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川柳的逍遥 人の世の一家言
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そこはかと陽炎追うてゆく月日  佐藤美はる


源氏54帖 藤袴

おなじ野の 露にやつるる 藤袴 哀れはかけよ かごとばかりも

野原の露に濡れている藤袴です。
まるで同じ祖母を亡くし、同じ喪服を着ているあなたと私のよう。
せめてほんの少しでも結構です。優しさをみせてください。

「巻の30 【藤袴】」
       ないしのかみ
玉鬘を誰もが尚侍として出仕することを薦める。

彼女の心は迷い揺れ動いている。

親のように頼っている源氏の君ですら、気が許せない世界だから。

玉鬘は悩んでいるのである。

あの美しい冷泉帝のもとで奉仕できるなら、こんな幸せなことはない。

でも、それは玉鬘の姉妹でもある弘徽殿女御や、

同じ源氏の養女である秋好中宮と寵愛を競うことになりはしないか。

でも六条院にいても、素性を明かしたあと、

大胆になる源氏の恋のささやきにも耐えられないのに、

尚侍を断ってしまえば、源氏の愛情を拒みきれなくなってしまうだろう。

ただでさえ、人から疑いをかけられているこの関係を、

きっぱりと清算できないものか。

ため息つけば水面の月も揺れている  大海幸生

さりとて実の父である内大臣は、源氏に遠慮して、

自分から動こうとする様子もなく、頼れそうにもない。

行くにしても残るにしても、どの道つらい運命が待ち構えている。

いっそのこと、すべての煩わしい人間関係を絶ってしまいたい。

誰にも相談ができない。

誰も傷つけたくない…たった一人で苦しみ抜くしかないのだ。

玉鬘は自分の数奇な身の上を嘆いては、

縁側にでて胸に染み入る夕暮れの景色を眺めるのだった。

行方不明になった私の青い空  岡谷 樹


藤袴を御簾に滑りこませる夕霧

3月になり、大宮が亡くなる。

玉鬘は大宮の孫として、喪に服している。


そんなところへ、鈍色の衣装を着た夕霧が源氏の使いとして訪ねてくる。

今まで姉妹だと思って親しくしていた仲なので、女房などは介さず、

御簾越しに直接、会話を交わし、事務的な話を済ませると

夕霧は、
懐に用意していた藤袴の花を御簾の中に滑りこませて、

「この花も今の私たちにふさわしい花ですから」

と言って、玉鬘が受け取るまで、花を放さずにいたので、

玉鬘がやむをえず手を出して取ろうとする袖を夕霧は引き、

「おなじ野の 露にやつるる 藤袴 哀れはかけよ かごとばかりも

   姉ではないと分かった今、自分の気持ちを伝えたい」

と心の内を告白する。

うんざりした玉鬘は、適当に受け流し、奥に引っ込んでしまう。

擦れ違う風に膝げりされました  合田瑠美子

夕霧は自分の行動を後悔した。

そして源氏のもとに引き返し、玉鬘の処遇について父を問い詰める。

「内大臣は内輪ではこう言っているそうでございます。

   六条院では他にいっぱいの姫君がいて、そうした方々と玉鬘を

   同列に扱うことが出来ないから、私に押し付けたのだ。

   帝の寵愛と関わらない形で宮仕えをさせておき、

   実質は自分のものに
しようとする。実に頭のいいやり方だと」


「ずいぶん邪推したもんだね。そのうちはっきりするだろう」

と源氏は否定するが、夕霧は疑いを捨てきれない。

一方で源氏は,

「内大臣はよくもその魂胆を見抜いたものだ」と思うのだった。


みずうみのふかさをきつく詰問す  清水すみれ

玉鬘の宮仕えを前に、髭黒をはじめ沢山の男性から恋文が殺到していた。

髭黒は2人の大臣に次いで帝の信任が厚く、

しかも東宮の後見になろうかとしている人である。

年は32、3歳。北の方は式部卿宮の長女で、紫の上の実の姉にあたる。

もし玉鬘の相手に髭黒を選んだら、式部卿宮に恨まれることになる。

しかも北の方は物の怪に取り憑かれていて、髭黒は別れたいと思っている。

源氏は髭黒との結婚をあまり好ましく思っていない。

一方の内大臣は、玉鬘が宮仕えをしたら、娘の弘徽殿と寵愛を争うので、

いっそのこと、髭黒なら都合がいいと考えていた。

もう恋はしないと言えば月笑う  笠原道子

【辞典】  尚侍(ないしのかみ)

尚侍という役職。中宮、女御など帝の夫人たちが住む後宮には、
事務仕事を
行う12の部局がある(後宮12局)。その中の一つで、
帝の近くに仕え、帝の
判断を仰いだり、言葉を皆に伝えたり、
女官の管理をしたりといった仕事
を行うのが「内侍司」(ないしのつかさ)
という部局である。
そして玉鬘が任官されようとする「尚侍」とは、
この内侍司という部局の「長官」になる。

 源氏は冷泉帝の意向もあり、玉鬘を宮廷の中でも位の高い尚侍として
宮仕
えをさせようと考えた。当初、玉鬘は後宮の事務仕事を司る女官で
あれば、
色恋の沙汰なく暮らせると思っていた。だがよくよく考えると、
尚侍といえども
帝の寵愛を受ける例は多々ある。尚侍は女御や更衣に準
ずる位なのである。
玉鬘の迷いは、そんなところにもあったのだ。

生ぬるい風はあなたの吐息かも  合田留美子

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