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川柳的逍遥 人の世の一家言
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とりあえず午後から雲の動くまま  山本昌乃


    行 幸

恨めしや 沖つ玉藻を かづくまで 磯がくれける あまの心よ

恨めしくおもいますよ。玉藻のような衣装をつけるこの日まで、
私から隠れていたあなたの心を

「巻の29 【行幸】」

年の暮れ、冷泉帝の行幸に多数の貴族が随行し、見物人も大賑わい。

玉鬘も例外でなく車で見物に来ていた。

生まれて初めて父である内大臣を遠くから眺めた。

たしかに堂々として立派と思うのだが、玉鬘の心は不思議と動かない。

一人の人に釘づけだったのだ。

これほど美しい人に出会ったことがなかった。

大勢の人が競って着飾っていたが、御輿の帝の端正さには比べようがない。

源氏の顔立ちにそっくりだが、若くて瑞々しくひときわ威厳を放っている。

玉鬘はすっかり魅せらてしまった。

玉鬘は、源氏が勧める宮廷の宮仕えも、まんざらでもないと思えてきた。

雑魚盛って今日一日の笑いとす  河村啓子

明くる日、源氏は玉鬘に

「昨日、帝をご覧になりましたか。

   宮仕えの件、その気になりましたでしょうか」


玉鬘は心中を見透かされたようで、思わず笑い出した。

源氏は玉鬘が宮仕えするなら、まず「裳着の儀式」が済んでからと考えた。

玉鬘は九州の田舎で暮らしていたため、

もう23歳になろうとするのに、
裳着を済ませていなかったのだ。

そのためには源氏は、玉鬘の素性を内大臣に明らかにする必要を感じた。

そこで裳着の式の腰結という大切な役を、内大臣に頼むことにした。

そして早速、手紙を認めた。

さりげなくマンドラゴラは調理せよ  山口ろっぱ

だが内大臣は、その依頼を大宮の病気を理由に断りを入れてきた。

大宮の病状は芳しくなく、夕霧が夜昼なく三条宮に詰めている。

内大臣が大宮の病気を理由にするなら、それを逆手に取ろうと考えた源氏。

大宮の病気を見舞ったついでに、玉鬘を引き取った経緯を打ち明ける。

そして、大宮に内大臣への仲介を依頼すると、大宮は快く聞き入れ、

「源氏の大臣が直接あなたにお耳に入れたいことがあるそうです。

   早々に邸に来てください」 

と内大臣へ手紙を書いてくれた。

空耳だろうか誰かが呼んでいる  雫石隆子

母・大宮からの手紙を受け取った内大臣は、

「何事であろう。夕霧と雲居雁のことだろうか」 

と勘ぐり、

「源氏が泣きついてきたら断れまい。いっそのこと、適当な機会があったら、

   先方の言葉に折れたという格好にして、承諾することにしよう」

と思う。

ところが、いざ久しぶりに源氏と対面すると、不思議と懐かしさばかりが

込み上げ、
差し向かいになると、昔の思い出が次々と浮んでくるのだった。

ふっと吐く身内の鬼を出したくて  岡谷 樹

源氏は頃合いを見計らって、玉鬘の件を話し出しと、内大臣は、

「まったく感の堪えない、またとないお話でございます」

と涙ぐみ、裳着の件を快く承諾して、帰っていった。

2月26日、玉鬘の裳着の儀が行なわれた。

大宮や秋好中宮をはじめ、六条の方々からも祝いが届き、盛大を極めた。

内大臣は当日、玉鬘に会いたいものと、早々と六条院に参上している。

亥の刻に御簾の中に入る内大臣も、玉鬘の顔を見たいと思うが、

気持ちばかりが高ぶって、腰紐を結ぶ時には感極まって泣いてしまった。

内大臣は涙ながらに腰結の役をこなし、玉鬘に(巻頭)歌を詠んだ。

うらめしや 沖つ玉藻を かづくまで 磯隠れける 海人の心よ

愛がある戦いがある男の手  赤松蛍子

父のこの歌に答えるのが、通例ではあるが、玉鬘は緊張して声が出ない。

そこで内大臣の歌への返歌は、源氏が代わりに詠んであげるのだった。

寄辺なみ かかる渚に うち寄せて 海人も尋ねぬ 藻屑とぞ見し

(寄る辺がないので、このようなわたしの所に身を寄せて、
    誰にも捜してもらえない気の毒な子だと思っておりました)

こうして裳着の儀は無事に終えて…、

柏木は玉鬘に密かに想いを打ち明けたことを今になって、恥ずかしく思った。

弁少将「自分は思いを打ち明けないでよかった」小声でつぶやいた。

蛍宮「裳着をお済ませになった今は、断りの口実もなくなったのだから」

と熱心に訴える。

内大臣は、ちらっとしか目にすることが出来なかった玉鬘の姿を、

ぜひもう一度はっきりみたいと、かえって恋しく思うのだった。

手放したいもののひとつに腕時計  下谷慶子

【辞典】 裳着

裳着とは女子が初めて「裳」をつける儀式のこと。
裳は腰の後ろ側で表着の上に着用するもので、
内大臣が玉鬘の顔をチラッとしか見れなかった理由がわかる。
男子の成人式である元服の年齢が定まっていないように、
この裳着も同じで、多くは結婚の相手が決まったときや、
結婚するという見込みがあるときに行なっていた。
源氏は玉鬘が宮中に入ることを前提に裳着の儀式を行なった。
この噂を耳にした近江の君が「同じ境遇で同じ内大臣の娘であるのに…」
と泣きながら、へらず口をつらつら並べたことは言うまでもない。

邪魔くさいものね女であることは  加納美津子

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