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川柳的逍遥 人の世の一家言
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活火山だったと知った鼻の穴   くんじろう






紫式部が源氏物語の「宇治十帖」を書いた場所は、京都府宇治市です。
宇治十帖は、紫式部が記した『源氏物語』の五十四帖のうち、
最後の十帖で、宇治を舞台としています。
 
    宇治十帖を執筆するところか机上の前の紫式部




「藤壺女御の兄・兵部卿宮」
兵部卿宮は、藤壺の兄であるだけでなく、源氏の妻になる紫の上の父でもある。
つまり源氏が終生、想いを寄せる恋人の兄、そして、最愛の妻ということで、
浅からぬ縁で結ばれています。
ふたりは三条の里邸に下がった折に、偶然、出会うことがあります。
いつにもまして親しく口をきく機会となったこの時、源氏は近くであらためて
接した兵部卿宮を「女にしたらすてきだろうな」と思うのでした。
宮もまた、源氏に対して「女にして逢ってみたいもの」と同じ印象を持ちます。
藤壺と紫の上という、物語中で1,2を争う美女の兄にあたり、父になる人物
ですから、宮がなまめかしく優雅な貴人だったとしても不思議はありません。
王朝の美意識では、宮のような、女にしたいほどなまめかしく優艶な容姿こそ、
理想的な男性美でした。その代表は、もちろん源氏です。
美女との恋の遍歴を重ねるその源氏が即座に「女にしたいものだ」と思うので
すから、宮の容姿が相当なものだったことは間違いありません。




式部ーどうにもとまらないー賢子 宇治十帖絵巻とともに





右藤壺、中央・光源氏、左上・太宰師宮、左下・権中納言(頭中将)




とりあえず、賢子の部屋の中に思い思いに座を座を占めると、先ず頼宗藤袴
について質問を始めた。
それぞれに公平に問いかけ、一通りのことを聞き出すと、
「なるほど、故大納言源時中殿の御息女ですか。あの方にそんなに若い娘が
 いたとは初耳ですね。それに朝任殿からもそんな話をきいたことはないな」
「やはり頼宗さまも、不思議にお思いになられましたか」
頼宗の傍らに、ちゃっかり座り込んでいた小式部が、頼宗にすり寄るような
素振りを見せながら言った。
「あら、不思議って、どういうこと?」
頼宗の両隣の席の片方を小式部にとられてしまった良子が尋ねる。
「私も亡き大納言さまのご息女について、耳にしたことがなかったから、
 不思議に思ったのですわ。だって大納言のご息女なら、少しは噂になって
 当たり前ではありませんこと?」
確かに、大納言とは朝廷の政治を担う、大臣に次ぐ官職である。
大納言の娘であれば、天皇にお仕えすることも夢ではないし、頼宗のような
大貴族の正妻になることもあり得た。
賢子たちの中に、そのような父親を持つ者はいない。
つまり格が違うのである。




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藤袴が、烏丸たちから、いじめを受けていたことについては、頼宗に話して
いない。頼宗が不審に思うのではないかという忠告に気付いて、賢子は、
はっと頼宗の顔色をうかがった。
だが頼宗は、何か考え事に耽っている様子で、賢子の言葉をまともに聞いて
いなかったようである。ちょっと寂しい。
「あの、頼宗さま?」
賢子が頼宗の顔をのぞき込むと、
「いや、済まない。少し用事を思い出したので、今日はこれからすぐに皇太后
 さまに挨拶だけして失礼いたします。
 また参りますので、お話合いの仲間に私も誘ってください」
頼宗はっそれだけ言うと、見送りもろくに受けずに去って行ってしまった。
頼宗がいなくなると、部屋の中はまるで光が消えてしまったように味気ない
ものとなる。





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残された4人の会話は、烏丸たちの報復についてのこととなる。
良子は、いつにない気弱な表情を見せると、
<あら気になるの?> 小式部は、さして気に病んでもいないらしく小馬鹿に
したような目を向けて訊く。
「中将君が気にかけるのは当たり前だわ、私も心配だもの」
「小馬さまが------?」
賢子が意外という顔で言う。
小馬は正義感が強く、賢子が苛められているとき、なんとかしてやろうと前に
たちはだかってくれたことがあるのだ。今は、小馬の瞳は、不安に揺れていた。
「私が御所へあがったばかりの頃、あの人たちから、ずいぶん嫌がらせを受け
 たわ。中関白家の回し者って言われてね」
中関白家は、定子や御匣殿の家であるから、彰子の敵とみなされたのである。
小馬の母・清少納言が定子に仕えていたから、そんな苛めをうけたのだろう。
その苛めた相手が、烏丸たちだったことは初耳であった。




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賢子が思い出したように呟くと、小馬はおもむろに頷いた。
「烏丸さまや左京さまは、確かに意地の悪い人たちだけれど、
 自分の考えで苛めをしているわけじゃないのよ。
 さっき言っていたでしょう、自分には大物がついているって」
「そういえば…小馬さまには、その大物に心当たりがあるのですか」
「はっきりしたことは分らない、でもね、ある方から『お前のしぶとさには
 ほとほと呆れた』と言われた直後、苛めがふっとやんだの」
「つまり、その人が烏丸さんたちに苛めを命令していて、やめる時も指図した
 ってこと?」
「烏丸さまが認めた訳じゃないから、あくまで推測よ」
「それって、どなたのことなのですか?」
良子が身を乗り出すようにして尋ねた。
「------稲葉さまよ」
それは、彰子が宮中へ入った12歳の頃からずっとお仕えしているという、
紫式部和泉式部よりももっと古い女房の名であった。





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良子の懸念は、決して行き過ぎではなかった。
翌日から早速、賢子、良子、小式部、小馬への嫌がらせが始まったのである。
中心となっているのは、烏丸と左京で、もちろんのこと、藤袴への嫌がらせは
続けられていた。名指しで呼ばれた時以外は、皇太后の御前からも締め出され、
場所をとるのを邪魔されるようになった。
部屋に嫌がらせの文や虫、塵芥を投げ込まれるようになり、
渡殿などですれ違えば、裳の裾を踏みつけにされる。
良子はこれまで仲よく付き合っていた女房たちからは、あなたと話をすると
烏丸さんたちからにらまれるので、と申し訳なさそうに絶交する言ってくる
らしい。
藤袴も同じような嫌がらせを受けているはずだが、良子のように泣きついて
こないうえ、賢子の方も人目のある所で話しかけることが出来ないから、
どうしているものか心配である。
<早く何とかしなければ>賢子はあれやこれやと思案をめぐらすのだった…。




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烏丸を動かしている因幡の標的は、藤袴である。
因幡は新人が入ってくるたび、無差別に苛めをさせているわけではない。
なぜなら、賢子は烏丸たちから苛められたことはない。
小式部もその被害は受けていないという。
でも小馬は苛められていた。
<小馬と藤袴に共通するしているのは何なのだろう>
賢子は、藤袴の兄・源朝任さまから何かヒントを得るかもしれないと、
直感をはたらかせ、<お聞きしたいことがある>と文を認め、
従者の雪に使いをさせた。




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<果たして朝任はいつやってくるのだろうか……
 できるだけ早くと文には、書いておいたのだが>
二時間余りが過ぎたころ、驚いたことに朝任が訪ねてきた。
さらに驚いたことにもう1人、付き添いがいた。
「粟田参議さま!」
賢子より先に、その名を口にしたのは雪であった。
粟田参議とは、藤原兼隆のこと。
賢子に文を寄越してくる貴公子の1人である。
文の使いは恋の誘いの使いである。
雪はすっかり賢子の文を、それと勘違いしいらぬ気を利かせたのである。




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「驚きましたよ。私が越後弁殿からの文を読んでいたら、粟田参議殿が突然、
 お見えになったのですから」
朝任が苦笑しながら言葉を添えた。
「見せろと仰るので弱りました。
 見せてはおりませんけれど、越後弁殿に呼ばれ
 たと申し上げたら『ならばすぐに行こう、私が付き添ってやる』と仰って」
つまりは、強引な兼隆にひきずられるような形で、朝任は賢子のもとへ来たと
いうことのようであった。
「それにしても、私にお尋ねしたいこととは、よほど大事なことのようですね」
「はい、妹君のことを伺いたくて…」
と賢子は切り出したが、部屋に座り込んだ兼隆がいる、<どうしたものか>
席を外してください、と言いにくいし、兼隆がいることで、朝任が真実を話し
にくいかもしれない。




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ありと見て 手には取られず 見れば又 ゆくへも知らず 消えし - 薫 - 52




「小式部殿にも訊かれましたが、藤袴のことですね」
賢子は覚悟を決めた。
「あの方、変っていらっしゃいますよね。受け答えも何だか普通と違っていて、
 『竹取物語』のかぐや姫のような…この国でない場所でお育ちになった方の
 ようにおもえましたわ」
「そうですか。そんなに変わっていますか」
「ずいぶん冷めた言い方をなさるのですね。藤袴殿はそのせいで…
 ちょっとした、嫌がらせを受けていらっしゃるのに」
朝任は先を続けた。
「小式部殿にも言いましたが、私は妹とは、ほとんど面識がないのですよ」
賢子は、怪訝な表情を浮かべ黙って聞いている。




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「宮仕えといえば何かと物入りなわけですが、そうしたことも我が家では、
 一切面倒を見ていないのです。
 妹には誰か援助をしてくれる後見がいたのでしょうか、妹と私はまったく
 他人も同じなのです。
 嫌がらせに遭っていると聞けば、気の毒とは思いますが、私は妹よりも
 越後弁殿の御身の方が案じられるくらいですから」
「私とて、越後弁殿の御身を案じておるぞ。それゆえ、取るものもとりあえず、
 こうして参ったのですからな」
兼隆が妙な競争心をかき立てられたのか、横から余計な口を挟んでくる。




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身を投げし 涙の川の 早き瀬を しがらみかけて 誰かとどめし - 浮舟 - 巻53




賢子は、それを完全に無視して言葉を続けた。
「朝任さま、正直にお答えください。
 もしかして、誰かに口止めされているとか?
 それは皇太后さまでいらっしゃいますか」
賢子は考えていたことを思い切って吐いた。
藤袴に何か秘密があるとしても、皇太后の御所で雇われている以上、
彰子が知らぬはずがない。
朝任に口止めするとしたら、藤袴本人か、雇い主である彰子しかいない。
今の様子からすれば、朝任は藤袴に対し愛着も義理も持っていないようだ------
とすれば、藤袴より彰子の可能性が高い------
それまで穏やかだった朝任の表情が一瞬変わった。




縦書きでなければ海は流れない  杉原正吉





賢子は、その一瞬をを見逃さなかった。
「まったく、越後弁殿。あなたは大したお方ですな。
 あなたの誘導に引っかかかったようです」
「ならば、本当のことをお話しくださいますか」
朝任は困惑した顔つきで、兼隆を見た。
「私は口が堅いぞ」
兼隆が憮然とした口ぶりで言った。
「それに、私は皇太后さまの身内だ。私が知って困るようなことはあるまい」
確かに、兼隆は彰子の実の従兄であり、義兄でもある------だからこそ、耳に
入れにくい話ということもある。
<やはり、兼隆さまには席を外していただこう>




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法の師と たづぬる道を しるべにて 思はぬ山に 踏み惑ふかな - 薫 - 巻54
夢浮橋



だが、賢子が口を開くより先に朝任が「分かりました」と頷いてしまった。
「しかし、お二方とも、このことは他言無用ですぞ」
朝任の念押しに賢子も兼隆も、決して他言はしないと誓った。
朝任は覚悟を決めた様子で頷くと、ようやく切り出した。
「事の起こりは、昨年の末のことです。私のもおとへ、皇太后の使者が
 参りました。『ある娘を皇太后さまに宮仕えさせたいと考えている。
 ついては、亡き父時中の娘ということにしたいので、承知してほしい。
 無論、皇太后さまもご承知のことであり、この申し出があったことは、
 他言無用』と」
「で、では、藤袴は、時中さまのご息女ではないのですか?」
賢子は目を丸くして、思わず声をあげてしまう。




結論を髪の匂いが惑わせる  宮井元伸




「あまり大きな声でお話しなさいませんよう」
朝任から注意され、賢子は慌てて口を両手で覆った。
「その通りです」
朝任は、賢子の言葉を素直に認めた。
「申し出を受けた時は、正直、驚きました。
 口裏を合わせるのも大変だと思いましたしね。
 しかし、その娘について問われたら、別々に育ったから何も知らぬと答えれ
 ばよいと言われました。
 宮仕えのための世話などいっさい迷惑はかけない、とも。
 皇太后さまのご意向でございました」
なるほど、だから、朝任は藤袴に対して、まったくの他人行儀な物言いをして
いたのだ。
彰子がそのような工作をした事情は分からないが、もう一つの謎がある。
彰子の使者となって、朝任にそのことを依頼した人物とは誰なのか。




哲学の道であかんを考える  太下和子






橋姫の 心をくみて 高瀬さす 棹のしづくに 袖ぞぬれぬる  - 薫 - 巻45
『源氏物語』五十四帖のうち、最後の十帖は宇治を主な舞台とするため、
「宇治十帖」と呼ばれています。宇治十帖は、光源氏が亡くなった後の物語で、
光源氏の子とされる薫と孫の匂宮の二人の、貴公子と、大君、中の君、浮舟と
いう宇治の八の宮の姫君をめぐる恋模様が描かれています。



朝任は、意図的にその人物の名を隠しているようだ。
<まさか>という思いが、賢子の中に生まれていた。
小式部には、事実を語らなかった朝任が、賢子には、割合あっさり明かし
てくれたのも引っかかる。
「その皇太后さまのご使者とは------?」
賢子は思い切って尋ねた。
「あなたのお母上、紫式部殿ですよ」
朝任はいつものような落ち着いた声で、おもむろに答えた。
その返事は、ある程度予想していたこととはいえ、賢子の耳には、落雷の
ような衝撃をもって鳴り響いた。
間もなく、因幡は体の具合が思わしくないことを理由に、宮仕えを辞めた。
烏丸左京も申し合わせたように実家に帰っている。
後の2人は辞めたわけではないが、しばらくは御所に戻って来ないようだ。
おかげで、賢子たちは、御所での暮らしがすこぶる快適なものとなった。
一方、藤袴は賢子はもちろんのこと、良子小式部、小馬たちとも
親しくするようになった。       (賢子はとまらないいゟ)



炭坑節シラフのときは歌わない  新家完司

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