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川柳的逍遥 人の世の一家言
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いつの日か笑い話と涙ふく  笠原道子


  空蝉と軒端荻(それを覗き見する源氏)

空蝉の 身をかえてける 木のもとに なほ人がらの なつかしきかな
(蝉の抜け殻のように衣を残し去っていったあなた、
   それでもあなたの人がらが懐かしくおもわれます)

「巻の3 【空蝉】」

一夜の契りを空蝉が忘れられない光源氏

頼みの綱は、空蝉の弟・小君です。

小君は、子どもながら懸命に機会を見つけ、

紀伊守が留守のときを見計らっては、源氏を邸に導きました。
                 のきばのおぎ
忍び込んだ源氏は、囲碁を楽しむ空蝉と軒端荻(紀伊守の妹)を、のぞき見する。

以前、契りを結んだときは夜だったので、

空蝉の姿はよく見えなかったが、
今回は横向きながら、

表情をみることができた。


でも、実際に目にした空蝉は、それほど美人ではない。

品はともかく容姿だけなら、相手の軒端荻のほうが、

美しいと源氏は思った。


泣ききれず忘れきれずに風のまま  桑原すゞ代

夜も更け、碁を打ち終えた2人は、部屋へ戻っていった。

源氏は闇に紛れて空蝉の寝床へ忍び込むが、

人の気配を素早く感じ取った空蝉は、
   うちぎ
薄衣の小袿だけを残して一足さきに部屋を出ていた。

そうとは知らない源氏は、その場に寝ていた女に寄り添うが、

どうも勝手が違う、よくよく確かめてみると、その女は軒端荻ではないか。

今さら人違いだとも言えない源氏は、その場をうまく取り繕って、

軒端荻をだまし、契りを交わしてしまう。

それでも源氏の傷心は癒されず、空蝉の残した小袿を持ち帰り、

ふたたび子君に手紙を託すが、返ってきたのは、

人妻だけに源氏の気持に
応えられない自らのもどかしさを語った

和歌だけだった。


空蝉の 羽に置く露の 木がくれて 忍び忍びに 濡るる袖かな

出がらしを出したらそれでさようなら  森田律子


   空 蝉

【辞典】「平安時代の恋愛事情」

平安貴族女性にとって、顔を見せ合うのは、男女の睦みごとの時ぐらいで、

男性に顔を見られるのがとても恥ずかしいこととされていた。

だから貴族の邸には、空間をさえぎるパーティションのような家具がある。

簾や屏風、几帳などがそれで、男と女はこれらをはさんで会話を交わした。

大抵は、内側にいる女性からは透けて外が見え、男性側からは見えない。

それでも顔が見えそうなときは、扇を広げて隠した。

だから扇は女性がいつも身近におく必需品なのだ。

カーテンを替えてけじめの春にする  下谷憲子

ところで、源氏物語には、「垣間見」という行為が頻繁にでてくる。

今で言う、「のぞき」である。普段女性の顔を見られない環境で、

男性が恋を進展させる常套手段だったのである。

男は直に女を見ることができない。

では、どうやって恋愛を育んでいたのだろう?

また、どのようにして女性の美人度を知りえたのだろう?

背伸びしても見えない物は見えません  安田忠子

先ず、お姫様の容姿を間近に見ている お付の女房たちの噂話などから、

男性は想像を膨らませ、相手の身分や権勢などを考慮して、

和歌を盛り込んだ恋文で、アタックを開始する。

その途中、うまく行けば垣間見ができ、それで一層恋心を募らせる。

和歌を受けた女性のほうは、相手の身分や噂、和歌の出来具合などを

考慮して、
一人を選び返歌する。

この歌の交換で心が通じ合えば、女房の手引きでこっそりと

女性の部屋に入ることができるのである。

ああ恋ってしょっぱいなァ苦いなァ  佐藤美はる

夜のことだから、2人は暗闇の中で互いに香りと手探りで相手を確かめ合う。

闇に紛れてこっそり通ったんだから、

明け方も暗いうちにこっそりと女の部屋を出て行かなければならない。

ところが当時は時計というものがない。

そこで一番どりが鳴けば、もうお別れの時間ということになる。

切ない鳥の声がよく歌に詠まれるのは、こうした理由があった。

隠しごとするから夜が好きになる  嶋沢喜八郎 

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