの前で素直な気持ちを訴える。

 「・・・・私は・・・間違えておった」

初 「間違い?」

 「勝家様に父になれ、そなたたちに勝家様を受け入れよ、と言う前に、

     ・・・おのれ自身の思いが定まっておらなんだ」

茶々 「何を・・・仰せなのですか?」

 「私は本日より、勝家様の妻となる。

     秀吉への恨みからではなく、心より勝家様を受け入れ、暮らして参ろうと思う」

 「(呆然と)母上・・・・」

 「その上で、そなたたちに言いたい。・・・勝家様を実の父と思うて接してはくれぬか?」

茶々 「私の父は・・・・浅井長政ひとりにござりまする」

 「茶々・・・」

 「その通りにございます」

茶々 「お許しくださいりませ」

ため息をつく市・・・・。

ただ江だけは

「なんとか父上と呼んでみたい」
と思うようになっていた。

耳垢のせいか小言が聞えない  新家完司

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そんなある日、江はひとり馬で駆け出す、が、嵐となり城に戻れなくなる。

慣れない土地での馬での遠出。

道に迷ったのではないか・・・?

崖から落ちたのではないか・・・?

熊に襲われたのではないか・・・? 

皆の脳裏に様々な思いが巡る。

はたして、城内は大騒動。

市も姉たちも、心配だった。

それ以上に勝家は心配し、方々に手配して、江の行方を追った。

折り悪く空には稲光が走り、やがて豪雨になっていった。

勝家は、表門に仁王立ちになり、まんじりともせず、

江が帰ってくるのを待った。

うねるもの遠ざかるもの砂時計  本多洋子

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やがて、夜が明けた頃に、江は馬を引いて戻ってきた。

皆、江の無事を喜ぶ中、勝家がつかつかと江に近づくと、

思い切り平手で江の頬を打った。

勝家 「何じゃ! そのいけしゃあしゃあとした面は!

     おのれが仕出かしたことが、わかっておるのか?」

 「勝家様、そこまでなさらずとも・・・」

勝家 「(厳しい表情で)そなたは黙っておれ!」

そう言うと、江を厩番の与助のところに連れて行って、謝罪させる。

勝家 「詫びよ、江。・・・そなたが帰らなんだら、この者は首を討たれておったのだぞ!」

分が悪くなると化石になっている  小谷小雪

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泣きながら与助に許しを請う江に、勝家は静かに言う。

勝家 「わかるか? 上に立つ者は、つねに下の者に心を配っておかねばならぬのじゃ」

 「・・・はい」

そして、茶々と初に向かって、

勝家 「そなたたちとて同じこと。

     皆に支えられておること、断じて忘れてはならぬ」

泣いている江を抱きしめながら、

勝家 「どこにも怪我はないのだな?」

江はいつの間にか、自然に「父上!」と言えるようになっていた。

さらに、茶々や初も勝家に父親の強さ、たくましさを感じていた。

そのときから、勝家と市、そして三人の娘は、本当の家族となった。

父の手紙と酒蔵にたどりつく  浜田さつき

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