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川柳的逍遥 人の世の一家言
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秋の空小さな嘘が恥ずかしい  雨森茂樹


       野  分 (土佐光吉)

おほかたに 荻の葉すぐる 風の音 うき身ひとつに しむ心地して

ただ普通に荻の葉を過ぎていく風の音。大した音ではないのに
つらい私の身の上には、それが心に深く染み入ってくる気がします。

「巻の28 【野分】」

秋も深まり、都に激しい野分が吹き荒れる。

草木は倒され、室内を目隠しする御簾も煽られ、人々は大わらわである。

春の御殿でも暴風が、庭木の枝をあちこちにしならせて、

一滴の露もんこらぬほどに、
吹き散らしている。

紫の上は、それが心配で縁側近くまで出て、眺めている。

光源氏は、明石の姫のことが心配でそちらのほうに行っている。

そんなところへ夕霧が、風の見舞いのために春の町にやって来た。

源氏は自分と同じ過ちを犯されては困ると、

夕霧を紫の上から遠ざけていた、が。


そこで夕霧は、紫の上のすがたを見かけてしまうのである。

錯覚でしょうか風が止まっている  小池桔理子

夕霧は紫の上を一目見て、すっかりと心を奪われてしまった。

その魅力は自分にも降りかかってくるほどである。

父である源氏が自分を紫の上から遠ざけていたのは、

これほどの美しさのゆえだったのか。

夕霧は何となく恐ろしくなり、慌ててその場を立ち去った。

それと時間差もあまりなく、源氏が明石の姫の部屋から戻ってくる。

夕霧は今はじめて参上したかのように咳払いをして、
すのこ
簀子のほうへ歩いて出た。


源氏は夕霧に中を見られたのではないかと、気遣った。

その先にきゅうと電車の泣くカーブ  八上桐子



  野分の襲来

翌日、風は少しおさまっている。

源氏は夕霧を伴い、みんなの様子を見に行く。

秋好中宮、明石の姫と順に訪れたのだが、夕霧の様子がどうもおかしい。

どうも虚ろなのである。

どさくさ紛れに、夕霧は紫の上を見たのだと悟る。

次に訪れたのが、玉鬘の部屋。 

玉鬘は昨夜の恐ろしい野分に眠れず、


今朝は寝過ごして、ちょうど鏡の前で見繕いをしているところだった。

日の光が斜めに差し込んできて、

玉鬘は目の覚めるような美しい姿で座っていた。


源氏は風の見舞いにかこつけても、いつもの如に自分の恋情を露わにする。

当分はピンクで埋めておく余白  田岡 弘

夕霧は何としても、玉鬘の顔を見たいものと前々から思っていた。

御簾をそっと引き上げ、中をうかがうと、

邪魔になるものをすべて取り除いてあるので、奥までよく見える。

夕霧は驚愕した。

玉鬘が源氏の腕に抱かれるばかりに、近くに寄り添っている。

いくら親子とはいえ、とても信じられなかった。

玉鬘は困ったような表情だが、それでも素直な態で源氏に寄りかかっている。

玉鬘は父・源氏が自分の手元で育てた娘ではないので、

こんな色めいた心を持っているのだろうかと思うと、

疎ましく感じるのだった。


ほんとか嘘か脈拍だけが知っている  笹倉良一

その後、夕霧はひとり明石の姫の部屋へと出かけた。

姫は紫の上の部屋へ出かけいなかったが、すぐに戻るということだった。

そこで夕霧は垣間見た美しい人々と、明石の姫を比べてみたくなった。

すると几帳のほころびから、明石の姫が通り過ぎるのがちらっと見えた。

薄紫の召し物で、髪がまだ背丈まで及んでいない。

その先が広げた扇の形をしていて、

ほっそりとした小さな体つきがいかにも可憐である。


一昨年見たときよりも格段と美しくなったようだ。

紫の上を「桜」、玉鬘を「山吹」に喩えるならば、

この姫君は藤の花とでもいうところか。


さらに、祖母の大宮のもとに戻ってみると、そこでは、

近江の君のことを愚痴っている内大臣をみるのだった。

八起き目の朝こそえくぼたしかめる  桑原すゞ代

【辞典】 夕霧がみた三つの花

「紫の上」
春の曙の露の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す。
「玉鬘」
八重山吹の咲き乱れたる盛に、露のかかれる夕映えぞ、ふと思い出らるる。
「明石の姫」
これは藤の花とやいふべきならむ。小高き木より咲ききかかりて、
風になびきたる匂いは、かくぞあるかし。

温い息感じて目覚めれば独り  猫田千恵子

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