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川柳的逍遥 人の世の一家言
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試されているのか女隙だらけ  上田 仁



深き夜の あはれを知るも 入る月の おぼろげならぬ 契りとぞ思ふ

(夜更けの情緒深い月の美しさを知っているあなた。君に会えたことは、
    浅からぬ前世からの縁だと思います)

「巻の8 【花宴】」

光源氏20歳の2月、宮中の紫宸殿で花の宴が催された。

いつものごとく源氏は、詩歌や舞いを披露して、周囲の注目を集め、

義父の左大臣は涙を流すほど感激をしている。

その夜、少し酒によった源氏は、この機会に藤壺に会えないかと、

あたりを探し歩いた。

が、藤壺の周囲は戸締りが厳重で忍び込む隙もない。

仕方なく朧月に誘われて、弘徽殿のほうに立ち寄った源氏は、

開いている戸口から「朧月夜に似るものぞなき」と美しい声でくちずさみ

源氏の方に寄ってくる女と出会う。

どこまでも阿呆で居ようか朧月  中野六助

驚くほど美しい女だった。

黒髪の匂いが鼻を掠め、何もかも心地よく、源氏は思わず女の袖を掴んだ。

「あなたは誰ですか?人を呼びますよ」

女が叫び声をあげようとすると、源氏はその声を塞ぐようにして、

「およしなさい。私は何をしても許される身分ですから」 と言った。

その声を聞いて、女は瞬時に相手が源氏だと知った。

女の心は揺れ動いた。

今をときめく源氏に対する憧れがなかったとはいえない。

好奇心もあっただろう。

女は源氏に恋してはいけない立場にあったが、一夜の契りを交えた。

こんなにも尻尾ふっているではないか  田口和代

やがて夜が明け始め人の動く気配がする。

ここは、敵方ともいえる弘徽殿なのだ。

明るくなる前に姿を消さなければならない。

源氏はこのまま別れるのを惜しく思った。

「あなたの名前をお聞かせください。そうでないと二度と会えなくなる」

女はただ微笑むだけで、決して自分の名前を明かそうとはしない。

やがて、人々のざわめく声が聞こえだした。

源氏は仕方なく、自分と相手の扇を咄嗟に交換した。

狂おしい幻想的な夜だった。

そして、源氏は女を「朧月」と呼んだ。


君の名を書いて消します曇り窓  嶌清五郎



3月になって、右大臣家では藤の宴が催される。

源氏も招待を受け、再び、幻の人と会えることを期待して赴いた。

名も告げずに別れた人・・・。

あの高貴な雰囲気からは、とても身分の低い女房とは思えない。

だとすれば、右大臣の五の宮か六の宮だろう。もし六の宮だったら・・・。

そう思うと源氏は背筋が寒くなるのを覚えた。

六の宮はすでに東宮に入内することが決まっている、

それは兄である東宮から愛する人を奪うことであり、

自分を目の仇にしている右大臣家に公然と弓を引くことでもある。

桐壷帝の第一皇子(東宮)の母親は、右大臣の長女・弘徽殿女御で、
東宮は源氏の腹違いの兄になる。また朧月夜も右大臣の6女である。
すなわち朧月夜は弘徽殿女御の妹になる。

失望という名の船が打ち寄せる  高橋謡々



それでも源氏は、恋すること自体に罪はない。

「心は何者にも縛られてはいけない」と思い返し、宴もたけなわの頃、

酔ったふりをして席を立ち、女たちの寝殿に入り込み、

「扇を取られ、ひどいめにあいました」などと言いふらしながら歩き回る。

「変な人」と几帳の向こうから聞こえた声は、事情を知らない人である。

その中で、一人溜め息をつき 躊躇する人がいる。

源氏は思い切って、その溜め息をつく人のところに行き、

几帳越しに手をとって声をかけた。

帰ってきたその声は、まさにあの朧月夜の君であり、六の宮であった。

訳ありの声はいつでもうすみどり  清水すみれ

【辞典】 政界の構図

光源氏の正妻は・左大臣の娘・葵の上。
にもかかわらず、この花宴の巻で源氏は右大臣の6女と恋に落ちてしまう。
左大臣対右大臣という政治的対立の中で、この色恋沙汰は危険な綱渡り。
当時、政治の実権を握るのは、帝ではなく、むしろその後見人たちなのだ。
いわゆる外戚政治である。
位の高い政治家たちは、後見人の地位を獲得する為、
自分の娘を後宮に加え、
何とか皇子を生ませたいと願っているのである。


誤作動もあるさ人間なんだから  嶋沢喜八郎

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