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川柳的逍遥 人の世の一家言
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人間味少し甘くてしょっぱくて  津田照子
 


     中山道・69次木曽街道 (渓斎英泉画)

 
宿場は、街道の拠点となった所。宿駅ともいい、「駅」の語源でもある。
宿場は、家康入府に伴い「宿駅伝馬制度」が定められ、街道が整備され
るとともに発展した。東海道では慶長6年(1601)に品川から大津
まで53駅(東海道五十三次)を順次整備し、寛文元年に(1624)
45番目の宿場である、庄野宿が出来て53駅が出揃った。
因みに、中山道には69次がある。そのため宿場では、公用人馬継ぎ立
てのため、定められた人馬を常備し、不足のときには、助郷(労働課役)
を徴するようになった。


     
       問 屋 場                                               
 
 
  また、公武の宿泊、休憩のため問屋場、本陣、脇本陣などが置かれた。
これらの公用のための労役、業務については、利益を上げるのは難しか
ったが、幕府は地子免許、各種給米の支給、拝借金貸与など種々の特典
を与えることで、宿場の保護育成に努めた。他に一般旅行者を対象とす
旅籠、木賃宿、茶屋、商店等が建ち並び、その宿泊、通行、荷物輸送
等で利益を上げた。また、高札場も主要な駅に設けられた。


ト書きから転げ落ちたら生まれたわ  河村啓子


「徳山五兵衛」 将軍・吉宗に見初められた男ー⑥



        三 島 宿

三島宿は、東海道五十三次11番目の宿場。この三島宿は南へ下田街道
、北へ佐野街道(甲州道)が分かれる交通の分岐であり、また、箱根の
山越に1日かかるため、足休めとして多くの旅人が泊まり、旅館数も多
く賑わった。


三島宿・酒匂川の茶店でお縄にした越後浪人・佐藤忠右衛門の懐中から
出て来た紙片には、「遠州まいかの村、金兵衛」とある。紙片を指し示
しながら徳山五兵衛は、
「日本左衛門一味の連絡(つなぎ)の場所、盗賊仲間でいう盗人宿であ
 ろう。いかが思うな磯野」
与力・磯野源右衛門に質した。
「はい、さように思われまする」
「先ず、これから手をつけねば相なるまい」
「では、私めがこれより、すぐさま出立いたしまして…」
「いや、急くことはない。明朝でよい。遠州みかの村とあるのは、見附
 宿の半里ほど手前にある三カ野村にちがいない。
 そこで金兵衛といえば、だれもが知っていよう。どうだ磯野」
「いかにも」
 といい、この説に磯野源右衛門は頷いた。


気散じな椅子に座っている明日  桑原伸吉


三島から見附迄は、約25里。徳山五兵衛は、二日で進むつもりだ。
「苦労をかけるが磯野、明朝は、馬を仕立てて発足してもらいたい」
「心得まいた」
磯野源右衛門が早朝に三島を発し、馬を替えつつ疾走していけば、明日
の夜には見附へ到着できる。だが、盗賊改方の本拠は、見附より1里半
手前の袋井宿へ置くことになっている。気取られぬためであった。
一方、強行軍の旅に疲れてか、眠りこける柴田用人の倅平太郎をそのま
まに寝かせておいて、夜も明け切っていない刻限、五兵衛と小沼治作は、
江尻をあとに足を速め、府中・丸子・岡部と過ぎ、袋井宿へ向かっていた。


K点を少し手前に置いてある  池田貴佐夫


「今日もよい日和でございますな」
「なによりじゃ」
「なれどこのように早く、手がかりを得ようとはおもいもしませなんだ」
「わしが若いころの放埓も、あながち無駄ではなかったわ」
「なれど、あの頃の殿には、つくづくと手を焼きましてございます」
「わしを諫めんとして、腹へ刀を突き立てたのう」
「そのことは、もはや…」
「いや忘れるものではない。かたじけなく思うている」
「またしても、何を仰せられますことやら…」
「小沼がいてくれなかったら、いまの徳山五兵衛もいなかったであろう」
 徳山五兵衛は、しみじみと言った。小沼治作の声が絶えた。
五兵衛と小沼は途中で馬を使いもしたが、夜更けになってから、袋井宿
の本陣・田代八郎左衛門方へ到着した。


風を切る肩に一片のはなびら  下谷憲子



   旅籠  
(夕餉を食する者、湯につかる者がみえる)

一般旅行者用の食事付き宿泊施設。江戸時代になって,諸国産物の流通,
公用,商用などの交通量の増大に対応したもので,食事や沐浴が可能に
なり,現在の旅館にみる1泊2食付き料金も,元禄時代から始った。


東海道・袋井は、江戸から59里12町。京都へは66里9町のところ
にあり、掛川と見附の大駅の間にはさまれ、小さな宿場である。宿場へ
入る手前に川が流れており、宇天橋という橋がかけられている。この川
を宇刈川といい、宿場の東側から北面をまわって西へ流れている。
すでに到着していた盗賊改方の一行は、分散して袋井宿の旅籠に泊って
いたが、その中で同心・辻駒四郎と4名の密偵たちは、1里半先の見付
宿へはいり込み、岡田屋という旅籠に泊っている。密偵のうちの2人は、
浮浪の徒に変装し、岡田屋へは姿を見せない。辻駒四郎と2人の密偵は、
備前岡山藩士の家来と奉公人という触れ込みで、<江戸より西上する主
人を待っている> 態で岡田屋に滞在している。


点と点気ままに繋ぐ今日と明日  大西將文
 
 

      見 附 宿

日本左衛門一味が、このあたりに蠢動していることは、すでに見込みが
ついているが、これまで、新五郎以下4人の密偵が、宿場の内外を探っ
てみたけれど、手がかりはまったくなかった。見附宿の家数は約850、
本陣も2軒あり、脇本陣もあって、旅籠は42軒、住民も多く種々雑多
な旅人の出入りもはげしいので、監視の目になかなか入りにくいのだ。


夢ばかり走り膝頭が笑う  松本あや子 


ところが昨日の夜半、馬を駆って袋井の本陣へ到着した与力・磯野源右
衛門によって、三ヶ野村の金兵衛なる者が浮かびあがった。
「それで金兵衛は、三ヶ野村に、今も住み暮らしておるのか?」
袋井宿の本陣に旅装を解いた五兵衛の問いに、
「まさに、住み暮らしておりまする」
与力の岩瀬半兵衛がこたえた。
「して金兵衛とは何者じゃ」
「百姓にございますが、女房ともども、まったく田畑へは、出ておらぬ
 ようでございます」
金兵衛は、見付や掛川、ときには府中などを回り歩き、博打を打ったり、
娼家へ女を世話したり、品物の仲買いをしたりしているらしい、と近辺
から聞き込んだものだ。


朗報に思わず声が裏返る  清水久美子


 
                            木 賃 宿


三ヶ野村の金兵衛宅の見張りは、与力・岩瀬半兵衛が指揮し、辻駒四郎
山口佐七の2同心と、密偵の新五郎・由蔵が受けもっていた。
金兵衛宅へ男女の2人が入ったのを、知らせに駆けつけたのは、新五郎
であった。2人とも旅姿ではなく、ぶらりと近辺へ出かけていたような
風体だという。男は40前後の、小太りの体つきだが、みるからに敏捷
な足の運びで、油断ならない奴と見た感じのままを五兵衛へ報告をした。
「いかがなされます?」
「うむ…」
しばらく沈思して五兵衛は、
「よし、夫婦ともひっ捕らえよ。誰にも気づかれぬようにな。引っ立て
たら、こちら本陣の土蔵に放り込んでおけ。主の八郎左衛門殿には、話
を通しておく」
と言った。


さりげなくという形を取っている  谷口 義
 


          袋 井 宿

 
金兵衛夫婦を捕え木箱に入れ、盗賊改方が袋井本陣へ引き上げてくると、
「それでよい。余人に見られてはいまいな?」
徳山五兵衛が、磯野源右衛門へ念を入れた。
「幸い雨も降っておりましたから、誰の目にも留まってはおりませぬ」
「よし。では、金兵衛夫婦を、別にして、押し込めておくがよい」
と、五兵衛は、言い。さらに本陣の主・八郎左衛門に本陣の人々の暫時
の外出を禁じた。そして金兵衛は、土蔵へ、女房おろくは、物置小屋へ
監禁し見張りをつけた。


童謡で唄う程度の雨が良い ふじのひろし
  
 
 
                               茶 店 風 景

  
酒匂川の茶店で捕まえた老爺の寅吉佐藤浪人は、小田原藩の町奉行所
が預かってくれている。この間に、与力の磯野源右衛門岩瀬半兵衛が、
土蔵の金兵衛を取調べ、与力の中島三郎右衛門が女房を訊問しはじめた。
夜に入って雨はいよいよ激しくなってきた。五兵衛は、本陣の戸締りを
厳重にさせ、内部にも見張りを置いた。
五ツ頃(午後8時)先ず、中島与力と辻同心が五兵衛の部屋へあらわれ、
「なかなか強情な女にございます」
「さもあろう」
「緩やかに調べよと仰せゆえ、だましだまし、吐かせようといたしまし
 たが、なかなか…。そこでいささか痛めましたところ…亭主の金兵衛
 は、掛川宿の古手呉服を商う孫市という申す者を訪ねるため、三ヶ野
 村の家を出たということにございます」
「ほう…」
「その他のことは、知らぬ存ぜぬの一点張りで…」
「よし、よし」
「いかがいたしましょうか?」
「山口佐七をこれへ」
そこで五兵衛は、山口佐七ほか2名の同心へ、密偵の源六をつけ、古手
呉服・孫市の見張りを命じた。


背は縮む耳は騒ぐし眼はかすむ  宮井元伸


山口以下4名が、本陣を出ていってから間もなく、金兵衛を取り調べて
いた磯野源右衛門があらわれ、
「まことにもって、しぶとい奴にござります」
「吐かぬか」
「緩やかにせよとのお言葉ではございましたが、少々痛めつけました。
 なれど吐きませぬ」
「では、わしが調べてみようか」
「おんみずから…」
「何か…心張棒のようなものを借りてまいれ」
「はっ」
五兵衛は、側にいた小沼治作
「どうじゃ、来てみぬか?」
「かまいませぬか?」
「よいとも」
五兵衛が小沼と磯野を従え、本陣奥庭の土蔵へ入ると、
大分痛めつけられた形で、金兵衛は土蔵の柱にくくりつけられている。


多面体君の素顔が掴めない  小林すみえ
 


       江戸の拷問


徳山五兵衛磯野源右衛門から心張棒を受け取るのを見て、
金兵衛は、またまた無駄なことを>と、はっきりと嘲笑した。
金兵衛を見つめている五兵衛の眼の色は、冷ややかであった。
「こやつに猿轡をかませよ」
五兵衛が磯野に言った。
 源右衛門が布で金兵衛の口を塞いだ。
そうしておいて、尚も五兵衛は、正面から金兵衛の顔に見入っている。
金兵衛の眼の色が、やや変わってきた。
土蔵の中に、雨の音がこもっている。
磯野と岩瀬半兵衛が顔を見合わせ、小沼治作は、微笑を浮かべている。
それはかなり長い時間であった。
金兵衛の眼から、もはや嘲りの色が消えている。
そのかわり、微かな怯えの色が滲みでてきた。
冷然と五兵衛は、金兵衛を見つめつづけている。
ついに、金兵衛が眼を伏せてしまった。


凄いとはあまり思わせないキリン  橋倉久美子


徳山五兵衛の心張棒が、そろりと動いたのはそのときである。
磯野源右衛門と岩瀬半兵衛は、いよいよ、長官の拷問が始まると思った。
五兵衛が掴んだ心張棒は、唸りを生じて、金兵衛の躰へ撃ち込まれると
おもった。まさに、五兵衛は金兵衛を、痛めつけにかかったのである。
しかし、心張棒が激しく揮われたわけでなく、先端が、わずかに金兵衛
の躰のどこかに触れたような…としか、2人の与力には見えなかった。
また、五兵衛の右手がわずかに動く。
金兵衛の顔が、苦痛に歪んだ。


これは序の口ここからがすごいのよ  竹内ゆみこ


「打つ音も、突く音もせぬのだ。いかにも軽く、ちょいちょいとお突き
 なさる。あれは、よほどに躰の急所をご存じなのであろうか……?。
 ともかくも金兵衛の苦しみ様といったら、大変なものであった」
のちに2人の与力は、同心たちへ、そう語っている。
強く烈しく打ち据えられるときの人間の躰は、むろん、それ相応の苦痛
を受けるが、これが連続して行われると、しまいには、神経が鈍くなり、
痛みを感じなくなる。さらに強烈な打撃を加えると、気を失ってしまう。
五兵衛の棒先は、耐えがたい苦痛を与えても、金兵衛を失神させるよう
なことはない。だが、金兵衛の両眼は哀し気に曇り、精いっぱいの憐れ
みを乞うている。


形容詞はいらぬリンゴ丸かぶり  靏田寿子


それからの金兵衛は、もう、長くはもたなかった。
五兵衛が土蔵に入ってから半刻ばかり、ついに金兵衛は口を割り始めた。
それから五兵衛は、昂奮覚めやらぬ、磯野岩瀬
「本陣の内外の見張りに念を入れよ、見張りのほかの者を、すぐにわし
 の許へ集めよ」
と命を下し、部屋へもどり、近くに控える小沼治作を見て、
「見たか…」
「いや、恐れ入りましたございます。さすがに殿…」
「ほめるな。気味がわるいわえ」
「いや、まことにもって…」
「若いころの修行も、無駄ではなかったようじゃな」
「それはもう、申すまでもございません」
「それにしても、しぶとい奴であった」
「いかにも」
「いまどきの侍どもより、骨が太いわえ」
「なれど、思いのほかに早うございましたな」
「そのことよ そのことよ」
五兵衛は満足気に笑って、
「何と、明日の夜とは、な…」


重力が捻りの技にみとれてる  長坂眞行
 


            掛 川 宿


「こうなれば、掛川宿の古手呉服を営みおる孫市と申す奴、一時も早く
 召し捕ってしまわねばならぬな」
「私が、掛川へまいりましょうか」
「行ってくれるか」
「柴田平太郎殿を連れてまいりたいと存じます。いかが?」
「よいとも、平太郎めも少しは働かせておかねば、父の勝四郎へ土産話
 もできまい」
すでに掛川へは、山口佐七以下4名が、見張りに先発している。
「では、行ってまいります」
小沼治作柴田平太郎は、すぐに本陣を出て行った。
「召し捕った孫市などは、袋井へ連行せず、そのまま掛川の本陣・沢野
弥三左衛門かた土蔵へ<押し込めておけ」
と、五兵衛は小沼に言い含めておいた。
そのうちにも、与力・同心たちが五兵衛の部屋へ集まってきて、
五兵衛は、こう言った。
「みなの者、日本左衛門召し捕りは、明夜になろう」
いよいよ五兵衛は、大詰めの日本左衛門との直接対決にはいる。


今日の夢続きは明日見る予定  下林正夫

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