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川柳的逍遥 人の世の一家言
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ご同輩あなたも工事中ですか     髙瀬霜石



「東海道五十三次 ・藤枝宿問屋場」(安藤広重)

問屋場の建物の中で座し、事務をとる問屋役。狼藉者が登ってこれない
ように、床は人の肩ほどに高くしてある。そして、馬の背から荷をおろ
す者,荷物を重そうに担ぐ者,汗をふく者など,労働人夫の世態を細か
く描写されている。

【問屋場】 慶長6年(1601)、徳川家康は東海道に宿(駅)を置
き、人や荷物を運ぶために馬を配置(伝馬制)し、その事務を取り扱う
場所を、「問屋場」といった。ここには責任者である「問屋」その補佐
をする「年寄」「記録係の帳付」「人足や馬の手配」をする「馬差」
どが詰めた。主に仕事は、荷物の目方を計り,賃銭をきめ,人馬の継立
てや、貨物運送の斡旋をした。また、この貨物を担うために、馬や力の
ある人足を抱え,役人がこれを統率した。継立=次立→53次の語源


よいしょって外人何て言うのやろ  磯島福貴子



7 平塚  8 大磯   9 小田原  10 箱根  11 三島  12 沼津 13 原 14 吉原
15  蒲原  16  由井 17  興津  18   江尻 19   府中  20   鞠子  21 岡部 
22  藤枝  23  嶋田  24  金谷  25  日坂  26  掛川  27  袋井  28  見附 
 

 
「徳山五兵衛」 将軍吉宗に見初められた男ー⑦


三ヶ野村の金兵衛は、何を白状におよんだのか…。
それは徳山五兵衛にとっても、思いがけぬことであった。
五兵衛は、見付宿の手前の袋井宿本陣に拠点を定め、日本左衛門一味の
情報を集めた。一味の金兵衛という男を捕らえ尋問し、越後の浪人くず
れの盗賊で今弁慶と呼ばれる大男、坊主くずれの赤池法印養益、菅田の
平蔵、白輪の伝右衛門など一味の盗賊二十名ほどが、万右衛門宅へあつ
まるということを知った。


天上も天下も悪い奴がいる  新家完司


日本左衛門逮捕の一行は、袋井の本陣の裏手から出て行った。
それより少し前に五兵衛は、「人足20名ばかり出してほしい」と問屋
田代八郎左衛門に依頼している。問屋場へ集まったその人足20名を
田代八郎左衛門と与力・岩瀬半兵衛池田、小池の2同心を従えて、別
の道を北へ進む。一旦は、袋井の宿場を北へ離れておいてから、道を西
へ取り、人足一行は太田川のほとりで待機した。
問屋場は、宿場の公設機関であった、大名行列の宿泊や人馬の発給、公
用書状の輸送、助郷人夫の取り扱いなど、宿駅の事務を管理する所だ。
田代八郎左衛門は、問屋場の年寄役を務めている。八郎左衛門によれば、
集めた20名の人足たちは賃金が多いので、大喜びをしているという。
労働の内容は「お上の御用」としか聞いていない。


空白の脳にさせない好奇心  宮原せつ


やがて、五兵衛一行があらわれ、五兵衛から
「今夜、皆に手伝ってもらうのは、見付の万右衛門を捕えることじゃ」
と聞いて、人足たちは、顔を見合わせ、驚きあわてた。
その不安気な人足たちの顔を見て五兵衛は、
「安心をせよ、お前たちが傷ついたりするようなことにはならぬ。
 皆にしてもらわねばならないことは、いざ打ち込みとなったとき、
 万右衛門宅を高張提灯の灯りで照らしてもらうこと、夜の闇の中での
 捕物ゆえ、照明がなくては、どうにもならぬ。一味の無頼どもを一人
 残らずひっ捕らえるためにもな」
さらに
「万右衛門は、見付のみならず、駿河から江戸まで手をのばし、若い娘
 たちを騙したり、勾引(かどわかし)たりして、これを諸方の娼家へ
 売りわたしていることが、判明したので、御公儀もすててはおかれず、
 われらを差し向けたのじゃ」
五兵衛の説明に人足たちは納得した。


ネジ山がすれて減ってもネジはネジ  小谷雪子
 


                     見附宿
 
見附宿の高札場の先の小道を右に入り、4,5丁も行くと人家も絶えて
しまう。万右衛門宅は、小道から右へ切れ込んだ奥にあった。
三井同心の報告で小屋に20名ほどの者が入ったという。
背後は竹藪で道もないので、人が入り込むこともない。
そこで、盗賊どもが出した見張りの男は。表口にいたのである。
そこは母屋の前庭で、左手に物置小屋があり、見張りの男は、その小屋
の戸を開けっ放しにして縁台に腰をかけ、股の間に小さな火鉢を置き、
煙草を吸っている。
<なるほど、此処からなら前庭も母屋もすっかり見わたすことができる
というものだ> 母屋の雨戸は締め切ってあるが、その隙間からわずか
に灯りが洩れていた。母屋からは笑い声も聞こえていたし、見張りの男
もさほどに神経をつかっている様子もない。


障子の穴から催眠術をかける  井上一筒


そのとき、物置小屋の外に人の気配がしたようなので、見張りの男は煙
管を煙草盆へ置き、
「だれだ、粂か?」
腰をあげて訊いた。見張りの交替が来たと思ったらしい。
外の男が低い声で何やら言った。
「何だ…、おい…」
見張りの男が戸口から外へ出た。出た途端に頚筋をしたたかに撃たれ、
前のめりになった男の口を、素早く押えて、物置小屋へ引き擦り込んだ
のは、三井同心であった。


間違いもなくカラスに遊ばれた  山口ろっぱ
 


           裁着袴 (たっつきばかま)

 
密偵の源六は、戸口に屈み込み、母屋の様子を窺っている。
「源六、大丈夫か?」
と、三井。
「へい、だれも気付いていませぬよ」
「よし、お知らせしてこい」
「合点です」
源六は音もなく走り去った。
三井は、気絶した見張りの男の口へ猿轡をかませ、用意の細引き縄で手
足を縛った。闇の中を二人、三人と盗賊改方の一行が前庭へあらわれた。
徳山五兵衛を含めて十一名である。
五兵衛は、自分と共に中へ打ち込む者として、磯野源右衛門、小沼治作、
柴田平太郎、辻駒四郎、山口佐七
の五名を選んだ。
腕に覚えのある男たちばかりである。
残る五名のうち、二名が裏手へまわり、三井同心を含めた三名が前庭に
待ち構えた。


波打ち際に朱いポストが立っている   嶺岸柳舟



              打裂羽織 (ぶっさきはおり)
 
 
「では、そろそろ、はじめようか」
五兵衛は、そういって打裂羽織(ぶっさきはおり)を脱いで密偵の源六
へわたし、袂から出した革紐を襷にかけた。
与力・同心たちは、いずれも裁着袴(たっつけばかま)をつけて足拵え
も厳重に、鉢巻をしめている。
「それ!」手で五兵衛が合図をすると、掛矢をつかんだ二人の密偵が、
足音をしのばせ、母屋へ近寄っていく。
雨戸を掛矢で叩き破って、打ち込もうというのだ。
五兵衛が樫の棍棒をつかみなおし、<よし>と合図すると、密偵たちが
掛矢を揮って、戸を叩き破った。五兵衛は、真っ先に中へ躍り込んだ。
博打はもう終わっていたらしく、屈強の男どもが酒を酌み交わしていた。


眼の前の大きい背なが盾である  赤星陽子


                               掛矢(大型の木槌)


いきなり五兵衛は棍棒を揮い、2人の男を倒した。57歳とは思えぬ身
のこなしで、また一人を打ち据えたかと思うと、
「日本左衛門 神妙にいたせ!」
天井が敗れ落ちるかと思うほどの大声を発した。
67歳の小沼治作は、裏手から逃げようとする盗賊どもの側面から打っ
てかかった。柴田平太郎も負けていない。勇ましい気合声をあげて賊ど
もと斬り合っている。
盗賊改方の奇襲に、賊どもは、度肝を抜かれあたふたするばかりだ。
前庭へ逃げた奴どもは、待ち構えていた与力・同心の峰打ちをくらって
気絶をしたり、膝のあたりを切り割られ、のた打ち回っている。


戦いも避けて通れぬ時がある  広瀬勝博


五兵衛は、乱闘の渦の中を抜けて、奥の間へ踏み込んだ。
日本左衛門と見えた男が、奥の間の闇の中へ逃げ込んだからである。
その闇の中から賊が一人、走り出て、五兵衛へ脇差を叩きつけてきた。
わずかに退った五兵衛が、すくい上げるように賊の右腕を撃った。
痛みを堪え、感心にも組み付いてきた賊の脳天を、五兵衛の棍棒が一撃
した。賊は昏倒してそのまま気絶した。
「日本左衛門、観念せよ」
五兵衛が、奥の間の闇へ声を投げた。
<たしかに、いる>
闇の底に、人が一人、凝っと五兵衛を見つめている。
乱闘は屋内から前庭へ移っていた。裏手へ逃げた者は一人もいない。
裏手の土間には、小沼治作が立ちふさがり、一人も通さなかったからで
ある。小沼は、土間の片隅に蹲っている老婆をみつけ、 
<逃げるなよ> 静かに声をかけた。
老婆は、虚脱したように、頭を両手に抱え、蹲(つくば)ったまま身じ
ろぎもしない。


負けないよ歌を忘れていないから  藤田めぐみ



     龕  灯 (がんとう)


五兵衛の方は、奥の間の曲者が潜む闇を睨みつづけている。
そして密偵に龕灯を持ってこさせ、灯りを奥の間へ照らさせた。
男が一人、立っている。
五兵衛は、<まさに日本左衛門と見た>。
堂々たる体格の、年齢は30前後というところか…。
身につけている衣装が、まるで芝居の舞台にでも現れるようなもので、
琥珀檳榔子(こはくびんろうじ)の小袖に橘の大紋をつけ、大脇差を
引っさげ、些かも臆せずに五兵衛を睨みつけている。
「日本左衛門じゃな」
五兵衛が声をかけた。
「いかにも」
悪びれもせずに、日本左衛門が答えた。
「もはや逃げ道はない。お縄にかかれ」
日本左衛門は声なく笑い、
「みごと、捕えるつもりならば捕えてみよ」
と、言い放った。
色白く、目の中細く、鼻すじ通り、と人相書にある通りの、立派な顔だ
ちである。龕灯の灯りを正面から受けて、怯む様子もない日本左衛門に、
ある男の顔が重なり合い、五兵衛は愕然となった。


誰もいない海でラジオが鳴っている  村山浩吉



   日本左衛門は色男


さすがの五兵衛も、息を呑んだ。
<こ、これは、生き写しとまでは言い切れないが、似ている>
若きころの佐和口忠蔵が、いま、徳山五兵衛の眼前に立っている。
<そうか…日本左衛門は佐和口忠蔵の子であったのか>
日本左衛門は、この一瞬の隙を見逃さなかった。
大脇差を五兵衛の足へ斬りつけてきたのだ。
五兵衛は身を捻り、辛うじて身を躱したが、袴の裾を切り裂かれた。
それから今度は、密偵の顔を切り払った。
絶叫をあげて転倒する密偵の手から、龕灯が落ちた。


見つめすぎたのか石の眠り  阪本きりり  


すかさず日本左衛門は、逃げにかかった。
前庭では、与力や同心たちがまだ盗賊たちと闘っている。
その斬り合いの渦の中を潜り抜けた日本左衛門が、裏手へ回りかけるの
へ、同心・堀口十次郎が横合いから走りかかって組み付いた。
堀口は、たちまち振り放され、日本左衛門の一太刀を肩口に受けてよろ
めいた。そこへ、五兵衛が追いついた。
日本左衛門は、斜めに飛んで裏手へまわり込み、五兵衛が打ち込む棍棒
を大脇差で切り払った。
五兵衛の棍棒が二つに切断され、日本左衛門は、竹藪の中へ躍り込もう
としている。
棍棒を捨てた五兵衛が走り寄りざま、腰を捻って抜き打った。
<もはや、にげられまい> 抜き打った一刀の手ごたえは、
確かなものであった。


ハライソに行ってもやはり風呂掃除  宮井いずみ


深い竹藪の背後は崖であり、その崖の上には、同心二名が待機している。
太股を切り割られた日本左衛門が、崖をよじ登ることなど出来るはずが
ない。すでに、この家を遠巻きにしている20名の人足たちは、高張提
灯に火を入れ、これを一斉に立ち並べ、蟻一匹も逃がすまいとしている。
これでは竹藪から逃げ出たところで。発見されないはずがない。
ところが、同心たちや密偵が竹藪の中を隈なく探し、さらに、竹藪から
外部への見張りも、ぬかりなく行ったにも拘わらず、怪盗の姿を見出す
ことはできなかった。
ついに、日本左衛門を捕えることは出来なかったのである。


雑音を拾ってしまう四分音符  津田照子


他の盗賊たちは、赤池法印、菅田の平蔵など大半は捕えられた。
見付の宿では、無頼者の万右衛門と件の老婆も盗賊一味として、捕らえ
られたというので、大騒ぎになった。
盗賊改方の方は、同心の堀口十次郎が、日本左衛門の一刀を受けて、
肩口に傷を負ったほか、密偵の源六が、これも日本左衛門に顔を切り割
られて死んだ。死傷者はこれだけであった。
あとはみな軽傷も受けていなかった。
さすがに選び抜かれた者たちだったといえる。が、日本左衛門に五兵衛
が立ち向かわなったら、さらに死傷者が出ていたかもしれない。


爆発のための言い訳考える  清水すみれ  


五兵衛が、本陣の奥の一間で、事後の策を考えているところへ、
小沼治作が、「殿」と、何ともいえぬ顔つきで入ってきた。
「おお小沼、捕えた盗賊どもの見張りに抜かりはあるまいな」
「それは、大丈夫にござります」
「ご苦労であった。つかれたであろう。しばらくは、休め」
と言って、小沼を見た五兵衛が、書きかけの筆を止めて、
「どうした?」
不審気に問いかけた。
それは驚愕のあまりに<言葉も出ぬ>といったような、それも徒の驚きで
はなく、主人の五兵衛と共通に分かち合える、意外な事実を、
どのように説明したらと、思い迷っているかのようであった。


唇が乾いて愛が語れない  阪本こみち

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